【バックナンバーインデックス】



第84回:PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
~ その1:USBオーディオ、M/B、サウンドカードを検証 ~


 PC用の各種オーディオデバイスの音質を比較するこの企画。最初はまず全体像を掴むにも、USBオーディオデバイス、マザーボード、サウンドカードと代表的なインターフェイスを3種類とりあげる。


■ 3種類のデバイスをチェック

 前回、実験方法について掲載したところ、メールや掲示板などを通じてさまざまな反響をいただいた。このデバイスについてテストしてほしいという依頼や、実験方法に関するアドバイス、また入力と出力を別々に測定するべきだという意見や、数字で示すだけでなく、実際に聞いた音の感じを表現してほしいというものなど。

 いただいた意見などを参考に、また編集部とも相談しつつ、どういう順番で実験を進めるかを考えてみた。そこで浮かんだのは、まずは典型的なインターフェイス、USBオーディオデバイス、マザーボード、サウンドカードを比較し、その後、同じジャンルのインターフェイスを比較していくというもの。もちろん、テスト方法自体はすべて同じにするため、どの回を比較しても問題ない。

 というわけで、今回取り上げる3種類を紹介しよう。USBオーディオデバイスの代表選手はEDIROLの「UA-700」。USB接続ながら最高で24bit/96kHzでの入力または出力が可能で、入力だけを見ても、RCA、標準フォーン、XLRさらにはファンタム電源対応のマイクの入力にまで対応するオールマイティなものだ。

UA-700

 マザーボードは、私の手元にあるもので、数カ月前に購入したGIGABYTEの「GA-8IGX」。Intel 845Gを搭載した製品で、オーディオチップとしては、Realtekの「ALC650 PCI sound controller」を積んでいる。専用のドライバを特にインストールしているわけではないが、Windows XPではIntel 82801 DB/DBM/DA AC '97 Audio Controllerとして認識されていた。

 そして、サウンドカードの代表選手としてはクリエイティブメディアの「Sound Blaster Audigy2」を使ってみることにした。

Sound Blaster Audigy2の出力はステレオミニジャックのみ

 いずれも各デバイスの出力を入力に直結して検証する。しかし、前回の記事を掲載後、読者からも指摘があったのだが、サウンドカードのほとんどで、「Vital Audio Professional Cable Series」が利用できない。というのも、Audigy2は入力こそRCAピンジャックだが、出力はステレオミニジャックだけ。

 しかし、プロオーディオの世界では、ステレオミニジャックというものを使用することはまずない。。

オーディオテクニカのHi-Grade GOLD LINKシリーズ

 今回取り上げる3つのうち2つでVital Audio Professional Cable Seriesが使えないとすると、やはり比較記事としては成り立たない。なんとかステレオミニジャックでケーブルを作ってくれないかと発売元であるフックアップに頼んでみたものの、やはり部品がないということで断られてしまった。

 そこで、今回の比較用ということで、別途ケーブルを購入した。大手量販店で手に入れたオーディオテクニカの「Hi-Grade GOLD LINK」というケーブルだ。ステレオミニ-ステレオミニ、ステレオミニ-RCAに加え、UA-700でも試せるようにRCA-RCAも購入した。いずれもVital Audio Professional Cable Seriesと同様に、50cmで揃えている。価格はいずれも1,000円程度だ。


■ UA-700を検証する

 さっそくUA-700の結果から見てみよう。UA-700のみ、Vital Audio Professional Cable Seriesで接続したものと、Hi-Grade GOLD LINKで接続したものの2通りでテストした。

 まず、無音状態で出力を入力に直結した結果を見るとわかるように、ごく微弱ではあるが、ノイズが乗っていることがわかる。レベルを見てみると、レベル0のところが中心になっていない。-88dBあたりが中心にノイズの波形が描かれている。つまり、-88dB程度のDCオフセットが生じているわけだ。これを差し引きすれば、-85dB程度のノイズであると推測される。一方、ケーブルの差はほとんど見受けられない。

【UA-700】無音時(CD-ROM/HDD非動作)のノイズレベル
Vital Audio Professional Cable Series Hi-Grade GOLD LINK

 次に、CD-ROMドライブとHDDを回して同様の検証を行なった。これはWindows Media Playerを用いてCDのリッピングを行なっている際に、先ほどと同じことを試す実験だが、グラフの見た目上、あまりハッキリした差は出なかった。

【UA-700】無音時(CD-ROM/HDD動作時)のノイズレベル
Vital Audio Professional Cable Series Hi-Grade GOLD LINK

 今度は、-20dBで1kHzの矩形波を取り込んだ際の波形を見る。拡大してみると、結構デコボコになっているのがわかる。これが出力側の問題なのか、入力側の問題なのかは、この実験方法では判断はつかないが、ある程度波形が変化することがわかった。

