■ 低価格な3板式DLPプロジェクタが次々と登場? まだまだ一般ユーザーには高嶺の花の3板式DLPプロジェクタだが、近い将来、「がんばれば購入できる」くらいに値段が下がるかもしれない。というのも、DMDチップ製造元のTexas Instruments(TI)が、単板式に続き3板式でも、光学設計や映像エンジン部の設計について、プロジェクタ供給メーカーの自由度を高めるビジネスモデルに移行するからだ。 TIはDLPシステムを光学エンジンから映像エンジンまでをセットにした「コアエンジン売り」を行なってきた。しかし、DLP機器メーカーが技術を蓄積してきた現在では、このビジネスモデルに限界が見え始めた。TIはもともと半導体メーカーであり、DMDチップが売れればよい。DLP方式の優位性の認知が高まってきた現在では、むしろプロジェクタメーカーに自由な設計をしてもらった方が、DLPシステムそのものの技術革新も期待できる。そこで、今年末までにTIは、DLPシステムのビジネスをDMDチップ提供のみに完全移行する方針を打ち出したのである。 今回のinfoCommでは、この流れの走りともいえる製品がBarco、Digital Projection、Panasonicの3社より発表された。BarcoとDigital Projectionの製品では、映像エンジン部と光学エンジン部の設計を台湾Deltaが担当、大幅にコストダウンできたようだ。Panasonicはそれらも内製している。 TIがDMDチップを独占的に製造する状況に変化はないが、製品設計については液晶プロジェクタに近くなる。消費者側の3板式DLPに対する需要の高まりとメーカー間で競争原理が働けば、価格の下落も期待される。 そうなれば単板式の持つカラーブレーキングなどの問題も根本から解消されるわけで、我々「大画面マニア」が待ち望んだ時代の到来も案外近いのかもしれない。 ◆Barco「RLM G5」
輝度は4,500ANSIルーメンで、スタック投影にも対応。価格は29,588ドル(約360万円)となる見込み。米国での発売時期は8月から9月を予定している。 ◆Digital Projection「MERCURY5000GV」 0.7インチの1,024×768ドットDMDチップを3枚使用。OSLAM HIDランプを2基使用し、公称輝度4,500ANSIルーメンを達成する。ランプ1灯で使用することもでき、その場合は輝度が半分になるが、寿命は倍(1,500時間が3000時間)になる。コントラスト比は800:1。レンズシフトはX軸±0.5フレーム、Y軸±0.35フレームに対応。PCカードスロットを備えるなど、データプロジェクタ的な活用も考えられているが、同社の映像処理技術であるDigiScaleやDigiViewを備えるためホームシアターにも対応する。 発売時期は8月~9月を予定。価格は標準レンズ付きで19,995ドル(約240万円)という戦略的な設定。担当者によればXGA3板式DLPプロジェクタとしては最安値になるという。 また、HD2 DMDを3枚使用したMERCURYについても、開発中とのこと。こちらは発売時期が2003年第4四半期、価格は未定としながらも、「MERCURY5000GVと同等になる見込み」と説明している。MERCURY5000GV以上にホームシアター市場を視野に入れた製品となる。
◆Panasonic「PT-D7500U」
ほかの2機種と同様、1,024×768ドットのDMDチップを3枚使った3板式DLPで、光源に300W UHMランプを採用。これを2灯使用することで最大5,000ANSIルーメンの輝度性能を提供する。コントラスト性能は600:1だが、ハイコントラストレンズと組み合わせたときは1,000:1にまで引き上げることが可能。
実勢価格は250万円前後。兄弟機として1,280×1,024ドットDMDチップの3板式DLPの「PT-D7600U」(国内型番TH-D7600)があるが、こちらは実勢価格350万円前後となっている。
■ 反射型液晶? のある暮らし~Philipsの鏡面テレビ Philipsは「ミラーLCD(鏡液晶)」と呼ぶ奇妙な製品を発表。展示コーナーはブースでも一番の人気スポットとして来場者の注目を集めていた。普段は液晶テレビとして使えるのだが、電源を落とすと普通の鏡になってしまう。 「鏡液晶」という名前から「反射型液晶の新しいデバイスか」と思わせもしたが、実は採用液晶素子自体はごく普通の透過型液晶パネル。これに特殊な光学フィルターを組み合わせ、この機能を実現している。
最近の液晶ディスプレイはアクリル板を備え付けていて、鏡のように外光が映り込んでしまうものがある。しかし反射像が暗く、本当の鏡の反射像と異なるのはご存じの通り。ところが、この鏡液晶は、電源オフ時は、まったく普通の鏡と変わらない。しかも、不思議なことに、液晶テレビとして使っているときは驚くほど外光からの映り込みが少なく、鮮明な映像が表示できる。 「機能的には単純なものだが、応用次第ではいろいろと便利なものになる」と担当者は力説する。例えばノートPCに応用すれば、「電源オフ時には手鏡として使える」という。 ブース内には、画面の上側3分の2を普通の鏡、下側3分の1を鏡液晶とした試作製品も展示。洗面所に設置すれば、ヒゲを剃りながらテレビが見られるし、浴室に設置した場合は、体を洗っているときは鏡として、湯船に入ってからはインターネット……、といった感じで使えるのだとか。 現在、17インチ、23インチ、30インチの製品化を考えており、価格は未定とながらも2003年第4四半期に、製品発売の予定があるという。
