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第322回:Everioの本領? ハイビジョン普及機 「GZ-HD3」
~ 意外にマニュアルが使いやすい小型モデル ~



■ ハイビジョンも普及時代に突入?

 SD時代のEverioと言えば、とにかく小型でハンドリングがよく、メディアの録画残量を気にせず長時間撮れるというところが、多くの人に受けたように思う。別途大型バッテリを付けていた人が多かったのも、つまりはそういうことだろう。

 今年3月に発売されたEverio初のHD機は、フルHD記録とマニュアル撮影にこだわった高級機として登場したわけだが、Everioらしい小型機を求める声も少なくなかったことだろう。HD2作目となる「GZ-HD3」(以下HD3)は体積比30%減を実現した、小型モデルで登場した。

 現行HDカメラの中では数少ないフルHD記録機であった「HD7」からはスペックダウンだが、店頭予想価格で5万円近く安いことを考えると、普及機として投入してきたことは間違いないだろう。店頭予想価格は15万円前後となっていたが、すでにネットでは9万円を割り始めている。

 ではビクターの考える普及機の実力を、さっそくテストしてみよう。


■ シンプルだが機能的なデザイン

 HD3にはクリアシルバーとプレミアムブラックの2色があるが、今回はクリアシルバーをお借りしている。HD7から大幅な小型化をなし遂げたことはすでに述べたが、全体の雰囲気やサイズ感はキヤノンの「iVIS HV20」に近い。ただあまり色や曲線を使わずシンプルにまとめてあり、落ち着いた雰囲気になっている。


変な飾り気がなく、飽きの来ないデザイン グリップ部のディンプル加工が面白い

 質感として面白いのは、グリップ部の表面がディンプル加工されているところだ。ビデオカメラは本体に熱が溜まることもあって、ハンディでの撮影は手に汗をかくことも多いが、ディンプル加工のおかげで肌触りがさらっとしており、べたつくイヤな感じにならない。この試みはなかなか新しい。

 では光学部から順に見ていこう。レンズは前作で鳴り物入りでコンシューマ市場に参入した割にはそんなに良くもなかったフジノンを止めて、コニカミノルタのHDレンズになっている。F値は1.8~2.4で、明るさとしてもまず妥当だろう。鏡筒部下部には、レンズカバーのスライドレバーがあり、手動で開閉する。


レンズはコニカミノルタ製に変更 USB端子と外部マイクはレンズ脇に

 画角は35mm換算で動画42.2mm~422mmの光学10倍、静止画48mm~384mmの光学8倍ズームとなっている。画角で静止画のほうが狭いというのは珍しいが、これは4:3画角の数値だからだろう。静止画16:9モードで撮影すると、ワイド端は動画と同等の画角になる。

撮影モードと画角サンプル(35mm判換算)
撮影モード ワイド端 テレ端
動画
42.2mm

422mm
静止画 16:9
42.2mm

337.6mm
静止画 4:3
48mm

384mm

 撮像素子は総画素数57万画素の1/5型プログレッシブCCDで、有効画素数は動画43万画素×3、静止画53万画素×3。HD7でも撮像素子は同スペックだったが、今回は手ぶれ補正が電子式になったため、動画の有効画素数が下がっているようだ。裏を返せば、静止画では手ぶれ補正が効かないということでもある。

 前面に付けられたLEDビデオライトは、ビクターとしては新しい試みだ。AUTOに設定しておけば、暗いところで自動的に点灯する。キヤノンに搭載のものよりは明るくないが、暗部の補助光としてはアリだろう。フォーカスアシスト機能はそのまま付けられている。


新たにLEDビデオライトを搭載 フォーカスアシスト機能は健在

 HDDは60GBで、記録は有効画素数が下がってフルHD記録のメリットがないということか、全画質モードで1,440×1,080ドットとなっている。画素数が減ってもビットレートは変わらないので、記録画素数が多い方がいいのか、それともピクセル総数比に対してビットレートが高い方がいいのか、という答の出しにくい問題を、一社で抱えてしまったことになる。

