だが、“縮小傾向”は相変わらずだ。2006年まではまさに“お祭り”といったイメージのイベントだったが、大手では数億円ともいわれた費用が痛手となり、2007年から規模を縮小。今年は、以前の“お祭りの舞台”での縮小開催、ということもあってか、異常に寂しい感じが漂う。14日の段階では、会場の周りにも垂れ幕などはなく、閑散とした印象だ。
E3開催前には、ゲームプラットフォーム3社を中心に、大手メーカーのプレスカンファレンスが開催される。むしろ現在はこちらが「本番」といった印象が強い。トップを飾るのはマイクロソフト。「Xbox 360 Media Briefing」と題し、様々な発表を行った。前日に米国内で、Xbox 360の値下げを発表したばかりでもあり、非常に気合いの入ったプレゼンテーションとなった。
■ 「FF13」Xboxへ! 「米国市場での勝利」を強調するMS ゲーム業界として最大のインパクトは、プレゼンテーションの最後に起こった。スクウェア・エニックスの和田洋一社長が、日本でも発表済みの3本のRPGのプレゼンを終え、会も終了……と思われた時のことだ。いったんバックステージに戻ったと思われた和田氏が、忘れ物でもしたかのように再び壇上に戻ってくると、ある映像の公開を行なったのである。 その映像とは、「ファイナル・ファンタジーXIII」のデモ映像。PLAYSTATION 3(PS3)独占と思われていた本作を、欧米ではXbox 360用としても発売する、との発表であった。まるでスティーブ・ジョブス氏のお株を奪うような「One more thing」ぶりで、会場は歓声に包まれた。
これに限らず、今回のプレゼンテーションでは、マイクロソフトの「余裕」のようなものを感じられた。Xbox 360は今世代の据え置きゲーム機において、米国では確実にトップを走っている。米マイクロソフト インタラクティブ エンターテイメント ビジネス シニア バイスプレジデントのドン・マトリック氏は、「Xbox 360は、PS3よりも500万台以上多く売れており、過去12カ月のソフトの売り上げでもトップ。サード・パーティー製ソフトの売り上げに至っては、WiiとPS3を足した分よりも多い金額を売り上げている」と現状を説明した。日本のマーケットだけを観ているとピンと来ないかも知れないが、少なくとも米国市場においては、マイクロソフトは「勝ち組」である。
■ 「オンラインで協力」がトレンド このところオンラインを介した「協力プレイ」に人気が集まっていることから、「バイオハザード5」をはじめ、今回発表されたゲームの多くが、「協力プレイ」を全面に押し出したものになっている。さらに、データのダウンロード販売といった、広いプラットフォームとして活用することで、ゲームファンの心をつかんでいる。 今回、オンラインの活用という意味で特に脚光を浴びていたのが「音楽ゲーム」だ。2006年後半以降、アメリカでは音楽ゲームの嵐が吹き荒れている。中心となっているのは、Activisonの「Guitar Hero」シリーズだ。このソフトは、ギター型コントローラで楽曲の演奏を楽しむという、いかにもアメリカ的なソフトではあるが、カギとなるのは「本物の楽曲が使われている」というところだろう。今秋発売の最新作「Guitar Hero World Tour」でも、METALLICAの新曲が使われている。
それに輪をかけて「本物」にこだわっているのは、MTV Networksの「Rock Band2」だ。こちらでは、85曲もの楽曲が最初から組み込まれている上に、有償ダウンロードをあわせれば500を超える曲がプレイ可能。その中には、GUNS N'ROSESにボブ・ディランにAC/DCと、そうそうたるメンバーの楽曲が含まれている。
またさらに、カラオケゲーム「Lips」では、iPodやZuneをXbox 360に繋ぎ、そこに入れた楽曲でカラオケを楽しむことも可能だという。もちろんこちらも、オンラインで楽曲のダウンロードが可能だ。UKのガールズポップ・シンガー、Duffyが登場、自らの曲である「Mercy」を実際に歌ってみせた。
日本では、音楽ゲームブームはもう過去のこと、というイメージが強い。Guitar Heroに代表される現在の音楽ゲームも、'90年代末に日本を席巻した音楽ゲームの影響化にあり、その正常進化形ともいえるものだ。ただ日本での状況と違うことは、音楽ゲームがマニア寄りではなくむしろ「一般層」に広がり、その結果、音楽業界が「楽曲を提供するための市場、プラットフォーム」として認知しはじめている、という点である。GUNS N' ROSESの場合、新曲をCDより前にゲーム向けに先行公開する力の入れようだ。もちろんその背後にあるのは、ネットワークによるダウンロード課金が可能という「ビジネス上のメリット」だろうが。
