『カーナビには“音を出す機能”はあるけれど、とてもオーディオ機器とは言えない音しかしない』
そんな諦めを持っていた筆者にとって目からウロコだったのが、パイオニアのサイバーナビ2017年モデルだった。音質面での素性が良い“ハイレゾ音源をハイレゾらしく再生する”ことを目指した2017年モデルは、高速プロセッサや大型ディスプレイ、大容量ストレージなど、オーディオ製品の環境としては最悪とも言えるカーナビというパッケージにもかかわらず、オーディオ機器としての品位を主張する製品だった。
ハイレゾ音源の良さとは情報量の多さだ。では情報量の多さとはなにかと言えば、音の質感…… たとえば、ほんの少しの演奏のニュアンス、硬いあるいは柔らかいといった質感の描き分けが繊細で、音場全体にうっすらと音の余韻が漂う。そんな表現、情報が感じられることだと言えよう。
そうした情報量をスッパリ諦め、雰囲気的に良さそうに聞こえる音というのは、作れなくはない。少なくとも耳あたりの良い音にはなるはずだが、それではハイレゾ再生をサポートする意味がない。
2017年サイバーナビが追い求めたのは、徹底した消費者目線だと言えるだろう。スペックだけのハイレゾ対応ではなく、ハイレゾ音源の良さを表現できてこそのハイレゾ対応であるべきだ。
そして今年、2018年のサイバーナビは、前年モデルの基本設計を踏襲しており、昨年モデルよりもチューニング面で進化してより良い音になってこそすれ、「音関係」において退化している部分はひとつもない。
カーナビという製品の音質を底上げし「ハイレゾ音源のソース機器として使ってもらうなら、当然、ここを追い求めるべきだ」という世論の空気を作った点は見事。それまでもいくつかの音質を売りにしたモデルが業界内に存在していたが、根本に立ち返れば「カーナビでもここまでできる」という、新しい基準点を作った。
これだけでも賞賛に値するが、驚いたのがサイバーナビに「χシリーズ」が追加されるというニュースだった。筆者は決してカーオーディオのファンではないが、パイオニア カーオーディオの中でもハイエンドで、専門店のみで扱われる「カロッツェリアχ」の存在については知っている。
サイバーナビ χシリーズはカロッツェリアχとは別ものとはいえ、カーオーディオにおいて、常に特別な存在であり続けた「χ」を名乗るのは、単なるマーケティングワードとしてのブランドの消費なのか、それとも「χを名乗るだけの実力がある」ということなのか。発表のヘッドラインだけで、ここまで想像力を喚起する製品はそうそう現れるものではない。
新たなシリーズの名を冠する「異常」なクオリティとは?
そして、先に結論を言っておくが、サイバーナビ χシリーズは、シビアな音質調整が求められる本格ホームオーディオの世界の基準においても傑出した特別な製品だと断言したい。標準モデルのカーナビに対して、わずか10万円あまりの価格アップでここまでの品質向上が得られるなら、誰がなんと言おうと本機を選ぶべきだと主張しておきたい。
もともとポテンシャルの高い2017年サイバーナビの性能を継承する「AVIC-CZ902」。そのオーディオパートに、さらなる高みを目指すべく、高級オーディオ機器と同様の音質検討を経た部品選び、メカニカルチューニングを経た「AVIC-CZ902XS」は、サイバーナビの“音のハイエンドモデル”としてオーディオ専用機材も顔負けの品位を実現している。
型名からもわかるとおり、基本的な部分は同じだ。しかし「XS」、χシリーズを示す型名では、話を聞いているだけで笑ってしまいそうなほどのこだわりが込められている。だが、しかし、このサイバーナビ χシリーズの“異常”さは、開発ストーリーや高級な部品を採用しているといった、字面ですぐに伝わるような事実関係ではなく、音質そのものにある。
川越のパイオニア・サイバーナビ開発拠点の試聴室で、例によってリファレンススピーカー / TAD Reference-One(以下、TAD-R1)を用いた試聴では、あるいは多くのホームオーディオ機器を超えるのではないか?と思える、力強い音だった。まさに常軌を逸した能力である。
