「Rio DR30」は、MP3/WMAファイルの再生が可能な薄型のシリコンオーディオプレーヤー。厚さ9.5mmで重量は38.4g。名刺よりも若干小さい本体サイズでありながら、本体にマイクを内蔵しており、ボイスレコーダとしてMP3形式での録音が可能。さらにFMステレオチューナも搭載するという多機能ぶりだ。 記録媒体は内蔵メモリのみ。128MBモデルの「Rio DR30 128MB」と、256MBの「Rio DR30 256MB」の2モデルをラインナップする。今回は128MBモデルをお借りできたので、その機能や操作性、音質などをレポートする。
従来のRioシリーズは、どちらかというと、曲面を多用した近未来的なデザインの製品が多かった。しかし、今回の「Rio DR30」は実に真面目で、実直なイメージのデザインを採用している。ボイスレコーダ機能を搭載したことで、会議室や発表会場など、ビジネス用途を想定したのだろう。 個人的には通勤ラジオにも見えてしまうフォルムは気にならないし、取材先でも堂々と取り出して使用できた。だが、人によっては「古臭い」、「オジさんっぽい」と感じるかもしれない。余談だが、付属していた専用ポーチまで、若々しいとは言えない鶯色で、思わず苦笑してしまった。落ち着いたデザインのシリコンオーディオプレーヤーが欲しかった人には要注目の製品だろう。
■ 音質はニュートラルで品がある
多機能な「DR30」だが、まずはプレーヤーとしての機能を見ていこう。音楽ファイルはMP3とWMAをサポートし、WMA9にも対応する。液晶ディスプレイはID3タグの表示に対応し、漢字、ひらがな、カナなどを含めた日本語表示が可能。本体が薄型のため、上着はもちろんのこと、ワイシャツの胸ポケットにも難なく収まる。ポータブルプレーヤーとしての携帯性は抜群だ。 その薄いフォルムから受ける先入観で、音質面にはあまり期待していなかったが、良い意味でその予想を裏切る結果となった。なお、試聴には価格帯とタイプを考慮してオーディオテクニカの「ATH-AD7」、「ATH-EM7」、ソニーの「MDR-EX70SL」、KOSSの「KSC50」などを使用した。 まず、一聴すると非常にニュートラルな音質であることがわかる。だが、簡素で面白みのない音とも違う。圧縮音楽を再生していることを忘れるほど音の芯がしっかりと座っており、逆に迫力すら感じさせてくれる。全体的には上品なのだが「しっかり主張すべきところは主張するサウンド」といったところだろうか。
どちらかといえば高域寄りだが、上下もレンジが気持ちよく伸びている。分解能や解像度もポータブル機器としては高い方だろう。演奏者の息を吸い込む音など、音の悪いプレーヤーでは埋もれがちな細かい音も聞くことができた。 なお、イコライザも内蔵している。プリセットモードは「NORMAL」、「CLASSIC」、「LIVE」、「POP」、「ROCK」の5種類。どれも節度をわきまえたイコライジングになっており、好印象だ。個人的には高域のキツさを和らげ、低音を増やしてくれる「ROCK」モードが気に入った。また、ボイスレコーダとしての機能も搭載するため、リピート再生やスロー、早送り再生などの特殊再生が充実していることも特徴の1つだ。 FMラジオの音声も良好。色づけの少ない、鮮度の高い音が楽しめた。だが、ソニーのポータブルラジオ「SRF-M90」や、FM文字多重放送対応のラジオ「SRFDR2V」などと屋外で比較したところ、受信感度の弱さを感じる場面もあった。ただし、ポータブルラジオはイヤフォンのコードをアンテナとして使用しているため、コードを長くしたり、良く聞こえる位置にコードをずらすなど、工夫で解決できるだろう。
以上のように、本機はポータブルオーディオ機器の中でもかなり高音質の部類に入る。付属のイヤフォンも味付けのない、素直な音だが、このプレーヤーにはかなりグレードの高いイヤフォン、ヘッドフォンを奢っても無駄にはならないだろう。それと同時に、音質の悪いMP3/WMAファイルを再生した場合は、音の悪さを包み隠さず聞くことになる。
