■ 例のアレが早くも登場 テレビ録画機で今もっとも熱いのは、HDD搭載DVR(Digital Video Recorder)であることは間違いない。予約システムもEPGやiEPGの搭載、さらにはメール予約システムなども発達し、たくさんの番組を録画できるようになった。 だが、それを見るということは、家に帰ってテレビの前に座るということだ。テレビを見ることにそれだけ時間が取れる人はいいだろう。しかし長距離通勤で帰る時間が遅かったり、へとへとでベッドへ直行という方は、いくらレコーダで番組を録画しても、見る時間がない。せっかくの情報も、HDDの肥やしとなるだけだ。いや肥やしとなって容量が増えたりすればいいのだが、実際には無駄に回転させて寿命を縮めたりして、ロクなことにはならない。 そういう人にとっては、十分な容量を持つポータブルAVプレーヤーは、救世主として映るのではないだろうか。通勤の行き帰り、時間つぶしに週刊誌など読むぐらいなら、録画番組の消化に努めた方がいい。あるいは寝るつもりで布団に入って、番組を見るということもできる。 先週のポータブルAVプレーヤー「Cinema To Go」のレビューでは、シメとして国内メーカーの製品もぼちぼち、みたいな話を書いた。それから数日して、急遽SONY製バイオ用HDDビデオプレーヤーをお借りできることになった。実に絶妙なタイミングである。すでにWPCなどで参考出品された、アレだ。 モデル名は「PCVA-HVP20」(以下HVP20)。発売日は11月22日と間近だ。国産プレーヤーHVP20は、Cinema To Goを超えるのだろうか? さっそくチェックしてみよう。
■ ブラックボディでコンパクト
まず先に、HVP20の基本スペックを押さえておこう。HVP20は、Cinema To Goのようないわゆる「マルチメディアプレーヤー」ではなく、ダイレクトに再生できるのは、VAIOで録画したビデオカプセル(GigaPocketの録画ファイル、本質的にはMPEG-2)と、MPEG-1/2のみである。音楽再生機能やフォトビューワーといった機能はなく、純粋に録画したテレビをみるためのデバイスだ。 HDD容量は20GBと、Cinema To Go AV320と同じだが、高圧縮のMPEG-4ではなくMPEG-2のみ対応とあって、収録できる番組数は必然的に少なくなるだろう。重量は300g、連続再生時間は4時間とある。 まずボディサイズだが、面積としてはクリエのようなPDAに近い。ただし厚みは最厚部で約30mmある。HDDとバッテリの体積を考えたら、まあこんなものだろう。
表面の操作部は、センタークリック付きジョイスティックと、小さなボタン類がある。ジョイスティックは表面からあまり出っ張っておらず、また周囲の凹みも幅が狭いため、上下左右に倒したつもりがセンタークリックになってしまいがちだ。
ボタン類も表面アクリル板からほとんど出っ張っておらず、押し込んだという感触が薄い。一応ボタン下部は、ボタン押しをアシストするための凹みが付けられているので、下の方から攻め込むようにすれば親指など面積の広い指でも押せるのだが、ちょっとりきんでしまいがちだ。 その下にはVAIOロゴがある。ショーなどで展示されていたプロトタイプではその下に吸気用スリットがあったのだが、製品版ではなくなっている。 本体左側面には、電源ボタンがあるのみ。それと対称の右側には、ストラップ取り付け金具が用意されている。付属のストラップはケータイ用よりは長めに作られており、手首に通してもずいぶん余裕がある。
右側面上部には、やや堅めの樹脂製カバーに隠れて端子類がある。上からDC、USB 2.0、AV出力端子だ。DCコネクタの形状は、一部のVAIO本体で使用されているような特殊形状ではなく、一般的な丸型の形状。同様に他のコネクタ形状も一般的なものが採用されている。
本体上部にはヘッドフォン端子と、放熱用スリットがある。スリットの奥には小さなファンが2つ付いているのが見える。裏面は特に何もないが、下の方にはやはりスリットがある。ここから吸気して、上部で強制排気という流れのようだ。
付属ケーブル類は、ACアダプタ、USBケーブル、AVケーブル、インナーイヤー型ステレオイヤホンといったところ。ストラップが付属しているのは既に述べたが、キャリングケースも付属している。あいにくケースに入れたまま使うことは出来ないが、持ち運び時の不安がこれでかなり解消されることだろう。また、専用の転送ソフトも付属している。
■ 転送ソフトが秀逸 では実際に使ってみよう。使うといっても、まずは動画を転送してみなければ話にならない。先に付属の転送ソフトから見ていこう。 HVP20では、「ビデオ転送マネージャー」というソフトで転送を行なう。単純にHDDとしてコピーすればなんでも再生したCinema To Goとはフィーリングが違うが、これはこれでなかなか便利だ。
