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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第75回:世界初、ドルビーヘッドホン機能搭載
〜 秋の夜長を楽しめるパイオニア「SE-DIR1000C」 〜


■ この秋の要注意製品

 9月に入り、もう秋も目の前ということで、子供達はすでに運動会モード発動中である。そんなわけで秋はビデオカメラのリリースが相次ぐ時期なのであるが、同時に秋の夜長とも言うように、AVをじっくり楽しめる時期でもある。そこで今回はちょっと方向性を変えて、オーディオ関係のデバイスを試してみることにした。

 今回取り上げたモノは、パイオニアのコードレスヘッドホン「SE-DIR1000C」(店頭価格5万円弱、以下DIR1000C)である。赤外線で飛ばすヘッドホンは数々あるが、DIR1000Cは世界初、ドルビーラボラトリーズの「ドルビーヘッドホン」機能を搭載したバーチャルサラウンドヘッドホンなのである。

 ドルビーヘッドホンを簡単に説明すると、5.1chサラウンド音声を、ヘッドホン上でサラウンドとして聴かせる技術である。スピーカーでもバーチャルサラウンドがあるが、ドルビーヘッドホンはヘッドホンのみで実現できるのが特徴だ。最近ではソフトウェアDVDプレーヤーの上位バージョンなどで採用されているので、ご存じの方もいらっしゃるだろう。

 そういえば考えてみると、どういう訳か筆者は一度もパイオニアのヘッドホンを使ったことがない。いやいやヘッドホンどころか、よく思い出してみるとスピーカーも使ったことがないのであった。パイオニアの音の傾向などをまったく把握してないので、面白いことになりそうだ。また赤外線コードレスヘッドホンは、10年以上前に某大手メーカー製のものを買ったことがあるが、当時はかなりノイジーで、全然使い物にならなかった。最新の赤外線技術はどのように進化したのか、これも興味のあるところだ。さっそく試してみよう。


■ スタイルはやや大仰

「SE-DIR1000C」全体。写真中に見えるケーブルは、充電用のもの

 まず全体的なスペックを先に把握しておこう。製品はヘッドホン部と赤外線トランスミッター部に分かれているというのは、従来のワイヤレスヘッドホンと同じ。そのトランスミッター部に、ドルビーヘッドホン機能が内蔵されている。

 まずヘッドホン部から先に見ていこう。ヘッドホンユニットの口径は50mmと大型で、耳をすっぽり覆う。頭部のサイズ調整は自動アジャストで、やや余裕のあるフィット感だ。右側にボリューム、左側には電池収納部がある。付属するのは単三のニッケル水素充電池。電源スイッチはなく、ヘッドホンを広げると自動的に電源が入る仕組みなのが、面倒がなくていい。

 基本的にはオープンエア型なので外部の音も結構聞こえてくるのだが、イヤーパッドがジャージ素材なので、装着するとちょっと暑い。夏場は若干苦戦するかもしれない。重量は電池込みで約410gと、大型ヘッドホンとしてはまあ普通だろう。

ユニットは口径50mmと余裕のサイズ ヘッドホン部にある電池収納部。本体充電が可能 パッドはジャージ素材で柔らかなフィット感

 機能が多いせいか、トランスミッター部はやや大きめ。後部に付属のスタンドを取り付けることで、ヘッドホンの置き場所にもなる。正面には、ドルビーヘッドホンのモードスイッチ、ドルビープロロジック IIのモードスイッチ、インプットセレクト、電源ボタン、ヘッドホンのボリューム、ヘッドホン端子がある。ドルビーヘッドホンのモードを表わすイラストが赤く点灯し、なかなかかっこいい。

イラストのように処理されたモード表示部 ボタン部は比較的シンプルにまとめられている

 背面に回ると、オプチカルのデジタル入力端子(角形)、アナログ入力端子、電源端子などがある。アナログ入力には、0dBと-8dBのインピーダンスの切り換えスイッチが付いている。入力ソースの出力に応じて切り換えるものだ。電源はDCで、ちょっと大きめのACアダプタが付属する。またトランスミッタからヘッドホンへ繋いで充電するための端子もある。