■ 映像配信プラットフォームとして成長
また、Xbox 360をAV的な視点で見ると、より広い用途が見えてくる。現在Xbox Liveは、ゲームだけでなく、映像も含めたオンライン配信のプラットフォームとしての整備がすすんでいる。「Xbox Live ビデオマーケットプレイス」と呼ばれるビジネスだが、今回のプレゼンでも、その点が強調された。 「Xbox Liveは、ハイデフにおいて世界最強のプラットフォームだ。ケーブルTV会社もサテライト・サービスも敵ではない」 マトリック氏はそう語る。現在、米国および欧州のXbox Liveでは、720pの映像をダウンロードする形で、映画やTVドラマを中心に配信が行なわれている。購入してから1週間以内なら自由に視聴可能、という「疑似レンタル」に近いサービス形態だ。 「そしてさらに、新しい、強力なパートナーを紹介したい」として公開されたのが、NBCユニバーサルとの提携だ。日本人にとってすぐに思いつくのは「映画」だろうが、実はテレビドラマスタジオとしても非常に強いコンテンツを持っている。日本でも有名なところでは、「HEROS」、「名探偵モンク」といったところだろうか。
また、欧州向けにはMGMおよびConstantine Filmとの提携も発表され、アメリカに続き、基盤整備が着々と進んでいる印象を受ける。日本から見れば、非常にうらやましいことだ。
そして、映像配信という意味では、さらに大きな発表も準備されていた。Xbox Live担当のコーポレート・バイスプレジデントであるジョン・シャパード氏は、「4つのスタジオの他に、ひとつまだ残っている。それはなんだと思うだろうか?」と言いながら、新たな提携先を発表した。それは、映画会社ではない。米DVDレンタル大手の「NETFLIX」だ。NETFLIXは宅配式のDVDレンタルで大きなシェアを持つ企業だが、このところ、PC向けのストリーミング方式による映像配信ビジネスに力を入れている。今回の提携は、クライアントをXbox 360に広げ、より気軽にリビングで利用できる環境を整える、という狙いがある。
そしてもう一つ、このネット配信にはおもしろい秘密がある。「映画は、友達と一緒にソファーに座って観たいもの。でも、なかなかそうはいかない事情もある。NETFLIXの映像配信は、Xbox Liveのフレンド同士で、同じ映像を同時に、チャットしながら観ることもできる。こうすれば、離れたところにいながら、一緒に観るのと同じような感覚が味わえる」シャパード氏はそう説明する。 NETFLIXがXbox 360上でのサービスを検討している、との噂は、この3月から出始めていたのだが、それは真実だったわけだ。最大8人までのオンライン上の友人と映画を観るというのは、オフラインで友人同士で観る場合とも異なる、ユニークな経験になるだろう。あえていえば、ゲームの「協力プレイ」と、ニコニコ動画や2ちゃんねるの「実況」を混ぜたようなものになるのではないだろうか。
こういった新サービスを支えるのが、Xbox 360の新たなユーザーインターフェース「New Xbox Experience」だ。見慣れた「ブレード」は姿を消し、色合いもぐっと落ち着いたものに変更されている。また、カスタマイズ可能なアバターを導入、ユーザー同士のコミュニケーションに利用することになる。
率直にいって、今回マイクロソフトがプレゼンテーションしたものは、どれも決して「新しい」ものではない。任天堂やSCE、コナミといった日本のゲームメーカーが開発し、可能性を模索してきたものをうまく取り込んで、自社に合う形にかえて提供している、という印象が強い。 だが明らかに違うのは、ビジネスのスケール感と速度だ。音楽ゲームでアーティストの協力を得るにも、音楽配信でたくさんのコンテンツを集めるにも、資金力と交渉力が必要であることはいうまでもない。また、それらをビジネスにつなげ、少なくとも「お金が稼げそうな気がする」プラットフォームを作ることができる、という点において、マイクロソフトは日本メーカーよりも一歩も二歩も進んでいるところがある。
残念ながら、Xbox LiveビデオマーケットプレイスやNETFLIX、いくつかの音楽ゲームなどは、まだまだ日本で楽しむことができない。現地での盛り上がりをみると、そのことが非常に残念で、もったいなく感じてくる。
□Electronic Entertainment Expoのホームページ(英文) (2008年7月15日)
[Reported by 西田宗千佳]
AV Watch編集部 |
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