■ 思えばいろいろありました
月探査機「かぐや」が撮影した、月と地球のハイビジョン映像を収録したBlu-ray Discビデオ「月周回衛星 かぐやが見た月と地球」が18日に発売される。価格は4,935円。DVD版も7月16日に3,675円で発売される。 同タイトルは、HD DVD/DVDのツインフォーマットディスクで4月の発売が予告されていた。しかし、発表直後に東芝がHD DVD撤退を表明したため、Blu-ray Discで発売することとなった。 まさに、フォーマット戦争の荒波に揉まれたタイトルといえるが、同時に、当初JAXAのWebサイト上で公開していた映像がSD解像度だったため、ハイビジョン映像の公開を求める声が上がるなど、発売前にいろいろな意味で注目を集めた。 だが、収録コンテンツが非常に貴重なことには変わりはない。2007年10月18日に高度約100kmの月周回観測軌道に投入された月探査衛星「かぐや」の撮影映像をまとめている。 かぐやには、NHKが開発した宇宙仕様のハイビジョンカメラが搭載されており、世界初のハイビジョンによる月面撮影に成功。かぐやで撮影した「地球の出」や「地球の入り」などの映像は、JAXAのホームページにも掲載されているが、これらに解説やBGMなどを加えており、約24分にわたる月のハイビジョン映像を鑑賞できる。さらに、音楽にあわせて本編映像を楽しめる特典「かぐや月世界飛行」も収録している。 通販サイトで注文したところ、発売前日の17日に届いた。今回は、8日に秋葉原で開催された試写会における国立天文台 渡部潤一氏の講演の模様も含めてレポートする。 ■ 圧倒的なハイビジョンの迫力
前述のとおり、本作は24分の本編映像と、17分の特典映像から構成される。 かぐやには、水平画角45度の広角ビデオカメラと同15度の望遠カメラを搭載。撮像素子は220万画素CCDの3板式で、撮影した約1分間の動画を圧縮してメモリに記録し、20数分かけて地球に伝送するという。カメラ部の外形寸法は45×42×28cm、重量は16.5kg。消費電力は50W。 高度100kmの月の軌道上を周回し、そこで撮影された映像が本作品に収録されている。チャプタは、「オープニング」と、「かぐやが見た地球の出・地球の入り」、「かぐやがとららえた月の世界」、「月の謎に迫る」の4つに分かれている。 映像は2008年の元日の月面と、月軌道上からした地球の映像からスタート。かぐやの特徴や観測ミッション、打ち上げ風景などが簡単に紹介される。 「かぐやが見た地球の出・地球の入り」では11万kmの彼方から撮影した地球の映像を中心に展開。月面越しに地球が昇っていく「地球の出」と月の南極付近の地平線に地球が沈んでいく「地球の入り」などを解説とともに、確認できる。 「かぐやがとらえた月の世界」では、かぐやの軌道や月面のクレーター、月の南極、レプソルト谷などのを特徴を紹介。かぐやのハイビジョンカメラだからこそ捉えられた様々な映像や、昼は摂氏100度、夜はマイナス150度以下という過酷な月の姿を紹介する。 「月の謎に迫る」は、かぐやの月の「地形観測」能力などが解説される。これまでの月の地図は、探査機「クレメンタイン」のものが一般的だったが、同探査機では楕円軌道での地形観測のために精度にばらつきがあったという。かぐやは低高度で周回するほか前後に備えた立体カメラにより地形を観測するため、より高精度な観測が行なえる。さらに電波による地下観測などで、月の歴史や成り立ちを観測しているという。 一見すると、月面は黒と白以外の色が無い荒涼とした世界。しかし、ハイビジョン映像によりその中の陰影や波打つような起伏など、さまざまな表情を見せてくれる。また、モノクロの世界の端からゆっくりと現れる地球の青には、目を奪われずにはいられない。脚色無しの自然の映像だけに、その驚きもひとしおだ。
