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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第321回:ついに出たBDCAM! 日立「DZ-BD7H」
~ 日立初のHDカメラ、その実力は? ~



■ 次世代DVDの落としどころ?

 Blu-ray DiscとHD DVDの規格争い華やかりし2004~05年は、まだ見ぬ再生機と録画機の話題でずいぶん盛り上がったものだ。だが個人的な関心は、両陣営とも8cmメディアを規定したところにあった。これは当然、新メディアを搭載したHDカメラの登場を示唆するものだったからである。

 BD採用のビデオカメラ以前にAVCHD規格が登場し、あれよあれよという間に大変な数の製品がリリースされたが、個人的にはBDのドライブとメディアの価格が下がるまでの暫定規格だと思っている。そう言う意味で今回登場した日立のBDCAMは、ハイビジョンカメラ市場における、本格的な次世代の幕開けと言ってもいいだろう。

 8月30日から発売開始された日立のBDCAMは、2タイプ。HDDとBDのハイブリッドである「DZ-BD7H」と、BDのみの「DZ-BD70」だ。店頭予想価格ではそれぞれ19万円、16万円と3万円ほどの差が付いていたが、ネット上では12万円台と11万円台の値が付いており、価格差は1万円程度になっている。それだったらハイブリッド型のほうがお得だろう。

 というわけで今回は、ハイブリッド型の「DZ-BD7H」(以下BD7H)をお借りしてみた。日立といえば、以前はDVDCAMの元祖であったが、今回もBDCAMの元祖というポジションを確保したようだ。また最近はHDDとDVDのハイブリッドモデルが好調で、ハイブリッドCAMのメーカーに転身しつつある。では早速試してみよう。


■ 近未来的なデザイン

 電機製品の展示会などの取材をすると、日立や三洋などはすごくかっこいいデザインモックを展示して人を集めるメーカーだ。社内に優秀なデザイナーが居るのか、あるいはデザインコンペでもしたのか。ただそれに比較して実際に出てくる製品は、「なんでアレがこうなっちゃうの? 」という形のものが出てきて、逆にびっくりすることも多い。


サイズの割には軽量なボディ

 だが今回のデザインは、比較的コンセプトデザインそのままに実製品化したという印象を持った。全体的にはやや大型ではあるものの、よくこの中にBDドライブとHDDを突っ込んだな、というスマートさを感じさせる。実際に持ってみると、見た目の印象よりは軽く感じる。バッテリ込みで705gだが、重量バランスがいいせいだろう。

 これまで日立は、DVDメディアの形を意識して円形を取り入れたデザインのカメラを多く発表してきているが、今回のBDCAMは、BDドライブ部をあえて四角くし、その反対側に円形のデザインを持ってくるという、逆転の発想を行なっている。メディアサイズにこだわらない自由な円を配置することにより、これまでのカメラデザインの流れから外れた新しい潮流を感じさせる。


メディアとは逆側に円形のモチーフ メディア側は敢えて四角いイメージに

 では光学部から見ていこう。レンズは35mm判換算で動画時は47.0mm~470mm、静止画時で34.5mm~345mmの光学10倍ズーム。動画は狭い方だが、静止画は結構ワイドだ。動画と静止画でこれほどまでに画角の差が大きいカメラというのも珍しい。おそらく撮像素子の都合で、こうなってしまったのだろう。F値は1.8~3.0で、これも結構差が大きい。


レンズ脇には静止画用フラッシュが フラッシュの下に外部マイク端子


撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画 16:9
47mm

470mm
静止画 4:3
34.5mm

345mm

 その撮像素子は、1/2.8型CMOS単板で、フィルタは原色。総画素数530万画素で、有効画素数は動画で207万画素、静止画で432万画素(2,400×1,800ドット)となっている。ビデオカメラに採用されたCMOSでは、これまでキヤノンの296万画素が最高だったが、それを抜いた格好だ。

 液晶モニタは2.7型ワイドで、約21万画素。ボディサイズから見れば、やや小さい感じもするが、スマートさはある。液晶脇にはメニューボタンやジョイスティックがあり、メニュー操作はほとんどここだけで完結する。ボディ部には撮影時に使用するボタンが多く出ており、素早い設定変更が可能だ。


