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第329回:ボーカル用エフェクト「AVOX 2」を初音ミクで試す
~ 息づかいの補正など、ユニークな10種類のプラグイン ~



AVOX 2

 先日、イーフロンティアから米国Antares社のボーカル用エフェクト・ツールキット「AVOX 2」が発売された。Antaresといえば、ボーカルのピッチなどを修正するプラグインソフトとして定評のある「Auto-Tune」のメーカー。

 そのAntaresが発売したAVOX 2は、従来からあったAVOXというツールにハーモニー生成ソフトの「Harmony Engine」のほか複数のエフェクトを追加し、計10種類のエフェクトをかけられるようにしたプラグインのセット製品だ。そのAVOX 2を試すことができたので、初音ミクの歌声にかけるとどうなるのか、試してみた。


■ 10種類のボーカル用プラグインがセット

 AVOXは、以前から何人かに面白いから使ってみろと言われて気になっていた製品。ボーカル用のプラグインのエフェクトで、Mac、WindowsのVST、RTAS、AUのそれぞれに対応している。これだけ多くの環境に対応しているので、Cubase、SONAR、ProTools、Digital PerformerなどどんなDAWでも使えるのがうれしいところだ。名称的にはAVOX 2となっているが、10種類のプラグインをセットにしたもので、いずれもボーカル用ではあるが、それぞれはまったくの別のツールなので、ひとつずつ試し。

 効果をそれぞれ言葉で解説してもわかりにくいので、実際の結果をすべてMP3にしておいたので、ぜひ聴いてみて欲しい。今回の実験に用いた環境は、Windows Vista+SONAR 7 Producer Edition。ここにVSTのプラグインを組み込み、生成した結果をMP3で書き出している。

【音声サンプル】
サンプル
(シャボン玉 MP3)
miku.mp3
(375KB)
エフェクトをかける前の音声

 その素材として用意したのは、初音ミクの歌声。以前、インプレスジャパンから発売した「できる初音ミク&鏡音リン・レン」という書籍の中で用いた、素材曲「シャボン玉」のデータをちょっと加工したものだ。もともとのデータだと、時間的にやや長いのに加え、課題用に妙なアレンジをしているので、少し普通な感じにしている。また、どうしてもベタ打ちのままだと音痴になりがちなので、SONARのピッチ補正機能であるV-Vocalでキレイにするとともに、若干音量をアップしている。まずは、エフェクトをかける前の素の音を確認してほしい。

【音声サンプル】
harmony.mp3
(375KB)
Harmony Engineをデフォルトで使用した場合

 では、さっそくひとつずつ見ていこう。まずは、AVOX 2の目玉機能となっているボーカルモデリング・ハーモニージェネレーター、Harmony Engine。これはリアルタイムにハーモニーを生成するツールで、簡単にいえば、4つの独立したピッチシフトをまとめたというもの。

 ただ、単なるピッチシフトというわけでなく、ソプラノ用か、アルト/テナー用、バリトン用かなどを選択して調整できるほか、ハーモニーコントロールとしてキーやスケールなどを決めるパラメータが用意されている。さらに、それぞれのピッチシフト結果に対して、パンやビブラートを設定したり、ミキサー的に音量バランスを設定する機能、さらには、ほかのエフェクトにも数多く登場する咽喉の長さを設定するパラメータなどが用意されている。

 デフォルトでは1オクターブ上、5度上、3度上、1オクターブ下の音が加わるようになっているので、このままの状態でデータを生成してみた。聴いてみると、普通のピッチシフトで処理するよりも、機械っぽくないハーモニーになっている気がする。調整によっては、結構声質を変えることもできるので、簡単にハーモニーを生成するには便利そうだ。