まず、接続されているTAD-R1。ツイーター、スコーカーの振動板にベリリウムを用いたこのスピーカーは、もちろん、その同軸ユニットも特別だが、ダンパーを強く効かせたダブルウーファーも特別なものだ。長いストロークと強力なボイスコイル、それに高いダンピングを持つユニットを正確に動かすには、アンプとしての基礎体力が求められる。
昨年この場所を訪れ、2017年のサイバーナビを試聴した際にも、さすがにTAD-R1でデモするのは厳しいのではないか?という疑問を提示した。しかし実際に試聴してみれば、内蔵アンプながらTAD-R1をきちんと駆動し、ハイレゾの持つ豊富な情報量、魅力をしっかりと耳へと伝えてくれるものだった。
しかし、一方で音の立ち上がりにおける瞬発力はあるものの“止まる”方向……すなわち制動力には物足りなさが残り、低域の力感、揺るぎなさといった面では難しさを感じたのも事実だ。これは2017年サイバーナビの試聴レポートでも書いた。
ところが基本的なオーディオ回路構成は同じはずの2018年サイバーナビにもかかわらず、それをベースに音を追求したサイバーナビ χシリーズは、「圧倒的な違い」という表現、言葉が陳腐に思えてくるほど、同じジャンル、同じ筐体とは思えないほどの進化を果たしていた。
TAD-R1のダブルウーファーが、見事な制動力をもって駆動され、低域に解像力と細かな質感の描き分けをもたらしていたのだ。ホームオーディオ向けの本格アンプでも、きちんと鳴らすことが難しいこのスピーカーに、よどみなくダイアフラムが追従する解像度の高い低域再生をもたらす。
パイオニアのエンジニアには申し訳ないが、そんなことがカーナビという名のコンピュータを詰め込んだ小さな2DINの箱でできるとは、とても思えない。「意味あるハイレゾ再生を」と始まったサイバーナビのさらなる音質向上への挑戦だが、とうとう本格オーディオとして評価できるレベルになるとは……。
おそらく、この記事をご覧の方の中には「そんな馬鹿なことを」と失笑している方もいるのではないだろうか。だが、実際に聴き比べてみれば、その圧倒的な違いに唖然とするはずだ。なにしろ、あれほど「ナビとしては最高レベル、圧倒的な音質向上」と思っていた2017年サイバーナビの音がかすんでしまうほどの進化である。
「まったくとんでもない製品を作ったものだ」
まず聴いてみたのはドナルド・フェイゲンの「Morph the Cat」。
冒頭のキックドラムとベースラインはアンプの駆動力を求められるパートだが、危なげなくウーファーが駆動されるのが印象的だ。広帯域で一気に立ち上がるキックドラムの瞬発力、制動力が効いたベースラインのグルーヴ感、いずれも淀みなく“歌い上げる”かのようだ。とりわけベース奏者の意図する表情が明確で、トーンがくっきりと浮かび上がる。
そこに続くヴォーカル、ハイハットは、標準モデルのサイバーナビは若干の濁り感を感じるが、サイバーナビ χシリーズでは澄み渡ったまま、明瞭な音の輪郭とそこから拡がる空気感がキレイに描かれた。
この一曲目だけで、“TAD-R1を手懐ける”という無茶苦茶な挑戦を成し遂げていることがわかった。あとから聞いたことだが、開発陣も当初より低域の制動力に問題があると考え、トロイダルコイルの形状、巻線の太さ、巻数などを変更することで、内蔵するパワーICを変えることなくパワーアンプの基礎体力を上げることを目指したとのことだ。
次に聴いたのはカーペンターズの「Sing」。
誰でも知っているド定番のこの曲は、カレン・カーペンターの声とポロポロと軽めのピアノ伴奏で始まるシンプルなアレンジで始まり、そこにブラスが入り、徐々にボリューム感を増しながら、楽器の音が増え、子どもたちのコーラスなどが入ってくる。その間、音場が徐々に大きくなり、タイトだったエアのボリュームも開放的に広がっていく。
その楽器の位置関係、音場表現の的確さなどは、高価なホームオーディオでもリアリティをもって表現するのは難しい。実際、あれほど良くなったと褒めたサイバーナビのオーディオ回路も、AVIC-CZ902はよく整った音ではあるが、そこに細かな音場表現を語るようなものではない。
ところが、こちらのお題でもサイバーナビ χシリーズは面白いほど、楽曲の良さを引き出していた。たとえばカレンが声を伸びやかに張り上げたとき、歪っぽさが付帯音としてつきまとうことなく、あくまで静寂の中にその評定が浮かび上がる。徐々に楽器音が増えていき、左右だけでなく、奥行方向にも音が折り重なり立体的な音場が出来上がってくる。