■ 多彩に使える録音モード 次は録音機能を見てみよう。用意する録音モードは「ラインインモード」と「マイクモード」の2種類。ボイスレコーダとして使用する場合はマイクモードを選択する。マイク録音はすべてモノラルで、内蔵マイクのほか付属のモノラル外部マイクも使用可能。ただし、プラグインパワーには対応していない。保存形式はMP3で、選択可能なビットレートはLQ(8kbps)、MQ(16kbps)、HQ(32kbps)の3種類。各ビットレートでの録音時間は以下の通り。
静かな部屋での録音ならば、LQモードでも何を言っているのか聞き取ることができる。机の上に仰向けに置くと、部屋の騒音が机に当たる反射音を拾ってしまいがちだが、付属の外部マイクを接続することで対処可能だ。また、無音状態が続くと自動的に録音を一時停止し、音を感知すると録音を再開する「デジタルVOR(Voice Operated Recording)」などの機能も搭載している。
しかし、マイクの感度やボリュームの調整ができないため、広い会場や、話者との距離が遠い状況は苦手だ。そのため、使い方としては本体を口元に近づけて録音する「ボイスメモ」用途が一番しっくりくる。 また、本体中央に配置された「REC/PAUSE」ボタンを2秒以上長押しすることで、電源オフ時や音楽モードなど、どんな状態からでも即座に録音できる「スクープボタン」機能も搭載している。なお、スクープボタンの録音ビットレートは事前に設定できる。いざという時に頼りになる機能だ。 ラインインモードに設定するとステレオ録音が可能になり、ビットレートも最大192kbpsまで選択できる。本体のみでCDプレーヤーなどからダイレクトにMP3録音が可能。エンコーダの音質も良く、マイク録音時と比べると品質は別次元だ。
さらに、FMラジオを聴きながら「REC/PAUSE」ボタンを押すと、ラジオをMP3形式で録音できる。もちろん、録音したファイルは普通のMP3/WMAの音楽ファイルのように本体で再生することが可能だ。試しにFM文字多重放送(見えるラジオなど)と同時に使用してみたが、FM文字多重放送の場合、文字データを受信している間に違う番組が始まってしまうことがあるため、気になる曲のタイトルなどをメモ代わりに記録できるDR30は快適だった。
ただし、FM放送の録音はサンプリング周波数が44kHz、ビットレートが112kbpsに固定されるため、放送とほとんど変わらない音質のまま保存というわけにはいかない。MP3特有の、高音にシャラシャラした色が付き、低音も薄くなってしまうのが残念だ。
■ 転送速度も満足だが、操作性に難あり PCとの接続は付属のUSBケーブルを使用する。USBのストレージクラスには対応しておらず、専用のドライバが必要。ファイルの転送には「Rio DR manager」という専用のソフトを使用する。MP3/WMAなどの音楽ファイルはPCからのダウンロードのみ可能だが、録音した音声ファイルや、FMラジオのファイルはPCにアップロードすることもできる。 なお、充電もUSB経由で行なわれ、充電時間は約5時間。ただ、PCと接続したまま何時間も放置しなければならず、充電のためだけにPCを起動するというのも不便だ。ユーザーの使用環境にもよると思うが、オプションの急速充電器を購入した方が良いだろう。 「Rio DR manager」はエクスプローラ風のインターフェイスで、直感的に使いやすい。内蔵メモリは「音声/データ」、「ボイス」、「FM」の3つのフォルダに区切られており、違う種類のファイルがまざる危険性がない。なお、「音楽/データ」フォルダにはMP3/WMA以外のファイルも転送可能だ。
