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第317回:TASCAMブランドのポータブルPCMレコーダ「DR-1」
~ 原音に忠実な音質。ユニークな録音機能を搭載 ~




DR-1

 各社が続々とリニアPCMレコーダをリリースしているが、ティアックからもTASCAMブランドのリニアPCMレコーダ「DR-1」が発売された。MTRを中心に各種レコーダを発売しているTASCAMだが、ポータブルなリニアPCMレコーダはこれが初。

 最高で24bit/48kHzでのレコーディングに対応する機材だが、これまでのメーカーのリニアPCMレコーダにはないTASCAMならではのユニークな機能が満載されたものとなっている。


左側面にはSDカードスロットとHOLDスイッチなどを備える 右側面にはボリューム調整など入力設定用ボタンを装備



■ 5段階の角度調節が可能な内蔵マイク

 DR-1の実売価格は30,000円前後と結構安めな設定で、ZOOMの「H2(29,400円)」よりは高いが、Rolandの「R-09(実売38,000円)」よりは安価。マイクや液晶などの配置がR-09と似ているが、横に並べると一回り大きい。


左からR-09、DR-1、iPod touch 厚みはR-09とほぼ同等

 ほかの多くのリニアPCMレコーダと同様、記憶媒体はSDカードを利用しており、1GBのSDカードが標準添付されている。左サイドのカバーを開けるとSDカードのスロットがUSB端子と並んであるのだが、カバーを開ける部分の構造はうまくできているので、R-09のように硬くて開きにくいということはない。

 一方、バッテリは内蔵のリチウムイオンバッテリを使っていることもあってか、大きさの割にかなり軽く感じる。カタログ値で208g。バッテリの充電はPCからUSB経由で行なう。ACアダプタでの充電やACアダプタでの駆動も可能だがACアダプタは別売となっている。


1GBのSDカードが付属する バッテリは内蔵のリチウムイオンバッテリを利用

 また、構造上ユニークなのが内蔵のマイク部分。ステレオの2つのコンデンサマイクが搭載されているのだが、マイクの収録方向を本体真上から本体正面までの90度を5段階で切り替えることができるようになっている。


マイクの角度は5段階の切り替えが可能

 入力はこの内蔵マイク以外にプラグインパワーにも対応したMIC1 IN、標準ジャックのMIC2 IN、そしてステレオミニジャックのLINE INのそれぞれに切り替えることも可能だ。

プラグインパワーに対応するMIC1 INとステレオミニのLINE INを天面に搭載 底面には標準ジャックのMIC2 INを備える



■ ステレオ感のある自然な録音が可能

 実際にスイッチを入れて設定をしようと思うと、ボタンが結構多いこともあって、最初どうすればいいのか戸惑った。

 MENUボタンでサンプリングレートやサンプリングビットを選ぶレコーディングの設定や、プレイリスト設定などができる一方、右サイドにあるSETTINGボタンで入力に関する設定を行なう。

 また、PB CONTROLというボタンを長押しすることで後述する再生スピードを設定、FXボタンを長押しすることでエフェクトの設定を行なうといった具合。マニュアルがないと最初わかりにくいが、慣れればそれほど煩雑というものではない。

 とりあえず、屋外に出て鳥の声などを録音してみることにした。あらかじめ最高の24bit/48kHzという設定にしておいたが、ほかの設定としてリニアPCMでは16bit/44.1kHz、16bit/48kHz、24bit/44.1kHzの選択ができる。またMP3も用意されており、ビットーレートは32/64/96/128/192/256/320kbpsの中から選択できるようになっている。

リニアPCMでは16bit/44.1~48kHz、24bit/44.1~48kHzが設定できる MP3録音ではビットレート32~320kbpsの設定が可能

 セッティングができたところで、RECボタンを1回押すとヘッドホンにマイクの音がモニタリングできるようになり、液晶ディスプレイにレベルが表示される。入力ゲインをHIGH、MID、LOWの3段階で設定できるので、ここではHIGHを選択した。

RECボタンを押すとスタンバイの状態でレベル表示を開始 入力ゲインは3段階から設定できる

 細かい音量は右サイドのボリュームを用いて調整し、ヘッドホンへのモニタ音量はOUTPUT VOLUMEで調整する。そしてもう一度RECボタンを押すとレコーディングがスタートし、STOPボタンで終了。

 比較的、風が少なかったため、キレイに録ることができたが、ちょっと風が吹くとマイクが風を受けてすぐにクリップしてしまう。やはり野外での録音にはウィンドスクリーンは必須だと思うが、これは三脚、三脚取り付け用ホルダー、マイクスタンドアダプターとセットとなったアクセサリーセットという形で別売となる。

【屋外での録音サンプル】
サンプル
(鳥の声 PCM、24bit/48kHz)
sample1.wav
(6.79MB)
編集部注:録音ファイルは、24bit/48kHzで録音した音声をトリミングして保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 この音を聴いてもわかるとおり、かなり自然な感じで録れており、ステレオ感もしっかりしている。ただ手で持ちながらの録音であるため、グリップノイズはある程度入ってしまう。また、本体に三脚穴がないのでアクセサリーセットがないことには三脚に取り付けての録音はできない。

 ここではデフォルトの設定のままで録っているが、リミッター機能もあるし、LOW CUT機能もある。このLOW CUTは40Hz、80Hz、120Hzの3段階での設定が可能だ。この野外での録音をしていていつも気になるのが飛行機の音。普段、生活していてもほとんど気にならないが、鳥や虫の鳴き声を録ろうとすると、かなり気になるのだ。そんな際、LOW CUTを使うとある程度軽減することも可能だ。

