【バックナンバーインデックス】



大河原克行のデジタル家電 -最前線-
シャープが挑む、インチアップ/システムアップ作戦とは
~ 年末商戦のデジタル家電戦略を大塚専務に聞く ~



 シャープは、今年8月、薄さ20mmの液晶パネル技術を発表した。

8月に発表した「未来のテレビ」

 この技術を採用した製品の出荷時期は、「2010年3月の堺工場の稼働には間に合わせたい」というものの、CETAECでも、その薄さは話題を集めたが、実は競合他社の関係者は冷ややかな感想を漏らしていた。

 「2011年のアナログ停波までにテレビを買い換えればいいという顧客が多いなか、将来の技術を発表すれば、買い控えを引き起こすようなもの。シャープにとっては、決してプラスにはならない。年末商戦への影響は必至」と見ていたからだ。

 だが、シャープの大塚雅章専務取締役は、「市場では、まったくその影響は感じない」と断言する。

 「旺盛な需要は続いており、前年同期比2桁増で推移している。リビングの大画面需要、個室での中小型需要、そして、リンク機能によるセット販売が増加している」と好調ぶりを訴える。

大塚雅章専務取締役

 実際、AQUOSのシェアは相変わらずトップを維持。2位以下を大きく引き離している。

 BCNの調べによると、11月の薄型テレビの店頭シェアは47.8%。2位のソニーの20.2%を大きく引き離している。また、液晶テレビだけをみると、シャープのシェアは43.1%。ここでもソニーの18.2%、松下の16.9%を引き離している。

 「液晶テレビにおけるAQUOSブランド、亀山ブランドの信頼感が定着。さらに、Rシリーズ、Dシリーズ、Gシリーズとラインアップを広げ、インチ別にも多くの製品を取り揃えることで選択肢を広げている。カラーバリエーションも需要拡大に貢献している」と自己分析する。

 そして、「40インチ以上の大画面テレビにおいては、液晶とプラズマの構成比は6対4。37インチ以上では、8割を液晶テレビが占める」として、液晶テレビの大画面化の進展とともに、シャープがそのリーダー的役割を果たしていることを強調する。


■ キーワードは大画面化とシステムアップ

店頭では壁掛け提案を行なっているAQUOS

 シャープが、年末商戦に重点課題としているキーワードは、「大画面化(インチアップ)」と「システムアップ」である。

 シャープ・大塚雅章専務取締役は、「価格下落が進展するなか、平均単価を維持するには、大画面化とシステムアップの2つがポイント。その取り組み成果もあり、業界全体では12~13%程度の価格下落であるにも関わらず、当社は4~5%程度の価格下落に留まっている」と、下期の状況を示す。

 大画面化では、37インチ以上の台数構成比率が約30%にまで上昇。「金額では50%にまで到達している。なんとか台数構成比率で35%にまで引き上げたい」と、さらなる大画面化の進展を見込む。

 実は、今年初めの計画では、40インチ以上の液晶テレビの構成比を40%以上としていたものの、実際には、そこまでは到達していない。

 「52インチ、46インチが当初想定したほど伸びていないのは事実。だが、むしろ、購入層が30~40代へと広がったことや、2台目の個室需要が増加したことにより、20インチ台、30インチ台の需要が予想以上に拡大したことが影響している」と語る。

カラーバリエーションによって32インチ以下の製品の売れ行きが好調

 カラーバリエーションを用意したことも、32インチ以下の構成比を高める結果につながっている。首都圏では、白や赤といったカラーが、定番の黒よりも売れ行きがいいのも、個室やワンルームマンションのインテリアにあわせて購入するといった需要が背景にある。

 当初の読みとは異なる動きではあるが、それでも需要の変化にあわせて、モデルミックスを柔軟に変更できるのも、亀山工場における垂直統合生産体制のなせる技といえよう。


■ 売り場でインチアップを訴求

 大画面化が重点課題のひとつであるシャープは、年末商戦における店頭向け販促ツールも、そこに焦点を当てたものを用意している。

インチアップ画像システムの画面。店頭で実際の画面サイズを体感できる

 ひとつは、インチアップ画像システムによる訴求だ。店頭展示している46インチ液晶テレビに、様々な質問を映し出しながら、大画面の魅力を訴求するものである。

 46インチの液晶テレビに、多くのユーザーがリビングに設置している29インチブラウン管テレビのインチサイズを実際のサイズとして表示。さらに、32インチ液晶テレビ、37インチ液晶テレビのサイズも表示する。これによって、46インチの大画面の迫力がわかるようになっている。

 「30~37インチ液晶テレビを購入したユーザーの約60%が、購入後にサイズに後悔している。40インチ以上でも34%と、約3分の1の購入者がサイズ選びに後悔している。実際に、いま所有しているテレビのサイズを認識し、大画面の魅力を直感的に体感してもらい、後悔しないサイズ選択を行なえるようにしている」という。

 だが、大画面テレビの迫力と魅力は体感できても、それが自宅のリビングに設置できるのかという疑問もある。

 その解決を図るのが、もうひとつの店頭販促ツール「置けちゃうシート」である。

店頭販促ツールの「置けちゃうシート」

 29インチブラウン管テレビが設置されているリビングのコーナーなどのスペースに、46インチ液晶テレビを設置した際には、どの程度の大きさになるのかを実物大のシートでわかりやすく説明するというものだ。