転送速度は7.69MBのWMAファイルが約13秒、12.9MBのファイルが約23秒。USB 1.1としては高速と言っていいだろう。転送後の更新処理やファイルの削除などもタイムラグがほとんどなく、快適に操作できた。 しかし、使いやすいソフトウェアの反面、本体の操作性には若干疑問を感じた。まず、PCと接続するため、本体のUSBコネクタの蓋を開ける必要があるのだが、これが非常にやりづらい。蓋はゴム製で、わずかな突起を爪でつまんで引き上げるようになっているのだが、爪を切ったばかりの筆者の指ではつかむのに苦労してしまった。
本体の充電をUSB経由で行なうことを考えると、ほとんど毎日開閉する場所である。シャッター式など、もう少し操作しやすいものにしてほしかった。
また、電源のオン、オフや、モードの切り替えなどの操作性も今ひとつ。まず、電源をオンにするためには、本体中央の「REC/PAUSE」ボタンを2秒間押す必要がある。これはこれで良いのだが、この「REC/PAUSE」は前述した通り、「スクープボタン」と機能を兼用しているため、2秒以上押し続けると録音モードが立ち上がってしまい、勝手に録音を開始してしまうのだ。 「2秒以上押さなければ良い」といわれればその通りなのだが、厳密に「いーち、にー」と数えながらボタンを押すことはまずない。特に、寒い日に手袋をしたまま、胸ポケットに入れた本体の電源ボタンを押すような場合、電源ボタンから指を離すのが一瞬送れただけで録音が開始されてしまうのは困りものだ。
いろいろ設定を変えた結果、電源ボタンを押し過ぎても自動的に録音を開始しないようにもできるのだが、録音モードで立ち上がってしまうことに変わりはない。できれば電源ボタンとスクープボタンを別にしてほしかった。 また、最も多く使うであろう「モード切り替えボタン」も使いづらい。モードボタンは、各種の設定を行なう「メニューボタン」と兼用なのだが、2秒以上押し続けると以下のように機能(モード)を切り替えることができる。
さらに、モードボタンは1つで3役を担っている。音楽や録音したファイルを再生中にモードボタンを2秒間押すと、スロー再生などが可能な「再生速度変更モード」に切り替わってしまうのだ。つまり、音楽を聴いている最中に「ラジオを聞きたいな」と思った場合、一旦再生を停止してから、モードメニューを2秒間押さなければならない。覚えていれば済むことなのだが、慣れずに何度も間違えてしまった。 本体を薄型にしたことでボタンの数が限られてしまったのだとは思うが、モードボタンや削除ボタンは独立させて欲しかった。1つのボタンに複数の機能を割り当てると、やはり操作は複雑になってしまう。
■ まとめ 録音機能が付いた「ポータブルシリコンオーディオプレーヤー」と見るか、MP3/WMAファイルの再生が可能な「ICレコーダ」と見るか、それによって評価は分かれるところだ。ただ、個人的にはオーディオの再生音質が優れていたため、「プレーヤー」という印象が強かった。 よって、「いつもは音楽を聞くために使っているが、時々、必要な時に録音もする」といった使い方がベストだろう。プレーヤーとしての十分な機能を持っていることは間違いない。しかし、内蔵および外部マイクの感度を調節できないので、ICレコーダ機能をメインとして考えると不満な点も出てくるだろう。 とはいえ、背広にも難なく収まる薄型ボディに、これだけの機能を詰め込んだ製品としての魅力は高い。また、落ち着いたデザインで品位も高いので「音楽を愛するビジネスマン」を自負するユーザーは、使ってみる価値のある製品だろう。 最後に、使用中、液晶のELバックライトからノイズを拾う場面が何度かあった。バックライトを使うと必ずこの現象が起こるというわけではないので、この機体固有の不具合の可能性もある。また、先ほど操作性について難ありと書いたが、ファームウェアのアップグデートに対応しているため、このあたりの今後の改良にも期待したい。
□ソニックブルーのホームページ (2003年3月13日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
|
|