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第16回:海外メーカーによる国内初投入のホーム向け意欲作
~ 新DDR DMDを搭載したオプトマ「CineShow H56」 ~


 今回取りあげるのは、Optomaという台湾系メーカーから登場した小型の単板式DLPプロジェクタ「CineShow H56」だ。国内では馴染みの薄いメーカー名だが、プロジェクタ専門メーカーへのOEM供給という実績を持つ。今回紹介するCineShow H56も、1,024×768ドットの高解像度新世代DMD素子「DDR DMD」を採用し、1,000ANSIルーメンの高輝度と2,000:1のハイコントラストを実現。標準価格も498,000円と、なかなか魅力あるスペックの製品に仕上がっている。

※編集部注:評価に使用したのは試作機です。そのため、実際の製品とは若干異なる場合があります。


■ 設置性チェック~小型軽量で本棚設置も可能

オプトマのCineShow H56。標準価格は498,000円。ボディデザインは同社のデータモデル「EzPro755」などを継承している
 本体サイズはB5ノート並みで、設置にほとんど場所を取らない。重さも2.9kgと軽く、感覚としてはほとんどモバイルプロジェクタの域に達している。

 投写仰角はやや上向きという感じではあるが、リビングでソファーと組み合わせるようなテーブルでは、やや高さ不足となる。設置の際にはある程度の高さの台を用意するか、この大きさ、この軽さを活かして本棚設置もいいだろう。1人で持ち運べる大きさなので、「使いたい人が使いたいときに使いたい場所で使う」ことも可能だ。

 投影モードは、フロント投影、リア投影、天吊り投影の全組み合わせに対応。純正オプションに天吊り金具はないが、本体底面に取り付け用のネジ穴とおぼしきものがあるので、いずれ提供される可能性はある。

 前面下部には設置角度を調整できるエレベータフットが装着されており、映像を斜め上向きに投影することもできる。また、上下方向のデジタルキーストン補正(台形補正)機能を搭載しているので、若干の劣化が伴うものの、投写画面の歪み補正も可能だ。

 レンズは手動式1.2倍ズームレンズを採用。ズーム調整は本体側にあるホイールリングを回転させて行なう。最近の製品にしては投写距離が長く、100インチ(4:3)の投影には最短約4mを必要とする。フォーカスも手動式で、調整はレンズ外枠そのものを回して行なう。ズーム、フォーカスの各リングは離れているのでミスタッチで片方の調整がずれてしまうことはない。

フォーカス、ズームとも手動。ズーム比は光学1.2倍と標準的 操作系や入出力パネルは右側に集中しており、左側面や後ろはすっきりしている

 ファンは吸気用と排気用の2基を前面に実装し、ファンノイズ自体は最近の機種にしてはやや耳に付く。具体的にいえばプレイステーション 2のファンよりも大きい程度。近くに置くと気になるが、やや離せばほとんど気にならないレベル。

 光漏れは吸気排気ファンのスリットから結構ある。光量も多めで、距離によっては映像の右側がやや明るくなってしまうほどだ。画質を重視した使い方を考えるならば、吸気排気ファンの前あたりに遮蔽物を設置するなどの工夫を心がけたい。次期製品で改善してほしい点だ。


■ 操作性チェック~リモコンで画質調整項目をダイレクトに表示

自照式のリモコン。ブライトネス、ガンマなどの設定メニューを一発で呼び出せる
 電源オンボタンを押すと、約15秒(実測)で、本機のロゴが投影され、約35秒で入力信号受付可能状態になる。このあたりまでは平均的なスピードだが、なぜかこの後の入力信号検出に時間がかかり、実際に映像が写ったのは約62秒後(実測)だった。最近の機種としては起動時間は遅い。

 リモコンは[Backlit]ボタンを押すことで、全ボタンが自発光する。ボタンとボタンの間は離れており、ミスタッチがしにくいデザインで好感触だ。入力切り替え専用のボタンもあり、希望の映像ソースにダイレクトで切り替えられる。さらに、ブライトネス、コントラスト、色合い、ガンマといった画調パラメータを直接呼び出すボタンも実装されており、調整派にはうれしい操作系となっている。

 しかし、操作系で気になるところもある。まず、入力切り換えにかかる時間が長い。例えば、Sビデオ入力→コンポーネントビデオ入力への切り換えは約4秒(実測)かかってしまう。最近の主流製品と比べると、かなり遅めといわざるをえない。

