【バックナンバーインデックス】


第72回:Windows Media Audio 9の実力
~ 追補版:VBRの性能についても検証 ~


 前回、Windows Media Audio 9についてのレポートをしたが、今回もその続きをレポートする。本来は、これまで続いてきた波形編集ソフトの比較の最終回を行なう予定でいたが、ちょっと先延ばしということで、お許し願いたい。

 今回WMA9の続報としてお伝えするのは、主にVBRについて。前回エラーで動作しなかったのは、追試したところ、どうやら筆者のPCの環境が悪かったための動作不良であることが判明した。読者のみなさんに誤解を与えないためにも、改めてレポートする。


■ 引き続きWindows Media Player 9を探る

 前回、Windows Media Player 9のβ版を元に、WMAの性能についてチェックしてみた。これまでに用いたのと同じ方法で行ない、そのテスト結果自体に間違いのないものではあった。

 が、VBRについては上手く動作せず、結果的にレポートできなかった。また解説の中で、筆者の思い違いの部分があったということで、読者からいくつか指摘をいただいた。恥ずかしながらここでそうした間違いを修正させていただくとともに、VBRについて追試した結果をお伝えしたいと思う。

 もう一度、前回の記事を振り返ってみると、ここで行なったのはWindows Media Player 9のβ版におけるCDからのリッピング&エンコード機能を用いてWMA9のデータを生成し、その周波数特性などを見るというものだった。CBR(固定ビットレート)においては、64kbps、96kbps、128kbps、160kbpsの4種類で実験を行ない、各結果をチェックしたわけだが、確かにWMA8のものとは周波数特性が明らかに違っており、際立って音質がよくなったというほどではなかった。

 一方、WMA9の大きな特徴である、Windows Media Audio Professionalを試すということで、WMP9の設定画面にあった、Windows Media Audio Losslessを設定してみたが、これはちょっと間違えのようだった。

 確かにWMP9の英語のヘルプを見ると、ファイルフォーマットとして設定できるのは、WMA、WMA(VBR)とWMA Professionalとなっているのだが、MicrosoftがリリースしているWindows Media 9のWhite Paperを調べてみるとWMA ProfessionalとWMA Losslessは別モノのようであった。このLosslessというのは、ロスがない=可逆圧縮の方式であるとのこと。また約1/2から1/3程度の容量に圧縮されるとある。

 では、実際にそのくらい小さくなったのか? 前回生成したデータのファイルサイズを見てみると、オリジナルが7.57MBなのに対し、Losslessは4.48MB。約59.18%に圧縮された計算だ。リリースでは、ちょっと誇張されているような気もするが、以前とりあげた可逆圧縮のMonkey's AudioのNormal modeで60.50%、Extra High modeで58.31%、またPerfect Clariy Audioで61.10%であったことを考えると、だいたいそんなところだろう。

オリジナルのファイルサイズは7.57MB Losslessの場合、4.48MBまで圧縮される

Total Recoderで比較したが、まったく一致しない

 念のため、このデータを再生した結果をTotal RecoderでWAVにキャプチャしたものとオリジナルのデータをファイル比較ツール(efu氏制作のフリーウェアWaveCompareを使用)を用いて比較したのだが、なぜか、まったく一致しない。

 こちらの実験方法に問題があるのかもしれないが、そもそもWMAファイルをWAVファイルへコンバートするツールがないので、本当に完全なものなのかについては検証することはできなかった。ただし、前回も見たとおり、再生したものを周波数分析した結果は、オリジナルとソックリであり、聴感上もほぼオリジナルと変わらないという印象だった。

【周波数分析の結果】
オリジナルデータ Lossless圧縮後のデータ

 では、Windows Media Audio Professionalというのは何者なのか。前回でも少し触れたとおり、24bit/96kHzに対応するとともに、5.1chサラウンドにも対応したコーデックである。これをWMP9でエンコードできるのかというと、どうやらサポートされていないようだった。では、誰も使えないのかというと、そうではない。WMP9とは別にWindows Media Encoder 9というものもリリースされており、これを利用すればWindows Media Audio Professionalを用いてのエンコードが可能だ。試しに手元で作った24bit/96kHzのデータをエンコードしてみたところ、かなりの時間がかかったが、問題なくWMAデータを生成することができた。