圧巻は最後のストリングスとコーラス。ここで一気に室内から屋外へと出かけるように開放的な空間が描かれ、音場の切れ目を感じることなく自然なグラデーションを描いて半円球の大きな音場に幸福感があふれ出すのだ。最後のボリューム感ある音場の中にあって、各楽器音とヴォーカル、子どもたちの声がしっかり分離している点も素晴らしい。
これは情報量が圧倒的に増えていることを示している。簡単に言えば「S/Nがいい」のだ。S/Nといっても、様々な要因があり、ホームオーディオでも機構設計による振動のコントロール、グランドや信号ラインの取り回し、導電部の素材選びなどを丁寧に行って調整していく必要があるが、何しろ基本構造はナビのままなのだから、いったいどうやってこれを実現したのやら、頭が混乱してくる。
最後にSHANTIの「Lovin’you」を聴いてみる。この曲は声、バッキングのギター、そして最後に出てくるドラム。どれも極めてシンプルに透明感ある音でまとめられている。しかもハイレゾ音源向けに研ぎ澄まされた刃物のような、ほっそりとした音像の輪郭に豊かな表情が乗ってくる。とりわけギターの低弦と胴の鳴りがどこまで豊かに表現できるか。ここまでの実力があるならばと期待して聴いたが、そのぐらいは当たり前にこなすとばかりに、さらりと課題をクリアしてくれた。
出だしのヴォーカルにまとわりつくようなニュアンス、シンプルなアレンジの中にも漂う空気感、そしてギターの鳴りにドラムの表情。ヴォーカリスト、演奏者の緊張感を伝えてくる情報量の多さ、表情豊かな低域の質感。いずれも標準モデルとの比較に意味があるとは思えないほど。単なる“チューニングモデル”と呼べる域を遥かに超えている。まったく、とんでもない製品を作ったものだ。
サイバーナビ χシリーズと標準モデルの違いとは?
念のために申し添えておきたいのだが、この時に聴き比べた2018年モデルのサイバーナビは、2017年に大幅な高音質化を図ったものと同じオーディオ回路、部品が採用されている。つまり昨年、あれだけ好評を博した2017年サイバーナビから音質が落ちているわけではない。ではなぜこれほどまでの違いが出てくるのか。
実は2017年に施されたオーディオ設計の抜本改善が、χシリーズで飛躍的に音質を高める基礎となっているという。カーナビの高音質設計ではハイエンド・オーディオのTADシリーズを開発するエンジニアがアドバイザーとしてサポートすることで、設計の上流から高音質設計のノウハウが仕込まれている。
それはグランドのとり方であり、シャーシを流れる電流の流路を意識した筐体設計であり、振動を意識した筐体構造の考え方などだ。デジタルとアナログの信号経路や配置、搭載するLSI/ICとの位置関係などももちろん関係してくる。
それらあらゆる部分で音質を優先させた設計を、あらかじめ2017年サイバーナビで行っていたため、より良質な部品を採用することで「素性の良さ」、すなわち基礎設計の良さが持つ潜在能力を引き出す余地を広げたのだ。
たとえば応答速度の速い部品や超低雑音特性のマスタークロックにしました……といったところで、元の設計が悪ければ信号が汚れ、結果的に改善するはずの良さもノイズに埋もれてしまう。もちろん、少しばかり音の質感は良くなるが、基本設計が悪ければ、その改善度合いも知れたものとなり、極めてコストパフォーマンスが悪い。
しかし、この記事を読んでいる読者が、標準モデルとサイバーナビ χシリーズの価格差をどう捉えるかはわからないが、この本体価格の差は“バーゲン”としか言いようがない。ホームオーディオの世界でこれだけの違いを出したなら、今の2倍の値差は出るだろう。
この価格差で圧倒的な音質の良さを引き出せたのは、高級オーディオ向けの高音質部品が効果的に効くように設計していたからこそなのだ。
「元々、音質検討をした特注のケミカルコンデンサーを採用していますが、今回はそのスリーブ(絶縁カバー)素材を変えたり、銅メッキシャーシで高周波インピーダンスを下げたり、あるいは銅メッキビスでシャーシに流れるノイズをコントロールしています。そうした変更を一つひとつ積み重ねることで、FANを固定するビス1本の変更でさえ効果が分かるほどになりました。これはベースモデルが持っている潜在能力を最大限に引き出した結果です」
