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西田宗千佳の
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E3 2008特別編2 PS3/PSP向け映像配信、北米で今夜スタート!
- 任天堂は音楽ゲームに「UI」で挑む


会場の様子

 本日より、E3の会期がスタートする。といっても、ほとんどの人は、同日開催される任天堂とSCEのプレスカンファレンスに参加するため、会場はまださほど盛り上がってはいない。

 というわけで本日のレポートは、任天堂とSCEのプレスカンファレンスについてお届けする。



■ 「10年持つプラットフォーム」を強調するSCEの戦略

プレゼンを担当した、SCEアメリカ社長のジャック・トレットン氏。「SCEAの顔」としても定着してきた印象がある

 まずは、AVファンにとって気になる存在である、SCEの話題から触れていこう。

 今回のプレゼンテーションを取り仕切ったのは、SCEAのジャック・トレットン プレジデント兼CEOだ。終始彼が壇上に立ち、米国マーケットの現状とこれからの施策を説明した。SCEのトップである平井一夫社長の姿も会場にはあったが、彼が壇上に上がることはなかった。

 これは、以前のE3が「ワールドワイドでのゲームビジネスを俯瞰する場」であったのに対し、現在のE3が「北米ビジネスのこれからを語る場」に変わったためである。また、今回は新ハードの発表が一切なかったため、壇上にあがる必要がなかった、ということでもあるだろう。北米市場向けに、80GBのHDDを搭載したPS3が399.99ドルで9月に発売される、という発表が行なわれたが、これは「ハード刷新」ではなく、リージョンにあわせた価格改定の範疇だ。逆にいえば、驚きは少ない会見だった、ともいえる。

SCEAの現状とPSシリーズの販売台数については、10月に発売を予定している「Little Big Planet」のステージ作成機能を使って説明。物理演算を使いながらデモされる様に、会場から大きな笑いが漏れた。映像でお見せできないのが残念だ

 ゲームハード、という意味では、今回トレットン氏はある事実を示すところから、プレゼンテーションをスタートしている。 「15年前、プレイステーションが生まれたことで、ゲームプラットフォームのルールは大きく変わっている。それは、1つのプラットフォームが10年の寿命(ライフサイクル)を持つ、ということだ」

PS1が10年を生き抜き、PS2も10年のサイクルに向けて進み続けていることを強調。PS3のライフサイクルの今後に期待を持たせるための演出だろう

 確かにその通りだ。PS1は数年前まで南米を中心に大きなビジネスだったし、PS2は、発売から8年目を迎える今年も、世界中で「現役のゲーム機」としてビジネスが行なわれている。これは、PSシリーズの優秀さを示すものだが、他方で、今回に関しては、別の意図もあるだろう。それは「PS3がまだライフサイクルのはじめでしかない」と強調することだ。

 PS3にはキラータイトルが不足している、と言われる。今年になり、日本でもようやく「メタルギアソリッド4」のヒットで息をついた格好だが、根本的な弾不足が解消されたわけではない。今回のプレスカンファレンスでも、何本か興味深いタイトルが発表されたものの、「ソフトの力だけで引っ張れる」ほど、圧倒的なものがあったわけではないのも事実である。

 PS3はまだライフサイクルの初期である、ということをアピールすることで、これからに期待を残しておきたい、というのが、今回の施策の狙いではないだろうか。

 なお、今回のE3会期中に、SCE社長の平井一夫氏への単独インタビューを予定している。PS3ビジネスの今度について質問をぶつける予定であるので、楽しみにお待ちいただきたい。


■ 大手映画会社がそろって参加する映像配信。レンタルが3ドル、購入が10ドルから

新しいPS Storeの画面。左上にある「Video」というボタンに注目

 今回のプレスカンファレンス中、AV的に最も興味深いのは、プレイステーション・ネットワーク(PSN)を使った映像配信の詳細が発表されたことだ。

 6月25日のソニー中期経営方針説明会の中で発表が行なわれ、より具体的な情報が待たれていたものだが、今回、北米向けのビジネスについて、デモを交え、詳細が説明された。