【UA-700】矩形波の再生波形
Vital Audio Professional Cable Series Hi-Grade GOLD LINK

 さらに、スイープデータの結果を見てみよう。この実験ではefu氏のWaveSpectraというソフトを使っている。しかし、今回は24bitのデータを再生することができなかったため、予め16bitに変換してから実験を行なっている。結果を見ると、低音域、高音域で減衰が確認できる。

【UA-700】スイープの再生レベル
Vital Audio Professional Cable Series
Hi-Grade GOLD LINK

 最後は、-6dBのサイン波をスペクトラム分析した結果だ。これを見ると、確かに倍音が出てしまっているが、これはこれでかなりキレイな波形に思える。

【UA-700】スペクトラム分析
Vital Audio Professional Cable Series
Hi-Grade GOLD LINK


■ マザーボードを検証する

 続いて、マザーボードでの実験だ。一般的に考えると、これが最もノイズが多いと予想されるが、果たしてどうだろうか。

 まず無音をレコーディングした際のノイズの測定だが、図を見てもわかるとおり、かなりのレベルのノイズが乗っている。DCオフセットも大きく、Lチャンネルで-40dB程度、Rチャンネルでも-39dB程度となっている。左右のズレもハッキリわかる。CD-ROMやHDDアクセス時の影響もあるように見える。

【マザーボード】無音時のノイズレベル
CD-ROM/HDD非動作 CD-ROM/HDD動作

 一方、矩形波の実験では、オフセットが確認できるものの、波形の形自体はUA-700のものとそう大きくは変わらない。さらにスイープ信号に至っては、UA-700のよりもフラットに感じられるほどであり、このグラフを見る限りでは周波数特性は良さそうではある。

矩形波の再生波形
【マザーボード】 【UA-700】
Vital Audio Hi-Grade GOLD LINK

 ただし、最後のスペクトラム分析では、倍音に限らず、かなりのノイズが存在していることがよくわかる。

スペクトラム分析
【マザーボード】
【UA-700】Vital Audio
【UA-700】Hi-Grade GOLD LINK


■ サウンドカードを検証する

 Sound Blaster Audigy2では、PCIカード上のラインアウトをその2つ隣にあるラインインに繋いで実験しようとした。が、どうにもうまくいかない。調べてみると、ラインインはCDなどのほかのアナログ入力とミックスされるため、これ単独で録音しようとしてもうまく行かず、無理やりやると発振を起こしてしまう。仕方ないので5インチベイに入れるAudigyドライブのAUX2に入力しようとしたら、今度は50cmのケーブルでは届かない。仕方ないので、Audigyドライブを5インチベイから取り外した上で、PCIのカードのそばに持っていき、繋いで実験した。

 最初のノイズの実験の結果を見ると、UA-700と比較してもかなりいい結果となっている。DCオフセットもほとんど無く、ノイズのレベルは-80dB程度といったところだ。また矩形波の実験はあまり大きくは変わらない。

無音時のノイズレベル
CD-ROM/HDD非動作 CD-ROM/HDD動作

矩形波の再生波形
【Audigy2】 【UA-700】
Hi-Grade GOLD LINK Vital Audio Hi-Grade GOLD LINK

 しかし、スイープのテストを見ると、高域でかなりの減衰が見られる。このスイープのグラフで20kHzを越えた辺りで、急にレベルが上がっているが、これはエイリアシングが起こっているような感じである。ということはレコーディング時にリサンプリングが行われているということなのだろうか……。ここでは、この点についてあまり突っ込んだところまでは追わないが、やや妙な仕組みになっていることは確かだろう。最後のスペクトラム分析では、低域に結構ノイズが混ざっていることがわかる。無音のレコーディングの実験だけでは、実際の再生/録音時の特性を見ることができないことを理解できる。

スイープの再生データ
【Audigy2】
【UA-700】Vital Audio
【UA-700】Hi-Grade GOLD LINK

スペクトラム分析
【Audigy2】Hi-Grade GOLD LINK
【UA-700】Vital Audio
【UA-700】Hi-Grade GOLD LINK

 以上、まずはどんな違いがみられるのかを実験した。今回だけでも、インターフェイスによってかなり特性が違うことはよくわかった。次週も引き続き、違うインターフェイスで同じ実験を繰り返し行なっていく。



□関連記事
【2002年12月16日】【DAL】
第83回:PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
~ 序章:ノイズ、レベル、波形変化の検証法 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030106/dal83.htm

(2003年1月20日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


00
00  AV Watchホームページ  00
00

ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

Copyright (c) 2003 Impress Corporation All rights reserved.