 もう1つは、何か映像が投影されていないと、メニューが呼び出せない点。何かしらの映像を映した状態でないと、一切の設定ができないのは、初期設定時などで都合が悪い。こうした点も、いずれは改善してほしいものだ。


■ 接続性~コンポーネントビデオは変換端子&変換ケーブル使用で入力

 入力端子はコンポジットビデオ端子、Sビデオ端子、DVI-I端子、D-Sub15ピン(アナログRGB)端子の4種類を各1系統ずつ実装する。

 コンポーネントビデオ入力については、付属の「D-Sub15ピン-コンポーネントビデオ端子変換コネクタ」を利用することで、D-Sub15ピンからの入力が可能となる。さらに、DVI-I端子も付属の「DVI-I端子-コンポーネントビデオ端子変換ケーブル」を用いれば、コンポーネントビデオ入力として利用できる。

 DVI-I、D-Sub15ピン、どちらか一方をPC接続用とすれば、DVDビデオもPCも両方同時に接続できるわけで、これは「AV機器もPC映像も」というマルチユース志向のユーザにもありがたい仕様だ。ただし、このDVI端子は著作権保護機能付きのHDCP対応DVIなので、PCとのデジタル接続は不可能。また現在、HDCP付きDVI出力を持つDVDプレーヤーは、海外メーカー製など一部のものに限られるので、注意が必要だ。

本体右側の接続端子部。DVI-I、アナログRGBともにコンポーネント入力として使用可能 コンポーネント-DVIケーブルと、アナログRGB-コンポーネント変換アダプタ

 さて、こうした排他兼用端子で一番面倒なのは、「RGB入力、コンポーネント入力のどちらで使うか」という設定を、入力信号を変えるたびに行わなくてはならない点にある。しかし、本機は入力信号を自動判別するため、そうした設定は不要となっている。例えば、D-Sub15ピン端子にPCを接続していたとして、これを取り外して変換アダプタ経由でコンポーネントビデオを入力したとすると、本機は判別してその映像を出す。単純ながら、ユーザビリティの点で高く評価したい機能だ。


■ 画質チェック~DDR DMDチップ採用でクラストップレベルの解像度

 公称光出力は1,000ANSIルーメン。絶対的な明るさが確保されており、蛍光灯照明下でも鮮明に映像が見られるほど。  さて、本機のDMDチップは、振り角を10度から12度に改良した2世代目の「DDR DMDチップ」だ。振り角の変更でコントラスト比が向上したのは、2002年後半から発売された各DLPプロジェクタでも実証済み。さらにDDRとはDouble Data Rateの略で、PCのメインメモリに使われているDDR SDRAMと同じ理屈のデータ転送方式をDMDチップとメモリコントローラに適用している。これにより、1世代目のDMDよりも高速駆動ができ、カラーホイールの高速駆動も可能になった。結果、カラーブレーキングや暗部階調でのディザリングノイズの低減に繋がる。

 本機はこのDDR DMDチップの1,024×768ドット解像度タイプを使用する。本機はホームシアター用ではあるが、汎用性を考えてか、アスペクト比4:3のものを採用している。16:9の映像ソースを入れたときは1,024×576ドットの表示になるが、それでも、いわゆるエントリークラス機と比べれば解像度は十分高い。

 実際、映像は非常に高精細で画素間も密、粒状感は一切感じられない。公称コントラスト比2,000:1という圧倒的なハイコントラストのためか、映像は立体感に溢れている。

 明色や人肌の発色も良好。色深度は深めだが、色合いはやや淡目という独特な画作りになっている。しかしハイコントラストぶりに圧倒されて、パッと見た感じは気にならなかった。もちろん、色再現性を重視したいユーザーはRGB値を調整したほうが良い。

 また、本機のカラーフィルターはホワイト領域を5%に減少させた6分割4倍速カラーフィルターを採用している。どの程度カラーブレーキングが抑えられているか気になるところだろう。実際に見てみると、やはり暗色で単板式独特のディザリングノイズや、カラーブレーキングが見える。こうした単板式DLP独特の色ノイズが気にならない人も少なくはないが、実際に映像を見てからの購入をお勧めしたい。