メニュー操作は液晶サイドに集められた 撮影に必要な設定ボタンは液晶内側に配置
アナログ系出力はここ。結構隠し扉みたいなところが多い デジタル系インターフェースはここ

 背面には電源兼メディア切り替えスイッチ、動画静止画切り替えスイッチがある。本機では、動画撮影中の静止画撮影はできず、モードを切り替える必要がある。なお静止画は、SDカードにのみ記録できる。


背面は比較的シンプルにまとまっている SDカードスロットは底部 上部のふくらみはアクセサリーシューになっている


BDドライブは、DVD系と合わせて5メディアに対応

 内蔵HDDは30GBで、最高画質で約4時間の撮影が可能。BDでは約1時間の撮影となっており、AVCHDが15分ぐらいしか撮れないことを考えると、BD採用の意味がある。ただハイブリッド機の場合は、HDDで撮ったあとBDに書き出しという流れが普通だろう。また本機では、DVDメディアを入れればSDでの撮影も可能になっている。

動画サンプル
モード 解像度 ビットレート 記録時間(HDD) 記録時間(BD) 記録時間(DVD) サンプル
HX 1,920×1,080 15Mbps 約4時間 約1時間 -
ezsm_hx.m2ts (25.1MB)
HF 1,440×1,080 11Mbps 約5時間20分 約1時間20分 -
ezsm_hf.m2ts (19.1MB)
HS 1,440×1,080 7.5Mbps 約8時間 約2時間 -
ezsm_hs.m2ts (18.5MB)
SX 720×480 9Mbps - - 約20分 -
SF 720×480 6Mbps - - 約30分 -
編集部注:動画サンプルは、撮影時のH.264形式(.m2ts)を未加工のまま、PCに取り込んだファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ ん、んんーな動画撮影

 では早速撮影してみよう。まず電源を入れて撮影可能になるまで、約7秒。HDDとBDとの切り替えは、あまり頻繁に行なわないとは思うが、8秒程度である。ただ最初の電源投入時にはBDメディアの認識に20秒ほどかかるので、やはりHDDを中心に撮影していくべきだろう。

 もちろんクイック起動として、「秒撮」機能も付けられている。バッテリは消費するが、これを使えば1秒以内に起動できるので、撮ったり止めたりを繰り返すときには便利だ。

 撮影機能としてはほとんどフルオート化されており、設定メニューは非常に少ない。せいぜいいじるのはプログラムAEと、ホワイトバランスぐらいだ。このあたりは徹底しており、撮影時にも撮影後にも、絞りがいくつだとかシャッタースピードがいくつだとかいった情報もわからない。上級者には、物足りないことだろう。

 また内部にガイド機能が付けられており、ウィザード形式で撮りたい設定を選んでいくと、どのスイッチを変更すればいいかを教えてくれる。特に光メディアはBD-R/RE、DVD-R/RW/RAMの5種類が使えることから、かなり丁寧なガイダンスとなっている。


撮影に関係するメニューはこの1ページのみ 本体内にガイド機能が内蔵されている

 画角が狭いのはハイビジョンカメラとしては若干物足りないが、それ以前にワイド端の遠景は、細かいディテールが潰れる傾向がある。近景のやや寄った画角のほうが、ディテールがよく出るようだ。このあたりは、圧縮アルゴリズムに起因する部分も大きいだろう。フルHD記録を謳う割には、それがディテールに反映されていない感じがする。


静止画サンプル
遠景のディテールは甘め 一方近景では解像感が高い

 カラーバランスはニュートラルで、オートでも大きく外すことはない。発色はやや大人しめなのだが、今回はあいにくの曇天続きで、あまりパリッとした絵が撮れなかったせいもあるだろう。このあたりは差し引いて考えた方がいいかもしれない。


静止画サンプル
発色は比較的ニュートラルだ 派手さはないが、落ち着いた色味

 フォーカスの追従性はあまり良くなく、特に手前の被写体のコントラストが低い場合は、背景にフォーカスが合いがちだ。マニュアルフォーカスも可能だが、拡大機能などはないので、フォーカス合わせには苦労する。

