■ LG電子 ソニー製SXRDパネル採用のフルHDプロジェクタ LG電子ブース内の特設シアターでは、フルHDプロジェクタのデモンストレーションを行なっていた。てっきりDLPプロジェクタだと思ったのだが、よく見てみると「SXRD」の文字。何かの間違いかと思ったが、担当者に話を聞いてみると「ソニーからSXRDパネル供給を受けて製作したLCOSフルHDプロジェクタである」という。 SXRDパネルは、入射光を画素サイズのアルミ鏡で反射させ、反射光を液晶素子で制御する方式の反射型液晶パネル。ソニー独自のLCOSパネルを使い、ソニー以外のメーカーが民生向け製品として開発したというのは、初めて聞く出来事である。
採用するSXRDパネルは1,920×1,080ドット。パネル世代は「VPL-VW60」などと同世代と見られる。使用ランプの種類や出力ワット数は非公開だが、最大輝度は1,500ルーメンで、VW60の1,000ルーメンを大きく上回る。ランプ寿命は公称2,500時間。騒音レベルは18dBで、VW60の22dB以上に静かだ。 公称コントラストは35,000:1。これはダイナミックアイリス機能を組み合わせての値であり、ちょうどVW60と拮抗する。映像エンジンはSilicon Optixの「HQV」。三菱のフルHDプロジェクタ「LVP-HC5000/6000」シリーズに採用されているものと同型のもので、画調はISF(Image Science Foundation)規格の認定を受けているという。 入力端子はHDMIが2系統。ほかにもコンポーネントビデオ、S映像、コンポジットを1系統ずつ実装。PC入力はD-sub 15ピンによるアナログRGB入力のみ。ボディは黒く、外形寸法は公開されていないが、見た感じではVW60よりも分厚く、大きい印象を受けた。 画作りは、コントラスト感と輝度ダイナミックレンジ表現に振ったと思われる意図が感じられ、VW60と同世代のSXRDプロジェクタにしてはやや黒浮きを感じる。ただし、階調表現は文句がないレベルにまとまっており、発色も派手さを抑えたナチュラル系で好印象であった。 価格は未定。発売は2008年4月を予定している。ライバルはVW60やD7世代パネルの透過型液晶プロジェクタ製品というから、戦略的な値段が設定されそうだ。ヨーロッパ、北米、アジア圏などの全世界での発売を検討しているとのことで、「日本も含まれるのか?」という問いに対しては「もちろん検討している」という返答が得られた。LCOSプロジェクタの価格破壊が起こるのだろうか? 期待して待ちたい。
■ TI、新DMDチップ「Darkchip4」をデモ
DMDによるDLP技術を独占的に実用化しているテキサス・インスツルメンツ(TI)。フロントプロジェクタだけでなく、リアプロテレビでも活用されている技術だ。しかし、リアプロと言えば、最近ではソニーとエプソンが相次いで開発/生産の終了を発表するなど、やや衰退している印象がある。 だが、TIの広報担当は「エプソンやソニーといった各社が、リアプロの開発から撤退しつつあるというのは、実は我々にとって朗報だ」という。「実はリアプロは、TIのDLPベースの製品に限っては今年もサムスンや三菱から販売され続ける。逆に考えれば、TIのDLPベースのDLPが、リアプロ事業において液晶ベースやLCOSベースのものを負けに追い込んで排除したのだ」と強気だ。 かなり自信に満ちあふれた返答に驚いたが、この広報担当者によればTIのDLP技術は2008年より新たなステップに踏み出すのだという。「これまでは実験的な技術プロジェクトに過ぎなかったLED光源が本格実用化されたことにより、DLP技術が新次元に進化する」という。 LED光源と言えば、液晶テレビのバックライト技術としても注目されている。その理由は、広色域を実現できること。白色LEDを用いる方式は別として、一般にLEDバックライトは赤、緑、青の三色の原色LEDを用い、それぞれの発光色は色純度が高いという特長がある。そのために表現色の色域が広くなるのだ。 また、LED光源を液晶パネルの直下に配置した直下型LED光源では、表画面を細かく分割したエリアごとのLEDバックライト制御が行なえ、ハイダイナミックレンジ/コントラストな映像表現が行なえる。バックライトが必要な部分だけで済むため、消費電力の面でも有利だ。 このような利点は、DLPにとっても「おいしいポイント」のだが、DLPではさらに「おいしい」点がある。