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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第58回:テレビ録画機能がついにノートPCに!
~ かなーり遊べる今度の「VAIO C1MSX」 ~


■ 本体にほとんど変化はないが……

 通常、1メーカーのパソコンであれば、新製品ラインナップは1度に発表が行なわれ、発売もだいたい同じ時期に集中する。春モデル、夏モデル、冬モデルといった具合にひとくくりにできるものだ。

 しかし「VAIO C1シリーズ」は、そのタイミングからいつも微妙に外れている。春モデルが入学・就職ターゲット、夏冬モデルがボーナスターゲットであることは間違いないが、C1はそれらのシーズンとか雰囲気とかイキオイとは関係なく、その隙間に投入される感じなのだ。この意味を考えるに、C1なら機能的な冒険が許され、またそれを狙って買うユーザー層がはっきり存在するということなのである。

 さてそのC1シリーズは、VAIOラインナップの中で最小を誇っていたわけだが、今回はその地位を「VAIO U」に譲る形となった。新C1「PCG-C1MSX」は、本体自体は前モデルの「PCG-C1MRX」とほとんど変わらない。CPUがCrusoe TM5800 733MHzから同867MHzに変更になり、HDDが30GBから40GBに増えたぐらい。いや、前回は機能を絞った低価格のモデル「PCG-C1MR/BP」が存在したが、今回はPCG-C1MSX 1モデルだけとなった点が「違い」と言えるかもしれない。

 今回の新C1最大の特徴は、意外(?)にも付属のポートリプリケータにある。なんとこの部分にTVチューナを内蔵して、TV録画しようというわけだ。世の中にTV録画機器はたくさんあるが、「アンテナを繋ぐだけでTV録画可能なPC」としてはおそらく世界最小ではないだろうか。

 世間の注目はVAIO Uに集まっているが、AV Watch的にはやはりこのC1が面白い。さっそくこのTV録画機能を試してみることにしよう。


キモはポートリプリケータ!

 C1MSX本体には、前モデルから引き続きMPEG-2ハードウェアエンコーダ「MPEG2 R-Engine」が搭載されている。しかしながら従来機ではせっかくのハードウェアエンコーダも、キャプチャソフトの「Smart CapturePremium」を使って付属のカメラ「MOTION EYE」からの映像か、ポートリプリケータを使っての外部ビデオ入力のみしかその利用方法がなかった。しかし今回、ポートリプリケータにTVチューナを内蔵したことで、MPEG2 R-Engineの利用価値が一気に向上した。

 C1本体の特徴は前回のレビューを参考にして貰うとして、今回は注目のポートリプリケータを見てみよう。前モデルのものと厚みはほとんど変わらないが、縦が短くなったぶん横幅が伸びた。サイズ的には、ちょうど文庫本を半分にしたぐらいの大きさ。重さを量ってみたところ、約170gであった。たったこれだけのサイズでPCモニタ出力、ネットワーク、USB、ビデオとオーディオ2chの入力と出力、そしてTVアンテナ入力をサポートする。内部的な配線は知る由もないが、端子をL字型に並べて、よくチューナユニットまで収まったものだ。

 TV入力端子はミニジャックになっており、付属の変換ケーブルでアンテナ線と接続する。変換ケーブルは、すでにあるアンテナ線に接続する短いタイプのものと、壁のアンテナ端子や分配器の出力に直接接続するための長いものと2種類付属する。

注目のポートリプリケータ。見かけよりもずいぶん軽い同梱のTVアンテナケーブル2種

録画管理ソフトのビデオエクスプローラ。使い勝手はデスクトップと同じ
 録画・再生ソフトウェアは、VAIO Wに搭載されて話題になった「GigaPocket LE」である。ただしVAIO Wではソフトウェアエンコードであるため、テレビ録画が352×240ピクセル、ビットレートは3Mbpsでしか記録できないのに対し、C1MSXではMPEG2 R-Engineを使ってハードウェアエンコードするため、解像度は720×480ピクセル、ビットレートは約8Mbpsの「高画質」、約4Mbpsの「標準」の2種類が使える。

 つまり、TV録画に関しては、C1MSXの方が高機能なのだ。もっとも値段的にもちょっとこちらの方が高いが……。少なくとも使い勝手に関しては、iEPG予約やタイマーによる自動録画など、VAIOが世に広めた機能はすべて網羅されており、従来のVAIOデスクトップ機となんら遜色ない出来になっている。




■ 録画品質は良好

 実際にいくつかの番組を録画してみた。TVの視聴や再生は「Gigaビデオレコーダ」で行なう。前述の通り、録画モードとして「高画質」と「標準」の2タイプがあるので、それぞれのモードで録画してみた。以下にいつもの映像を編集部でキャプチャしてくれたので、掲載しておく。

 TVチューナの性能評価を同時にするため、RF入力からの録画を行なった。

 素材にはカノープス株式会社の、プロ向け高画質動画素材集「CREATIVECAST Professional」をDVテープに書き出して使用。そのDVテープをDVデッキ「ソニー WV-DR5」で再生し、内蔵のRFコンバータで2chのTV信号として出力。それをVAIO CIMSXのGigaPocket LEでキャプチャした。

 下の各サムネイルは、左の画像の赤枠内を拡大したもの。各画像をクリックすると再生を開始する。

モード
高画質
標準
ビットレート 約8Mbps 約4Mbps
サンプル動画
解像度
720×480ドット
720×480ドット
ファイル容量
20.9MB
10.5MB