パイオニアは今年80周年になるが、元はスピーカーのメーカーとして始まり、幾度かのオーディオブームの中で成長してきた経緯がある。ユーザーに分かりやすく説明するには「高価な部品を使った」というのが一番分かりやすいのだが、実際には部品を変え、様々な検討を重ねた効果がきちんと結果に表れる。そんな素性の良いベースモデルを仕込んでおけるだけのノウハウの伝承が、サイバーナビ χシリーズを生み出したということだ。
80年という歴史の積み重ねが、現在、こうしてカーナビの中で活かされるとは誰が想像しただろうか。
写真で見るサイバーナビ χシリーズと標準モデルの違い
サイバーナビ χシリーズと標準モデルの中身を写真で比較してみた。写真左がχシリーズ、右が標準モデルになる。一番分かりやすい違いが銅メッキシャーシだろう。これだけでも非常に大きな差が出るのだとか。
次に基板を見比べれると、基板は同じなのが分かる。これは2017年モデルから追い込んだ設計ができていた証。その上で、電源用アルミ電解コンデンサーはホームオーディオでの経験を生かした完全オリジナルレシピ。スリーブも素材を変更することで制震性を向上している。また電源ラインのトロイダルコイルもコイルの線を太く短くすることで、エネルギーロスの低減、低域のグリップ感や制動力を増加している。
アンプには、国内市販カーナビとして初めて、ハイエンドオーディオ用のMUSESシリーズを採用。I/V変換回路のオペアンプには新日本無線社製「MUSES8920」を、LPF回路には「MUSES8820」をと、アナログオーディオ回路のすべてのオペアンプにMUSESシリーズを採用している。基板を裏側から見るとオペアンプだけでなく、その周囲の抵抗も変更されているのがわかる。
パイオニア80年の歴史に伝承される高音質のノウハウ
筆者自身、ホームオーディオの世界では、幾多の“チューニングモデル”の開発に関わったことがある。それ故に、チューニングで音が変わることに驚きはないのだが、今回はそうした経験からくる想像を遥かに超えていた。
部品選定も時間がかかる作業だが、たとえば銅メッキビスなども、すべてのビスを銅メッキにすれば良いわけではなく、ポイントを抑えて必要なところに使い、締め付けトルクなどもコントロールしていくものだ。そうしたチューニングは属人的な部分もあるが、時間もかかる。
パイオニアの話では、TADのエンジニアが全体の音質設計アドバイスを行い、カーナビ部門のエンジニアが回路設計、全体の音質設計担当それぞれに耳で聴きながらチューニングを施していくことを繰り返したという。
よく見ると銅メッキビスを使っているところと使っていないところがある。これはノイズを逃がす方向をコントロールするため。様々な組み合わせを試してこの形にたどり着いたと言う
電源ケーブルや外部入出力ケーブルにはOFCを採用。これもチューニングの結果の選択だと言う
数少ない音質マイスターが、そのノウハウをもってチューニングするのではなく、マイスターがカーナビ開発に携わるエンジニアにノウハウを伝承していくというスタイルを採用している点は興味深い。
なぜなら、本機のとんでもないポテンシャルを知った時、一番に浮かんできた疑問があるからだ。その疑問とは「サイバーナビ χシリーズがパイオニア創業80周年に開発された特殊なモデルなのか、それとも今後も継続していく意志のある製品シリーズなのか」という点だ。
オーディオというアナログな設計要素が強い製品は、作り込み、磨き込むことで商品力を高め、普遍的な価値を創出できる。ところがカーナビというデジタルな価値観に支配されたパートは、どうしても定期的なアップグレードが必要だ。ソフトウェアは入れ替えられても、処理能力は時代に合わせて高めていかねばならない。次のサイバーナビにはχシリーズはない。あるいは次のサイバーナビは音質が落ちるなんてことことも考えられる。
しかし、開発プロセスを聞いている限り、パイオニアは本気でTAD、エクスクルーシブをはじめとする創業から80年培ってきた高音質技術、すなわち基礎体力の高め方からチューニングのプロセスをカーナビの設計エンジニアに伝授しようとしている。ならば、今後も……という期待が高まろうというものだ。
この点について質問すると、次のような答えが帰ってきた。