それは応答速度。単板式DLP方式では、1枚のDMDパネルに三原色のR/G/Bの単色映像を時分割表示させて、時間積分的にフルカラー表現を行なう。このために、従来は光源からの白色光を、回転するRGBカラーフィルタでR/G/B光を時分割生成し、この各色光の移り変わりに同期するようにDMDパネルにR/G/Bの単色映像を表示させていた。 だが、カラーフィルタは物理的な機械回転であるため、電磁メカのDMDと超高速域で完全にシンクロさせるには物理的限界がある。DMDパネルはナノテク電磁メカであり応答速度は数十μ秒(1マイクロ秒は100万分の1秒)と非常に高速。対するカラーフィルタは5倍速で300Hz(9,000RPM)で、3.3ms(ミリ秒は1,000分の1秒)であり、DMDの応答速度には“桁違い”に追いつけない。 そこで、数十ナノ秒オーダーの応答速度を持つLED光源の出番。DMDよりもさらに高速なので、DMDの応答速度のフルポテンシャルに追従できるほどの高速にRGB光を時分割に取り出せるのだ。 TIによれば、現時点でDMDとLEDの同期技術では、0.3ms、すなわち300μsのオーダーでの制御が可能であり、ロータリーカラーフィルター換算で48倍速前後に相当するという。従来の単板式DLPで問題になっていたカラーブレーキング(色割れ)現象も、LED光源の採用でほぼ解決できたという。 プラズマディスプレイもR/G/Bの各画素のカラー表現は時間積分式の一種だが(サブフレーム法や、その類似改良方式)、単板式DLPもプラズマに近い領域になってきたというのだ。つまりプラズマディスプレイで色割れが知覚できる人でなければ、単板式DLPの弱点は露呈しないことになる。 ここまでがLED光源によるDLP技術の前提知識。LED光源は元々プロジェクションシステム向けのものではなかったが、LED光源メーカーはが発光効率を向上させ、光学的なチューニングまでを行なった結果、プロジェクション向け光源としての性能がこの1、2年で劇的に向上しているという。 DMDパネルメーカーのTIは、このLED光源の進化に見合うようにDLP技術を改良。そして完成したのが、2008年から量産化が開始される「Darkchip4」世代のDMDパネルだ。 担当者によれば「マイクロミラー画素周辺の光散乱低減を推し進め、パネル構造のLED光源への最適化も進めた相乗効果により、Darkchip4ではネイティブコントラスト10万:1を実現した」という。 ブース内のデモでは、最新LED光源とDarkchip4エンジンによるリアプロ試作機を公開。LED光源のシーン連動制御によりダイナミックコントラスト比「50万:1」の映像を公開していた。
■ PinPはもう古い。DLPならPonP LED光源技術はディスプレイの新たな活用も提供する。その1つが「DualView」だ。1枚のディスプレイに複数の画面を表示する機能として代表的なのはPinP(ピクチャー・イン・ピクチャー/子画面表示)だが、この複数同時画面表示の機能を、LED+DLPによる超高速な時分割表示を応用して実現してしまったのが「DualView」なのだ。
複数の入力系統の画面を全画面に同時に時分割表示するもので、やっていることは単純。入力系統1の画面と2の画面を交互に表示するだけ。裸眼で見ると二つの映像がぶれて見えるだけなのだが、専用のゴーグルをかけると、自分が見たい側の映像だけが見られる。PinPと違い、見たい方の映像をフル画面で見られるのが特長だ。 デモでは表示画面1を60fps、表示画面2を60fpsで交互に表示。表示切り替え速度が高速で光源応答速度が超高速なLED+DLPだからこそ出来る荒技だ。ゴーグルには液晶シャッターが仕込まれており、DLPリアプロから出力される赤外線同期信号にシンクロしてシャッターが開閉される。立体視ゴーグルでは左右の目の液晶シャッターが交互に開閉されるが、DualViewでは両目の液晶シャッターが同タイミングで開閉する。
ゴーグルをかけるという面倒くささと、音声はそれぞれヘッドフォンで聞き分けるといった工夫が必要にはなるが、1台のテレビで子供はアニメ、両親はニュース番組をフル画面表示で視聴する……といったことが実現可能になる。