 プリセットの色調モードはPictureメニューとImageメニューの双方に用意されており、それぞれ「モード(Pictureメニュー)」と「映像モード(Imageメニュー)」という項目名が付けられている。なぜこのように2つに分けたかは意図がよくわからないが、各モードには以下のような傾向があるようだ。

●モード(Pictureメニュー)

  • シネマ……明部階調をそのままに暗部階調を持ち上げる
  • ノーマル……最もバランスの取れた状態
  • ダイナミック……色温度は若干下げつつも、明部階調を一層高輝度化する
  • ユーザ1……ユーザが調整した設定をメモリ可能
  • ユーザ2……同上

●映像モード(Imageメニュー)

  • フィルム……最もバランスが取れた状態
  • ビデオ……暗い階調を沈み込ませ、明るい階調をやや持ち上げて見かけ上のコントラストを稼いたモード
  • グラフィック……上の「ビデオ」のチューニングをさらに強調したような設定
  • PC……明るい階調を飛ばし気味にしてでもコントラストを稼ぐ、「コントラスト最優先」な設定
 なお、上記2つのモードは自由に組み合わせが可能で、モードを「ノーマル」、映像モードを「PC」に、という組み合わせもできる。この中で最も色再現性が正確と感じたのは、モードを「ノーマル」、映像モードを「フィルム」にした設定だった。普段はこれで常用するのがいいだろう。

メニュー画面。左からpicture、system、display (c)DISNEY ENTERPRISES,INC./PIXAR ANIMATION STUDIOS

 もう1つ、本機のユニークな画調チューニング項目に「ホワイトピーキング」がある。これは、他の色には一切影響を与えず、白色階調のある一定値以上の色に対し、10段階の強調を行なうものだ。投写環境の周囲が明るいときに、白地の文書や図版を見やすくするためのものであり、ホームシアターユースではゼロ設定でOKだろう。

 各種映像ソースを投影した際のインプレッションは以下の通り。なお、途中で評価機のランプが切れため、ゲーム機を使った際の評価が行えなかった。

▼DVDビデオ
 本機のコンポーネントビデオ入力は、プログレッシブDVDプレーヤーの480p出力にも対応する。ただし、インターレース出力からプログレッシブ出力に変更した時、その信号の変化に対応できず「NO SIGNAL」となり、映像表示を停止してしまう。こうなった場合は、一度別の入力ソースに切り換え、また、コンポーネントビデオ入力に切り換え直す必要がある。

 もっとも、本機には3-2プルダウン方式のプログレッシブ化ロジックも搭載されており、インターレース映像を投影したときにもチラツキは一切ない。よって特にこだわりがないならばインターレース入力を常用するのがいいだろう。

▼S-VHSビデオ
 地上波放送のNTSCインターレース映像も美しくプログレッシブ化され、フレーム単位で美しい映像が出る。パネル面積を最大利用する表示モードだと、DVDビデオ映像では若干エリアシングが感じられたが、S-VHSビデオからの地上波放送の映像を映したときにはそれもない。好印象だ。

▼ハイビジョン
 BSデジタルチューナと接続してまず困ったのが、チャンネル変更を行なったときだ。チャンネル間で放送映像フォーマットが異なった場合、「NO SIGNAL」と表示して映像表示を打ち切ってしまうのだ。たとえばNHK BS1のSD放送から、NHK-HiのHD放送にチャンネル切り替えを行なうとこの状況に陥る。DVDビデオでインターレースからプログレッシブに切り換えた際に陥る状況と同じだ。

 こうなってしまうと、入力切り換え操作をし直さなければ映像が表示されない。もっとも、映像入力を自動スキャンにしておくと、しばらくしてから表示される。

 なお、表示自体は簡易表示としては申し分のない品質を達成している。1,920×1,080ドットのハイビジョン映像は、1,024×576ドットへの圧縮表示となるが、ハイビジョン特有の高解像感はそれなりに再現されており、目立ったエイリアシングもない。実用レベルに達している。

▼PC
 DVI-I端子を利用したデジタルRGB接続が不可能だったので、D-Sub15ピン経由のアナログRGB接続にて評価を行なった。ネイティブ解像度の1,024×768ドットは非常に美しく、また、640×480ドット、800×600ドットの拡大表示、そして1,280×1,024ドットの圧縮表示も実用レベルの画質を達成している。アナログRGB接続時には、PC解像度を変更しても「NO SIGNAL」状態にはならず、ほとんど瞬間に表示モードの切り替えを実行してくれる。それだけに、コンポーネントビデオ入力時の挙動は解せないところだ。