 若干気になるのが、光量がある時にクロマの高い被写体の輪郭がボワッとにじんでしまうところだ。これは以前もビクターの「GZ-HD7」でも、同様の現象が見られた。おそらく光学設計部分に起因するものと思われるが、原因はよくわからない。


静止画サンプル
クロマが輪郭からはみ出している 光量低下時の発色の悪さが気になる

 その反対に、光量の少ない場合の弱さも目に付く。人肌が黄色くなり、S/Nの悪さも目立つ。いつもの条件で室内撮影のサンプルも撮ったが、ここまでS/Nの悪いカメラは、これまで取り上げた製品の中でもそうなかったように思う。室内撮影を中心に考えている方には、ちょっとキビシイだろう。

動画サンプル

ezsm_1.m2t (189MB)

ezsm_2.m2t (32.4MB)
屋外での動画サンプル 室内サンプル。露出計ではISO100でF2.8、1/15程度の明るさ
編集部注:動画サンプルは、Canopus HQ Codecに変換後、EDIUS Neoで編集し、HDV形式(.m2t)で出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ 意外に健闘している静止画

 動画の方はちょっとガッカリだが、静止画は意外によく健闘している。いやそもそもはビデオカメラなので、動画のほうをしっかりしてもらわなければ困るんだが。

 しかし静止画は若干低コントラストの傾向はあるものの、階調もしっかり出ており、ディテール感も悪くない。このあたりは、HDビデオカメラとしては破格の有効画素数、432万画素が効いているのかもしれない。


静止画サンプル
解像感も高い 発色も自然だ
背景のボケはあまり綺麗ではない 室内ではフラッシュなしだと厳しい

 ただこれも難点があって、動画と静止画の切り替えが10秒ほどかかる。最近は動画を撮りながら高解像度の静止画が撮れるのが当たり前になりつつあるハイビジョンカメラの中で、この仕様は結構厳しい。

 静止画の保存はそれほど速くなく、1枚撮影して「保存中」の表示が消えるまで7秒程度かかる。またminiSDカードをアダプタを介して差し込んでいる場合は、さらに保存速度が遅く、12秒ほどかかる。ただ「保存中」の表示中でも次々に撮影できるのは、以前からと同じだ。

 静止画から動画の切り替えは、保存が完了しないと切り替わらない。したがって静止画を撮影してから動画撮影に切り替わるまで、最長で17秒ぐらいかかることになる。1イベントの最中で動画と静止画を切り替えながら撮るという使い方は、ちょっと難しいだろう。


■ ハイブリッドならではのダビング機能

 日立のハイブリッドカムが一躍ヒットしたのは、やはりHDDからDVDへの保存というのが、PCや外部機器などを使わず、本体だけで完結するところが大きかったようだ。特に今回のBDの場合は、まだPC用ドライブも十分普及していない現状であり、本体にドライブを乗せた意味が大きくクローズアップされることになる。

 撮影した動画全部をBDにバックアップすることももちろん可能だが、おそらく多くの人は不要な部分はカットしてダビングしたいと思うことだろう。動画の本体編集は、プレイリストを使って行なう。プレイリストによる編集は、HDDだけでなくBD-RE記録時にも可能だ。ただ画質モードが混在していると、プレイリストが作成できないようなので、イベント途中での画質変更は避けるべきだろう。

 ダビングしたいカットをプレイリストに登録したのち、各カットを分割、不要な方を削除、という段取りだ。動作レスポンスとしては、なにか作業するたびにいちいちサムネイルをリロードするのがまどろっこしいが、再生や分割といった作業はそこそこ速い。15MbpsのフルHD、しかもH.264を編集していることを考慮すれば、現時点では十分な速度だと言っていい。


本体内でプレイリストが作成可能 分割して削除してゆく


ダビングは4つのメソッドから選択

 ダビング機能は、「ダビングメニュー」を経由して行なうことになる。まるごとや差分、日にち、えらんでバックアップなど、4つの選択肢がある。プレイリストで作成したものをダビングするには、まずプレイリストを表示させておいて、ダビングメニューで「すべて」を選択するのが速いようだ。