入力はデジタルとアナログ1つずつ スタンドを取り付けてヘッドホンの台にもなる

 付属の光デジタルケーブルは、一般的なものと違って曲げやすく、かなり柔らかめのものだ。長さも1.5mと、ある程度オーディオ機器から離して設置できるようになっている。


■ ドルビーヘッドホンはナイス

 では実際に音を聴いてみる。最初は特性を把握するために、音楽ソースからだ。映画のように派手なサラウンド効果があるわけではないが、音質を判断するには妥当だろう。

 まず音を聴いてみて素朴に驚いたのだが、昔の赤外線方式に付き物であったシャーノイズがまったくない。DIR1000Cでは「非圧縮デジタル赤外線伝送」を採用したということだが、なるほど、これなら安心して聴いていられる。

 サウンド特性としては、高音の伸びが非常に綺麗。金属音がうるさいところまでは行かず、ちょうどいい具合。その反面、見た目の印象とは違って低音はやや押さえ気味という印象を持った。バランスは悪くはないが、筆者の好みとしてはもう少し低域が欲しい。自分で何か調整できるような手段があればいいのだが、トーンコントロールやイコライザのような機能は全くなく、DVDのデジタルオーディオがそのままやってくるので、いかんともしがたい。

 ドルビーヘッドホンの効果としては、HD1、DH2、DH3の3段階から選択する。この3つプラス、ドルビーヘッドホンOFFがあるわけだ。数字が増すほど、擬似的なルームサイズが大きくなる。

■ドルビーヘッドフォンの各モードと効果
選択モード 効果
HD1 残響音の少ないスタジオのモニタールーム
HD2 適度に残響のある一般的なリスニングルーム
HD3 映画館のような広い空間

 サラウンド効果に関してだが、確かに耳元で鳴っているという感じはせず、なかなか良好。サラウンド感はHD1からHD3にいくほど強調されるが、その分音の細かい定位や解像度が失われていくようだ。自分がどう聴きたいかによって選択するといいだろう。ただヘッドホンとしての装着感があるため、目をつぶって音だけに集中してしまうと、かえって不自然な感じがする。やはり映像あってこその機能だろう。

 では、映画ではどうだろうか。ドルビーヘッドホンではもっとも効果があると思われるのは、やはり映画のサウンド。とりあえず手元にあった「スタートレック -叛乱-」を鑑賞してみた。

 全体として、自然なバランスで鳴っているのがよくわかる。相変わらず低音の不足はやや感じるものの、ダイナミックレンジの広さがそれをカバーしているようだ。またやや緩めのフィット感もちょうどよく、約100分のリスニングでも疲れはほとんどない。まあ多少耳が暑いのは仕方がないところだろう。

 臨場感、という意味ではどうだろう。臨場感は音の広がりだけではなく、定位や解像度といった音のリアリティに大きく影響される。そういう意味では、スピーカで構成するサラウンドシステムのほうが、臨場感はある。

 バーチャルサラウンドではよく言われることだが、その効果は人によって大きく聞こえ方が違う。頭の形とか耳の位置、あるいは音に対する空間認識能力などの個人差があり、万人に対してOKなものは技術的になかなか難しいらしい。ドルビーヘッドホン方式はヘッドホンを使用するため、バーチャルサラウンド技術の中でも、比較的個体差の影響を受けない方式だ。

 ただ、基本的には耳のすぐ横から音を流し込んでいるという物理的な制限は受けることになる。いやナニが言いたいかというと、ドルビーヘッドホンでは普通にヘッドホンで聴くよりも空間に近いリスニングができることは間違いないが、リアチャンネルの音が本当に後ろから聞こえてくるということはない。

 本物のヤキソバと、お湯かけただけでできるヤキソバが似ているようで微妙に違うもののように、そういう意味ではドルビーヘッドホンとは、5.1chのデジタルデータを利用して違う音場を生成しているのだと言えなくもない。


■ ドルビープロロジック IIも強力

 もう1つの目玉機能として、ドルビープロロジック IIがある。これは2chのオーディオ信号だけで擬似的にサラウンドにしてしまう技術で、すでにAVアンプなどでは標準搭載になりつつある機能だ。ビデオやテレビ放送、あるいは音楽CDなどに対しても使用できるため、ソースを選ばずサラウンドを楽しむことができる。

