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大河原克行のデジタル家電 -最前線-
家族のための「デジタル囲炉裏」実現へ
~ 松下電器PAVC社・坂本俊弘社長インタビュー ~



松下電器産業パナソニックAVCネットワークス社・坂本俊弘社長

 2008 International CESがの初日の基調講演に登場した松下電器産業パナソニックAVCネットワークス社・坂本俊弘社長が取材に応じた。

 坂本社長は、基調講演で初めて打ち出した「Whole Life Connectivity」、「Living in High Definition」といった言葉を、今後のコミュニケーションメッセージとして、日本をはじめとする全世界に発信していく姿勢を見せたほか、これにあわせて、家族のつながりを強化する製品を投入していく意向を改めて強調。さらに、同基調講演で初公開した超大画面テレビや薄型テレビの取り組みなどについても語った。(以下、敬称略)


■ Digital Hearth(デジタル囲炉裏)の実現へ

-今回の基調講演では、「Whole Life Connectivity」、「Living in High Definition」という言葉を新たに使いました。また、「Digital Hearth(デジタル囲炉裏)」を打ち出し、家族が集まる場を、大画面テレビを中心として作りたいという提案もありました。この方針は、今後、パナソニックが、全世界に発信していく言葉になるのですか。

坂本:その通りです。米国でも核家族化が進み、家族のコミュニケーションの減少が問題になっています。大昔から、人間は、火のあるところ、囲炉裏や暖炉のあるところに集まり、家族や友人がそこでコミュニケーションをし、生活をしてきました。今、その役割を大画面テレビが果たすのではないかと考えています。

 大画面薄型テレビを居間の中心に置き、そこに様々なAV機器をリンクさせて、家族が楽しい時間を過ごすことができる。そのためには、つながることをさらに強化した製品を投入し、ユーザーインターフェイスも進化させなくてはいけない。リモコンのボタンひとつだけで、テレビ画面の誘導に沿って、様々な操作ができるといったものも必要になるかもしれません。

 今のリモコンの出来は、50点ぐらいです。しかも、今回の基調講演で、「Whole Life Connectivity」、「Living in High Definition」、「Digital Hearth」という新たな提案をしたことで、求められるハードルがあがった。結果として、この日を境に、50点以下に下がったともいえます。松下電器にとっては、挑戦すべき大きな課題が、新たにできたといえるでしょう。

-150インチの世界最大プラズマディスプレイを発表しました。基調講演では家庭のなかで、象が原寸大で見られるといっていましたが(笑)。

基調講演で150型プラズマを紹介する坂本社長

坂本:150インチのサイズは、50インチテレビを9個あわせたサイズです。2009年に稼働を予定している尼崎プラズマ第5工場で生産できるマザーガラスのサイズがこの大きさなんです。150インチの次は、何インチだということを聞かれるのですが、これ以上のサイズのプラズマパネルを作るには、次の工場をもうひとつ作る必要がある。ですから、当面は150インチを超えるものは作れないということになります(笑)。

 150インチをCESに持ってくるのは大変でした。ジャンボの荷物室の一番背の高いところに一台しか入らない。3台持ってくるとなると、3便に分けて搬送してこなくてはならないんです(笑)。

-103インチが小さく見えますね(笑)。

プラネットハリウッドのカジノに導入されている103インチVIERA。小さく見えるという表現も嘘ではない

坂本:103インチプラズマテレビは、この1年だけで3,000台を出荷しました。システム用途、産業用途などが中心ですね。ラベガスのプラネットハリウッドではカジノに103インチのプラズマテレビを導入してもらっています。これを見ると、103インチは小さいなぁと思いますし(笑)、実際、お客様からはもっと大きいのを作ってくれと言われています。

 一般的な家庭への導入という意味では、最大でも65インチ程度でしょうね。ただ、基調講演でお見せした「Life Wall」は、壁全体に広がるディスプレイですから、こうなるとまた違う世界が創出され、求められるディスプレイのサイズが違ってくる。ディスプレイがテレビだけの利用でなく、「生活の窓」になるからです。

-Life Wallは150インチのプラズマで作られることになりますか。

坂本:いや、まだ将来のことですから、そのときに最適なデバイスを使うということになります。150インチのプラズマを組み合わせてということに限定したものではありません。


■ 超薄型化のメリットには、ワイヤレス化が必須

-もうひとつの目玉として、24.7mmの超薄型プラズマテレビを発表しましたね。

24.7mmの超薄型プラズマテレビ

坂本:これも発売時期は未定ですが、GP3計画の最終年度(2009年度)までには出したいと思っています。実は、CEATECでもお見せしようと思えば、お見せできました。ただ、この時期までお見せしなかったのは、薄いパネルだけではなく、ワイヤレス環境とのパッケージという形を考えていたからです。

 超薄型化のメリットは、単に薄いというだけでは意味がない。壁掛けのソリューションを提供し、さらにワイヤレス化といった要素によるコンビネーションがあって、初めて意味がある。とくに、ワイヤレスは重要です。ワイヤレスHDコンソーシアムの活動によって、ぜひこれを標準化していきたい。

 この取り組みは、松下電器だけでは広がりに限界がある。チップを安くするという意味でも活動を広げた形で積極化したい。また、日本では、チューナ一体型というのが基本になりますが、超薄型化した時には、チューナをどう埋め込むかということも考えなくてはならない。「薄い」ということばかりを叫んでも、チューナが別で、それに場所を取るというのでは意味がありません。商品化までにはその点の解決も図る必要があります。

