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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第48回:おやぁなにげに最強ですかぁ!?
~一見怪しい49,800円の「ロクラク」はスゴイぞ~


■ 想像より、ちゃんとしていた!

 世の中には写真写りの悪い人というのがいて、かく言う筆者もその一人である。このコラムの一番下にある写真では眠そうな目をしたバカ男にしか見えないが、実際に会ってみると腫れぼったい目をしたバカ男であることがわかる。大して違わないか?

 さて去年末に1,000台の限定モニタ販売としてニュースリリースに載ったこのロクラクという製品も、言ってみれば非常に写真写りの悪い製品である。どの写真を見ても、正直言って全然欲しくならない。オフィシャルサイトに至っては会社説明も何もなくいきなり購入方法がバーンとあるだけであり、こっ、これって典型的な「買い物しちゃマズいサイト」の作りでは……。担当などは「本当にこれ、売ってるんでしょうかぁ?」と、根本的なトコロにまで疑い出す始末。

 しかし、来たのですよついに貸出機が。これがうっかり買っちゃったものなら今頃は編集部で骨だけになっているハズだが、さすがにドライバを持ったアリさんども(【2月6日】第46回を参照せよ)も、貸出機には手が出せなかったようで、無事筆者宅へ届けられたのである。

 さっそく本体を取り出してみると、おろ? 意外といいじゃない。ボディはおおむね樹脂製だが安っぽさはない。想像したよりも小さく、作りもしっかりしている。誰だよアヤシイなんて失礼なことを言ったのは。オレか?。フロントパネルに思いっきりカタカナで「ロクラク」と書いてあるのが家電っぽいが、感じとしてはPC用高級外付けHDDドライブといった風情だ。

 情報段階ではアヤしさ大爆発だったロクラク、実際のところはどうなのか、さっそく探ってみよう。なお、現在実施されているのはモニタ販売のみで、春頃に正式な販売開始が予定されている。

フロントパネルにあるボタン類。本体だけでも基本操作はできる 背面パネル。ブランクになっているのは上位モデル用端子 赤外線リモコンが付属する。ほとんどの操作はリモコンで行なうことになる


■ まずは画質チェック

 ロクラクには、「標準」、「マルチ」(69,800円)、「スーパー」(79,800円)の3種類がラインナップされている。今回お借りしたのは、最も機能の少ない「標準」である。

 ロクラクの機能をみてみると、微妙に今までありそうでなかった感じの製品ということがわかる。まず簡単に説明すると、これは単体のみでTVの録画と再生が可能なHDDレコーダである。この形状とUSBで繋がるというところから、よくあるUSB接続のTVキャプチャユニットのように思われがちだが、実際はスタンドアローンのHDDレコーダがパソコンに繋がるよ、という製品なのである。パソコンに繋がることで、ロクラクで録った番組をパソコンに転送して視聴したり、メールで録画予約ができたりするのだ。

 ではまず本体の機能から調べてみよう。録画品質は、「長時間」、「標準」、「高画質」3種類で、それぞれに対して「ドラマ」と「スポーツ」なる画質を選択できる。それぞれ組み合わせで微妙にビットレートが変わるようだ。このモデルの場合MPEGは基本的にVBRのみで、上位モデルの「ロクラクスーパー」になると手動でCBRも選択できるらしい。

ロクラクの画質設定メニュー。選択によって録画ビットレートが違う 再生画面にはビットレートグラフをオーバーレイできる

【ビットレート】
録画品質画質平均ビットレート最高ビットレート音声ビットレート
長時間ドラマ2Mbps5Mbps96kbps
スポーツ3Mbps5Mbps96kbps
標準ドラマ6Mbps9Mbps192kbps
スポーツ4Mbps9Mbps192kbps
高画質ドラマ8Mbps12Mbps384kbps
スポーツ9Mbps12Mbps384kbps

 「長時間」では画像サイズが352×240ピクセルになるため、映像はフィールド単位ではなくフレーム単位で表示される。また録画された映像のうえにビットレートのメーターをオーバーレイすることができるのはなかなかマニアックである。どのシーンでビットレートが変動するかを見るのもまた楽しいものだ。

 各録画品質はまたまた編集部ががんばってキャプチャしてくれたので、それを参考にしていただこう。


 編集部で、TVチューナの画質評価も同時にするためRF入力からの録画を行なった。

 素材にはカノープス株式会社の、プロ向け高画質動画素材集「CREATIVECAST Professional」をDVテープに書き出して使用。なお、サンプル版なので、画面右端にロゴが焼きこまれている。