 モードとしては複雑で、ドルビープロロジック IIのモードである、「Movie」、「Music」、「OFF」の3種と、さらにドルビーヘッドホンのモードとのマトリックス的な組み合わせになる。ドルビープロロジック IIがOFFで、ドルビーヘッドホンがONだと、サラウンドではなく前方からの音像、という状態のシミュレーションになるところは面白い。ドルビープロロジック IIのモードであるMovieとMusicは、筆者が聴いた感じではMusicのほうがドンシャリ気味にシフトするようだ。

 そこでDVDプレーヤーで音楽CDをかけ、ドルビープロロジック IIによるサラウンドを体験してみた。うーん、これは確かに普段ヘッドホンで聴いているような閉塞感はない。だが音の定位が曖昧になるため、音楽だけに集中して聴く、例えばあるパートだけを耳で追いかけるような聴き方には全然向いていない。特に歌モノは、ボーカルが奥に引っ込むような感じになる。むしろ本でも読みながら、あるいは今の筆者のように仕事しながらBGMとして聴くのがいいようだ。

 しかし標準のヘッドホンが、あまりBGM的な聴き方に向いているとは思えない。高音部が立ち気味で、ちょっと疲れる音になるのだ。やはり音楽を聴く場合は、お気に入りのヘッドホンを繋いだほうがいいだろう。

 音質の面で標準のヘッドホンが気に入らない場合は、いい方法がある。トランスミッター部にあるヘッドホン端子に普段使っているワイヤードのヘッドホンを繋いで、全く同じようにドルビーヘッドホン効果が楽しめる。ワイヤレスの恩恵は受けられないが、トランスミッターをドルビーヘッドホン対応ヘッドホンアンプとして利用できるのである。

 この機能の意味は、案外大きい。音楽に限らず映画においても、普段から音質的に慣れ親しんでるヘッドホンで聴くバーチャルサラウンドは、音質的にも非常に満足できるものだからだ。また、インナーイヤー型のようなもっと小型のヘッドホンを使用することで、より自然な装着感を得ることができる。これによって肉体的な征圧を減らし、さらに自然なリスニングが可能になる。DIR1000Cには、別売で同じタイプのヘッドホンを増設できるが、同タイプではなくもっと特性の違った軽量なヘッドホンも選択肢としてあってもいいのではないかと思う。


■ 総論

 ヘッドホンというのは、メーカーやモデルによる音の差が大きいので、非常に個人の好みを反映させやすいものである。価格的に安くても好みが合えば問題ないし、スピーカーと違って収納に場所をとらないので、いくつか持っていて用途によって換えている人もいることだろう。

 世界初ドルビーヘッドホン搭載のSE-DIR1000Cは、トランスミッターまで込みなので、ヘッドホンとしてはそれほど安くはない。しかし様々な事情で実際にサラウンドスピーカを鳴らすことができない人にとっては、重宝するヘッドホンだろう。筆者自身は標準のヘッドホンの音があまり気に入らなかったが、トランスミッター部の機能はよくできていると思う。好みのヘッドホンとも組み合わせて音像を遊ぶ、そういう意味で実に面白い製品だ。秋の夜長に、こんなことをして楽しんでみてはどうだろうか。

 すでに製品自体は7月上旬に出ているので、大手家電屋さんに行けば、実際に視聴もできることだろう。音の好みは人それぞれだし、音質がいじれる機能がないので、購入するつもりの人は実際に自分の耳でどんな感じか確かめることをお勧めする。


□パイオニアのホームページ
http://www.pioneer.co.jp/
□製品情報
http://www.pioneer.co.jp/topec/product/accessory/dolby_headphone/dolby_top.html
□関連記事
【7月8日】パイオニア、Xbox向けコードレスサラウンドヘッドフォン
―ベースのDIR1000Cは22日以降に発売延期
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020708/pioneer.htm
【5月13日】パイオニア、ドルビーヘッドフォン搭載赤外線ヘッドフォン
―プロロジック II、DTS-ES、ドルビーデジタルEXにも対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020513/pioneer.htm

(2002年9月11日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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