 PS3で映像配信を観る場合、窓口に使うのは「Playstation Store」(PS Store)だ。いつもと同じPS Storeに見えるが、上の方に「Game」と「Video」というボタンが出来ていることにお気づきだろうか。ここでVideoを押すと、Video専用のストアに移動する。


ビデオストアの画面。映画会社名やジャンル、HDかSDかなどで検索が可能

配信に対応する映画会社のリスト。これだけのメンバーが初日から参加する、というのはなかなかすごいことだ

 映像配信というと気になるのが、「どれだけのコンテンツが観られるか」ということ。6月25日の発表の段階では、参加を明確にしていたのがソニー・ピクチャーズのみであったため、「ソニーだけのサービスではうまみがない」とも指摘されてきた。

 だが実際にふたをあけてみると、それは杞憂であったことがわかる。ディズニー、20世紀FOX、MGM、ライオンズゲート、パラマウント、ワーナーと、Universal以外のメジャーなスタジオはすべて参加する、という豪華さだ。映画の他、テレビドラマなどの配信も行なわれる。

 配信タイトル数は明らかにされていないが、デモ画像から読み取れるタイトルから推測するに、そのラインナップはなかなか豪華なものだ。少なくとも、「実験的にコンテンツを出してみる」というレベルではない。


それぞれ、ライオンズゲート、MGM、ソニー・ピクチャーズの配信画面。最新の映画タイトルがずらっと並んでいるところに注目してほしい

「Cloverfiled」を購入する際の画面。レンタルがSDとHDで2種類、購入がSDで一種類準備されている。どの方式を使い、いくらで観られるかは、タイトルによって異なる

 ダウンロードによる配布を行ない、14日間のレンタル視聴の他、永続視聴権の「購入」も可能。配信解像度は、「SD」と「HD」の両方である。HDというのが720pなのか1080i/pなのかは、現時点では不明だ。

 購入インターフェイスもかなりよくできている。カートに入れて購入する前には、その場で予告編をストリーム再生し、内容の確認ができる。もちろん、全画面再生も可能だ。

 気になる価格は、レンタルで2.99ドルから5.99ドル、購入で9.99ドルから14.99ドル。DVDなどの価格と比べると、それなりにリーズナブルといえる。ちなみに、デモで使われた「Croverfield」の場合、HDのレンタルが5.99ドル、SDのレンタルが3.99ドル、そしてSDの購入が14.99ドルであった。

 ここで購入した映像は、PS3内のHDDに蓄積され、XMBから再生が可能だ。


購入前には予告編も再生可能。こちらはダウンロード式ではなく、ストリーミングによる再生となる ダウンロードした映像はPS3のHDD内に蓄積される。ここから観ることもできるが、USBを介してPSPへと転送することもできる

 だが、それだけでは終わらない。この映像は、同じPSNのアカウントを利用するPSPでも視聴が可能となっている。転送の方法は2つある。一つはUSBでPS3と接続、ダウンロードされた映像を転送する方法。そしてもう一つは、パソコン用に公開されている「PS Store」を使い、PS3と同じPSNアカウントでログイン後、パソコンを介し、PSPへとダウンロードする方法だ。すなわち、パソコンだけを使いビデオストアにアクセス、PSPへダウンロードして視聴する、という形も可能と予想される。

 気になるスタート時期は「今夜」、すなわち、7月15日夜(北米時間)から。あくまで北米限定だが、この記事が公開される頃には、北米版PSNアカウントから、ビデオストアのサービスへアクセスすることができるようになっているだろう。