-接続性という点では、いよいよ米国でもビエラリンクをスタートしますね。

坂本:第3四半期の実績を見てみると、ビエラリンクにつながるような製品領域では、業界全体では96%と前年割れになっているのに対して、当社の場合は、126%という高い実績になっています。特にレコーダやデジカメなどの伸張が目立ちますね。また、欧州でも業界全体では100%であるのに対して、当社は119%になっています。

 日本の方々には馴染みがある機能だといえますが、米国では、まだ花が咲いている段階ではない。ただ、米国でも客単価を引き上げるために、リンク機能は有効だという意識はあります。米国では、ケーブルテレビが普及していますので、ビエラリンクを実現する場合には、セットトップボックスをひっくるめて提案しなくてはならない。コムキャストとの戦略的提携は、ビエラリンクの実現のためには避けては通れない道だからです。

 松下電器の強みは、テレビだけでなく、ビデオやムービー、デジカメ、そしてホームセキュリティまで含めた製品を提供できる点にある。こうした様々な製品をつなぐことが必要だと感じています。

YouTubeと提携し、投稿された動画がテレビでも見られるようにする

-新たなニュースとしては、YouTubeとの提携があります。これは、いつから話し合いを進めていたのですか。

坂本:1年ほど前です。YouTubeには、全世界から投稿があり、日本からの投稿数も多い。次のテレビはどういう形か、という回答のひとつがYouTubeとの提携だといえます。H.264によって、テレビでも見られるようにトランスレートできる技術を開発し、これを提供する。YouTubeでも高画質の投稿が増えるきっかけになるかもしれません。


■ プラズマを軸にしつつ、有機ELへの布石を打つ

-プラズマの大画面化、薄型化が進展する一方、今後、松下電器において、液晶テレビ、有機ELテレビはどういった位置づけになりますか。

坂本:液晶テレビでは37インチまでを投入していますが、これから作る工場では、40インチ台のものも作ることが可能です。これは市場性を見て考えたい。

 例えば台湾では、液晶テレビが広く浸透している。多くの人が液晶パネルのビジネスになんらかの形で関わっている地域でもありますので、こうした市場に対しては、液晶テレビの方がビジネスになりやすい。37インチの液晶テレビは、台湾では日本で発表する前から投入していました。また、32インチの液晶テレビを最初に発売したのは松下電器なのです。今後は、液晶テレビでも2桁のシェアを獲得していきたいという希望はありますよ。

 一方、有機ELテレビが、液晶テレビのような30インチ台で量産できるようになるには、少なくとも4~5年以上はかかるでしょうし、50インチのものを生産するとなると、途方もないことになる。もしかしたら、2015年頃まで待たなくてはならないとも思っています。松下電器が、IPSアルファの次期液晶パネル工場の建設でマジョリティを握ったのは、技術的に似ている有機ELの垂直統合型モデルの構築に布石を打っておきたいという狙いがあるからです。ですから、液晶テレビは、エリアやユーザーの要求にあわせて対応するものとし、プラズマを軸に盤石な体制を作る姿勢は変わらない。その上で、さらに、有機ELの将来的な生産体制について布石を打つというのが、今の考え方です。

-他社では、水平分業型のビジネスモデルを選択した例もあります。松下電器は、あくまでも垂直統合にこだわっていくのですか。

坂本:もはや、プラズマと液晶が喧嘩する時代は終わったと思っています。いま求められているのは、優れた画づくりであり、コネクティビティです。そのためには、垂直統合の形が最も効果を発揮でき、同時にこれが松下電器が得意とする手法でもあります。


■ ワーナーの決定で米国のBDの販売に期待

-CESの開幕直前に、ワーナーブラザーズがBDに一本化するとの発表がありました。松下電器としては、これをどう捉えていますか。

坂本:ワーナーブラザーズの決定は歓迎したい。この決定は、BDを強力にバックアップすることになるでしょう。すでに、日本での戦争が終わった。そして、米国において、BDの販売に加速がつくことになるでしょう。

HD対応のデジタル機器で家族が一緒にすごす時間を増やすことが、「デジタル囲炉裏」に込められた意味だという

-ところで、今回の基調講演の成果はどうでしたか。

坂本:基調講演という節目がありましたから、そこに向けて開発を加速するという効果はありました(笑)。ここで新たな方向性を打ち出したわけですから、ますます開発を加速させていく必要があります。そして、この講演を通じて、家庭においてHDの時代がやってくるということを実感していただけたのではないでしょうか。

 米国では来年までに100家族を対象に、当社のHD関連製品を使っていただき、それをフィードバックしてもらうというキャンペーンを開始しています。

 自由に使っていただくのですが、「HD対応のデジタル機器を使いはじめて、家族と一緒に過ごす時間が増えた」という声があがっています。松下電器は、家族が一緒に過ごす時間を増やすことでき、コミュニケーションを取ることができる環境を、デジタル機器によって実現したい。だからこそ、「Whole Life Connectivity」、「Living in High Definition」であり、「Digital Hearth(デジタル囲炉裏)」ということになるのです。

□2008 International CESのホームページ(英文)
http://www.cesweb.org/
□関連記事
【1月8日】【International CES基調講演レポート】
松下の坂本AVC社長が150型などプラズマ最新技術を紹介
-壁一面がテレビの“Life Wall”も
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080108/ces11.htm
【リンク集】2008 International CESレポートリンク集
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/2008ces.htm

(2008年1月10日)


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき) 
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島(宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。

[Reported by 大河原克行]


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