■ 単体チューナの夢と現実 今年9月に行なわれた総務省の調査によれば、地デジの普及率は46.7%であったという。政府などの目標値としては、北京オリンピックをきっかけにして9月には50%を越える見込みだったわけだが、実際には5月の調査から3%程度増えただけであった。 これに関してはいろんな理由が考えられるが、基本的に「テレビ離れ」が進行したと考えるべきだろう。デジタル化に伴った利用制限として権利者側の意見を重視し、消費者の利便性を後回しにしたツケを今になって払っているわけだ。なにせPC周辺機器のような「テレビ以外の機器」にB-CASカードの添付が認められたのが、今年になってからのことである。 一方でテレビそのものではなく、テレビチューナの活用法の一つは、いかに既存のPCユーザーにとって親和性の高い製品が出せるのか、そしてそれに見合うコストとはどれぐらいなのか、といったところに注目が集まる。その可能性として注目されるのが、バッファローの「LT-H90DTV」である。 すでに9月下旬から発売されているが、かねてから予告していた通り、ファームウェアのアップデートによりUSB 2.0対応外付けHDDに対して予約録画ができるようになった。まだβ版の段階だが、すでに12月5日から製品を所有しているユーザーには自動アップデートで提供されている。 今回はこの機能を中心に、デジタル時代のテレビ録画のあり方について考えてみたい。
■ ようやくフル機能を実装 アップデートされた録画機能以外に関しては、すでに本誌でレビューされている。実際の使い勝手などはそちらを見ていただくとして、簡単に概要を紹介する。 昨今は地デジのみのチューナも存在するが、本機は地デジ、BSデジ、CSデジチューナを1基ずつ装備した、いわゆる三波チューナである。標準価格は27,720円だが、すでにネットでは1万6千円代まで落ちてきており、単なるチューナとしても手を出しやすい価格となっている。 さらに、ネットワーク上の映像コンテンツもデコードして再生できるネットワークプレーヤー「LinkTheater」としての機能も併せ持っている。ただ、チューナ機能とネットワークプレーヤー機能はいったん再起動が必要なので、事実上2in1と考えた方が自然だろう。 さて、今回追加になった録画機能だが、いくつかの制限がある。まず、放送波としては地デジのみ対応となっていること、予約録画実行時に電源ON(スタンバイは不可)であること、録画コンテンツを再生時に、音声/字幕の切り替えができない、LinkTheaterモードになっていると録画予約ができない、接続できるUSB HDDは1台のみ、録画したコンテンツは別の機器に接続して再生できないという点がある。これらを飲み込んだ上で、利用することになる。
今後の見通しとしては、スタンバイからの起動は今後のアップデートでなんとかできるようになるようだ。ただBS/CSの録画に関しては、ビットレートの高さゆえに現状の搭載CPUでは処理しきれないのではないか、という情報が伝わってきている。 実際の利用開始は、簡単だ。まず本機にネットワーク接続した状態で電源を入れると、勝手にファームウェアのアップデートが始まる。他のLinkTheaterなどもそうなのだが、電源投入時にまずファームの確認に行くようになっている。
使用するHDDはFAT32フォーマットしておく必要がある。しかし現在ほとんどの外付けHDDはFAT32フォーマット済みで売られていることもあり、ノンPCユーザーでも初期導入で困ることは少ないだろう。 チューナ背面のUSBポートにHDDを接続したのち、TOPメニューの「録画視聴設定」から、「HDDを初期化する」で初期化を行なう。これにより、チューナがHDDにIDを書き込み、ひも付けが行なわれる。 録画視聴設定の「録画時間」は、予約録画ではなく手動録画したときの時間制限である。「番組毎」にしておくと、EPGの番組情報を元に、番組の終わり時間で録画を自動停止する。
■ 普通レコーダの便利さを改めて実感 番組の予約録画は、EPGの番組情報を使って行なうというのが定石だ。レコーダではすっかりおなじみとなったスタイルだが、家電メーカー製品のこなれた操作性とは一線を画す使い勝手で、かなり戸惑いがある。
まずEPGだが、手動で放送局ごとに受信すると、1局につき2分半ほどかかる。スタンバイ状態にしておくと全局自動的に受信するのだが、現在のファームウェアではスタンバイ状態に予約録画が実行されないというジレンマに陥るわけである。早期の解決を望みたいところだ。 番組表は、全チャンネル表示が基本だが、不要なチャンネルは表示を隠すことができる。デジタル放送では、デフォルトでは1局につき3チャンネルがセットとなっているが、ハイビジョン放送が主流の現在では3チャンネルとも同じ番組データとなっている場合がほとんどだ。このようなサブチャンネルを隠すことができる。 ただ番組表の拡大・縮小といった表示ができず、一覧性はあまり良くない。また検索機能もなく、ジャンル別表示やキーワード検索機能もない。昔のように新聞のラジオテレビ欄を見ながら予約録画していた時代を思い出す。
EPGを利用した予約録画設定の仕方も、一般的なレコーダとは違っている。通常予約は、表内の番組を選択すれば、そこから予約モードになるものだが、本機でそれをやると、単に「選局」となって放送画面に戻ってしまう。 予約を行なうには、そこから「緑」ボタンを押して詳細表示にするか、「メニュー」ボタンを押して「録画予約」を選択する必要がある。番組の予約行為にワンステップ余分な手間があるあたりが、録画専用機ではない「チューナ」の宿命であろう。 予約画面も、レコーダに慣れた身からすると結構辛い。例えば毎週予約に移行しようとした場合、一般的なレコーダでは「毎週予約」に変更するだけで、曜日を自分で指定する必要はない。 しかし本機の場合は、「毎日」や「月曜日」「火曜日」…といった具合に、順繰りに曜日を変更して設定する必要がある。ケーブルテレビのSTBなどではそういう仕様のものもまだ残っているが、これも昔のVHS時代を思わせる古さである。