【音声サンプル】
throat.mp3
(375KB)
モデリング・ボーカル・デザイナー「THROAT」

 2つ目は、物理モデリング・ボーカル・デザイナー「THROAT」だ。これがAVOX 2のテクノロジーのコア部分だと思うが、ボーカルの声質をいろいろに変化させるためのエンジン部分だ。画像を見ると、咽喉を一番奥の1の位置から口を示す5の位置まで5つに分けており、それぞれの位置での太さ、それぞれの間隔を調整することで、声の雰囲気が大きく変わるというものだ。

 声をロボットボイスにしたり、女性っぽい声、男性っぽい声に変化させるというツールはあるが、THROATはそうしたことをより細かい設定で、声質調整を可能にしている。傾向としては咽喉を太くすると男性っぽい声に、咽喉を短くすると子供っぽい声になるようだ。ここではプリセットで用意されていたt-smaller presence 2というものを使ってみたので、聴いてみてほしい。

 3つめのボーカルモデリングオートダブラーDUOと、ボーカル・マルチプラーCHOIRはいっしょに紹介しよう。名前からも想像できるようにDUOは二人分、CHOIRは複数人の声にするためのエフェクトだ。前出のHarmony Engineとは異なり、ピッチは変えずに、人数を増やすツールとなっている。複数人の雰囲気を出すために、微妙にピッチとタイミングを変えているのだが、いわゆるコーラス・エフェクトとは違い、確かに複数人が歌っているように演出できるようになっている。なお、CHOIRのほうは、設定によって4人、8人、16人、32人のいずれにするかの設定ができるようになっている。

【音声サンプル】
duo.mp3
(375KB)
【音声サンプル】
choir.mp3
(375KB)
ボーカルモデリングオートダブラーDUO ボーカル・マルチプラーCHOIR CHOIRでは、4/8/16/32人のいずれかに設定できる


【音声サンプル】
punch.mp3
(375KB)
ボーカルインパクト・エンハンサー「PUNCH」

 続いてのPUNCHというのはまさに声にパンチを効かせるためのボーカルインパクト・エンハンサーだ。パラメータとしてはImpactでパンチを効かせ、Cellingで大きくなりすぎた音量を下げるという構造。実際に試してみると、マキシマイザーをかけたように音量が大きくなるだけでなく、かなり滑舌がよくなっているのが分かる。ボーカル用として結構使えそうなエフェクトだ。

 そしてSYBILは、初音ミクなどのVOCALOID用に有効利用できそうな可変周波数ディエッサーだ。ディエッサーというのはサシスセソ、タチツテトなどの子音をやわらかくするためのエフェクトで、コンプレッサ機能が組み込まれたエフェクトである。SYBILの構造はコンプレッサとハイパスフィルタが組み合わさった形になっており、ハイパスフィルタとコンプレッサはサイドチェインしている。これをかけたものを聞いてみると音に極端な変化はないものの、「シャボン玉とんだ……」の「シャ」などがやわらかくなっているのがわかるはずだ。

【音声サンプル】
sybil.mp3
(375KB)
可変周波数ディエッサーの「SYBIL」 SYBILはコンプレッサとハイパスフィルタを組み合わせている



■ ボコーダー機能のほか、息づかいの補正も


【音声サンプル】
articul.mp3
(376KB)
ボーカルフォルマント/アンプリチュード・モデラー「ARTICULATOR」

 次のボーカルフォルマント/アンプリチュード・モデラー、ARTICULATORは、AVOX 2の中でもかなり異色のエフェクト。これは直接ボーカルに対してかけるのではなく、別のオーディオに対してモジュレーションをかけるためのもの。もっと簡単にいえば、いわゆるボコーダーの強力なソフトだ。まずは、説明の前に音を聞いてみると、ARTICULATORがどんなものなのかわかるはずだ。

 これは、歌に合わせて、あらかじめオルガン音色でC、F、Gのコードをキーボードで弾いたトラックを作っておき、このオルガンの音に、ARTICULATORのエフェクトをかけている。このARTICULATORはサイドチェインに対応したエフェクトであるため、別のトラックの出力先として、ARTICULATORのサイドチェイン入力が見えるので、初音ミクのボーカルの出力先としてこれを設定する。