 これにより、29インチブラウン管テレビが設置してある場所に、そのまま46インチの液晶テレビが設置できることを訴える。

 「このシートを見ることで、自分の家にも46インチの液晶テレビが理解してもらえる」というわけだ。

 そして、「インチアップ画像システム」と「置けちゃうシート」を利用しながら、販売員がセミナー方式で訴求する「ぴったりセミナー」も効果的だ。視聴距離と部屋のサイズなどを考慮しながら、実際にどの程度まで設置できるかを提案する。土曜日、日曜日の量販店のテレビ売り場では、「AQUOS博士」の名称で説明員がイベント形式によって大画面を訴求することになる。


■ AQUOSリンクでシステムアップ

 もうひとつのキーワードが、システムアップである。

 これは、AQUOSハイビジョンレコーダ、Blu-ray Disc(BD)レコーダとのセット提案ということになる。AQUOSファミリンクの強みを生かしたAQUOSとのセット販売は、昨年来、量販店でも増加しており、DVDレコーダのシェアを一気に増加させてきた。いまではシェア第2位を誇る。年末商戦でもこの提案は健在だ。

 売り場でもセット展示は多くの店舗で行なわれており、「DVDレコーダは、金額、台数ともに前年実績を超える成長を遂げている」と、DVDレコーダ市場全体が前年割れで推移してきた状況のなかで、シャープの健闘ぶりが目立つ。

 だが、その一方で、BDレコーダでの提案がやや遅れをとっているといわざるを得ないのが実態だ。次世代光ディスクレコーダの市場シェアでは、10~11月におけるBCNの調査では、ソニーの57.1%、松下電器の32.3%に比べて、シャープは8.7%と苦戦している。

BDレコーダは、HDD無しのコンセプトが伝わるかが課題か

 10万円を切る低価格を実現したものの、HDDを搭載していないという点や、別途ラインアップしたHDD搭載モデルの出荷が来年1月に延期したことも影響している。

 大塚専務取締役は、「HDD搭載モデルは、DVDを所有しているユーザーの買い換えを狙ったもの。そして、HDDを搭載していないモデルは、VHSビデオテープレコーダを所有している約1,000万台のユーザーの買い換えを狙ったもの。VHSテープに録画していたものを、そのままBDでの録画へと変更してもらうという、録画メディアとしての操作のわかりやすさを狙っている」と語る。

 ただ、この訴求では、VHSテープの価格に比べて、BDの価格が高価であることが、現時点では弊害となっているともいえそうだ。

 このあたりは時間が解決することになりそうだが、年末商戦での即効性を期待するのは難しそうだ。


■ 新販売網構築で販売拡大へ

 実は、シャープは、この年末商戦において、強力な販売網を構築している。それは、同社が、今年10月から募集を開始した新販売店制度「シャープ・バリュー・パートナー・グループ(SVPG)」である。

 シャープの地域専門店の販売店会であるフレンドショップに加盟していた店舗のほか、他社系列の販売店などを巻き込んで組織化。これまでに約1,000店舗が加盟しており、そのうち、約3分の1が他社系列と見られている。

 SVPGは、従来の系列化とは異なり、加盟制限を緩和する一方、双方が自立した形での事業を推進する体制を前提とし、カタログパックや商品POPの提供、仕入れ金額に応じた拡売金の提供のほか、ディーラーサポートセンターやパーツ受注センター、サービス情報支援システムの活用、シャープエレクトロニクスマーケティングの営業拠点において開催している技術研修会「シャープ塾」への参加、新製品情報や販促情報の提供および商品発注を行なうシャープまかせてネットの活用などを提供する。

 双方が自立するという方針を裏付けるように、販売促進ツールなどの助成物は有料で頒布し、販売成功事例も共有化する仕組みを導入している。

 大塚専務取締役は、「当社が誇るオンリーワン商品を扱っていただく販売網。地域に密着した強みを生かして、バリューを提供できる店づくりを支援する。来年には2,000店舗までSVPG加盟店を増やす考え」として、この年末商戦をきっかけにして、強力な販売網へと育て上げる考えだ。

 この動きには、フレンドショップ加盟店舗に格差が生まれており一律の支援体制が難しいこと、同時にAQUOSを取り扱いたいとする他社系列店が増加してきたことがある。

 AQUOSをはじめとする強力な商品を持つ強みを背景に、他社系列を取り込んだ形で、販売量拡大に向けた戦略的ルートとして活用することになる。これもシャープの液晶テレビ拡大戦略には強い武器となる。

 液晶パネルの強みや、高い製品力にばかり焦点があたるが、シャープの販売網の強化も着実に進展している。SVPGの存在は、シャープのシェア拡大に弾みをつける隠れた存在となりそうだ。

□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/
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-ハイビジョンDVDレコーダ11機種も対応予定
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20071221/sharp.htm

(2007年12月26日)


= 大河原克行 =
 (おおかわら かつゆき) 
'65年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を勤め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、15年以上に渡り、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

現在、ビジネス誌、パソコン誌、ウェブ媒体などで活躍中。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、Enterprise Watch、ケータイWatch(以上、インプレス)、nikkeibp.jp(日経BP社)、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、月刊宝島(宝島社)、月刊アスキー(アスキー)などで定期的に記事を執筆。著書に、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「松下電器 変革への挑戦」(宝島社)、「パソコンウォーズ最前線」(オーム社)など。

[Reported by 大河原克行]


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