■ D-ILAプロジェクタ最安値「DLA-SX21」の実機と投写映像を公開 ビクターは反射型液晶の「D-ILA(Digital Image Light Amplifier)」素子を使ったプロジェクタの新製品「DLA-SX21」をブース内に展示、またブース内シアターでその映像をお披露目した。 DLA-SX21は業務用データプロジェクタの位置付けの製品ながら、720p、1080i、1035i、1080/24Pといったビデオ信号の高品位対応をうたう。さらにD-ILAプロジェクタ製品としては歴代最安値製品ということもあって、一般ユーザーからも高い関心が寄せられている製品だ。日本国内では発売されたばかりの製品であり、実機とその映像の初めての一般公開ということもあって現地来場者からも強い関心が寄せられていた。 DLA-SX21はビクターの0.7インチ1.5Mピクセルの新D-ILA素子を使った3板式プロジェクタ。解像度は1,400×1,050ドット。
カラーモードとしてMac RGB、sRGB、AdobeRGB、そして放送業務用モニタプロファイル向けのEBUモードを有しているのが特徴。ホームシアター用途はもちろん、映像製作業務、デザイン業務といったプロ使用も視野に入れた製品となっている。 歴代のD-ILAプロジェクタとの違いで、もっとも注目すべきは使用ランプ。従来製品では高価なキセノンランプを採用していたが、DLA-SX21では安価なNSHランプを採用しているのだ。ランプ寿命は従来の2倍の2,000時間、交換ランプの値段が450ドル(北米価格)と、ランプに関するランニングコストは半分以下になった。 しかも、輝度性能は1,500ANSIルーメンと従来機から引けを取らず、コントラスト比に至っては歴代D-ILAプロジェクタとしてもトップレベルの800:1を達成している。光学系は従来のD-ILAプロジェクタから一新された。北米での価格は10,995ドル、日本では120万円となっている。
■ 1,024×768ドットのまま16:9で表示するHT1000用アナモーフィックレンズ 第19回でも取りあげたNECの単板式DLPプロジェクタ「HT1000J」は、北米市場でも人気のプロジェクタ製品となっている。 HT1000Jは、もともとその起源をデータプロジェクタとしていることからアスペクト比4:3、1,024×768ドットのDMDパネルを採用している。そのためアスペクト比16:9の映像を表示させたときには、1,024×576ドットなどパネル全域より少ない領域で表示される。これでも実用レベルの表示品質なのだが、やはり1,280×720ドットのHD2チップを採用した競合製品に比べると、解像感は幾分物足りくなる。 そこで、登場したのがパネル全域に表示させた映像を光学的にアスペクト比16:9に圧縮表示するアナモーフィック・レンズ(Anamorphic=歪ませるの意)だ。具体的には各画素の横方向を1.33倍横長にして表示するイメージになる。
これでも画素情報量はHD2パネルよりも少ないのに変わりはないが、もともと1,024×576ドットでしか表示していなかったアスペクト比16:9の映像を1,024×768ドットで表示できるため、解像感は劇的に向上する。 開発は米Panamorph。価格は1,500~2,000ドルを予定しているが、日本での発売は未定とのことだ。
■ Samsung、JOE KANE監修のホームシアター向けDLPプロジェクタ 各社からHD2 DMDパネルを採用したホームシアター単板式DLPプロジェクタが発売が相次いでいるが、Samsungも今回のinfoCommでホームシアター向けの新製品「SP-H700A」を発表した。それも、コストパフォーマンスを重視した製品ではなく、むしろハイエンドユーザーをターゲットにしたコンセプトになっているのが同社製品としては珍しい。 スペック的には、1,280×720ドットのHD2 DMDパネルを採用し、250W UHPランプを搭載。公称輝度はコントラスト比1,000:1モードで800ANSIルーメン、1,200:1で650ANSIルーメンとなっている。 プログレッシブ化ロジックとして、FaroudjaのDCDiをインプリメントした「FLI2310」を採用。ファンノイズは28dBで、同クラスでは「世界最静音プロジェクタ」をうたっている。DVI-D端子はHDCP対応。コンポーネントビデオ入力端子を2系統持っているのも特徴的だ。 この製品で最大のトピックが、AVユーザーの調整ディスクとして定番の「VIDEO ESSENTIALS」のプロデュースで著名なJoe Kane代表(Joseph J.Kane, Jr.)が、色再現性の監修を務めたという点。
Samsungブース内の特設シアターでは、実際にSP-H700Aにて様々な映像を投影し、Joe Kane氏が自ら色再現性のこだわりについて解説していた。 北米での発売時期は9月を予定。価格は10,000ドル。日本での発売は未定。