 すると、ボーカルは直接音として出ず、オルガンの音にモジュレーションをかける形で出て行くのだ。またARTICULATORにはノイズジェネレーターがあり、これによりノイズを少し加えておくと、モジュレーションをかけた結果がやや人の声っぽくなる。もちろん、リアルタイムで動かすこともできるので、高機能なボコーダー用として結構使えそうだ。

【音声サンプル】
mutator.mp3
(375KB)
エクストリーム・ボイスデザイナー「MUTATOR」

 7番目のエフェクトはエクストリーム・ボイスデザイナー「MUTATOR」だ。これも、やはり咽喉の太さや長さなどを変えて、声質を変化させるためのエフェクト。ただし、THROATのように複雑なパラメータではなく、もっと簡単にロボットボイスなどを生成でき、強力なピッチシフト機能も搭載しているため、奇抜なサウンド作りができる。またAlienizeというパラメータをオンにすると、指定した長さの音をセグメント化して、そこを逆さに再生する。ここでは、ピッチシフトはせずにAlienizeをオンにしてデータを生成してみた。

 次はチューブサチュレーション・ジェネレーター「WARM」。これはいわゆる真空管アンプシミュレーターで、音にパワフルにするとともに、温かみのあるサウンドにするためのツール。まあ、これはボーカル専用というよりも、ギター用などとして使ったほうがより効果が出そうだが、真空管の画像が青く光るVelvetモードと、赤く光るCrunchモードの2つが用意されている。Velvetは比較的弱めな増幅で、ボーカル用として用いるのなら、こちらを使うべきだろう。一方、Crunchはオーバードライブがかかる強めの増幅。ディストーション的な派手なひずみではなく、真空管アンプ風のやわらかいひずみでギターなどに対して気持ちよくかけることができる。

【音声サンプル】(Crunchモード時)
warm.mp3
(375KB)
チューブサチュレーション・ジェネレーター「WARM」 比較的弱めな増幅のVelvetモード


【音声サンプル】
aspire.mp3
(375KB)
アスピレーションノイズ・プロセッサー「ASPIRE」

 そして最後に紹介するのはアスピレーションノイズ・プロセッサー「ASPIRE」。これもボーカル用として使える、なかなかユニークなエフェクトで、声の息づかいを補正することができるものだ。荒い息づかいを少しやわらげたい場合、反対に息継ぎの呼吸音を強調したい場合などに利用できる。初音ミクのサウンドの場合、やはり息継ぎの呼吸音などがあまり感じられないため、やや強調させる形でかけてみた。まあ、息継ぎというよりも発音時の破裂音を強くしたという感じではあるが、明らかに雰囲気が変わったことが分かるだろう。

 以上、10種類のエフェクトを初音ミクの歌声にかけてみた。もちろん、AVOX 2は初音ミク用のエフェクトとして作られたものではなく、広くボーカル全般用に作られたものではあるが、VOCALOID用としてもかなり効果があることが分かる。初音ミクや鏡音リン・レンをどう調教するか励んでいる人も多いと思うが、AVOX 2を用いることで、結構簡単に歌声の雰囲気を変えることができる。

 価格が79,800円と、初音ミク用としてだけ考えると安価なソフトではないが、フル機能が10日間使えるデモ版もダウンロードできるので、一度試してみてはいかがだろうか?


□イーフロンティアのホームページ
http://www.e-frontier.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.e-frontier.co.jp/company/press/introduction/2008/2008422avox_2.html
□製品情報
http://content3.e-frontier.co.jp/products/antares/avox2/

(2008年6月9日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
著書に「コンプリートDTMガイドブック」(リットーミュージック)、「できる初音ミク&鏡音リン・レン 」(インプレスジャパン)、「MASTER OF SONAR」(BNN新社)などがある。また、アサヒコムでオーディオステーションの連載。All Aboutでは、DTM・デジタルレコーディング担当ガイドも務めている。

[Text by 藤本健]


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