TIでは、DualViewの最も現実的な活用は「対戦ゲームにある」としている。レースゲームや3Dシューティングゲームなどにおいて、それぞれのプレイヤーの視点からの画面を一台のディスプレイに全画面表示してプレイできるのだ。通常、一台のディスプレイで対戦ゲームをする場合は画面を縦や横に分割表示するが、DualViewならばあの狭さ、隣の画面が気になる煩わしさから解放される。 ブースのデモでは2台のXbox360を、1台のLED光源採用のDLPリアプロに接続。二人のプレイヤーの対戦の模様が一台のDLPリアプロに映し出されており、ゴーグルで切り換えて見られるようになっていた。 デモでは2台のゲーム機を接続していたが、ゲーム側が対応すれば1台のゲーム機の映像をDualViewに対応させることは可能という。ただ、両プレイヤーの画面をフル解像度で60fps×2=120fpsでレンダリングする必要があるのでゲーム機やPCのにかかる負荷は大きくなる。とはいえ、おもしろいアイデアだ。
■ DLPリアプロで立体視。DualViewも使って異なる画面を2人で立体視 このDualView技術だが、単なる夢物語ではなく、現在出荷中のTRIDEF方式の立体視に対応した「3D Ready」規格対応のDLPリアプロであればファームウェアのアップグレード等で利用可能になるという。
TRIDEF方式とは、前回取り上げた立体視プラズマのものと同じ立体視規格。技術詳解は前回記事を参考にして欲しいが、サムスンのHLT5687、HLT7288、三菱のWD73833など、水銀ランプ+カラーフィルタを用いたDLPリアプロでも、3D Ready対応の製品が発売されており、DualView機能はこうした製品でも将来的に利用出来るという。 もちろん、今回のデモのような60fps×2のDualView機能を利用するためにはLED光源モデルが必要になるが、先行発売されているTRIDEF立体視対応モデルでは、フレームレートこそ落ちるもののDualView機能は利用できるとのこと。 ブース内ではこの現行DLPリアプロを利用したTRIDEF方式の立体視が体験できるコーナーを設けていた。なお、LED光源ベースのDLPリアプロになれば、このTRIDEF方式の立体視のフレームレートも向上すると推察される。さらに、左右の目それぞれに30fpsで映像を表示させれば二人のプレイヤーのそれぞれが異なる画面を30fpsで立体視も出来るという。
■ LED+DLPなら倍速駆動ならぬ4倍速、240fps駆動が可能 液晶テレビのトレンドである倍速駆動も、LED+DMDパネルの高速応答性能を活用すれば、4倍速駆動の240fps制御が可能になるという。TIブース内では、液晶の倍速駆動の120fps表示とLED+DLPの4倍速駆動の240fps表示を比較デモを行なっていた。 デモ内容は表示映像を右から左へ横スクロールさせ、残像の違いを見せる単純なもの。本来、液晶の倍速駆動は、動画表示によって変動する液晶画素表示状態を適正に変化するようにしむけるためのもの。その方策として二枚の表示フレームの間に、中間フレームを算術生成して表示させるものであった。 DMDパネルは応答速度が高速なので、液晶のように二枚の表示フレームの間に、中間フレームを算術生成する必要は無い。しかし、単板式DLPではフルカラー表現や階調表現を時間積分式に実践しているために、残像や色割れが知覚されやすかった。そこで、中間フレームを生成し、それを高速に時間積分カラー表示することには、単板式DLPにおいても液晶同様に意味があったのだ。 技術スタッフによれば、デモでは中間フレーム生成は約4ms単位で行ない、合間に約4msの黒挿入を行なっているという。なので実質的には120fps中間フレームと120fpsの黒挿入の合わせ技ということになる。 液晶の黒挿入の場合は、応答速度的に液晶が完全黒画素になりきれないのだが、LED+DLPの場合はそれが可能なので、完璧に近い黒挿入が実現できる。デモでも絶大な効果が確認でき、LED+DLPの方はほぼ完全に残像がなくなった。動いている映像を目で追っても、驚いたことに色割れがほとんど知覚できなかった。 液晶やプラズマの画質の進化も著しいが、単板式DLPもLED光源技術、そしてDarkcip4パネルを手に入れたことによって確実に進化していることが実感できた。
□2008 International CESのホームページ(英文) (2008年1月10日) [Reported by トライゼット西川善司]
AV Watch編集部 |
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