■ ポータブルオーディオプレーヤーの新プラットフォーム 現在のポータブルオーディオプレーヤー市場には、CDや、MD、シリコンオーディオ、HDDプレーヤーなどさまざまな種類の製品が登場している。その中でも、最もホットなのはHDDプレーヤーだろう。今までのHDDオーディオプレーヤーは、iPodなどの1.8インチHDDを採用した製品と、NOMAD Jukebox Zenなどの2.5インチの製品の2種類に分かれていた。
しかし、そこに1インチHDDを採用した「Rio Nitrus」と、「NOMAD MuVo2」が登場したことで、そこに変化の兆しが現れた。最大のメリットは、1インチHDDを採用することで、1.8インチHDDと比較して大幅に小型化ができるため、シリコンオーディオプレーヤーとほとんど変わらない大きさで、大容量ポータブルプレーヤー実現可能になる。 現在、1インチHDDの容量は1.5GB~2.2GB程度。そのため、「全てのライブラリを持ち運び可能に」という既存のHDDプレーヤーのコンセプトとは異なり、ある程度の数のライブラリを取り替えながら楽しむというスタンスになるだろう。そういった意味では、シリコンオーディオプレーヤーの上位機種的な扱いになるのかもしれない。 ともあれ、今までのHDDプレーヤーより大幅に小型で、シリコンオーディオに比べると大容量という、新たな市場が立ち上がる機運も感じられる。また、1インチHDDは年内にも容量4GB以上となる見込みでで、1.8インチを押し退けて、市場のメインストリームとなるかもしれない。ということで、今回は、市場投入された1インチHDDプレーヤーの第1弾「Rio Nitrus」を試用した。 ■ 小型の筐体に独特なデザインを採用
付属品は、イヤフォンやACアダプタ、USBケーブル、CD-ROMなど。取扱説明書は簡単なクイックスタートガイドのみで、詳細なものはCD-ROMにPDF収録されている。付属品がシンプルなこともあって、パッケージは小型だ。 外形寸法と重量は62.4×17.8×82mm(幅×奥行き×高さ)/約78gと非常に小型で、タバコの箱より横幅はあるものの、薄いため、ワイシャツの胸ポケットにも収まるサイズとなっている。手のひらには収まらないが、1.8インチHDDプレーヤーと比較すると飛躍的な小型化が実現されている。 光沢あるピアノブラックの塗装を本体外装に施し、曲面を生かしたデザインを採用。中央に再生、停止などが行なえるスティック上のコントローラ「RioStick」を装備する。右側面にメニューボタンと、ダイヤル式の「ロータリコントローラ」を装備している。また、左上部に電源ボタンと、ボリュームボタンを備えている。 メニューボタンは少し押し込みにくい位置にあり、慣れるまでに時間がかかった。一方、ボリュームボタンはやや小型ながら、上部の[+][-]の突起を押し込むように操作すると比較的容易に操作が行なえた。 ブラック基調のボディに、赤いスティックというデザインはIBMのノートパソコン「ThinkPadシリーズ」を思わせる。ボディも曲面を多用しており、デザインは好き嫌い分かれそうだが、ThinkPadユーザーの筆者にはとても好ましく感じる。
■ 転送速度は標準的。ややクセのある操作体系
オーディオファイルの転送は、USB 2.0経由で行なう。オーディオファイルは、WMAとMP3に対応し、付属の「Rio Music Manager(RMM)」のほか、Windows Media Player 9からも転送可能となっている。RMM2はリッピング/エンコードから、ファイル管理などが可能が統合ソフトで、プレイリストの作成にも対応する。 ThinkPad X31とUSB 2.0接続し、RMMで1,209MBのデータを転送した際にかかった時間は16分30秒。とりたて高速というわけでもないが、満足いく転送速度だ。本体を持ってみるととにかく小型。1.8インチHDD搭載プレーヤーで世界最小の「gigabeat G20」と比較しても2クラスぐらい小さくなっているという印象だ。 実際に通勤電車で使ってみると、ポケットに収まるサイズなので、一度再生したらあとはポケットに突っ込んでおけばいい。操作を行ないたいときだけ取り出しすといった具合で、小型のシリコンオーディオプレーヤーのような感覚で扱える。 電源は液晶左上の電源ボタンでON/OFFを行ない、中央の「RioStick」で曲の再生/一時停止、停止、早送り/戻り、曲送り/戻りといった基本操作ができるため、片手で持って簡単に操作できる。
右側のメニューボタンを押すことで、メインメニューが立ち上がり、曲の再生方法の指定やイコライザ設定などが可能。右端のロータリコントローラで、メニューの上下操作や、再生画面の表示を、タイムコード/トラックフォーマット/日付の3画面の切り替えが行なえる。 やや気になるのがメニューボタンが押しにくいこと。一体成形ボディのくぼみにボタンを配しているのだが、爪を立てるように押さないと反応してくれない。Rio Nitrusの操作の多くはこのメニューボタンを利用し、メインメニューを立ち上げてから行なうため、このボタンの操作性はもう少し考慮して欲しかった。
曲の再生方法は、メインメニューの[曲の再生]から、全曲再生/アルバム/アーティスト/ジャンル/年/新しい音楽/プレイリストが選択できる。操作レスポンスは良好で、アルバム表示の際もID3Tagなどのトラック情報をきちんと拾って再生できる。