番組延長にも対応しているが、自動追従するわけでもなく、かなりプリミティブな作りだ。そう考えると、家電メーカーのレコーダはどうってことないように見えて、実はものすごく洗練されて使いやすくできていることがわかる。 本機のようなバッファローのLinkTheaterシリーズは、PCからのコントロールを受け付けるようにできていない。スタンドアロンで動くことに意味があるというのも一つの考え方ではあるが、iEPGサイトで検索が使えて予約情報だけを本機に渡すとか、もう一歩今風のレコーダみたいなことができると、PCユーザー的には満足できるのではないかと思う。
■ 余ったHDDを有効活用
今回の録画テストには、同じくバッファローの1TB HDD「HD-HES1.0TU2」をお借りしている。だがバッファロー製品という縛りは特になく、USB HDDならば基本的には何でも使えるようだ。 試しにアイ・オー・データが2004年に発売したiVDR「USB2-iVDR」というものすごく古いHDDも繋いでみたが、問題なく録画できた。2.5インチHDDならばパスパワーでも動くので、セッティングも楽である。 ただ、相手がHDDかどうかは見ているようで、USBカードリーダーにメモリーカードを装着したものを繋いでも、ストレージが繋がっているとは認識されなかった。まあさすがにまだ容量が少ないので、メモリーカードに録る意味はないのだが。 録画番組は、放送中の画面で「メニュー」から「録画済み一覧」を選ぶか、「TOP」-「録画機能」-「録画一覧」と進んで一覧表を表示させる。未視聴の番組には、先頭にリールマークが付けられる。レジューム再生にも対応しており、再生済み番組を選ぶと、続きから再生するかどうかを選択することができる。
また1.2倍速速見再生も可能で、30秒スキップなども可能。これでリモコンにあるボタンの機能全部が動作するようになったわけである。 番組の再生には、必ず録画したLT-H90DTV経由で視聴する必要がある。これは番組が著作権保護のために暗号化されて記録されているからなのだが、この「必ず同じ本体」というルールにどれほどの保護の意味があるのかは、疑問である。いやバッファローは正しくB-CASの仕様通りに作っているのだが、問題はこんな仕様であるB-CASにある。 試しに録画の際に使用したB-CASカードとは別のB-CASカードを挿入して再生してみたところ、何事もなく再生された。つまり完全に「本体縛り」なのである。そこまでして、コンテンツと本体の同一性を求める意味はどこにあるのだろうかと考え込んでしまう。 例えばチューナが故障するなどして本体交換となった場合、録画番組はすべてパーである。また価格が安いからということで、将来の後継機に買い換えたときも、同様の事が起こる。これは、現在HDDが直結できるテレビなども、事情は同じだ。コピーができないのは諦めるにしても、正規の使い方でも録画番組が見られなくなるような運用形態は、問題である。 B-CASカードはリムーバブルなのだから、これのメリットを生かそうとするならば、「本体縛り」ではなく「B-CASカード縛り」で運用した方が、同一性の保持と利便性が確保できる。つまり録画したHDDを別の環境で見たければ、B-CASカードごと移動すれば見られるとしたほうがフェアで、よほど便利であろう。
■ 総論 VHSがなぜあれほど普及したかと言えば、それはもうNIES、NICSなど新興国製の廉価商品がバンバン入ってきて、2台目3台目需要を喚起したからである。各世帯に普及したと言うよりも、持っている人は3台ぐらい持っていたからあの普及率の数字が出たのだと思う。 デジタルレコーダの普及率がなかなか上がってこないのは、2台目3台目が買えるほど安くないから、という事はある。その代わりダブルチューナなどになって、2台分の役目を果たすようになってきたわけだから、数は伸びなくて当たり前とも言える。 そんな中、廉価なチューナにHDD直結で録画できるというソリューションは、インパクトとしてはかなり大きい。レコーダで培われたほどのこなれた操作はできないが、とりあえずEPGが使えて予約録画ができるものが実売2万円を切ったわけだ。 総務省が提案する5,000円チューナ構想は、既存のテレビからデジタル対応テレビに以降できない人のための対策だが、LT-H90DTVのような製品は、テレビを買い換えることにメリットを感じていないPCユーザーに注目されるのではないか。 例えばPCで録画すると負荷が高く安定性に欠けるので、PC用液晶モニタのHDMI端子に接続し、切り替えで見たいときだけ見るとか、全チャンネル24時間デジタル録画するために5台買うとか、贅沢なんだか貧乏くさいんだかわからない使い方に活路を見いだすユーザー層である。 テレビが面白くなくなったとはネットユーザーの口癖であるが、その原因の一つに録画機器が面白くなくなったということがあるだろう。アナログ波でPCでガンガン録画できていた頃は、違法アップロードなどの問題があったにしても、市場規模が全然違っていた。周辺機器メーカーも元気が良かったし、なによりPCメーカーに勢いがあった。 こう言うと、著作権をないがしろにしても産業発展すべき、ととられるかもしれないが、そうではない。違法アップロードの問題は、世界的にも類を見ない先進的な仕組みである著作権法の「公衆送信権」の侵害で検挙できるにも関わらず、面倒だということで全然行使されなかっただけである。 前回RD-X8のレビューで、「レコーダは単なる外付けHDDに負ける日が来るのではないか」と書いたが、録画済みコンテンツの自由な利用が制限される中でも、LT-H90DTVのような機器がもう少しPCでコントロールできるようになれば、録画産業界も生き残れるように思うのだが、どうだろうか。
□バッファローのホームページ
(2008年12月9日)
[Reported by 小寺信良]
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