いつもは1機種にスポットライトを当てて製品を紹介していく本連載だが、今回は米ラスベガスで行なわれた「2003 International CES」での大型映像機器関連をレポートしたい。
■ Samsung~世界最大サイズの54インチ液晶HDTVを展示 「大型化は難しい」と言われてきた液晶ディスプレイだが、最近はライバルのプラズマディスプレイに迫る勢いで大型化が進んでいる。これを受け、今年のCESではこれまでの40インチ台から50インチ台に戦いの場が移行している。一歩先に躍り出たのは、54インチワイドを展示したSamsung。SamsungはLCDとPDPの両方で“世界最大”の称号を獲得している。 画面サイズは54インチ。型式名は「LTN545W」。もちろんタイリング構造ではなく、1枚パネルによるもので、解像度は現行のプラズマテレビを上回る1,920×1,080ドットを実現している。コントラストは800:1。 チューナはツイン構成で、ピクチャー・イン・ピクチャー機能も装備。同社オリジナルの高画質化エンジンDNIe(Digital Natural Image Engine)も実装する。
発売時期は未定としながらも、「早くて年内、来年の可能性も高い」という見通し。価格は「もし今、発売したとしたら5万ドルにはなってしまうだろう」とのこと。 併せて、1,280×720ドットの46インチワイドモデル「LTN465W」も公開された。こちらも発売時期は未定。価格は「4万ドルくらい」だという。 一方、LG Electronicsが出展したのは、52インチ液晶HDTV試作機だった。Samsungが54インチを発表する2002年12月までは、こちらが世界最大を名乗っていた。解像度はSamsungの54インチと同じ1,920×1,080ドットで、HDTVのフル解像度に対応する。ブース内には、並んで42インチモデルも展示されていた。こちらの解像度は1,280×768ドット。両モデルとも、液晶素子を横電界駆動させるS-IPS方式を採用。デモ機はDVI端子を利用していた。
こちらは型式番こそ決まっていないものの、2モデルともに2004年第1四半期の発売を予定している。価格は未定だが、「同インチサイズのPDPよりもかなり高価になる」とだけ説明していた。 今回の展示を見ても「小中型までが液晶で、大型はPDP」という常識が崩れ始めていることがわかる。この流れはシャープなどの日本の液晶パネルメーカーにもおよんでいる。
■ Panasonic~最新3板式DLPプロジェクタの「ホームシアター度」をアピール 今回のCESで米Panasonicが発表した「TH-D7600」は、「ホームシアター用途も視野に入れて開発した(同社)」ことをアピールしていたこともあり、大画面好きが多い米国の来場者からも高い関心が寄せられていた(編集部注:日本国内では講堂や小ホール向けの「ライティアライトシリーズ」の1つとして訴求されている)。日本では2002年11月に発売済みだが、あまり見る機会のない製品なのでここで取りあげることにした。
まず驚かされるのが3板式DLPとは思えないほどの軽量コンパクトな本体だ。外形寸法は530×569×200mm(幅×奥行き×高さ)で、ヤマハの1板式DLP機「DPX-1000」と変わらない印象。重量も19.8kgなので、天井補強すれば、一般家屋の天吊り設置も可能だろう。 そして何より、動作環境が一般家庭を視野に入れた設計になっている点がうれしい。例えば、従来品は単相200V~240V電源を必要としていたが、これがAC100VでOK。また、短寿命かつ高価なキセノンランプではなく、ホームシアター用プロジェクタでもよく見かけるUHMランプを採用している。交換ランプは1個あたり58,000円だ。 ランプは2灯構成設計で1灯点灯時3,000ANSIルーメン、2灯点灯時6,000ANSIルーメンとなる。後者は業務用モードといえ、ホームユースでは1灯目を使い切ったら2灯目を使う……という活用スタイルを奨めているとのこと。「3,000ANSIルーメンでも明るすぎる」という声もあるだろうが、これについてはメカニカル絞り(アイリス)機能を活用したり、ランプのローパワー駆動モードを活用することで対応できると説明していた。ただし、UHMランプとはいえ300Wなので、排気ファンのノイズも気になることだろう。これについてはエアダクトのとりまわしで対処し、38dBを実現している。 その画質だが、「見事」の一言に尽きる。単板式のようなカラーブレーキングがないのは当然として、暗部階調の表現力が単板式DLPとは一線を画している。各原色の発色の鮮烈さに不満は全くなく、黒の沈み込みも素晴らしかった。コントラスト性能も申し分ない。200インチ程度のスクリーンに対しての投影だったが、映像に粒状感を感じないという点も特筆に値する。これは1,280×1,024ドットのDMDチップを使用していることの恩恵だ。 関係者によると、TH-D7600の色調モードは、ハリウッドの映画制作に携わる色彩知覚のプロ達と連携して作り込んだとのことだ。ちなみに、こうした技術は民生機にもフィードバックされているそうで、TH-AE200/300シリーズの「シネマモード2」がそれにあたるという。 気になる価格だが、ハイコントラストタイプのズームレンズ「TY-D75LE1SC」をセットにして35,000ドル程度。レンズは全9種類がラインナップされており、価格は1,000~1,500ドル。また、標準状態ではデジタル入力を持たないので、DVIなどのデジタル入力を行ないたい場合は、オプションボードが必要になる。