多くのHDDプレーヤーでサポートしているジャンル別再生のほか、年代別表示や、転送順に再生する「新しい音楽」など目新しい再生モードが用意されているのは面白い。 気になった点は、再生画面からアルバムやアーティスト順のファイルを選択する際の、切り替えの頓雑さ。アルバムやアーティスト順で再生する場合は、メインメニューから、[曲の再生]→[アルバム]or[アーティスト]を選択すると、アルバム/アーティスト順でリスト表示されるので、聞きたい曲を選択すれば再生がはじまる。しかし、1度再生を開始すると、アルバムを途中で変えたいときも、[メインメニュー]→[曲の再生]→[アルバム]などと操作して、切り替えなければならない。つまり一度選択したアルバムから違うアルバムに移動する際は、いちいちメインメニューに戻り、最初からアルバム選択をしなければならない。 多くのHDDプレーヤーは、再生画面とメニュー画面が1ボタンで切り替えられて、簡単にアルバム切り替えなどができる中で、Rio Nitursのこの仕様はやや使いづらいと感じた。 ■ 音質は良好。ストップウォッチ機能も搭載
付属のヘッドフォンは、ゼンハイザーの「MX300」。単品販売もされており、実売で1,300円程度と低価格ながら、バランスの良い音質で定評のあるインナーイヤフォンだ。iRiverのシリコンオーディオプレーヤーなどでも採用している。 早速試聴してみると、低域から高域まで気持ちよく鳴る。高域の情報量も豊かにきっちり再生される印象だ。ヘッドフォンを変えてみても、プレーヤーの出力はニュートラルで、再生品質も上質だ。
イコライザは、ノーマル/ロック/ジャズ/クラシック/ポップス/トランスの6モードとカスタムモードが用意される。カスタムモードでは5バンドの個別調整が可能となっている。 ここまでは、他のプレーヤーでも見かけるモードだが、やや異色なのが「トランス」モード。イコライズ自体は低域と高域を強調し、シンセベースなどを強調するような設定で、さほど変わったことをしているわけではないが、わざわざ「トランス」と名付けるあたりは、開発者なり企画担当者なりのこだわりが感じられる。
また、特徴的な機能としては時計機能に加え、ストップウォッチ機能が挙げられる。ストップウォッチは、RioStickを押し込むことで、スタート/ストップが行なえる。ラップも取れるなどストップウォッチとしての機能もなかなか充実しており、音楽を再生しながらストップウォッチ機能も利用できる。 音楽を聴きながらジョギングして、タイムを計測するといった、シチュエーションを想定して実装したのだろうか。そういえば本体の形がストップウォッチに似ているような気もする……。
本体には、オーディオデータのほか、付属の「Rio TAXI」を利用した、データの保存も可能となっている。ただし、USBストレージではなく、専用ソフト経由での転送となるのは不便だ。 電池は内蔵のリチウムイオンで、駆動時間は最大16時間と、ポータブルオーディオプレーヤーとしては長い部類に入る。5時間以上の連続駆動でも、メモリは1目盛り(5目盛り中)しか減らなかった。充電はACアダプタ経由で行ない、USBからの充電には対応しない。 ■ 将来のHDDプレーヤーの主流は1インチに? 一通りの機能を試して、やや操作体系に不満が残る点もあったが、レスポンスは高速で、操作にストレスを感じないのは好印象だ。 そして、1インチHDDの搭載による小型化は、思った以上に取り回しを向上させてくれる。筆者は日ごろから、「HDDオーディオプレーヤーには液晶リモコンが必須」などと書いてきたが、このサイズであればリモコンは不要。全ての操作が本体で行なえるほうが便利といえる。一言でいうと「ちょうどいい小型化」が達成されているという印象だ。 もちろん、価格あたりの容量でいえば20GB/40GB/60GBと大容量のHDDプレーヤーには及ばない。競合となるiPodやgigabeat G20は、20GB容量で5万円弱と、容量を求めるユーザーであれば、そちらを選ぶのが現時点では正しいだろう。シリコンオーディオプレーヤーでは、128MB容量で1万円前後、256MBだと2万円を超える製品が多くなるので、アルバム5枚以上常に携帯しておきたいユーザーであれば、Rioを選択した方がいいように思う。そういう意味では大容量シリコンオーディオプレーヤーの市場は、1インチHDDプレーヤーの登場によりかなり厳しくなったといえるだろう。 1.5GBの容量があれば、普段聞く曲を選別すれば、ライブラリの更新などもさほど必要としないし、「全てのライブラリを携帯したい」というユーザーでなければ、満足できるだろう。さらに、MDプレーヤーよりもはるかに小型なので、MDユーザーがHDDプレーヤーに移行する際にも大きな魅力になると思う。
1インチHDDは、Microdriveの日立グローバルストレージ(HGST)が年内に4GB容量の製品を、中国GS magicstorも年内に4.8GB製品を投入、さらに来年には7~8GBの大容量化を計画している。これらのロードマップを鑑みながら、将来のHDDオーディオプレーヤーを想像してみると、大容量を求めて1.8インチ/2.5インチをあえて選ぶするユーザー以外は、1インチの小型プレーヤーに選択するのではないだろうか。1~2年後ぐらいのHDDプレーヤーの多くは1インチHDDを採用している可能性はかなり高いと思われる。それぐらい「小型化のメリットは大きい」と感じさせる魅力を、Rio Nitrusは持っている。 あとは、発売延期されてしまったものの、実売28,800円で、USBマスストレージ対応という強力な特徴を持つクリエイティブの「MuVo2」の市場投入も楽しみだ。競合製品の切磋琢磨により、この市場が盛り上がっていくことを大いに期待したい。 □Rio Japanのホームページ (2003年10月17日)
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