 液晶周りのボタン類はHD7と変わらないが、ボディのボタン類はだいぶ少なくなった。独立していた逆光補正ボタンは「ジョイスティック上」に割り当てられ、「ジョイスティック下」がマニュアルフォーカスだ。HD7にあった絞り優先などのマニュアル撮影用ボタンはなくなったが、機能自体はそのまま残してあるため、そのぶんファンクションメニューの項目が増えている。


ボタン類は若干整理された マニュアル撮影機能はファンクションメニューに移動

 背面に回ってみよう。ボタン類がなくなったこと、またビューファインダがなくなったことから、SD時代のEverioっぽいルックスに戻っている。バッテリはHD7と同型だが、縦に装着するようになっている。


背面は従来のEverioっぽくなった アクセサリーシューも装備


SDカードスロットは底面

 上部のアクセサリーシューはデザイン的な配慮もあってか、今回はカバーが付けられている。外部マイク端子もあるが、相変わらずイヤホン端子がないので、現場でモニタリングできないという弱点はそのままだ。


■ マニュアルが楽しい動画撮影

 では実際に撮影してみよう。やはり最初に気になるのは、記録系が後退したことによる録画品質だろう。今回の録画モードは下記のようになっている。

動画サンプル
モード ビットレート 記録時間 サンプル
XP VBR:最大約30Mbps
    平均約26.6Mbps
約5時間
ezsm_xp.mpg (25.1MB)
SP VBR:最大約22Mbps
    平均約19Mbps
約7時間
ezsm_sp.mpg (19.1MB)
1440CBR CBR:約27Mbps 約5時間
ezsm_cbr.mpg (18.5MB)
編集部注:再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 最高のXPモードでも、HD7のようなシャキッとした解像感は、あまり感じられなくなった。ただこれは記録画素数が減ったことが、直接の原因ではないだろう。撮像素子で動画の有効画素数がかなり減ったことによる、画素ずらし方式の限界が見えた結果、フルHDで記録しても意味がないと判断したと見るのが、妥当のようだ。

 気になる場合は、ファンクションメニューでシャープネスが調整できる。今回は撮影時にそういうメニューがあることをすっかり忘れていて、テストしていなかった。申し訳ない。

 また画素ずらしの限界は、背景のボケ味にも影響を与えているのではないかと思われる。HD7に比べると、撮り方自体は同じにできるのだが、少しボケたぐらいのときに、なめらかさが若干かけるようだ。


背景のボケにもう少しなめらかさが欲しい 漫然とした遠景では、あまり解像感を感じない テーマを絞れば、十分な発色と解像感を発揮する

 また今回はSPモードのみ、SDカードでも撮影できるようになっている。4GBのカードで、約25分の撮影が可能だ。まあHDDがいっぱいになるときというのはあまりないと思うので、撮ったその場で誰かに渡すなど、最初から用途を割り切った使い方になるのだろう。

 過去HD7で問題になったのが、手ぶれ補正である。HD7では効きが悪いという評判だったが、電子式になったHD3ではかなり改善されてきている。実はHD7の時も手ぶれ補正のサンプルは撮影していたのだが、「人間が作る手ぶれ量」というのが定量化できないので、記事内では触れなかった。今回は参考までに、両方の動画を掲載しておく。

動画サンプル

ez_hd3.m2t (32.4MB)

ez_hd7.m2t (32.4MB)
HD3での手ぶれ補正効果比較。テレ端で手持ち撮影 同条件でHD7で撮影。HD3ではかなり改善されているのがわかる
編集部注:動画サンプルは、Canopus HQ Codecに変換後、EDIUS Neoで編集し、HDV形式(.m2t)で出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 撮影全体としては、意外にマニュアルでの操作が軽快にできる点は評価したい。オートフォーカスはそれほど賢くないが、フォーカスアシスト機能がすぐに使えるので、フォーカスリングがない割には、マニュアルでも合わせやすい。