「今回の音のハイエンドモデルは当初、創業80周年の節目に新しいサイバーナビの音にこだわった新しいものを登場させたいという企画でした。実際音質調整をしてみると、毎日、驚くほど音が良くなっていく。それが結果的に、カーオーディオ業界においても“χシリーズの音を名乗るにふさわしい音”となってくれて、高音質を追求する多くの人に使って頂けるよう、通常のラインアップ以外のシリーズ展開と、徐々に社内での存在感が大きくなってきました」
その結果、社内でも「あいつらは面白そうなことをやってるぞ」と、自分ももっといい製品を作ってやるとモチベーションを高めているエンジニアが続出しているとのことだ。良い意味でサイバーナビ χシリーズの出した結果が、「きちんとノウハウを盛り込めばナビでも音が良くなる」というコンセンサスを社内にもたらし、高音質モデル開発のハードルが下がった。そうなってくると、ナビ全体の機構設計から電源系統の分離を含めた部分まで遡って高音質設計の仕込みが入れられるようになる。
つまりは、将来登場するであろう次世代のサイバーナビでは、さらなる音の高みを目指したモデルが登場するのかもしれない。しかし誤解を避けるためにひとつだけ頭に入れておいて欲しいことがあるという。
サイバーナビ χシリーズはベースとなるモデルを元に音を追求したモデルであり、完成させるにはベースモデルが出来上がってから1年以上の猶予が必要だ。2018年サイバーナビ χシリーズも、最後の仕上がりが3月初旬と、まさにギリギリのタイミングまで追い込んでいる。
つまり次世代サイバーナビが発売されたとしても、すぐにサイバーナビ χシリーズの販売計画が発表されるわけではない。また、現時点で必ずしもリリースできると断言することはできないが「次世代サイバーナビの発表後、すぐに用意がないからといって残念には思わないで欲しい」と話した。
トヨタ86で試聴
さて、最後にトヨタ86にインストールされたAVIC-CZ902XSの印象についてもお伝えしておきたい。エンジンまわりや風切音、ロードノイズなどを拾う車内では、これほどの情報量があっても、たいした違いは出ないのでは?と思うかもしれないが、不思議とTAD-R1で確認したキャラクターが、そのまま車内の環境でも反映されていた。
86へのインストールは、17cmウーファーのセパレート型ユニット「TS-V173S」を用いたもので、サイバーナビ内蔵の4チャンネルアンプを用いたマルチアンプ駆動だ。昨年、2017年サイバーナビの音質をチェックした時とほぼ同じ構成だ。
スピーカーはフロント2Wayの「TS-V173S」を装着。プロによるインストールではあるが、サブウーファーも用いず、アンプも内蔵アンプで鳴らしている
実際、17cm径というカーオーディオ用としては極めて常識的なサイズのスピーカーと組み合わせると、試聴室で聴いたときよりも、さらに音の立ち上がりが素早く、さらに高い制動感も感じた。内蔵アンプでありながらウーファーの動きを完全にコントロール下に置き、極めて正確に動かしていると感じるのだ。
試しにマーカス・ミラーのAfrodeeziaから「HYLIFE」を選んで再生させると、弦を弾けるような音の立ち上がりはもちろん、親指で叩き、そのまま指でミュートしたときの制動感など、演奏テクニックによって与えられる表情が、極めて豊かに、深い表情で描かれる。ありふれた言葉だが、解像力の高さが際立つのだ。ベースでチョーキングした時のニュアンスが、まるで生で演奏を聴いているようだった。
サイバーナビ χシリーズは、カロッツェリアχ認定店を中心とした販売店での取り扱いとなるため、自分がよく聴く音源を持ち込んで、しっかりとインストール時のチューンをしてもらえば問題ないはずだ。(サイバーナビ χシリーズ取扱店はこちら)
装着状態。本体のハードキーや、手元で操作できるスマートコマンダーのロータリー部分がχシリーズだけのローズゴールドになる
今後、一体型カーナビを使ってインストールしたデモカーを作るなら、この製品以外では競争力がなくなるだろう……というぐらいの圧倒的な差を感じさせるAVIC-CZ902XS。本機を使ったデモカー体験が広がれば、全国のいたるところで「こんなにも凄くなったのか!?」と驚きの声が上がるに違いない。