DVDビデオ『モンスターズ・インク』の投影画像
 コンポーネント接続時の投影画像を、デジタルカメラ「D100」で撮影した。ソースはDVDビデオの「モンスターズ・インク」(国内盤)。

 D100の設定は、コントラストLow、色温度「晴天」(約5,200K)にしている。

 コンポーネント入力は、付属の変換アダプタを使用し、D-Sub15ピン端子から入力。アナログRGBはDVI-I端子経由で入力し、1,024×768ドット(4:3)の状態で投影した。

 撮影後、1,024×578ドット(DVI-Dは1,024×573ドット)にリサイズし、画像の一部分を切り出した。部分画像をクリックすると全体(640×361ドット、DVIは640×358ドット)を表示する。

(c)DISNEY ENTERPRISES,INC./PIXAR ANIMATION STUDIOS

コンポーネント接続
フィルム
ビデオ
PC

アナログRGB接続
フィルム
ビデオ
PC

視聴機材
 ・スクリーン:オーロラ「VCE-100」
 ・DVDプレーヤー:パイオニア「DV-S747A
 ・コンポーネントケーブル:カナレ「3VS05-5C-RCAP-SB」(5m)


■ まとめ~荒削りだが潜在能力の高さは感じられる

 ホームシアター用としてはまだ荒削りな部分も多いが、高輝度、ハイコントラスト、そして高解像度という点では優れているのは間違いない。画質面でも単板式DLPとしては水準レベルで、価格相応の画質は達成できていると思う。1,024×768ドットのDDR DMDチップを採用したホームシアター向けDLPプロジェクタは競合がいないこともあり、特異な存在といえる。

 アスペクト比4:3パネルを採用しているので、PCやゲームとの相性もよく、1,024×768ドットというリアル解像度は、PCを重視するユーザーに対して高い訴求力があると思う。コンポーネントビデオ入力信号の自動認識精度に不安面はあるが、DVD視聴に限らない、様々なホームエンターテイメントの表示デバイスとして利用できるはずだ。

 ただし、「使い勝手」と「ユーザー支援」の部分に磨きをかける必要を感じるのも確か。マニュアルも、各調整項目が「どう調整するとどう変わるのか」、「どういうときに調整すべきなのか」という解説が不十分なところが目立つ。

 約50万円の製品で、かつ家庭向けの製品なので、パソコンパーツの並行輸入品を思わせるマニュアルでは、一般ユーザーに不安を与えかねない。今後も、日本市場に積極的に製品を投入していくのであれば、こうした点は改善していくべきだろう。

CineShow H56の投写距離(16:9)
※台形補正機能は使用せず、ズーム最短の状態

【CineShow H56の主な仕様】
投影デバイス 0.7型DMD(1,024×768ドット)
レンズ 光学1.2倍手動ズーム
ランプ 200W UHP
明るさ 1,000ANSIルーメン
コントラスト比 2,000:1
動作音 32dB
映像入力 コンポーネント/DVI(HDCP対応)、コンポーネント/アナログRGB(D-Sub15ピン)、S映像、コンポジット×各1
消費電力 320W
外形寸法 277×225×85mm(幅×奥行き×高さ)
重量 2.9kg

□オプトマのホームページ
http://www.optoma.co.jp/
□製品情報
http://www.optoma.co.jp/products_h.html
□関連記事
【11月14日】オプトマ、ホームシアター向けDLPプロジェクタ
-コントラスト比2000:1、6分割・4倍速カラーホイール採用
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030115/optoma.htm

(2003年1月30日)

[Reported by トライゼット西川善司]


= 西川善司 =  ビクターの反射型液晶プロジェクタDLA-G10(1,000ANSIルーメン、1,365×1,024リアル)を中核にした10スピーカー、100インチシステムを4年前に構築。迫力の映像とサウンドに本人はご満悦のようだが、残された借金もサラウンド級(!?)らしい。
 本誌では1月の2003 International CESをレポート。山のような米国盤DVDとともに帰国した。僚誌「GAME Watch」でもPCゲームや海外イベントを中心にレポートしている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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