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第88回:PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
~ その4:業務用オーディオカードを試す ~


 これまで、マザーボード搭載のサウンド機能から、普及価格帯のオーディオカード、USBオーディオデバイスなどの音質チェックを行なってきたが、今回は少し高価なオーディオデバイス2機種をテストした。


■ Card Deluxe、LynxTwo、RME 96/8 PSTを選択

 今回テストするのは、今まで取り上げた製品より高価なPCIバスのオーディオカード2製品。具体的にはDigital Audio Labsの「Card Deluxe」とLynx Studio Technologyの「LynxTwo」という製品を揃えた。ともに国内ではフックアップが輸入販売しているもので、Card Deluxeの標準価格は98,000円、LynxTwoはオープン価格ながらも店頭価格は190,000円。

 それぞれの特徴を簡単に紹介しておこう。まず、Card DeluxeはISAバスの時代に一斉を風靡した高音質オーディオカード「Card D」の後継となるPCIバス版のカード。スペック的には24bit/96kHzでアナログ1系統にS/PDIFのデジタル1系統というものだから、ごくオーソドックスな仕様だ。

 ただし、アナログ部にかなり力を入れており、端子部分にもそれが現れている。搭載されているアナログ端子は1/4TRSフォーンが4つ。入力2つ、出力2つ。それぞれはバランス/アンバランス兼用で、レベルも民生用の-10dBと業務用の+4dBの切替となっている。また、ドライバの設定でディザリングもできる仕様になっている。ここではディザリングの設定はオフにした上で、+4dBで入出力を直結して実験した。

Card Deluxe LynxTwo LynxTwoに付属する専用ケーブル

 一方のLynxTwoは24bit/192kHzの入出力をサポートしたオーディオカードだ。Sound Blaster Audigy2など出力で192kHzをサポートした低価格な製品はいくつか登場してきているが、入力で192kHzをサポートしているのは、まだほとんどない。もちろん、これだけの価格となっているわけだから、業務用での使用を前提とした仕様・設計となっている。カード自体にはD-Sub端子が2つ用意され、ここに添付のケーブルを接続する。一方には、アナログの4in/4outのケーブルを接続し、ケーブル端はXLRのオスとメスになっている。そして、もう一方のD-Sub端子は、AES/EBUおよびS/PDIFそれぞれのデジタル入出力と、BNCコネクタによるワードクロック同期用のケーブルを接続する。

 以上のことから、入出力を直結させるため、Card Deluxeでは先日用意しておいたVital Audio Professional Cable Seriesの1/4TRSのバランスケーブルを2本使って接続したが、LynxTwoのほうは、XLRのオスとメスをそれぞれ直結させるため、付属のケーブル以外は別途用意する必要がなかった。こちらも+4dBで設定して実験した。

RME 96/8 PST
 この2製品で実験を進めようと思っていたのだが、先日読者から要望のメールが届いた。それは国内ではメガフュージョンが扱っているRMEのオーディオカード「RME 96/8 PST」を試してほしいというものだ。

 実は、私もこれを使っているため、すぐに実験できるということもあり、オマケとして取り上げることにした。このRME 96/8 PSTは、ADATおよびS/PDIFのデジタル端子を装備したオーディオカードであり、ADATを利用すれば8in/8outが可能になる。

 実売価格が4万円程度と、先ほどの2製品と比較するとずいぶん安いものの、評判はなかなかいい。ほかに1/4TRS端子を2つ装備しており、ここでアナログの入出力も可能。ただし、2つしかないことからも想像できるように、これはステレオの入出力であって、もちろんバランスケーブルなどではない。そのため、あくまでもモニタ程度に利用するアナログ端子と割り切って使っていたが、せっかくなのでどの程度の実力があるのかチェックしてみたいと思う。

 なお、RME 96/8 PSTはその後「RME 98/8 PST pro」という新製品が登場したことにより、現時点では販売終了となっている。


■ 無音状態やサイン波再生ではっきりした差が出た

 実験方法は、これまでとまったく同じ。最初の実験は入出力を直結した上で、何も再生をせずに録音した際、どのくらいのレベルのノイズが乗るかというもの。これまでも何度か触れてきたとおり、この実験はプレイバックとレコーディングを合わせたトータルのノイズレベルを測定するものであるため、出力だけ、あるいは入力だけを測定することはできない。中には出力の性能はいいが入力の性能は今1つという製品もあるかもしれないが、ここではあくまでも両方を掛け合わせた結果になるので、その点はご了承願いたい。