 シャッター優先、絞り優先は排他仕様になっているため、フルマニュアルにはならないが、実用上十分だろう。ただ一旦撮影したあとにシャッターや絞りの値をもう一度変更するときには、もう一度ファンクションメニューからシャッターなり絞りなりのモードに入らないと変更できないのは、面倒だ。ジョイスティックのセンター押しでもう一度値入力モードになると、良かっただろう。

 HD7では絞りやシャッターボタンが独立していたので、その点は楽だったが、さすがにそこまでの軽快さを求めるのは酷かもしれない。むしろこのレンジで優先モードを持っていることを評価したい。

動画サンプル

ez_samp.m2t (198MB)

ez_room.m2t (32.5MB)
屋外での動画サンプル 室内サンプル。ビデオライトは使用していない
編集部注:動画サンプルは、Canopus HQ Codecに変換後、EDIUS Neoで編集し、HDV形式(.m2t)で出力したファイルです。再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。



■ ナチュラルな発色の静止画

 静止画も試してみよう。元々画素ずらしによる静止画は、動画よりもアラが目立つものだが、ビクターの画素ずらしは以前からくさびガラスを使った「6軸調整CCD固定方式」を採用するなど、チューニングのレベルが高い。今回のHD3はくさびガラス採用なのか記述がないが、光量が十分にあれば解像度にも破綻がなく、綺麗にまとまっている。

 コントラストの高い被写体では若干白が飛び気味になる傾向があるが、気になる場合は明るさを補正すれば問題ない。ただ低照度の時にISO200ぐらいになると、粒子ノイズが乗ってくるのは気になるところだ。静止画用フラッシュがないぶん、もう少しNRがきつめでも良かったのではないかと思う。


若干飛び気味だが、コントラストを綺麗にまとめている ホワイトバランスがオートでも、日陰で変な色にならない
低照度時には若干粒子ノイズが気になる テレ端絞り開放で撮影

 またHD7では静止画でのシャッタースピードが最速1/500秒しかなかったため、なかなか絞りが開けられなかった。だが今回は最高で1/4,000秒までになっている。そこまでは上がりすぎという気もしないではないが、動画側のスペックと合わせたのだろう。

 本機は動画を撮りながらの静止画撮影はできないが、動画と静止画モード切替が瞬時なので、軽快に撮影できる。

 画角に関してだが、多くのカメラが4:3に注力し、16:9になると上下が切れるというものが多い。一方HD3は、16:9のほうが画角が広く、4:3は横が切れるという作りになっている。静止画も16:9画角を標準にしたのは、新しいアプローチだ。

 実際問題として、最近は静止画もテレビで見るという方向性が見え始めている。特にデジタル放送が行き渡っていない地方部においては、ハイビジョンテレビでフル画角が楽しめる高解像度ソースが写真しかないという現状もまた事実として存在する。

 16:9を基本に置いた静止画機能を搭載したというのは、地方部で強いEverioの象徴的な判断と言えるのかもしれない。


■ 編集、保存のバリエーションは広い

 ハイビジョンカメラ全体の弱点は、保存のソリューションが十分ではないところだ。もちろんテープ式ならば話はまた別だが、これから購入する人がHDVカメラを選ぶという図式は、あまり考えにくい。世の中はすでにノンリニア方向に動いてしまっている。


PCに接続するだけで自動的にバックアップソフトが起動

 Everioはその中でも、比較的保存ソリューションには力を入れており、あまりPCに詳しくない人にも勧めやすいシリーズだ。HD7とともに発売されているDVDライター「CU-VD40」は、もちろん今回も使用可能である。

 本体内での編集は、プレイリストが作成できるとはいっても、クリップを丸ごと追加するかしないかといった程度だ。次の課題は、本体編集がどれぐらいやれるようになるかというところだろう。

