LGが語る「超解像」、「3D」などの液晶ディスプレイ戦略

-普及モデルでのIPS採用など、日本ユーザーへ積極訴求も


LGエレクトロニクス・ジャパンのパク・ユングン マーケティングマネージャー(左)、宇佐美夕佳ブランドマネージャー(右)、韓国LG Electronicsのモニター事業のエンジニアであるチェ・ヒジュン氏(中央)

 2月18日に、2010年度の液晶ディスプレイ戦略を発表し、超解像搭載モデルや3D対応モデルなどを披露したLGエレクトロニクス・ジャパン。これまでLEDやフルHDモデルなど高付加価値の製品を次々に投入しながら、普及価格帯を維持し、'09年はグローバルで2位の台数シェア(13%)を獲得。'12年には世界1位を目指すとしており、日本のPCディスプレイ市場でも存在感を強めている。

 そんなLGが投入する2010年新モデルの特徴や、今後の戦略などについて、LGエレクトロニクス・ジャパンのマーケティングマネージャーであるパク・ユングン氏、同ブランドマネージャーの宇佐美夕佳氏と、韓国LG Electronicsのモニター事業のエンジニアであるチェ・ヒジュン氏に話をうかがった。



■ “超解像を超える”映像処理。夏には27型も

18日に披露された製品を含む、液晶モニタの2010年上期ラインナップ
 LGは、'09年よりLEDを光源とするフルHDディスプレイを投入し、以降も他社に比べ早いサイクルでLEDバックライト(エッジライト)搭載モデルを発売している。2月の発表会でも、21.5型と23型のLED搭載モデルを発表。それぞれ5月に発売する。

 新モデル「E2350VR」(23型)、「E2250VR」(21.5型)の大きな特徴は、超解像機能と独自の「f-ENGINE」機能を組み合わせた「Super+ Resolution」技術を搭載すること。「f-ENGINE」は、コントラスト拡張やカラーマネジメントを行なう同社ディスプレイの技術で、映像を鮮明にしながら、忠実な色再現も可能にしたという。

 超解像機能は、効き具合を3段階から選ぶことができ、それぞれのレベルに合ったf-ENGINEの設定値を用意。超解像とf-ENGINEの処理はセットで掛けられるようになっている。

 超解像の方法についても工夫がなされており、1フレーム全ての情報を読み込んで処理するのではなく、全画面のうち一定数の水平ラインの画素を順次読み込むことで、処理速度の改善を図っている。一般的に、1フレーム全てを読み込む方式でも、大きな遅延になることは無いとされるが、同社は徹底してメモリ占有を削減し、「ほぼ遅延なし」とアピールしている。

 また、超解像処理では、補正の掛けすぎにより白浮きが発生したり、文字の輪郭が重なるといった課題もあったが、解像度の補正を行なった後にシュートコントロールを行ない、極端に入力値の高すぎるものと低すぎるものをカットして輪郭をナチュラルにする補正も加える。こうして、全体を鮮明にしながらも、あらかじめボカされていた部分などはソフトなまま再現することを可能にしたという。

「Super+Resolution」を搭載する「E2350VR」(23型/左)と「E2250VR」(21.5型/右)

 超解像機能といえば、テレビやプロジェクタなど、様々な機器で採用が始まっているが、PCディスプレイでは対応製品はまだ少なく、上級機向けの機能というのが現状だ。しかし、マーケティングマネージャーのパク氏は、「今後、超解像搭載モデルが主流になるのでは」と見ている。

 「原価競争力を見ても、今後はLEDより超解像をメインにしてもおかしくないと考えている。5月から展開を始めて超解像モデルを増やし、メイン機種として展開することが目標。既に進んでいる商談でも、『超解像モデルを中心にしたい』と話すバイヤーの声も多い」(パク氏)としている。

 また、今回発表された21.5型と23型に加え、夏には超解像搭載で27型のモデルも投入予定であることを明かした。「来年くらいには、超解像モデルは普通になると思う。それをベースにして、プレミアムモデルなどの差別化ができるようになるのでは」(パク氏)という。

 同時に、これまで付加価値として推進してきたLED搭載モデルのラインナップもさらに拡充。18日に行なった戦略発表会では、LED搭載モデルの割合を今後40%まで拡大するとパク氏は述べている。今回発表されたモデルが6月あたりに出そろうため、その頃には同社のディスプレイ全体の構成比で40%に達する見込みだという。

 ブランドマネージャーの宇佐美氏も「昨年は、LED搭載モデルはPCディスプレイの選択肢に入れなかったが、商品サイクルが早まって、あっという間に選択されるようになった」とし、超解像についても今後はスタンダードな機能になると見ている。



■ 3D対応モデルを「攻撃的に」展開。IPSモデルはフルHDへ

 もう一つ、同社のディスプレイで注目したいのは3Dに対応したフルHDモデル「W2363D」。4月末~5月の発売を予定している。

120Hz/3D Vision対応のゲーム向け「W2363D」
 「W2363D」は、120Hz駆動対応パネルを採用するほか、NVIDIAの3D Visionに対応。NVIDIAが販売している専用メガネとトランスミッタ(セットで実売18,900円前後)を追加することにより、対応ゲームなどが3Dで楽しめる。なお、Blu-rayの3D映像にも対応予定としている。

 3D以外の機能については既存の「W2363V」とほぼ共通で、映像処理をスキップすることで映像/音声間の遅延を防ぐスルーモードを採用している。HDMI入力は2系統備える。

