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BD/HD DVDコンボは次世代規格争いの福音か?
-NECの新「VALUESTAR W」を試す


 今秋のPC新製品は、比較的おとなしめのラインナップだった。各社とも、多くの製品がマイナーバージョンアップにとどまり、目新しい製品はさほど多くない。

 そんな中で、新規メカニズム満載で注目されるのが、NECの「VALUESTAR W」。パソコンとしてだけでなく、AV機器としても注目の製品である。日本でははじめて、BD/HD DVDコンボドライブを搭載し、両方のビデオソフトが視聴可能な機器であるからだ。また、新水冷機構を採用、劇的な静音化を実現している点も魅力だ。店頭予想価格は34万円前後の見込み。

 今回は、VALUESTAR Wの最上位機「VW790KG」を試用し、次世代DVD戦争の中でパソコンが果たす役割を考えてみた。



■ 25dBの静音性が魅力
  DVDレコーダと同様の静かさを実現

VALUESTAR W(VW790/KG)

 VW790KGは、22型/1,680×1,050ドットの液晶ディスプレイを搭載した一体型パソコン。CPUはインテルのCore 2 Duo E4400(2GHz)となっている。このあたりは、いまどき当たり前の性能で驚くべきところはない。

 大きいのは、これだけのシステムでありながら、騒音がほとんどない、という点である。カタログデータでは、最大駆動時でも約25dBとなっているが、これは元々静音性に定評があった同社の旧製品に比べ、約3分の1だという。ちなみに25dBは、動作音が小さめのDVDレコーダと同じくらいと考えていい。

 貸し出された機材はまだ試作機であったため、NECによれば、カタログデータより騒音は大きめである、とのことだったが、それでも、驚くほどの静かさであった。映像をエンコードし、フルパワーで動作させた時でも、特に動作音が大きくなった気はしなかった。特に、HDD音の静かさはなかなか。時折低いシーク音が聞こえるが、「いかにもHDD」という感じの高音は、概ね消されていた。液晶一体型のパソコンは、本体の位置がユーザーに近いため、タワー型のデスクトップに比べ音をごまかしにくい。特に、AV視聴を考えるなら、無駄な音は無いに越したことはない。そういう意味では、VW790KGは「合格」を与えていい。参考として、NEC提供による、旧機種・新機種での音の変化を記録したWAVデータを掲載する。

 この機種がここまで静音化にこだわる理由は、当然AV視聴のためである。現時点で、一体型パソコンの存在価値は、「書斎の万能機」というところにある。テレビやレコーダの設置が難しい自室で、すべての機能を兼ね備えたものとして使われることを想定しているわけだ。


NEC側が計測した、新機種・旧機種での音分布。赤いところが、音の大きな場所だ。ユーザーに近い、本体下部の音が少なくなっているところに注目 NEC提供による、VW790KGと旧機種の動作音(WAVファイル)。そのままでは聞きづらいので、両方を同じ比率で拡大したものだという。あくまで「違い」を感じる参考に


■ 日立LGのGGW-H20Nを搭載
  ハイエンドPCには理想的なドライブ?

光学ドライブは「GGW-H20N」を採用

 そう考えると、BD/HD DVDのコンボドライブを搭載するのも当然といえる。AV全部入りを目指すなら、これらがあって当然だからである。同機種で採用されているのは、日立LGデータストレージ製の「GGW-H20N」。すでに、アイ・オーデータ機器、バッファローなどから、単体ドライブが発表されているが、これを組み込んだパソコンとしては、本製品が初の製品化となる。

 このドライブは、国内のハイエンドPCにはうってつけのドライブである。家電のプレーヤーでは、コストとマシンパワーの関係から、HD DVDとBDの両方の再生を完全にサポートすると高価になりすぎる。事実、世界で最初に登場した、LG電子の両対応プレーヤーはHDiに対応していない。年末にはサムスン電子が北米市場で、BD-Java/HDi両方に対応した「Duo HD Player(BD-UP5000)」を発売する予定だが、価格はまだ未定。少なくとも、同社のBDプレーヤー(BD-P1000)が、現在500ドル程度で売られていることを考えると、それと同等以上になるだろう。