国立天文台の渡部潤一氏によれば、月周回衛星へのハイビジョンカメラの搭載は「きわめて異例」なのだという。だが、国立天文台のすばる望遠鏡はNHKのハイビジョンカメラをすぐに設置できるようにしているなど、日本においてはハイビジョンへの取り組みが非常に積極的。 こうしたハイビジョンの取り組みは海外の研究機関に「クレイジーといわれてしまう」と渡部氏は笑う。しかし、「興奮するすばらしい映像を皆さんと共有したいという気持ちが研究者にある。生でこうした成果を届けることが今後は必要になるのでは。グラフや数値だけでなく、わかりやすい映像をという声が増えてくればいい」と語った。 かぐやのハイビジョンカメラの映像は奥行きで600kmという映像を撮影している。さらに、かぐやでは、地形カメラと呼ぶ静止画用カメラも搭載。その画像は「いままでの月の地図を完全に塗り替えた」という。 前後のカメラから得られた映像から、立体データを作成。クレーター内の凹凸などや、いままで線のようにしか認識されていなかった起伏などさまざまなデータを収集できたという。 さらに、月の表裏の謎や、かすかに観測されたガスなどから、大気が無いとされていた月における「月の大気の変化」などが確認されるなど、かぐやは「月の謎を、どんどん解き明かしている」とする。 今年打ち上げられたインドのチャンドラヤーンという衛星には、米国やイギリスなどが協力して、さまざまな観測装置を搭載。月の研究における「強力なライバル」なのだという。しかし、このチャンドラヤーンにも「ハイビジョンカメラは載っていない」という。そうした意味では、かぐやにおけるハイビジョン映像は唯一無二のものといえ、渡辺氏も、「日本の偉業の映像を楽しんでほしい」とBD化を歓迎した。
■ 荒涼とした月面のハイビジョンならではのリアリティ
ディスクは片面1層。コーデックはMPEG-4 AVC/H.264で収録されている。PLAYSTATION 3で確認したところビットレートは25~40Mbps超と、かなり高くなっている。 海外からは「クレイジー」と言われるというハイビジョンカメラによる月の映像。これを大画面テレビ見ると、圧巻の一言に尽きる。ハイビジョンらしい精細感は確かに感じられる一方、ソースに起因するであろう、ちらつきやモスキート状のノイズなども確認できる。おそらくかなりの高感度で撮影しているのだろう。また、レンズフレアもかなり発生している。 あらゆる意味で、地球上の好条件で撮影した映像と比べるのは別次元の映像だ。とはいえ、地表の凹凸やクレーターの細かな歪みなどは、しっかりと認識できる。また、モノクロに近い色の無い世界の微妙なグラデーションが、大気も無く、寒暖差が200度以上に及ぶ厳しい世界の感触を伝えてくれる。 3DCGアニメのようなノイズレスのまばゆい色彩の世界の対極ともいえる、荒涼とした世界のリアリティ。そうした点が、かぐやのハイビジョン映像の最大の魅力となっている。 なお、宇宙においては、CCDは宇宙放射線により画素欠陥が発生してしまうという。そのため、地球での画像処理により最大2万個のキズを補正できる装置を開発して導入しているという。また、かぐやによる定期的な観測を、月軌道における宇宙放射線の影響評価などに役立てる予定なのだという。これもかぐやの使命のひとつというわけだ。
音声はリニアPCMで収録。解説とBGMを切り替えられる。さらに特典の「かぐや月世界飛行」を選択すると、地球におけるかぐやの整備風景や解説映像などが省かれ、純粋にかぐやの撮影映像を楽しむことができる。BGVとして使うのはこの特典映像が最適だ。
■ “異世界”のBDビデオ化 24分+17分という収録時間を考えれば4,935円という価格はやや高価に感じるかもしれない。また、JAXAのホームページでは720pの解像度で確認できるだけでなく、さらに最新の映像もJAXAのページに追加されている。 そうした意味では、単に情報として月の映像を見る分には、BDビデオを買う必要は無いかもしれない。とはいえ、JAXAでダウンロードした映像を見て、さらに高解像度のものを見たい、あるいは気軽にリビングの大型テレビで鑑賞したいという人には魅力的な作品となるだろう。 まさに“異世界”の映像をフルHDで楽しめるというのが本作の最大の魅力。かぐやの耐用年数は約1年という。2007年9月の打ち上げから、まもなくその日を迎えるだけだが、それらをまとめた総集編的な作品にも期待したいところだ。
□ポニーキャニオンのホームページ (2008年6月17日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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