■ 液晶テレビとPDPに目立った動きは無し。プロジェクタはDLP勢に注目 昨年は最大サイズが61インチから63インチになったくらいで劇的な世代交代はなかったプラズマディスプレイ(PDP)。今年こそは1,920×1,080ドット解像度のPDP試作機をどこかが出してくるに違いないと踏んでいた。しかし、各社ともマイナーチェンジ製品を出したのみで、世代交代を感じさせるような新パネルは登場しなかった。そのためか、劇的な画質向上も感じられない。PDPの進化速度は、ここにきて少しゆるまった感じがある。世代交代を気にして買い控えしている人は、思い切って夏のボーナスで買ってもすぐに後悔するようなことはないかもしれない。 一方、液晶(LCD)ディスプレイはどうか。今年のInternational CESで、PDPより一足お先に1,920×1,080ドット解像度に到達し、なおかつPDPに優るとも劣らぬ54インチサイズの世界最大液晶HDTV試作製品を発表したSamsungも、今回のinfoCommではやっと40インチサイズが製品化の目処が付いた状態。担当者によれば54インチは量産上克服しなければならない問題があるため、すぐには量産できないという。実際、ブース内には54インチタイプは展示されておらず、展示されていたのはその下の1,280×720ドット解像度の46インチタイプのみだった。 なお、46インチタイプの発売時期は2003年第4四半期に確定したようだ。ちなみに、今秋に発売予定の40インチタイプの価格が15,000ドルということを考えると、46インチは20,000ドルを超える見通し。あまり現実的な価格になりそうにない。 また、International CESでは52インチと42インチ液晶HDTVを展示していたLG電子(Zenith)も、今回のInfoCommでは大画面ディスプレイの展示はなし。 試作レベルでは1,920×1,080ドットに先行到達した液晶ディスプレイだが、やはりインチ単価で見るとまだまだPDPの方に一日の長がある。
やはり、いまだ大画面製品としてインチ単価的に最も安いのがフロントプロジェクタということになる。特に最近シェアの伸ばしているのが単板式DLPだ。単板式DLPはフロントプロジェクタはもちろん、リアプロも各社からの新製品が目立つ。
■ そのほかの注目製品 ●Digital Projection「iVisionシリーズ」 業務用、またはハイエンドユーザー向けの3板式DLPプロジェクタを開発してきた同社が初めて手がけた単板式DLPプロジェクタ。 1,280×1,024ドットパネルを採用した「iVisionSX」は最大輝度3,000ANSIルーメン、コントラスト比1,000:1。カラーホイールは4セグメント(RGBW)タイプなので、データプロジェクタ的な位置付けとなる。 1,280×720ドットパネルを採用した「iVisionHD」は、最大輝度1,000ANSIルーメン、コントラスト比2,300:1。カラーホイールは6セグメント(RGBRGB)タイプで、こちらがホームシアター向け。
●Mitsubishi「HC2」、「HC3」など 三菱電機のホームシアター向け低価格液晶プロジェクタ「LVP-L01」の後継機と思われる製品が三菱ブース内にひっそりと展示されていた。北米型番は「HC2 Color View」だが、その筐体デザインから見てLVP-L01の後継と見て間違いない。 液晶パネル解像度は800×600ドットのままだが、使用ランプを150W UHPランプとすることで、公称輝度はLVP-L01の700ANSIルーメンから1,100ANSIルーメンに高められている。価格はLVP-L01からグッと下げられ、北米市場価格で1,999ドルを予定している(LVP-L01の標準価格は398,000円)。北米での発売時期は今月を予定。 そして、もう1つひっそりと展示されていたのが「HC3 Color View」。スペックも一切未公開としているためはっきりとしたことは言えない。わかっているのはアスペクト比16:9のパネルを採用し、最大輝度が1,200ANSIルーメンになるということだけ。こちらは2003年第4四半期に発売予定。価格は未定だ。
●inFocus「ScreenPlay4800」 inFocusは前編で紹介したLP120以外に、もう1つの注目の製品があった。それはハイコストパフォーマンスモデルの「ScreenPlay4800」(以下SP4800)。 SP4800は、振れ角12度の800×600ドットDDR DMDチップを採用した単板式DLPプロジェクタで、なんといっても標準価格で1,400ドル(約17万円)という価格の安さが魅力。それでいて、最大輝度1,100ANSIルーメン、コントラスト比2,000:1というスペックを有している。コンセプトは「ティーンエイジャーでも買えるプロジェクタ」。映画からゲームまでマルチに楽しめそうな製品だ。
●LG「RL-JA20」 LG Electronicsは、Faroudja DCDiを搭載した液晶プロジェクタの新製品「RL-JA20」を発表した。アスペクト比16:9の解像度1,365×768ドットの液晶パネルを採用。 150W VIPランプを採用し、最大輝度1,000ANSIルーメン、コントラスト比600:1を実現。縦横±10度のデジタル台形補正機能も搭載されているので、斜め投写も可能。
※記事中の画像はすべてデジタルカメラD100で撮影しています。
□infoCommのホームページ (2003年6月12日) [Reported by トライゼット西川善司]
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