 だが、パソコンならば、両対応しても、ドライブコスト以外はコストアップ要因がない。付加価値を売り物にするハイエンドPC、特に日本市場向けのAVパソコンならば、ドライブのコストくらいならば問題とならない。だから、1月のCESでドライブが発表された際、日本ではパソコンで最初に採用されるだろう、と予想したわけだが、まさにその通りの展開となった。今期はNECだけの採用となったが、スペック横並びが常の国内市場だけに、来年1月のモデルでは、各社が追随してくると思われる。

 ここで、ちょっと不思議に思われる人もいるだろう。NECは元々、東芝と並びHD DVD支持の企業だったはず。なのに、これまで搭載していたのはBDドライブだし、こんどはコンボドライブ。どういう関係になっているのだろうか……と。

 実際のところ、ソニーや東芝をのぞくと、日本のパソコンメーカーにとって、次世代DVD規格競争は、「対岸の火事」のようなものなのである。

 そもそも、各社とも、自社ドライブがあるからといって、自社PCに搭載する、とは決まっていないのがPC市場の実情だ。高付加価値モデルではともかく、低価格モデルではコスト意識が強く、特別な事情がない限り、「社内の政治的事情」に左右されることはないからだ。OSに再生機能が内蔵されていない以上、マイクロソフトの意向も特に問題とはならない。

 しかも、NECは2006年4月より、ソニーと提携、光学ドライブ事業を新会社「ソニーNECオプティアーク」に移管している。この会社は、どちらかというとソニー主導といってよく、HD DVDドライブの生産には消極的だ。

 このような事情もあり、NECや富士通に関しては、「ユーザーのニーズとコスト」だけを見てドライブをチョイスする、と考えていいだろう。コンボドライブは、コストさえ許すなら、家電との差別化もしやすい、理想的な存在なのである。


□関連記事
【2006年2月27日】ソニーとNECの光ディスク合弁会社の本契約を締結
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20060227/sonynec.htm


■ 普通に「どちらも観られる」喜び
  短い視聴距離による「細密感」が魅力

 ではそろそろ、コンボドライブの使用感に触れてみよう。

 実のところ、「普通に使える」ので、ドライブそのものに関して、特に言及することはない。再生に使われるのは、インタービデオの「WinDVD BD/HD」。BD/HD DVDの双方の再生がこのWinDVDだけで可能だ。

 ソフトの動作状況も、特に問題ない。「パイレーツ・オブ・カリビアン 呪われた海賊たち」でBD-Javaの動作を、「ワイルドスピードX3 TOKYO DRIFT」でHDiの動作をチェックしたが、他のプレーヤー同様楽しめた。

 試作機のためか、PS3や松下のDMR-BW200、東芝のRD-A300に比べ、ディスク認識にかかる時間が長くかかったのが気になった。製品版で改善されていることを望むが、他のPC用ドライブでの状況を考えると、家電のプレーヤーよりは長めになりそうだ。

 再生画質も良好だ。テレビで見るのに比べ、少々中間調の表現が浅く、黒浮きしている印象があるが、十分満足できるレベルだ。スピーカーも、少々低音がこもり気味だが、大きさや価格を考えれば、こんなものか、というところである。

 むしろ感じたのは、画面から目までが30cm程度という、視聴距離の近さによる「細密感」だ。ハイデフコンテンツ特有のディテールが視界隅々に行き渡る印象で、テレビやプロジェクターによる視聴とは、また違うおもしろさがある。

 実のところ、この細密感こそが、パソコンでハイデフコンテンツを楽しむ最大のメリットではないか、と思う。2度目、3度目の視聴で、ストーリーよりディテールを楽しみたい、という時には、なかなか面白い選択肢ではないだろうか。