 そのDVテープをDVデッキ「ソニー WV-DR5」で再生し、内蔵のRFコンバータで2chのTV信号として出力。それをキャプチャした(すべてCBR、DNR ON)。

 左の各サムネイルは、上の画像の赤枠内を拡大したもの。各モードの画像をクリックすると再生が始まる。サムネイルは「PowerDVD XP」で再生し静止画キャプチャを行ない作成した。

 その際、 長時間モードとそれ以外は記録解像度が異なるため、全モードとも800×600ドットで再生し条件を揃えた。

(c)CREATIVECAST Professional

【スポーツ】 【ドラマ】



【MPEG-2形式】
高画質/スポーツ
(720×480ドット)

hi_sport.mpg
(約21.2MB)
【MPEG-2形式】
高画質/ドラマ
(720×480ドット)

hi_drama.mpg
(約19.3MB)

【MPEG-2形式】
標準/スポーツ
(720×480ドット)

sport.mpg
(約10.9MB)
【MPEG-2形式】
標準/ドラマ
(720×480ドット)

drama.mpg
(約15.7MB)


【MPEG-2形式】
長時間/スポーツ
(352×240ドット)

lo_sport.mpg
(約7.1MB)
【MPEG-2形式】
長時間/スポーツ
(352×240ドット)

lo_drama.mpg
(約5.6MB)

録画開始時刻に終了時刻も追従するなど、基本機能はしっかりしている

 録画してみた感じでは、RF信号さえ良ければ「標準」モードでもかなり良好な結果が得られる。というのもなんかこのロクラク、チューナユニットが少し弱いようだ。筆者宅のように多重に分配機をかまして若干RFが減衰した状態だと、ほかのテレビやチューナカードではOKのレベルであっても、ロクラクでは映りが悪いのである。もちろんこれは分配を減らしたり、ロクラク自身にもRFのスルーがあるので極力アンテナから近い方に繋いでやるなど、配線を工夫すれば改善することができる。

 予約機能には、iEPGやEPG、Gコードといった予約補助機能はない。リモコンで手動入力のみである。メールで予約を行なう機能もあるが、これはどちらかというと外出先などからリモート予約するという使い方になるだろう。これに関しては後述する。また、メニュー画面の配色も、数種類の組み合わせから好みの配色を選ぶことができる。


■ PCとの接続

 ロクラク最大の特徴として、パソコンとの連携がある。付属アプリケーションの「ロクラクコントローラ」を使用すると、ロクラク内に収録されている番組のサムネイルが一覧で表示され、パソコン側から再生などのコントロールができる。

 もちろん、それだけではただのリモコン代わりなのでたいして便利でもないが、このソフトを使ってロクラク内の映像をパソコンに転送することができる。録画した番組をノートパソコンなどに移して移動中に見る、といったことができるわけだ。

パソコンに接続すると「Digital Video Hard Disk」として認識される ロクラクコントローラ画面。サムネイルで録画内容が確認できる

 面白いのは、転送されたMPEGファイルが、MPEG-2トランスポートストリーム(TS)になっていること。トランスポートストリームは、1つのMPEGファイルの中に複数のストリームを含む形式で、普通はもっと放送機器寄りの、伝送系の製品に使用されるフォーマットであり、家電でこれは珍しい。筆者はトランスポートストリームの拡張子が「m2t」であることを初めて知った。

 当然パソコン側には、トランスポートストリームをそのまま再生できるものは、今のところほとんどない。そこでこのロクラクコントローラでは、トランスポートストリームをプログラムストリーム(PS)に変換する機能も持っている。基本設定でMPEG-2再生アプリケーションを登録しておけば、ストリーム変換からアプリケーション起動、そして再生までをボタン1つで連続実行することができる。このあたりはなかなかそつがない。というよりも、設計が濃い。

 ただしその転送は、USB 1.1による接続に頼るわけで、かなり遅い。標準以上の画質で録画した場合は、番組実時間よりも転送に時間がかかってしまう。パソコンに転送してみる番組はある程度決め打ちして、長時間録画モードで予約しておくというのが現実的な線だろう。

 おそらく多くの人が考えているのは、パソコンに転送された映像を使ってDVDを作る、ということだろう。だがロクラクが記録するMPEG-2はVBRの範囲が広いので、そのままではDVDビデオ規格からはみ出してしまうケースも少なくない。したがって多くの場合、オーサリングソフトが受け付けないのではないかと思われる。