リミッター機能を搭載 LOW CUT機能は40/80/120Hzの3段階で設定できる



■ 多重録音などユニークな録音機能を搭載

単体で多重録音できる「オーバーダブ」機能

 このようにレコーディング自体は、ほかのメーカーの機材と同様にできるが、このDR-1には、ほかにない面白い機能がいろいろある。まずは、オーバーダブ機能。鳥の声にオーバーダブということはしないだろうが、楽器などをレコーディングするには簡単に多重録音ができて便利につかえる。

 使い方は簡単で、まず1つのパートをレコーディングした後、モニターをオンの状態にする。再生ボタンを押せば元のデータが再生できる状態にしておいて、RECボタンを押すと、画面にはOVERDUB ON/OFFという表示がされるのだ。ここでONにして、もう一度RECボタンを押すと、重ね録りができる。この際、元のデータはそのままの状態で残り、新たに録音したデータがオーバーダブされた形となる。元の音の音量はMIX BALANCEのボリュームで設定する。

 マルチトラックのレコーダではないので、ミックスレベルをあらかじめ設定しておく必要があるが、仕組みが単純なだけに操作も簡単だ。もちろん、さらに3重、4重と音を重ねていくことも可能となっている。


単体で多重録音できる「オーバーダブ」機能

 こうしたレコーディングの際、もうひとつ便利に使えるのがエフェクトだ。DR-1のエフェクトは再生時に使うのではなく、あくまでも掛け録り用となっており、FXボタンを押すとエフェクトがオンになる。

 FXボタンを長押しするとエフェクトの選択や設定が行なえるようになっている。プリセットとしてはRevHall、RevRoom、RevLive、RevStudio、RevCho、RevPit、RevEnh、Emphasis、Detune、AutoPan、Lo-Fiの11種類が用意されており、それぞれ2つずつのパラメータの変更ができる。

 またほかのリニアPCMレコーダにないもうひとつのユニークな機能が、「PB CONTROL」(プレイバック・コントロール)機能だ。再生スピードやキーを変えたりすることができるというもので、PB CONTROLボタンを押すとオンになり、再度押すとオフになる。

 まさに楽器の練習用や耳コピ用に使うための機能という感じだが、結構いろいろなパラメータが用意されている。まずは、再生スピードだが-50~+16%の範囲で1%刻みで設定可能だ。

 「VSA」(Variable Speed Audition)機能もあり、これをオンにしておくと再生速度を変更してもキーを保ったままにできるようになっている。反対にKEYという項目があり、こちらはスピードを変えずにキーだけを半音単位で変化させることができるピッチシフトで、-6半音~+6半音の範囲で設定が可能だ。

 さらにはパートキャンセルという機能も用意されている。これはいわゆるボーカルキャンセラーで、センターに定位している音を消してしまうことができる。

再生スピードは-50~+16%の範囲で設定できる スピードを変えずにキーのみを変更することも可能

 そのほかにもメトロノーム機能があったり、チューナ機能があるなど、楽器プレイヤーにとっては便利な機能が揃っている。ただし、このメトロノームは単なるメトロノームであって、レコーダ側との連携機能はない。できればメトロノームを聴きながら演奏した音がレコーディングできるとよかったが、そうしたことはできないようだ。

メトロノーム機能。レコーダと連携できないのは残念 チューナ機能



■ 原音に忠実な高音質録音

 PCとのやりとりの方法は大きく2つ。1つは充電にも用いるUSBケーブルを使う方法。この場合は、DR-1がUSBマスストレージとして認識されDR-1に入っているSDカードの中身が見える。もうひとつはそのSDカードを直接PCに読み込ませるという方法。SDカードはFATでのフォーマットとなっているから、とくに問題なく読み書きできる。

 DR-1でフォーマットするとMUSICフォルダとUTILITYフォルダという2つができるが、通常使うのはMUSICフォルダで、PCからコピーしたMP3ファイルやWAVファイルをDR-1で再生することも可能だ。この場合、プレイリストを作って再生するといったこともできる。

録音サンプル : 楽曲(Jupiter)
【音声サンプル】(6.88MB)
楽曲データ提供:TINGARA
編集部注:録音ファイルは、24bit/48kHzで録音した音声をノーマライズ処理し、16bit/44.1kHzフォーマットで保存したWAVEファイルです。編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい。

 いつものように、音楽を録る実験もしてみた。方法も従来どおりで、CDをCDプレーヤーで再生させ、S/PDIF出力したものをRolandのMA-10Dを用いてかなり大きめの音量(ボリュームの7割程度)で再生させたものを約50cmの距離でレコーディングするというものだ。素材も以前と同様、TINGARAの「JUPITER」を使わせてもらった。

 レコーディング設定は先ほどと同様に24bit/48kHzで行なった。これをノーマライズ処理した後にWaveSpectraで周波数分析したのが図だが、これを見てもかなり原音に忠実にレコーディングできているのがわかる。実際の音を聴いてもCDとの違いをほとんど感じないかなりの高音質だ。

 24bit/96kHzに対応していないことに不満を感じるユーザーもいるとは思うが、この手のレコーダとしてはかなり高品位なレコーディングができる機材であることは間違いない。また、PB CONTROL機能やオーバーダブ機能など、ほかの機材にはない便利な機能が満載であることも見逃せないポイントだ。

□ティアックのホームページ
http://www.teac.co.jp/
□TASCAMのホームページ
http://www.tascam.jp/
□製品情報
http://www.tascam.jp/list.php?mode=99&mm=9&c2code=01&c3code=02&scode=0919DR1G05
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(2008年3月10日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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