 日本での展開はまだ未定とされているが、できれば、北米に近いラインナップを狙っていただきたいところだ。

□Sony Computer Entertainment Americaのホームページ(英文)
http://www.scea.sony.com/
□ニュースリリース(映像配信/PDF)
http://www.scei.co.jp/corporate/release/pdf/080715a.pdf
□関連記事
【6月25日】「ソニーは変化し続ける」。映像配信強化など新経営計画
-PS3で今夏ビデオ配信。BD、VAIOなど「1兆円ビジネス」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080626/sony1.htm


■ 「究極のエア楽器」で音楽ゲーム市場に切り込む任天堂

 これまで、本連載でのE3レポートでは、任天堂のプレスカンファレンスについてあまり触れることはなかったと記憶している。理由は、任天堂が「ゲーム」に特化した会社であるからだ。今回もその姿勢に変化はない。他社と違い、DSやWiiに「AV機能的アプローチ」が追加されたわけではないからだ。

任天堂のプレスカンファレンス

 だが、それでも、今回は任天堂のカンファレンスについても触れておきたい。それは、ぜひAVファンに知ってほしい、と思うソフトが登場したからである。

 昨日のレポートでも述べたように、現在アメリカ市場では「音楽ゲーム」の人気がすさまじい。それに遅れないよう、任天堂のプレスカンファレンスでも、音楽ゲームに対する言及が多かった。アメリカでのヒットタイトルである「Guitar Hero」、「Rockband」はもちろんなのだが、ここで触れたいのはそういったものではない。

 注目したいタイトルは「Wii Music」だ。本作は、任天堂のプレスカンファレンスの最後に、マリオの父である宮本茂氏が自らデモする形でプレゼンテーションが行なわれた。

 「楽譜がよめない人、楽器が弾けない人でも音楽を演奏する楽しみを味わってもらうために作りました。プレイヤーはゲーム画面のガイドを追いかけることなく、楽器に応じた振りをすればWiiがよりよい音程をつけてくれるんです」宮本氏はそう説明する。

 従来の音楽ゲームは、流れてくるマークにあわせてボタンを押す、という形でプレイするものが多い。ゲーム的な楽しさを演出できる一方で、動作は機械的になりやすく、「演奏している」感じが薄いのも事実だ。

 Wii Musicでは、そういった概念をなくしている。プレイヤーは、エアギターのごとく「なんとなくいい感じにリモコンを振り回し、ボタンを押す」だけで、それが音楽になって流れてくるようになっているのだ。壇上では実際に、5人のメンバーによるセッションも行なわれた。時々音がはずれたりしていたが、それでも、壇上のプレイヤーは非常に楽しそうだった。これは、今回の任天堂のテーマである「We promise to keep the world smiling」を体現したものといえる。

公開された「Wii Music」。適当に動かせば曲になる様は、まさに「エア楽器」。バイオリンやギターなども再現されているという。またドラムについては、本格的なチュートリアルもあり、本物のドラムさながらのプレイを体得できる

 Wii Musicは、コンピュータを使って音楽を楽しむ、新しい形を提示しているといえる。昨日のレポートで述べたように、音楽ゲームは、音楽業界にとって新しい市場を生み出しつつある。任天堂はこの市場に対し、「ユーザーインターフェス」というお得意のテクニックをもって望もうとしているのである。

□米Nintendoのホームページ(英文)
http://www.nintendo.com/

□Electronic Entertainment Expoのホームページ(英文)
http://www.e3expo.com/
□関連記事
【7月15日】【RT】E3 2008特別編 Xbox 360カンファレンスレポート
- マイクロソフトが見せる「AVとゲームの融合」のカタチ
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20080715/rt062.htm
【2007年7月12日】【RT】PSPは薄型へ、Xbox360ではディズニー映画配信開始
E3 2007から見る「ハイデフ世代」ゲーム機のAV
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20070712/rt036.htm

(2008年7月16日)


= 西田宗千佳 =  1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、月刊宝島、週刊朝日、週刊東洋経済、PCfan(毎日コミュニケーションズ)、家電情報サイト「教えて!家電」(ALBELT社)などに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。

[Reported by 西田宗千佳]



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