■ どうなる、VARDIA
東芝のレコーダでもっとも注目されるのが、次のメディア戦略を一体どうするのか、というところである。特にHD DVD亡き後、Blu-rayにも行かないという事になれば、ハイビジョン記録が標準となりつつあるレコーダとしては、かなり厳しい戦いを強いられることになる。 今年6月に発売されたフラッグシップ「RD-X7」では、HD DVD撤退直後ということのあって明確な方向性が打ち出せず、アピールポイントに苦慮した作りとなった。個人的には、このままではレコーダ事業は難しいのではないかと思ったものだ。 しかしこの11月には、早くも次のフラッグシップ「RD-X8」(以下X8)をリリースしてきた。ご存じのように、RDでもX一桁シリーズは、ハイエンド機のみに付けられる名称である。それが半年で次期フラッグシップを投入してくるというのは、近年なかったことである。 X8はVARDIAの次の方向性を示すのだろうか。さっそく見ていこう。
■ RD史上もっとも綺麗なデザイン まずいつものようにデザインからである。近年のXシリーズは、夏に出る低価格モデルのデザインを踏襲して、中身だけハイエンド、といった作りが多かった。デザインにかけるコストを削減して中身に注ぎ込むという、厳しい台所事情の中でのやりくりが見られたものだ。
しかし今回のX8は前モデルのデザインを踏襲せず、同時発売のSシリーズと共に新デザインとなっている。そういう意味では、コスト的にも体制を立て直したシリーズが今年の冬モデルから、ということなのだろう。ハイエンドモデルの割には薄型で、Sシリーズとサイズ的にもほぼ同じである。 フロントパネルは光沢感のある黒でまとめ、左側に電源ボタンがあるのみ。上端にゆるいカーブを設けて、厚手のフロントカバーを開けるための指がかりを作っている。カバー下部には立体的なストライプを配し、電源ONの時は青いLEDが光る。 パネル内のボタン類も黒でシックにまとめ、全体的に高級志向だ。今回の特徴である高精細技術「XDE」のON/OFFボタンが、わざわざ付けられている。 DVDドライブはRAM/R/RWドライブで、RはDLにも対応。ただRAMはカートリッジ非対応となっている。内蔵HDDは1TBで、BSデジタル(24Mbpsと仮定)をTS録画した場合は91時間。MPEG-4 AVCにエンコードするTSE録画では、最低2.8MbpsまでHD解像度をキープする。これにより約660時間の7倍長時間録画を謳うが、当然2.8MbpsのHD画質が実用的か、という問題はある。このあたりはあとで検証してみたい。
背面に回ってみよう。過去X一桁シリーズでおなじみとなった、ステンレスパネルが今回も使われている。地上波はデジタル/アナログのRF入力がまとめられ、BS/CSデジタルもまとめられて、すっきりしている。スカパー!連動も健在だ。アナログ外部入力は背面に1、前面に1の2系統。D1入力も備えている。 アナログの外部出力は2系統で、HDMIは1系統。TS出力も1系統で、前面のi.LINK端子はDV入力専用となっている。ただナニゲにアナログ出力には力を入れており、D端子出力に関しては、ハイビジョン4倍オーバーサンプリングの12bit/297MHzビデオエンコーダを搭載、さらにダウンコンバートする録画用のS、コンポジット出力にも、10bit/297MHzビデオエンコーダを搭載している。 リモコンも見ておこう。基本的には前モデルのX7用のものと大きな違いはないが、シーリング内にXDEボタンが新たに増えている。
■ XDEと新TSEの効果 今回のシリーズで大々的にフィーチャーされているのが、高精細化技術のXDEである。これはSDの映像をHDにアップコンバートしたのち、輪郭抽出を行なって三次元DNRを行ない、そこに適応型輪郭補正をかけるという補正技術である。そのほか色域補正やコントラスト補正も行なうことで、アップコンバード映像にありがちなぼやけた映像をくっきりさせるというわけである。 SDのソースをHDのテレビで再生したときの荒れは、結構早くから指摘されてきた問題だった。各社とも独自技術として研究を進めているが、東芝ではこのXDEと「超解像技術」が、今後の両輪と位置づけているようだ。 ただ注意する点としては、SDの映像がHDと同等になるというわけではない。アップコンバートしたときのボケを抑えることができるという技術である。