MPEG-2の再生環境はビデオカードや、ドライバ、OS、再生ソフトによって異なるため、掲載したMPEG-2画像の再生の保証はいたしかねます。また、編集部では再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 録画結果は、コントラストがややキツめになるもののおおむね良好で、C1MSX本体の液晶モニタを使った視聴では、「標準」でまったく問題ない。C1MSXに採用されている液晶は画素が細かいので、720×480ピクセルでもかなりギュッと凝縮され、細かいノイズがあっても小さくて見えないのだ。ビットレートで2倍にもなる「高画質」で録画しても、この液晶モニタ上では画質が良くなったという感じはない。ちなみに両モードで録画したファイルを分析してみると、「高画質」が7,456,800bpsのCBRで、「標準」は3,520,000bpsのCBRであった。

 C1MSXではリプリケータを通して、録画した映像をテレビモニタに出力できる。ところがだ、この機能でテレビモニタに出力してみても、録画モードの違いはほとんどわからない。というのもこの外部出力はコンポジットしかないので、画質評価に十分な出力解像度が得られないのである。

 この記事が読者のお目にかかるときにはすでに製品がリリースされているはずだが、現在筆者のところにあるマシンはプレ製品モデルである。もしかしたら製品版では、「高画質」モードではさらに画質の向上が見られるかもしれないが、現時点では「標準」での録画でクオリティ的には十分であろう。

 実際にいろいろ使ってみて気になるのは、やはりC1独特の液晶モニタサイズだ。横は広いので関係ないが、縦が600ピクセルしかないので、映像部分とその下に現われるコントロール部で、Gigaビデオレコーダはもう上下がいっぱいいっぱいだ。映像のサーチを実現するフィルムロール機能はGigaビデオレコーダの売りの1つだが、デスクトップモデルではコントロール部の下に出るところ、C1MSXでは映像画面に食い込んで表示される。このあたり、気持ちはわかるがちょっと苦しいところだ。モニターサイズに合わせて縦ロールという手もあっただろうが、他の機種とインターフェイスが合わなくなるのでやめたのかもしれない。

C1のモニタでは、Gigaビデオレコーダは上下ぎりぎり フィルムロールは画面内に食い込む

 TV映像の全画面表示には、通常の「ノーマル」と、横長液晶のメリットを生かした「ズーム」モードがある。「ノーマル」では映像の天地をモニタの天地に合わせるため、横部分が黒くマスクされる。「ズーム」ではそれよりも拡大することで、極力横長液晶を有効的に使おうとするモードだが、そのかわり通常の番組では上下が切れることになる。

 しかし一部の映画やHDTV収録の番組などは4:3画面内でレターボックスサイズで放送しているものがあり、こういうものを見るときにはちょうどよくなる。もっともこれら全画面表示はモニタサイズに合わせるというだけで、実際のピクセル数よりも拡大表示になるため、その分の「荒れ」が発生するのは他の機種と同様だ。



■ 総論

 担いだら鎖骨がメキメキいっちゃうような巨大ノートPCにテレビ録画機能が付くのは、言ってみれば順当な進化であり、想像の範囲内だ。あんだけデカきゃ入るよ何でもな。しかしVAIO C1でこれを実現したというのは、我々の想像範囲を超えている。たとえリプリケータを使用が前提でも、そのリプリケータも小さく軽量なため、全く問題にならない。いや逆に持ち歩いている間はTVチューナはいらないのだから、本体に内蔵するよりもいい。

 現在のノートパソコンなら、MPEG-2ファイルを見るということは大抵のマシンで可能だ。しかし通常は、録画したファイルをノートPCに転送する時間が必要になる。だいたい1時間番組で1.5GBほどになるが、ワイヤードの100base-TXならまだしも、ノートPCのメリットの1つ、ワイヤレスのIEEE 802.11b接続では、このサイズのファイル転送は非現実的だ。しかしC1MSXなら、アンテナ線から直接このマシンに録ってしまう。どうせ夜はACに繋いで充電などを行なうだろう。そのついでにリプリケータを繋ぎ、録画もしてしまうわけだ。行動にまったく無駄がない。

 実際にTV録画機能が付いたことで、C1はかなり「実用的に遊べる」マシンとなった。例えばC1の特徴であるMPEG2 R-Engineを使う機能といっても、MOTION EYEでの撮影やAV入力を使った録画をするには、ユーザーが気合いを入れて行動に出ないと何も起こらない。使わない人はMPEG2 R-Engineの機能を一生使わないという可能性すらある。

 しかしTV録画なんてのは、ちょこっと設定しておけばあとは勝手にやってくれて、ユーザーはその結果を楽しむだけなのである。やはりこのぐらい楽ができないと、末永く使っていくことはできない。

 なお前モデルのC1MRXおよびC1MR/BPユーザーを対象として、TV録画機能を追加する有償アップグレードも予定されている。詳しいことはまだ未定だが、考えられる線としてはこの新ポートリプリケータとGigaPocket LEのセットになるのではないかと思われる。前モデルユーザーも悔しがってハンカチの角をイーッと噛む必要はないというわけ。

 さあこのC1MSXの登場で、パソコン業界ではいよいよ「ノートでTV録画」時代の幕開けとなるのだろうか。今年の夏~冬モデルのノートPCにも注目していきたい。

□ソニーのホームページ(Sony Drive)
http://www.sony.co.jp/sd/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/PCOM/PCG-C1MSX/
□関連記事
【4月17日】ソニー、TVチューナ付きポートリプリケータ付属の新「バイオC1」
―録画・視聴用にC1専用「Giga Pocket LE」を搭載
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020417/sony1.htm
【2001年10月31日】【EZ】第33回:MPEG-2エンコーダチップ搭載ノートパソコン
~欲しくなっちゃった「VAIO C1MXR」プレ製品版レビュー~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011031/zooma33.htm
【2001年10月12日】ソニー、MPEG-2エンコーダを内蔵した新「VAIO C1」
―ボディをツートンカラーに変更し、解像度も向上
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20011012/sony01.htm

(2002年5月8日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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