 3Dの方式はフレームシーケンシャル(時分割)。3D Visionのほか、Blu-ray 3Dでも同様の方式を採用するため、対応BDビデオが発売されれば、対応プレーヤーとの組み合わせで視聴できるとしている。

 なお、BS11などで採用されているサイドバイサイドや、トップアンドボトムなど他の方式は現時点では対応しない。同社テレビ(グローバルで展開)では、2010年度の第2四半期中に各方式に対応した3D対応モデルを発売する予定で、PCディスプレイについても「上半期中には方向性を出す」(チェ氏)とのことだ。

 3D Visionに対応したことについて同社は、「既にゲームコンテンツは3D対応になっているほか、3D対応デジカメの富士フイルムのFinePix REAL 3D W1もあるが、コンテンツを見るハードウェアがまだ(少ない)という状況だった。「W1の写真などが3D対応ディスプレイで見られるということが多くの人に伝われば、爆発的に広がるのでは」(パク氏)としている。なお、同社AV事業では、3D対応BDプレーヤーもテレビに続き、開発を進めている(宇佐美氏)とのことだ。

 また、パク氏は3Dモデルについて「どうやって手に取りやすい価格にして普及率を伸ばすか、ということが課題だが、弊社は攻撃的に市場を開拓していく」と強気の姿勢を見せた。

参考展示されたIPSパネル搭載モデル「W2220P」
 そのほか、18日の発表会で触れられたIPS搭載モデルについても話をうかがった。同社は、発表会場でIPSパネルを搭載した「W2220P」も参考出品。価格や発売時期は未定で、「できるだけ早く投入したいが、合理的な価格にするため、第3四半期を迎えるあたりでローンチしたい」(パク氏)としている。

 W2220Pは1,680×1,050ドット(16:10)で、プロ志向のユーザーに向けたグラフィックモニタとしての展示だったが、特に日本市場においてはIPSへの理解も高いことから、一般ユーザーに向けての訴求にも積極的。フルHDのIPSパネル搭載モデルの投入については、LG Displayのパネル開発にもよるが「来年には投入できるのでは」(チェ氏)としている。



■ 使い勝手の向上などで、日本市場にも積極姿勢

 同社は、まだLED搭載モデルの市場ができていなかった'09年に、秋葉原のPCショップと協力してLEDコーナーを設けて展開するなど、先進ユーザーへのアピールも意欲的だ。そこには、日本市場に対する同社の姿勢がうかがえる。

 LED搭載モデルを展開するとき、「お店の人から過去の失敗の経験を聞いたことがあり、それを製品に反映した」(宇佐美氏)という。ユーザーと直に接する販売店の声にも耳を傾け、「安い、高いという基準だけで選択されることを考えるマーケティングではまずいと思っている。他のコモディティ製品もそうだが、『この機能は私にあっているかどうか』、『身近であるかどうか』といった点が、ユーザーに測られている。そこにどうやって対応していくのかが、コンシューマ市場の面白さ」と語る。

 そうした考えのもと、同社ディスプレイは画質面だけでなく、使い勝手の面でも細かな改良を見せている。例えば、新モデルのうち「E50Vシリーズ」などは、スタンドの台座部分を外して、脚の部分だけで低い位置に自立できる2ウェイのスタンドを採用。ノートPCのサブディスプレイとして使う場合にも、視線を水平移動するだけで2つのディスプレイを交互に見られるという利点があり、パク氏も実際にそういった使い方をしているという。

 また、OSDメニューにも改善が加えられている。従来はタッチセンサーのボタンが右下にありながら、アイコンは画面中央に表示されるため、押す位置とアイコンの位置関係がわかりづらかったが、ボタンの真上にアイコンが来るように変更したほか、押す必要の無い場所はタッチセンサーのLEDが点灯しないようにした。さらに、日本語のフォントも「より日本語らしいもの」にしたという。

設置方法が2通りから選べるE50VシリーズOSDメニューの例(超解像の操作)

 今後の製品展開について、発表会では21.5型以上の16:9モデルをリーディングマーケットとする見方を示していたが、パク氏によれば「無視できないくらい23型の割合が増えている。来年あたりには23型がメインになるのでは」としている。

 これまでも、市場の変化に対応し、LEDによる高コントラスト化や省エネなどの付加価値も合わせて提供することで日本国内におけるフルHDディスプレイの拡大にも大きく寄与してきた同社だが、今後も、品質に厳しい日本のコンシューマに対する積極的な製品展開は変えないようだ。

 18日の発表会でも示したとおり、'09年度のメーカー別実績を見ると(Display Searchと同社調査)、売上金額では5位だったが、平均単価では2位になったという。このことから、製品の価格だけでなく、16:9モデルの早期投入など機能面での付加価値が市場で認められたと見ている。

 パク氏は「ブランドだけを見て買うという時代は去った。国内市場だけのメーカーと、世界で2,000万台を売るメーカーの競争力は違う」と自信を見せる。その裏付けには、画質の要であるLG Displayのパネルや、子会社のイノテックから調達する部品などグループ内での「自給自足」(パク氏)があり、製品サイクルが早くなったディスプレイ市場においても、素早い意思決定で対応しやすいという点がある。同社はLEDに続き、超解像や3Dなどの付加価値を普及モデルにも拡大する方針を示しており、今後は、IPSモデルの拡充など新しい製品展開にも期待が持てそうだ。



(2010年 2月 23日)

[AV Watch編集部 中林暁]