X7の時と同じ、「STARTREK Next Genaration」と「マトリックス リローデッド」でアップコンバートの画質評価を行なってみた。X7の時は、アップコンバート時の輪郭補正のON/OFFができなかったのだが、XDEはON/OFFで比較することができる。 手元にX7がないので厳密な比較はできないが、効果のほどはX7の時とあまり変わらない印象である。輪郭補正とはいっても、全体的に輪郭がぎちぎちになるわけではなく、肌のでこぼこなど、かつてはぼんやりしていたディテールがはっきりわかるようになるといった感じだ。 そういう意味では、高精細なSD画質というのが妥当なところである。また前回問題であった文字の輪郭がジャギーになる点は、あまり改善が見られない。DVDを字幕で見る機会の多い人は、ディテールは出したいし字幕は綺麗に見たいしで、XDEをONにすべきかOFFにすべきか、悩ましいところだろう。 またXDEは、ハイビジョン放送を視聴する際にも効果がある。この場合は、元々ディテールは存在することからあまり変わらないが、より輪郭強調のほうへ向かう感じがある。このあたりは、絵柄の好みやオリジナルソースの画質も関係するところではあるが、筆者の好みからするとむしろXDE OFFのほうが映像のアラが目立たず、エッジが柔らかくて見やすい。
TSE録画に関しては、12月1日から新ファームウェアが公開され、TSE録画時の画質がアップした。今回は新ファームで画質評価を行なった。 各ビットレートで比較すると、17~14Mbpsなどの高ビットレートではあまり違いは見られないが、8Mbpsぐらいの低ビットレートでの荒れが目立たなくなり、エンコードが上手くなった感じがする。そもそも16Mbps程度で放送されている地デジを17Mbpsでエンコードする意義は見いだせないが、8Mbps程度でそこそこ普通に鑑賞できるのは実用的だ。しかしHD解像度での最低画質である2.8Mbpsは、正直鑑賞には堪えない。XDEをONにすると、さらに荒れたブロックが強調されて、見るに堪えない映像となる。 なお2.8Mbps以下のビットレート(2.6Mbps~1Mbps)を指定すると、SD解像度でTSE録画できるようになっている。これも新たに追加された機能だ。品質としては別ページのサンプルを参照して欲しいが、解像度とビットレート、コーデックの選択幅が広がるのは歓迎すべきポイントだろう。 今後再生時のディテール向上技術が一般化すれば、TS録画ではなく圧縮録画がデフォルトになり、さらにはHD解像度ではなくSD解像度での録画でも十分使用に耐える可能性もある。ただ現状のXDEだけでは不十分で、やはり超解像度技術、しかもリアルタイムで複数回パスを行なうものが組み込まれていく必要があるだろう。
■ ネットワーク機能 東芝の戦略として、以前からネットワーク対応に力を入れてきた。ただ、その恩恵を受けてきたのはVARDIAよりもむしろREGZAで、テレビにHDDを接続するだけでレコーダ代わりになるといったコンセプトがウケている。ただこれらの機能は、手軽でローコストではあるものの、単に録画・見る・消すを繰り返すだけで、保存するというニーズには応えられていない。 今回のX8では、REGZA経由でNASに録画した番組を、レコーダに転送してメディアに焼く「レグザリンク・ダビング」を実装した。ホームネットワーク経由でもOKだし、そもそも家庭内でネットワークがなくルータもハブもないという環境でも、REGZAとVARDIAをLANケーブルで直結することでダビングが可能。 ただしレグザリンク・ダビングに対応するREGZAは、ZH7000/Z7000/ZH500/ZV500シリーズのみとなる。あいにく筆者宅のREGZAは1世代古く、試すことができなかった。できることならば、REGZA抜きでVARDIAとNASを直結してダビングできると、もう一歩使い出が広がると思うのだが、どうだろうか。 もう一つ別のネットワーク機能として、KDDIが提供する「DVD Burning」を試してみたい。DVD Burningは、映像のネット配信事業だが、ダウンロード先をHDDではなくDVDメディアに限定しているユニークなサービスだ。CPRMメディアに記録限定することでコピー保護を実現しており、基本的にはPCでのダウンロード/書き込みが前提である。だが東芝は今年6月から「RD-S502」と「RD-S302」でレコーダとしては初めてこのサービスに対応し、今回のX8も対応している。 利用に際しては、いきなりレコーダからのサービス開始はできず、事前にPCを使ってユーザー登録を行なう必要がある。なお登録は無料で、いくつかの無料コンテンツも提供されており、自分の環境で上手く機能するかテストできるようになっている。 まずPC用のユーザー名(メールアドレス)とパスワードを登録すると、メールでレコーダ用のログインID(数字)が送られてくる。そののちDVD Burningのサイトにログインして、DVDレコーダ用のパスワード(数字)を設定、という二重の段取りになっている。 レコーダからのサービス利用は、「番組ナビ」内にある「DVDBB」から行なう。ユーザーIDおよびパスワードは数字入力のみだ。1台のレコーダに対して3つのユーザーアカウントが登録できる。ただそれぞれのパスワードは記憶しておらず、毎回入力する必要がある。有料コンテンツを決済するわけだから、ある意味当然の措置だろう。