WMP9とは別にリリースされているWindows Media Encoder 9を使用すると、エンコードが可能

 では、これがCDのフォーマットである16bit/44.1kHzのデータに対してメリットがあるのか? 細かく調べてはいないが、Windows Media Encoderの設定を見てみると、そもそも24bit/96kHzの2chや、16bit/44.1kHzでも5.1chというように、16bit/44.1kHz ステレオのモードを持っていない。そのため、今回は比較対象から除外することにした。


■VBRの性能を試す

 そして、問題のVBR。前回、エラーが生じて再生できなかったが、マシンにOSをインストールしなおして試したところ、何の問題もなく再生できた。というわけで、改めて、VBRでの実験を行なってみた。WMP9の設定画面においては、40~75kbps、50~96kbps、85~145kbps、135~215kbps、240~355kbpsという5つのモードが用意されている。そこで、それぞれを用いて、前回と同じ実験を行なった。ただし、1kHzの信号でのチェックとスウィープ信号での実験については、今回は省略することにした。

Windows Media Encoderの設定画面 WMP9では5つのモードを用意する

 まず、いつもと同じ夜間飛行という45秒の曲をエンコードした結果の平均ビットレートは54kbps、68kbps、112kbps、174kbps、299kbpsという結果となった。それぞれの周波数分析結果はグラフのとおりだ。オリジナルとの差はハッキリと見てとれるが、聞いた感じでは、112kbpsあたりでもなかなかよく、CBRの128kbpsよりもややいいように思える。299kbpsになると、違いがわからなく思うほどである。まあ、これだけハイビットレートとなれば音が良くなるのは、当たり前といったところなのかもしれないが、どうせWMAを使うのであればCBRよりVBRを用いるのが賢明だろう。

  元ファイル
40~75kbpsモード
(平均ビットレート 54kbps)
夜間飛行
50~96kbps
(平均ビットレート 68kbps)
85~145kbps
(平均ビットレート 112kbps)
135~215kbps
(平均ビットレート 174kbps)
240~355kbps
(平均ビットレート 299kbps)

 ただし、データの互換性が低くなるのでは本末転倒。しかし、WMA9を入れていないWMA7でもVBRは問題なく再生できたし、手元にあったCreative NOMADでも再生可能だったので、この互換性はかなり高そうだ。ちなみにWindows Media Audio Losslessは再生しようとすると、コーデックのライブラリを勝手にインターネットから取りに行き、その結果再生できるようになる。

 以上、が今回のWMA9再レポートであったが、いかがだっただろうか? 今後はやはりVBRでエンコードというのが主流になるのかもしれない。それに伴い、音楽配信などもVBRに切り替わってくるのかもしれないが、音楽配信の世界でWMAの競合であるATRAC3のほうは、すでに安定しており、音質的にもWMAよりもいいものに仕上がっているように思う。今後この2つのコーデックの競争がどうなっているのか、ぜひ楽しみに見守っていきたい。

□米Microsoftのホームページ
http://www.microsoft.com/
□ニュースリリース
http://www.microsoft.com/japan/presspass/releases02/nl_090502mediaplayer9.asp
□ダウンロードページ(WMA関連)
http://www.microsoft.com/windows/windowsmedia/
□関連記事
【9月24日】【DAL】第71回:Windows Media Audio 9の実力
~ WMA最新版のエンコード能力を探る ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020325/dal48.htm
【9月5日】Microsoft、Windows Media Player 9のβ版を公開(PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0905/ms.htm
【6月6日】Microsoft、Windows Media「Corona」のデモを公開
―720pや5.1ch再生をデモ、96kHz/24bitも可能に
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020606/ms.htm
【3月25日】【DAL】第48回:圧縮音楽フォーマットを比較する
~ その7:可逆圧縮フォーマットと、これまでのまとめ ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020325/dal48.htm
【2月4日】【DAL】第43回:圧縮音楽フォーマットを比較する
~ その2:マイクロソフトの「Windows Media Audio」 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020204/dal43.htm

(2002年9月30日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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