“液晶のシャープ”が、ホームシアター向けプロジェクタにDLP方式を採用するようになってから1年以上が経過した。今回紹介する「XV-Z90S」は、高い評価を受けた同社製DLPプロジェクタの第1号機「XV-Z9000」の弟分に位置する製品だ。“兄の遺伝子”を、どのように受け継いでいるのか気になっている人も多いだろう。
■ 設置性チェック~一般家庭内向けの設計
本体底面にはチルトスタンドが取り付けられており、水平±25度、垂直±10度の投影角調整と、光軸を中心とした±3度の傾き調整が行なえる。チルトスタンドにはロック機構があるので、任意の角度で固定可能だ。 また、手動の光学式レンズシフト機能も搭載。調整幅は、レンズの中心の延長線上を基準にして、投影画像の下端(標準状態)~上端までと、広範囲な調整が可能で、設置の自由度はかなり高い。 ただし、チルトスタンドを標準状態以外に設定した場合、シフトとに合わせて映像の縦横比は若干歪む。また、投写角度が煽り角度はないので、台置き設置の場合は結構な高さを必要とすることには留意したい。もちろん、チルトスタンドで角度を付ければ上向きに投影できるが、その場合は画面が歪むため、デジタル台形補正機能で補正する必要がある。いうまでもなく、調整した場合は画素情報の欠落があり、画質は劣化する。 このあたりはメーカーも理解しており、高さを50/65/80cmに3段階調整可能な専用設置スタンド「AN-PT1」をオプションで設定している。「天吊り設置ができない」、「しかし、デジタル台形補正は使いたくない」というユーザーはこれを利用するといいだろう。
投写モードは、フロント、リア、天吊りの全組み合わせに対応する。天吊り金具もメーカーオプションとして設定されており、オフセット806~1,406mm可変の高天井用「AN-TK201」(標準価格65,000円)、オフセット94mm固定の低天井用「AN-TK202」(標準価格24000円)がラインナップされている。なお、天吊り設置を行なう場合には標準チルトスタンドを取り外して、天吊り金具専用の取り付けアダプタ「AN-60KT」(標準価格8,000円)を取り付ける必要がある。 レンズは光学1.2倍手動式ズームを採用。投写距離は100インチ(4:3)が最短で3.1m、100インチ(16:9)が3.4mという短焦点ぶり。これならば8~12畳クラスの部屋で100インチ超の大画面の導入が可能だろう。 フォーカスも手動方式で、調整は鏡胴のリングで行なう。なお、ズームリングはフォーカスリングとミスタッチしないように大きめなツマミが付いている。細かいところへの心配りに、好感が持てる。 台形補正は垂直方向だけでなく、水平方向にも対応する。よってソニーのシネザ・シリーズのように斜め投影も可能だ。ただし、水平方向の台形補正もデジタルベースで、画素情報の一部が欠落する。 このほか、独自の機能として「デジタルシフト」とよばれる機能がある。本機はアスペクト比4:3のDMDチップを採用しているが、アスペクト比16:9のソースを表示した際には上下に未表示領域が出る。この部分をスクリーンからはみ出して映像を上下シフトしたい場合に、この機能を利用する。クリップアウトした映像はただ表示されないだけで、その時点で表示されている映像に画質劣化はない。また光学レンズシフトのように、シフトしたことによる画面縦横比の歪みもない。よって、16:9の映像表示しかおこなわないというユーザーならば常用もOKだろう。 光漏れは前面の冷却ファンからと背面部で見られる。ファンはボディ前面の左右に1基ずつ実装するが、ファンノイズはプレイステーション 2と同程度だった。
■ 操作性チェック~リモコンは自発光タイプ。応答速度は遅め
リモコンは[LIGHT]ボタンを押すことで全ボタンが自発光する。[LIGHT]ボタンはほかのボタンから離れてレイアウトされており、押しやすい。また、緑色が入力切り替え、赤色がカーソル移動と電源オフ、オレンジ色がそのほか、といった具合に色分けされており、視認性を高めている。さらには各ボタン毎に機能を表すアイコンが描かれており、暗がりでの操作性も配慮されている。 XV-Z90側のリモコン受光部は本体全面と背面の2カ所。スクリーンから反射させてのメニュー呼び出しレスポンスも良好だった。しかし、メニューを開いてからの操作レスポンスはかなり悪い。おそらく内部プロセッサの処理速度の問題だと思うが、もっときびきびしてほしい。 映像入力切り替えは、各入力系統に対応した入力切り替えボタンが独立してレイアウトされているので、希望ソースにダイレクトに切り換えられる。入力切り替え速度はコンポーネント→Sビデオで約3秒(実測)、コンポーネント→アナログRGBで約4秒(実測)と、最近の機種にしては遅め。アスペクト比切り替えは[RESIZE]ボタンを使っての順送り方式。切り換え速度自体は1~2秒と標準的だ。
