■ DOLBY、LEDバックライト技術を本格ビジネス化へ ~コントラスト比30万:1、281兆色のHDR液晶テレビが登場する!? 複数のLED光源をマトリクスアレイ状に配置し、液晶パネルに表示する映像情報の輝度レベルに対応してLED光源を個別駆動し、超ハイコントラストな液晶ディスプレイ表示を実現する技術がある。この液晶パネル直下型LED光源構造に、エリア発光制御を組み合わせた基本特許はBRIGHTSIDE社が押さえていた。 2007年2月、DOLBYはこのBRIGHTSIDEを買収。このエリア駆動する直下型LEDバックライト技術の基本特許を獲得したことは業界にちょっとしたセンセーションを呼んだ。日本のメーカーでもLEDバックライトのエリア駆動技術は実用化に向けて進んできているが、この技術を用いた商品を発売するためにはDOLBYとのライセンス締結をしなくてはならない。
DOLBYブースでは、この技術を「DOLBY HDR TECHNOLOGIES」と新たに命名した上で最前面に押し出しての展示を行なっていた。HDRはハイダイナミックレンジ(High Dynamic Range)の略で、この場合は、「超ハイコントラスト」の意味でとってもらって問題ない。
展示の内容は、これまでBRIGHTSIDEが展示してきたHDR液晶ディスプレイ機器をそのまま見せているといった感じだったが、本稿でも基本的な情報は示しておこう。 画面サイズは37インチ相当で、LED光源には白色LEDを使用。白色LEDアレイの縦横構成は、一部の情報では43×32とか46×30などともいわれているが、公式には非公開とされており、総数1,380個とだけ公表されている。 最暗部の輝度値は約0.01cd/m2。最明部は約4,000cd/m2とされており、明部と暗部の比率は4000÷0.01で40万:1となる。液晶パネルと組み合わせた場合の実行コントラストは、DOLBYでは「30万:1」としている。 液晶パネルはRGBサブピクセルが8bit駆動される256階調タイプ。白色LED輝度も8bit駆動されるので各画素はRGB各16bitのダイナミックレンジで駆動される。フルカラー表現換算すると48bitカラーの約281兆色の表現が可能ということになる。 担当者によれば、これまで見せてきたデモ機は白色LEDを用いたものであったが、RGBの三原色LEDを用いたものでも、エリア駆動させてハイダイナミックレンジ表現をするものは、全てDOLBYの押さえる特許に抵触するのだという。 白色LEDは青色LEDにYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)系蛍光体を組み合わせて作られるが、若干青緑に振れる光スペクトラムになる。DOLBYではこの白色LEDの最も白色バランスのよい発光レンジだけを使い、あとは液晶パネル側の光学補償フィルタで補正している。基本特許ではLED種別に限定せず、広く特許を押さえるのは特許登録の常套手段とはいえ、DOLBY(BRIGHTSIDE)の試作機が白色LEDに限られてきたのはなぜなのだろうか? この疑問に対して担当者は「確かに、画質だけを求めればRGB-LEDの方が優位だし、色温度などの調整も行ないやすいが、RGB-LEDには課題も多い」という。それは、消費電力と発熱の問題。RGB-LEDでは駆動するLEDの絶対数が多くなるために消費電力が高くなり、これらを駆動する回路やLED自体の発熱が高くなるのだという。画面サイズや筐体設計によっては水冷デザインが必要になる場合もあるそうだ。 もうひとつ、RGB-LED方式ではR/G/BのそれぞれのLEDの寿命が微妙に異なるため、経年による発色性能の維持/調整が難しいのだという。「経年による発色性能の低下は白色LEDにも起こりうる。経年に対する発色性能維持は自動キャリブレーション機能の実装などで対応するが、その場合でも、白色LEDの方がRGB-LEDのR/G/B個別調整よりは楽だ」という。 なお、DOLBYは基本的に製品は作らず、このLED光源のエリア駆動によるHDR技術の特許ビジネスに集中するとのこと。「製品価格についてはメーカー次第。見当もつかない」と述べるも、「BRIGHTSIDE時代のこの白色LEDエリア駆動型HDR液晶ディスプレイは37インチ型で5万ドルだった」としている。 展示されたプロトタイプは、「基本的にはBRIGHTSIDE時代のものと同じ」とのことで、色温度をD65に設定したやや暖かな色合い。D65とはいえ色合いにまだクセがあり、初期の有機ELテレビのような黄色の強い発色傾向が気にかかる。