ウィザードでBDかDVDかを選択

 次のステップでは、メディアの選択である。BDを使えばそのままの画質で、DVDを選べばSDにダウンコンバートしてDVDビデオの作成となる。本機はAVCHDフォーマットには非対応なので、DVDメディアを使ってHD画質の記録はできない。またダビング中は、必ずACアダプタに接続しなければならない。安定記録のためには仕方がないのかもしれないが、撮ったその場で人に渡すといった用途では制限を受けることになる。

 今回は最高画質を中心に約14分の撮影をしたが、BD-Rにまるごとダビングするのにかかった時間は約11分30秒、DVD-Rにダウンコンバートしながらダビングするのに約35分30秒かかった。

 ダビングに関しては、本体だけでなくPCを使ったソリューションも用意されている。ピクセラの「ImegeMixer3」を使って、BDやDVDのオーサリングが可能だ。

 本機をUSB接続すると、ImageMixer3から直接映像を読み出すことができる。必要なクリップを「アルバム」に登録することで、PCにダビングされるという作りになっている。各クリップの編集は、アルバムにダビングされたものを使って行なうことになる。編集しようとすると、いちいちフル解像度の画面が出てくるが、表示を半分のサイズにするとなめらかに再生できる。


USB接続したカメラから直接クリップが読み込める クリップをアルバムにドラッグ&ドロップすると、PCにファイルコピーされる


編集はIN/OUTを指定して別ファイルに書き出すスタイル

 編集スタイルとしては、各カットでIN/OUTを指定し、その部分を別ファイルに切り出していくという格好だ。編集するたびにクリップがどんどん増えるのだが、現状のPCパワーを考えると、そのほうが効率的なのかもしれない。

 BDやDVDの作成は、それぞれの作成リストにクリップをドラッグ&ドロップで登録していく。クリップの並び替えなどはこの時点で行なうほうが、混乱しないだろう。今回はPC用BDドライブが用意できなかったのでDVDビデオの作成を試してみたが、「書き込み」をクリックするだけで、特にオーサリング画面なども出ずに完了する。

DVD制作用リストを作成するだけで、書き出し可能 DVDメニューは自動的にオーサリングされている



■ 総論

 日立初のハイビジョン機ということで、鳴り物入りで登場したBDCAM。デザインもなかなかいいが、動画撮影機能としては不満点が残る。まず暗部に弱い点で、日常の室内撮影はかなり厳しいことになる。雰囲気のいいレストランや結婚式などの撮影を行なうこともあるかと思われるが、この画質ではハイビジョンで撮影するメリットがあまりない。

 動画と静止画の切り替えが遅い点、静止画の保存が遅い点も、かなりフラストレーションが溜まる。サンプルを撮影していて、もう静止画撮るの辞めようかと思ってしまったほどだ。どうも設計として静止画機能は完全に切り離されているようで、HDDやBDに静止画を取り込んでライブラリ管理するわけでもない。このあたりが何か有機的に融合するというのも、今後の課題だろう。

 ダビング機能に関しては、HDDとBDドライブを内蔵していることもあり、バックアップには困らないだろう。PCを使った保存も可能だが、まだPC用BDドライブが高価であることから考えれば、PCでのBD保存はまだ現実的ではない。そう考えれば、本体で保存まで解決するというコンセプトは、ハイブリッドカムならではのメリットだろう。

 ビデオカメラの世界でいち早くBDを投入した意気込みは買うところだが、ハイビジョンカメラとしての性能が記録系のイノベーションに追いついてきていないのが残念である。ただAVCHDも、ゆくゆくはBDに収れんしてゆくと思われる。そういう意味では、将来の方向性を示すマイルストーン的な存在として記憶される製品であろう。


□日立製作所のホームページ
http://www.hitachi.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.hitachi.co.jp/New/cnews/month/2007/08/0802.html
□製品情報
http://av.hitachi.co.jp/cam/products_bd/index.html
□関連記事
【8月2日】日立、世界初のBlu-rayビデオカメラ「Wooo」
-HDD+BDモデルも。「赤から青へ、カメラ革命を宣言」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070802/hitachi.htm
【7月20日】日立、フルHD/Blu-rayビデオカメラを年内発売へ
-8cm BDドライブやH.264コーデックなどを新開発
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070720/hitachi.htm

(2007年9月5日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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