■ 接続性~DVI端子はないが、そのほかの接続端子は一通り装備
このほか、RCAピンプラグのステレオ音声入力端子があり、ここに音声ソースを接続することで本体内蔵ステレオスピーカーから再生することも可能。スピーカーの音質は「ただ鳴る」というレベルであり、プレゼン用や緊急用と考えた方がいいだろう。
■ 画質チェック~発色良好。XV-Z9000を凌ぐコントラスト比
発色は明色側の色深度が深く鮮明で、グラデーションも実に美しく決まっている。人肌も自然な発色を見せていた。また、暗部階調も単板式DLP方式ながら十分な表現能力がある。単板式DLP方式では一般に不得意とされる「黒いものに対する映り込みやてかり」などもリアルに表現している。ただし、よく見ると暗色には単板式DLP方式特有のディザリングノイズが見て取れる。 さらに、パネル解像度が高くないせいか、単色領域などで若干の粒状感を感じるが、もちろん同じ解像度の液晶方式ほどではない。 意外なことに、普及クラスのプロジェクタには大抵は搭載されているプリセットの目的別色調モードはない。その代わりに「コントラスト」、「明るさ」、「色の濃さ」、「色合い」、「画質(シャープネス)」、「赤み補正」、「青み補正」、「色温度」、「ガンマ補正」といったパラメータがユーザーに解放されている。調整した設定はユーザーメモリに「ポジション1~5」として記憶でき、随時呼び出しが可能となっている。 プリセットの画調設定に目を向けると、デフォルトでは「色温度」が8,500Kと高めなのが気になった。好みにもよるが、このままだと白が青白く見え、人肌も冷たい感じがするので、7,500Kか6,500Kにした方がよいと感じる。色温度の設定幅は、5,500/6,500/7,500/8,500/9,300/10,500Kと豊富だ。 「ガンマ補正」は通常は「標準」でOK。「暗部階調」、「明部階調」はその階調を強調する設定で、バランスが崩れ気味だ。あまりにも画が眠いときなどの特殊用途向けだろう。ハイライトは階調を全体的に上げるものだが、明るい階調は飛び気味となる。これは周囲が明るいときのモードと考えたい。 このほか、調整項目で目を引くのが「ホワイトエンハンス」だ。これはある一定以上の明るさの白色階調を選択式に高輝度化するもの。ほかの色に影響を与えず白色階調が相対的に豊かになるのだが、人によって好き嫌いが分かれそうなモードだ。
というのも、晴れの天気の青空などの表現なら透明感が増し、リアリティも増強されるのだが、光沢に現れる光筋の白なども強調されてしまい、結果的に浮いた感じになる。白色がピンポイントで利用されるような映像はいいが、雪山のような画面占有率が高い映像では、逆に不自然さが出てしまう。白地をバックに文字などを強調したい、PCでのプレゼン用の機能だろう。基本的にはオフにすべきだと感じるが、デフォルトではオンになっている。
●DVDビデオ(コンポーネントビデオ端子接続)
■ まとめ~XV-Z90、XV-Z90Sのどちらにするか 4:3のDMDパネルを採用したことに関しては不満はないが、気になったのはその800×600ドットという解像度だ。映像が16:9の場合は800×450ドットでの表示となるが、現行DVDビデオの720×480ドットを表示するにも足りない。 価格的に難しい部分もあるのだろうが1,024×768ドットパネル採用モデルの設定も欲しかった。これならば16:9の映像でも1,024×576ドット表示となり、余裕が出てくるからだ。 さて、XV-Z90シリーズには無線で映像を飛ばす「AVワイヤレス送信ユニット」をセットにした「XV-Z90S」というモデルがある。実勢価格で両者の価格差は4~5万円程度。映像の無線転送にはIEEE 802.11bを利用し、11Mbps以下のMPEG-2映像に変換されてから送信されるので、画質の劣化は避けられない。
実際にその無線送受された映像を見てみると、XV-Z90S本体に有線接続したときよりも眠たくなったような映像とる。しかし「床に配線を這わせなくて済む」という利点は、家庭においては捨てがたいものがあるわけで、Z90SかZ90にするかは、結局のところ、利便性を重視するかが決め手になるだろう。
□シャープのホームページ (2003年2月13日) [Reported by トライゼット西川善司]
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