 この最初の実験の結果をご覧いただきたい。Card DeluxeおよびLynxTwoの結果を見ていかがだろうか。さすが、これまで見てきたすべてのオーディオデバイスと比較して圧倒的にノイズレベルが低い。24bitでのレコーディングであるため、縦軸のスケールはこれが最大の拡大状態である。

無音状態
(CD-ROM、HDD非動作時)
Card Deluxe LynxTwo RME 96/8 PST

 Card Deluxeでは平均で-105dB以下、最大でも-98.8dB程度のノイズとなっている。さらにLynxTwoに至っては平均でも-108dB以下というノイズの少なさであり、圧倒的だ。一方、RME 96/8 PSTはというと、さすがに前出の2製品とはレベルが異なるものの、かなり健闘している。平均で-92dB以下のノイズに抑えているので、高品質なオーディオカードといえるのではないだろうか。

 次に、上記の実験をCD-ROMドライブおよびHDDの動作中に行なった。やはり、何の影響も受けないという結果に終わった。

無音状態
(CD-ROM、HDD動作時)
Card Deluxe LynxTwo RME 96/8 PST

 3番目の実験は、-18dBとやや弱い矩形波を出力し、それをレコーディングした際、どの程度波形が歪むかを見るもの。これに関してはCard DeluxeもLynxTwoも特に顕著な特性は表れなかった。ほかのデバイスでの実験と同様に、ある程度歪んでおり、まっすぐな直線というわけにはいかなかった。

-18dBの矩形波
Card Deluxe LynxTwo RME 96/8 PST

 次は-6dBの1kHzのサイン波を送り、そこにどれだけノイズが乗ったり、高調波や低調波が乗るかという実験。これもCard DeluxeおよびLynxTwoはなかなか見事な結果となった。さすがに高調波がまったくゼロというわけにはいかないが、ともに影響は微弱だ。測定に用いたスペクトラムアナライザ「WaveSpectra」が出すS/NはCard Deluxeでは88.31dB、LynxTwoで84.77dBという結果となった。

 もちろん、見た目上かなりひどい波形であってもS/Nだけはいい結果になることもあるので、この数値はあくまでも参考程度としてほしい。それでも、これまでが70dB程度が中心であったことを考えると、よい結果といえるだろう。

1kHzのサイン波
Card Deluxe LynxTwo RME 96/8 PST

 最後は、スウィープ信号に対する結果だ。これについては、RME 96/8 PSTを含め、大きな差は見られなかった。いずれもほぼフラットなラインを描いており、低域から高域までしっかり音が出ているようだ。もっとも、Card DeluxeやRME 96/8 PSTは96kHz、LynxTwoは192kHzまでサポートしているのでさらに高域までフラットに音が出るものと思われるが、ここでは48kHzのサンプリングレートで実験しているため、本来の性能を出し切れていないことは間違いない。機会があれば、さらに高いサンプリングレートで試してみたいと思う。

スウィープ信号
Card Deluxe LynxTwo RME 96/8 PST

 以上、高級業務用オーディオカードでの実験結果を掲載した。次回はこれまでの結果を振り返りつつ、このシリーズ全体の検証を予定している。


□フックアップのホームページ
http://www.hookup.co.jp/
□製品情報(Digital Audio Labs CardDeluxe)
http://www.hookup.co.jp/products/soundcard/card_dx/card_dx.html
□製品情報(Lynx Studio Technology Lynx Two)
http://www.hookup.co.jp/products/soundcard/lynx/lynx.html
□関連記事
【2月10日】【DAL】PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
~ その3:USBのオーディオデバイス3製品を検証 ~
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【1月20日】【DAL】PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
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【1月6日】【DAL】PC用オーディオデバイスの音質をチェックする
~ 序章:ノイズ、レベル、波形変化の検証法 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030106/dal83.htm

(2003年2月17日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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