大手の液晶テレビメーカーがLEDエリア駆動を検討するもRGB-LED方式を主流にしているのは、クセのある色合いのチューニングが難しいからだと推察される。だが、担当者は「新しい白色LED光源では、こうしたクセのある発色は改善される」と力説していた。 なお、「音響技術のDOLBY」というイメージの強い同社だが、「もともと、DOLBYは映像技術の企業。'56年には映像記録技術、'65年には映像のノイズ低減技術を発表し、当時はそちらがメインビジネス。白黒テレビ映像のノイズ低減技術がほぼそのまま音声に適用出来ることがわかり、メインビジネスに推移させたことで“オーディオのDOLBY”というイメージが定着した」とのこと。今回のDOLBY HDR技術はある意味、DOLBY技術ビジネスの原点回帰ともいえるわけだ。 業界的にはDOLBYのような大手ライセンス企業が基本特許を持ったことで、LED光源のエリア駆動技術の製品化やビジネスが行ないやすくなった……という好意的な意見も見られる。実際、今回のCES期間中に雑談をした、ある日本の某大手テレビメーカーの技術者は、CES期間中にDOLBYとこの技術のライセンスにまつわるミーティングを行なうことを漏らしていた。 次世代技術と目されながらもなかなか民生向けに登場してこなかったLED光源のエリア駆動型HDR液晶テレビ製品は、ついに発売されるようになるのか。期待して待ちたい。
■ 3M、携帯電話サイズのLEDプロジェクタを発表
LED光源技術を採用したプロジェクタが続々登場しているが、なかでも最軽量といえるのが3Mが開発した「ミニチュア・プロジェクション技術」だ。携帯電話やPDAに内蔵できるプロジェクション技術で、その厚みは約1cm強。サイズはコンパクトフラッシュメモリ程度。
光源はLEDを使用。RGBか白色かは非公開。映像パネルはDMDかと思いきやLCOSパネルを採用する。パネルメーカーは台湾のHIMAX社で、パネルは一枚のみを使用。ちょっと珍しい単板式LCOSプロジェクタと言うことになる。
LCOSパネル上の各画素はRGBに対応するサブピクセルを有し、これにカラーフィルタが組み合わされる構造となっている。これはちょうど一般的な液晶ディスプレイの液晶パネルの構造とよく似ている。これに対して組み込み実装された白色LED光源を導いて映像を投射する。
画面解像度は640×480ドット。最大輝度は5~10ルーメンと暗い。投射距離はかなり短く、1メートル程度の投射距離で30インチ程度の画面が得られていた。光源LEDの寿命は公称5万時間で、現在はプロジェクションエンジンと一体化されている関係で、光源ランプの交換には対応していない。省電力性能に優れた設計になっているとのことで、平均的なモバイル機器の電池容量で2時間のバッテリー駆動による連続投射が可能だという。
プロジェクションエンジンは非常にコンパクトであるため、携帯電話、ビデオカメラ、デジタルカメラ、PDA、携帯ゲーム機などへの組み込みが可能。だが、まだ基本技術が完成したばかりで組み込み製品のアナウンスには至っていない。なお、3M社自身はこの技術のライセンシーを行なうのみで、具体的な商品開発には携わらないと述べていた。
■ 三菱、5,000ルーメンの超高輝度液晶プロジェクタ
三菱電機は、フルHDプロジェクタ「FL7000U」をブース内に展示。実際の投射映像を来場者に公開していた。特徴はなんと言っても最大輝度。275Wの超高圧水銀ランプにより5,000ルーメンを発揮する。これは一般的なホームシアター向けプロジェクタの5倍相当の高輝度性能になる。
基本用途は小中規模の会議室のデータプロジェクタだが、小中規模の劇場にも使えるようにとホームシアター向けの画調チューニングもなされているという。
液晶パネルは1.1インチのマイクロレンズアレイ付きのエプソン製D6世代のフルHD(1920×1080ドット)液晶パネルを3枚使用。アイリス機構はなし。コントラスト性能は1000:1。
投射画面サイズは最大250インチ(16:9)で、これを11.2mで投射できる。100インチ(16:9)の最大投射距離は4.5m。大きい部屋で投射することを想定しているため焦点距離は長めだ。レンズシフトはなし。フォーカスとズームは電動リモコン制御に対応する。 5,000ルーメンでのランプ寿命は2,000時間。低輝度モードでは4,000時間寿命になるという。低輝度モードでも通常のホームシアター機よりも十分明るい。価格は15,000ドル。このスペックの半業務用フルHDプロジェクタとしては破格に安い。 ホームシアター向けに使えるかというと不安材料もある。接続端子にHDMI入力端子がないという点。デジタル入力はDVI-D(HDCP)のみなのだ。PCはアナログRGB入力にも対応する。アナログビデオはSビデオ、コンポジットビデオ、コンポーネントビデオを備えているが、接続端子はBNCタイプになる。