メニューの操作自体は、VARDIAらしいGUIになっており、見たい番組を選んでDVDに書き込むだけという、簡単な操作だ。試しに「アンドロメダ 第一話」をダウンロードしてみたが、画質的には市販DVDと同レベルだと言える。実際にビットレートを表示させてみたところ、平均で7~8Mbps、最低4Mbps以下、最高9.6Mbpsぐらいで推移するようだ。
記録可能なフォーマットは、CPRM対応のDVD-R/RW/RAM。今回はDVD-RAMを使用してみたが、書き込みフォーマットはDVD Video形式ではなく、DVD VRとなる。当然メニュー画面などがないわけだが、リモコンのカバー内にある音声、字幕ボタンを使って、日本語吹き替え音声に切り替えたり、字幕を出したりできる。HDMI出力で24Pに設定しておけば、映画コンテンツもフィルムテイストで楽しめる。
シーンのチャプターは、「クイックメニュー」の「タイトル情報」から参照できる。VRモードの市販コンテンツというものをこれまで扱ったことがなかったので、メニューが出ないことに戸惑ったが、慣れてしまえば不自由はない。 画質的には満足いくが、基本的にDVDメディアを消費しなければ見られないという点でユーザーを選びそうだ。シリーズものをDVDで残しておきたいという人にはいいだろうが、「これが見たい」と決めたときからすぐに見られないという点では、オンデマンドサービスは違う。どちらかと言えば、オンデマンドのような見て終わりの刹那的サービスではなく、AmazonでDVDを買うより早く手に入る、バーチャル物販サービスといった位置づけになるのではないかという気がする。 価格的には、映画であればだいたい512円だが、なぜか日本のテレビ番組は45分1話で1,000円するあたり、価格設定に矛盾を感じる。テレビの権利者との交渉は、なかなか難しいようだ。
■ 総論 正直なところ、HD DVDの撤退以来レコーダ事業はしばらく休業するのではないかと思っていたのだが、こんな速いペースで次期フラッグシップ機を出してくるのには驚いた。しかし、そのがんばりに見合う新機能が搭載できたかということでは、さすがにXDEと、後日対応予定のスカパー! HD対応のみでは厳しいと言わざるを得ない。 理想的にはHD記録ではなくてもSDで十分高画質、という路線を打ち出したかったのだろうが、さすがにSD画質がHD画質に化けるわけでもなく、ステップとしては若干中途半端なものになってしまったのは残念だ。 そもそも現状のXDEぐらいの効果であれば、他社のレコーダでも特に名前を設けて訴求するまでもなく、搭載してある。それでもここ一点に頼らざるを得なかった、東芝の厳しい事情が伺える。 DVDにHD解像度で録るHD Recは搭載しているが、訴求ポイントとしてはそれほど大きな扱いとなっていない。これで記録しても、再生互換としては事実上東芝機しかないわけだから、使う側としてもあと10年後を考えると不安が残る。 今後のVARDIAは、外部の書き出しメディアはあくまでも最低限と位置づけて、ネットワーク対応型HDDレコーダとして舵を取っていくと見られる。その第一弾的機能が「レグザリンク・ダビング」であったのだろうが、いかんせん現時点ではテレビ側の対応機種が限られるのが難点だ。まあこれは今後もサポートし続けることで徐々に対応機種が増えていくことにはなるのだろうが、ドラスティックな変化は難しい。 DVD Burningは、新しいコンテンツ物販の形としてもう少し注目されていいように思う。手元にコンテンツが残るという点が、オンデマンドサービスとは違ったアドバンテージだ。ただ、今はオンデマンドであってもハイビジョン化しつつある現状では、「保存できないがハイビジョン」vs「保存できるがSD解像度」という構図になる。この選択は、消費者にとってはなかなかの難題である。 個人的には今後のレコーダは、光メディア戦略とは別に、PCや携帯などのモバイルデバイスに高速転送とか、WAN側からアクセス可能なビデオサーバー的なものに進化する道に向かわないと、単なる外付けHDDに負ける日が来るのではないかと思っている。 期待されたダビング10も、あまり活用されている例を聞かない。厳しいコンテンツ保護のルールが、本来日本発で起こるはずのソリューションの芽を摘んでしまった感がある。東芝はダビング10ルールやネットワーク対応など、決められた枠組みの中でいっぱいいっぱいの自由度を確保しようとアグレッシブに取り組んできたメーカーだが、なかなかそこが一般の消費者にまで、メリットとして伝わっていかないのが残念だ。 Blu-ray派のメーカーも、Blu-rayが搭載できているから勝ち組というわけでもない。何ができればユーザーはうれしいのか、というところに対して、映像コンテンツ販売のビジネスまで含めてまだ決定打を出せていない状況は続く。東芝の悩みは、同時にレコーダ事業に関わる全メーカーの悩みでもある。
□東芝のホームページ (2008年12月4日)
[Reported by 小寺信良]
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