 もう1つの付属ソフト「ロクラクメール予約」は、パソコンに常駐するタイプのソフトウェアだ。ロクラク本体と接続しているパソコンのメーラーが自動受信になっていれば、特定の予約メールを受信することで予約情報をロクラク本体に送るのである。

 たとえばケータイなどからメールのタイトルを「Rokuraku reserve mail」として、本文に

START=1900
END=1955
CHAN=4
QUALITY=2

 と書いて送るだけで、本日19時から19時55分まで4チャンネルを高画質録画、という予約ができる。実際に試して本当に動くところを目の当たりにしてみると、確かにこれはおもしろい機能だ。誰もいないのにパソコンでメール受信させとくのか、という現実的な問題はあるが、最近ではケータイにメール転送などするために、自宅にサーバーを立てている人も多いと聞く。そういうマシンを活用してもいいだろう。CATVやADSLなど常時接続が普及し始めている現在では、その気になればやれないこともないのではないかと思う。


■ 充実の本体機能

 ロクラク本体にも、独創的な機能が数多くある。たとえば「リング録画」機能もその1つだ。リング録画は一般的に言うところの追っかけ再生である。HDDの特定部分にバッファを設け、そこにループレコーディングを行なう。ユーザーはリアルタイムの放送をそのバッファを通して見るので、いつでも巻き戻して必要なシーンを見直すことができるし、それが終わればリアルタイム付近まで追いつくこともできる。

 ロクラクのリング録画がユニークなところは、一日のチャンネルのスケジュールが事前に決められるのである。時間が進むにつれてそのスケジュール通り自動的にチャンネルを切り替えていくので、ただ寝転がっているだけで1日中みたい番組を見逃すことがなくなるというわけだ。ずいぶんモノグサな機能だが、土日など見る番組が決まっているという人にはおもしろい機能だろう。

リング録画のスケジュールチャート。この通りにチャンネルが切り替えられる HDDの使用状況はWindowsのプロパティライクでわかりやすい

 録画した番組ファイルは、ただ見るだけでなく、内部で編集することもできる。ファイルコピーや分離、連結、不要部分の削除といったこともリモコン操作で行なえる。番組を見たあと特定のコーナーだけ切り出して保存、といった使い方が考えられる。

 再生に関しておもしろいのは、プログラム再生機能だ。これは録画した番組を並べてプレイリストを作る機能で、録り貯めた番組を土日に一気に見るといったことができる。GUIもわかりやすく、サムネイルを登録していくことでリストを作成するだけだ。

ファイルインフォメーションで番組を選択すると、さまざまな編集が可能 プログラム再生は、いわゆるプレイリスト作成機能である


■ 総論

 現在テレビ録画デバイスは、完全に家電系かパソコン系かにきっぱり分かれている。しかし我々パソコンユーザーにとっては、家電特有の単体で安定動作する点やリモコンでの操作性は欲しいが、かといってパソコンと全く無縁の製品であることも少々さびしいわけである。

 ロクラクのおもしろいところは、49,800円という安価でありながらも、家電HDDレコーダがいつかやるだろう、と思っていたパソコンとのリンクがすでに実現できている点だ。DVD関係が絡んでいないのでビットレートも遠慮なしに高く取れるし、転送は遅いが画像転送できる。録画予約にiEPGなどの補助機能が使えないのは残念だが、メール予約がそれを補ってくれるだろう。

 一方で非常に多機能な故に、使いこなすのがなかなか大変だ。ほとんどの操作をリモコンで行なわなければならないが、操作の基本ルールを覚えていないと、メニューの中で立ち往生することになる。というのも、頻繁に変更する機能も初期設定部分も、すべて並列で扱われているような部分があるからだ。

 あくまでもロクラクは、徹底的に機能を引き出していじりたいパワーユーザーがじっくり遊ぶという製品だろう。昔ターミナルソフト用の自動巡回マクロを死ぬほど書きましたみたいな、あるいは未だにバッチファイル書いて定形作業やらせるの得意みたいな、いわゆる「自動実行マニア」ならたまらないところがある製品といえる。従って普通に家電HDDレコーダとして流通してもちょっと違うかな、という感じも同時に受けるのである。

□日本デジタル家電のホームページ
http://www.nihondc.co.jp/
□関連記事
【2001年12月14日】日本デジタル家電、HDDレコーダを49,800円でモニタ販売
―40GB HDDを内蔵し、USB接続対応。D1装備の上級機も
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011214/ndk.htm

(2002年2月20日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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