■ LCOSリアプロHDTVが続々登場 LCOS(Liquid Crystal On Silicon)は各画素ごとに反射鏡を形成した液晶素子で、いわゆる反射型液晶素子に分類されるものだ。一般的なプロジェクタに用いられている透過型液晶素子とは違い、光の損失量が少なくハイコントラストが得られ、なおかつ開口率も大きいことから各画素間の隙間が圧倒的に少なく粒状感を徹底的に抑えることができるという利点がある。従来の液晶製造技術で作れるため製造コストが安いという点も、DMDに対するアドバンテージとなる。 今回のCESではプロトタイプではなく、実際に近々発売を開始する2製品が展示された。 ●東芝~世界最大の57インチLCOSリアプロを展示
実際の映像を見たところ、発色の良さにも驚かされたが、その解像感に圧倒されてしまった。もちろん、画素間の隙間は知覚されず、粒状感もない。シャープさとナチュラルさをバランスよくまとめた画作りにも好印象を覚えた。価格は8,999ドルで、日本国内での発売予定は今のところなし。 ●Philips~カラーブレーキングが起こらない? 単板式のLCOS
1枚パネルでの投写といえば、単板式DLPのようなカラーホイールを使ったフルカラー表現が思い浮かぶ。そうすると、カラーブレーキングが気になるところだ。しかし、新開発の「スクローリング・カラー技術」により、この問題に対処できるという。 原理はこうだ。まず光を2ピクセル分の隙間をあけた横ストライプ状のRGB各色に分解し、これを1枚の映像素子に1ピクセルずつずらして照射する。照射された映像はプリズム合成されて出力されるが、瞬間的には、R、G、Bの各プレーンのみが映った走査線が表示される。
GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB
RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR
BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB RRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR
GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG
この動作が3サイクル行なわれると、フルカラーが時間積分的に表現できる。やっていることは単板式DLPと大差ないものの、瞬間的に単色映像しか出ていない単板式DLPと比べると、知覚特性上、格段にカラーブレーキングが抑えられるのだという。 実際に映像を見たが、言われるまで単板式とは気づかないほど正確な発色で、カラーブレーキングも感じられない。ただ、東芝の57HLX82と比べると、ややシャープさが劣る印象で、どちらかといえばウェットでしっとりとした映像といえる。この点は光の分光精度を向上させることでいずれ改善されるだろう。なお、日本での発売予定はない。
■ HDMI vs. DVI、デジタル伝送も数多く展示 今年のCESに展示されていた大画面映像製品の多くが、デジタル映像入力に対して、何らかのソリューションを用意しているのが印象的だった。 民生映像機器においての本命は、映像と音声の双方がデジタル次元で一本のケーブルで接続できるHDMIなわけだが、DVIを採用するメーカーも少なくない。主要の利用目的が違うので、DVI対HDMIという対立が起こりえるとは思えないが、いずれにせよ、今年以降、映像出力インターフェイスはアナログベースのコンポーネント端子やD端子から一気にデジタルへ移行していくだろう。 今回のCESの展示で、こうした動きにもっとも敏感に反応して製品開発に取り組んでいると感じたメーカーがSamsungだった。同社はDVI出力対応のDVDプレーヤー「DVD-HD931」を発表、また、同社製LCD、PDP、DLPリアプロTVの全製品ラインナップで、今後はHDMIかDVIのいずれかの標準実装を行なうとしている。
ブース内ではHDMI対応のハイピジョンプラズマTV「HPN6339」の試作機を展示しており、実際の製品は7月には発売する予定。価格はデジタルチューナとセットで20,000ドル前後となる見込み。ただし、HDMI入力端子はオプション扱いとなる可能性が高い。
今回のCESでは日本メーカーではパナソニックがHDMI仕様のリアプロを展示していたが、今後はほかの日本メーカーもこの流れに追従してくることだろう。
□2003 International CESのホームページ(英文) (2003年1月15日)
[Reported by トライゼット西川善司]
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