■ 5,000fps表示可能でアスペクト比32:10の超横長大画面ディスプレイ
LED光源技術を味方につけて躍進するTIのDLPだが、このDLP+LED技術を応用したユニークなディスプレイが登場した。 それが、米Ostendo社が提案する「CRVD-42DWX+」なるPCディスプレイ。このディスプレイ、写真を見てもらうとわかるように超横長画面なのだ。パノラマビューを一括表示するために開発されており、解像度はなんと2,880×900ドット。アスペクト比は32:10。画面サイズは42インチになる。 複数の液晶モニタを並べて設置したものとは違い、表示画面は(建前上は)切れ目なしにユーザーを取り囲むようにして表示される。画面の中央に座ると映像がパノラマビュー的に目に飛び込んでくるのだ。 実はこれ、DLP技術とLED光源技術を組み合わせて開発されたリアプロジェクションディスプレイ。4枚のDMDパネルを用い、さらにLED光源を4個用いて、表示面の4カ所に投射する仕組みになっている。4枚のDMDパネルの解像度は明らかにされていないが、おそらく1,024×768ドットパネルを縦方向にして768×1,024ドットパネルとして活用。上下62ドットをスキャンアウトさせ、左右24ドットをオーバーラップさせて720×900ドットを四面表示させていると考えられる。 実際、画面に近づいてよく観察するとオーバーラップ部分は輝度差があり、4画面分の合成が見て取れる。画面の公称輝度は300cd/m2なので一般的な液晶モニタと同程度かやや暗い程度。コントラストはDLPの利点が生きて液晶ディスプレイを遙かに超える1万:1を達成している。画素はRGB 12bit階調駆動され、色域もRGB-LED光源の恩恵もあってNTSC比170%を誇る。
応答速度は0.02msと公言されており、フレームレート換算だと5,000fpsということになる。映像入力端子はDVI-D端子が一系統のみ。重さは約12kgとのこと。 Ostendo社はIP-パテント企業であり、このディスプレイ製品を実際に製造して販売する計画はなし。しかし、ハイエンドPCやゲーム関連製品メーカであるALIENWARE社、業務用ディスプレイ製品を手がけるNECと連携して製品を開発していく。つまり、実際の製品はALIENWAREやNECから発売されることになる。価格はメーカーに依存するためにノーコメント。発売時期も不明だが、担当者は「2008年内には第一号製品が市場に出るはず」と述べていた。 用途としてはデジタルビデオ編集、アートや多様なデジタルコンテンツ作成、ビジネス用途などが挙げられていたが、もっとも見た目に楽しいのはやはりゲームだという。基本的にPC向けの3Dゲームであれば、このような超横長画面であっても対応が容易なためだ。レンダリング解像度とアスペクト比、そして画角を調整するだけで対応完了。実際にブースでも、市販されているいくつかのPCゲームを来場者に体験させており、筆者もレースゲームを体験してみたが、臨場感はすこぶるよかった。
3Dゲームグラフィックスは、描画の画角を広げると左右の端になるほど間延びするように表示されてしまうので、CRVD-42DWX+のようにユーザーを取り囲むようにして表示する方式の方が自然に見えやすい。
レースゲームもそうだが、3Dシューティングやフライトシミュレータをプレイしても楽しそうだ。単板式DLPディスプレイでありながらも、RGB-LED光源の恩恵もあり、応答速度は良好。カラーブレーキングもほとんど気にならなかった。価格が現実的であればハイエンドゲームモニタとしても「あり」だろう。 難点をあげるとすれば、縦方向に画面が狭いと感じてしまう点。サイズは確かに対角42インチなのだが、横に長いから42インチなのであって、イメージ的には15~17インチサイズ程度のモニタが4つ横に並べられているような感覚。もう少し縦方向に大きい画面だと臨場感が増すのに……と感じた。
なお、静止画を見ているときに気になった4画面の継ぎ目は、ゲームプレイ中はあまり気にならない。これについては、担当者によれば「オーバーラップ部の画素駆動を工夫することで、よりいっそう目立たなくする予定」だという。
□2008 International CESのホームページ(英文) (2008年1月11日) [Reported by トライゼット西川善司]
AV Watch編集部 |
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