 そう考えると、本来はディスプレイがフルHD、すなわち1,920×1,080ドット以上欲しい。残念ながら本製品はフルHDではない。NEC側の説明によれば、「22インチではフルHDを映せるWUXGAのパネルがなく、24インチでは大きすぎて使い勝手に問題があるための選択」とのことだ。このところ、単体ディスプレイでは24インチ/WUXGAパネルが人気であることを考えると、ちょっと微妙な選択ともいえる。

 HD DVDでの記録には対応していないが、BD側は記録も可能。内蔵の地デジチューナで録画した番組をムーブすることもできる。今回の試作機はテレビ機能が動作しなかったため、ムーブに関するテストは出来なかったが、仕様上は、BDレコーダと同じように使うことができるはずだ。

 なお、テレビ機能という意味では、少々残念な部分もある。前モデルまで、同社はデジタル放送でハードウエアで再生・受信を担当する独自のソリューションを使い、中断状態から数秒でテレビが見られる「ぱっと見」を訴求していた。だがVW790KGからは、再生・受信をソフトで行うソリューションに変わった。そのために「ぱっと見」は無くなり、テレビを見るには、パソコンの起動を待たねばならなくなった。家電としての完成度は下がったといわざるを得ない。

 NEC側はその理由を、「コストと待機時電力を下げるため」としているが、地デジ以降、パソコンでの視聴が市場で重視されなかったから、とも考える。



■ パソコンは日本で買える唯一の「次世代コンボ」

 VW790KGの良さは、やはり「どっちのディスクでもかかる」ことだ。

 先日、パラマウントがBDから撤退し、HD DVDに特化すると発表した。その選択については、あえてここで語るまい。問題なのは、それに際し、既発売のBDタイトルの再生産と、予定していたタイトルの発売が中止されたことである。

 パラマウントのBDタイトルは、店頭から急速に消えつつある。一部のオークション系流通では、プレミアを付けた販売すら行なわれているようだ。

 欲しいタイトルが買えなくなる、ということは悲しいことだ。そして、競争が今後も長く続くなら、このようなことが再び起こらない、とも限らない。

 となると、消費者の選択肢は2つしかない。両方買うか、両方買わないか、である。一時は早期決着の目も見えたのだが、大手スタジオが分裂した結果、このまま状況が変わらず対立が長期化し、「両方買わない」という選択肢に落ち着きかねない。これは、あらゆる人々にとってマイナスである。

 両対応プレーヤーは、「両方買う」という人に対し、もっともスマートな選択肢になる可能性がある。しかし、日本の家電市場では、大手が必ずBD、HD DVDどちらかの陣営に属しており、両対応プレーヤーが出ることは考えづらい。

 となると、VW790KGのようなパソコンは、消費者にとって大きな福音となる可能性がある。すでに述べたように、パソコン側は家電ほどしがらみがないからだ。

 ただ問題なのは、VW790KGは、映像/音声を内蔵のデバイスで見聞きせねばならない、ということである。書斎用デバイスとしてはこれでいいが、テレビサイドに置くなら、HDMIでの映像/音声出力が欲しくなる。

 そのあたりを考えると、理想的な「コンボドライブ内蔵パソコン」は、ノートパソコンかも知れない。HDMIでテレビにつなぎ、どちらのディスクも楽しめるなら、そこそこ売れそうな気がしてくるのだが。


□NECのホームページ
http://www.nec.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.nec.co.jp/press/ja/0709/0301.html
□製品情報
http://121ware.com/psp/PA121/LEARN/ENTP/h/?tab=LRN_Z_PC_VSW_ST
□関連記事
【9月3日】NEC、ソニー、富士通が新PCを発表。ソニーはBD強化
-NECは動作音25dBの水冷BD/HD DVDパソコンなど
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070903/avpc.htm

(2007年9月7日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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