 PC用ソフトも、以前と同じ「CyberLink BD Solution」が付属する。PC用BDドライブはまだブレイクする手応えがないが、すでにBDドライブ搭載のハイエンドPCを所有する人は、BDで保存という方法も提供されていることになる。


MacではQuickTimeでTODファイルが読めるようになっている

 またHD7のレビュー時には間に合わなかったのだが、Macでの編集用には「QuickTime Component for Everio」というplug-inも付属している。これはEverio特有のTODファイルを、QuickTimeの書き出し機能を利用して別コーデックに変換するためのものだ。まあ平たく言えば、TODファイルをQTで読み込めるようにするためのplug-inである。

 QTのplug-inであるため、「Compressor」ではTODファイルが読み込めず、バッチ処理ができないのは手間がかかる。だがメーカー側でWindowsとMac両対応を保証する例はあまりなく、どちらかと言えば編集ソフト側の対応待ちのようなカメラが多い現状では、貴重な存在と言えるかもしれない。

 またCyberLinkでは、Final Cut Pro用の簡易セットアップファイルも配布している。ファイルがHD7時代の使い回しのままになっているのはイマイチだが、Final Cut Proが使える程度のユーザーならば、1,440×1,080ドットに直したり、AICではなくProRes422にカスタマイズすることは、自分でできるだろう。


■ 総論

 純粋に画質だけを考えれば、上位モデルのHD7に軍配が上がるのはある意味当然だろう。だがハンドリングや価格、保存ソリューションといったトータルで言えば、HD3はバランスが取れたカメラだと言える。

 メニュー動作なども、細かい改良点がある。HD7では電源を入れるたびにモードを選べといちいち聞いてくるのが鬱陶しかったが、今回は電源を入れるとビデオカメラモードで起動するようになった。

 本来は最後に起動していたモードで起動してくれるのが一番いいのだろうが、以前のモードを記憶して起動するというのは、某メーカーの特許なのだそうで、それを避ける意味でHD7では起動時のモード選択を行なっていたという。だが一番使用するのはやはり動画撮影だと思うので、撮影モード決め打ちで起動するのも別に不便はない。

 また普及モデルではあるものの、フォーカスアシストやシャッター/絞り優先モードを削らなかったのは、英断だった。欲を言えば絵にもう少しキレが欲しかったところだが、色味の面で破綻が少なく、マニュアル撮影にも強い。フルオートでしか撮らない人には不満が残るかもしれないが、ちゃんとカメラを自分でコントロールできる人のサブカメラとして、便利に使えるだろう。

 記録にMPEG-2を使っていることで、本来はPCとの親和性は高いはずだ。だが現在はSDビデオフォーマットを採用しているため、プレーンなMPEG-2ファイルとしてダイレクトに認識できないところが惜しい。

 SD時代のEverioは、まだHDD記録が珍しかったこともあって、普通のDVカメラに対してやや割高な感じがあった。だが他社もHDDを搭載し、またハイビジョン化による価格上昇も手伝って、Everioの割高感がなくなった感じがある。

 またSD時代は次に何をやったらいいのか迷走している感があったが、HDにステップアップしたことで、色々な課題がよく見えてきたのではないかと思う。会社自体も経営面では松下電器を離れたことで、厳しいながらも自由闊達な雰囲気が戻ってきたことだろう。新体制となる今後のビクターの発展に期待したい。


□日本ビクターのホームページ
http://www.victor.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.victor.co.jp/press/2007/gz-hd3.html
□製品情報
http://www.victor.co.jp/dvmain/gz-hd3/index.html
□関連記事
【7月19日】ビクター、実売15万円の「ハイビジョンEverio」
-新光学系で30%小型化。1,440×1,080/MPEG-2記録
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070719/victor.htm
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~ バランスのとれた3CCD機、保存機能も充実 ~
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【2月7日】ビクター、フルHD記録のHDDムービー「Everio」最上位機
-FUJINONレンズ/60GB HDD搭載。実売20万円
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070207/victor.htm

(2007年9月12日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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