ビデオ転送マネージャーでは、右側がHVP20の状態を示しており、左側に転送したいファイル、VAIOで録画したビデオカプセルやMPEGファイルをドラッグ&ドロップで登録する。中央のファイル転送ボタンをクリックすると、転送が始まる仕組み。試してみたところ、Giga Pocketの「標準」モードで録画した映画、3.35GBの転送には、12分37秒で完了した。ファイルサイズからすれば妥当な転送速度だが、実際には録ってすぐの2時間半の動画を変換なしに転送しているわけだから、効率はいいと言えるだろう。 さらにビデオカプセル転送では、もうちょっと便利な機能がある。まだ予約しただけで実際には録画していないビデオカプセルも、転送予約として登録できるのだ。録画が完了した時点で、自動的に転送リストに登録される。
この機能をさらに強化するのが、「タイマー転送」機能だ。時間を指定しておくと、自動的に転送を開始する。予約したビデオカプセルを転送予約状態にしておき、タイマー転送を出かける前30分ぐらいに設定しておけば、毎朝何もしなくても昨日録画した番組がHVP20に転送されているというわけである。
■ 画質は上々 では転送した映像をHVP20で見てみよう。まずトップメニューとして、タイトルリストが表示される。見たいものを選んで再生ボタンを押すと、数秒読み込み画面を表示し、再生が始まる。また先ほどのタイトルリストでセンタークリックすると、そのタイトルに対する削除やプロテクトといった操作を選ぶことができる。
再生画像は非常に良好で、コントラストも高く、輝度も十分。またフレームレートも29.97fpsを違和感なく表示できており、動画再生機としては十分な性能だ。 再生中の操作としては、ジョイスティックの左右クリックで15秒のスキップ、長く倒すと10倍速の早送りで、さらに10秒ほど倒し続けると30倍速の早送りとなる。指を離すと、すぐに再生状態に戻る。またクリックによる15秒スキップはキーバッファに蓄積されるので、CM秒数分をまとめてクリックすれば、順次スキップしてゆく。ボリュームは上下キーだ。 実際に電車に乗って使ってみた。液晶の輝度が高いので、視聴はかなり楽だ。操作に関しては、座ったり立ち止まったりしているときは問題ないのだが、ボタンやジョイスティックの背が低いので、歩きながらでは操作ミスが起こりやすい。 音声の設定では、2段階のBASS BOOSTがあるので、音楽番組など音質が気になるコンテンツにも耐えられる。またAVLSはウォークマンなどではお馴染みの機能で、音量を一定に保つリミッタである。うるさい車中でも一定の音量で聴けるので、音楽とは違って音レベルの起伏の激しい映画などでは威力を発揮するだろう。 そのほか活用したい便利な機能としては、アラームがある。分数を指定しておけば、時間になると音で知らせてくれる、というものだ。乗り換えや降車駅までの分数を入力しておけば、番組に見入って乗り過ごすこともないだろう。
もう1つ現実的な問題として、電車の乗り換え時にどうするか、という点がある。数分の歩行であれば、ポーズのままにしておきたいのだが、ポーズや停止ボタンが押しにくいので、素早く止めることができない。比較的押しやすいジョイスティックのセンタークリックでポーズと再生のトグルができると良かっただろう。 今度は夜、寝ながら使ってみた。輝度を若干落として視聴すれば、これも快適だ。ただあまりにも周りが静かだと、本体のファンの音が若干気になる。隣で寝ているカミサンにはちょっと気兼ねすることになりそうだ。
■ 普通のPCではどうか 多くの人が気になっている問題として、VAIO以外の機種で使えるのか? という点がある。答から先に言うならば、YESだ。VAIO以外の機種での動作はメーカーとして保証しないというだけで、使えないということではない。もちろんその辺のリスクは自分で負うものというのは、Watch読者には常識であろう。 付属のビデオ転送マネージャーはVAIO以外のPCにもインストールできる。MPEG-2ファイルが転送できるので、Giga Pocket以外で録画した番組も転送可能だ。ただし転送できるものにはビットレートの上限があるようで、筆者が確認できたところでは、6Mbps VBRでビットレート上限が12Mbpsのファイルは、「ビデオ転送マネージャー」に登録できなかった。だがこのようなビットレートはかなり特殊であり、おそらくGiga Pocketで録画できる範囲、すなわちDVDビデオ規格内であれば、問題なく転送できるものと思われる。 またビデオ転送マネージャーはファイルコンバート機能も備えている。AVIファイルやWMVファイルを登録した場合は、自動的に4Mbps CBRのMPEG-2ファイルに変換を行ないながら、転送する。 この変換転送を使えば、AVI拡張子のDivXファイルなども転送できる。もちろん変換を行なうわけだから、転送に使用するPCにはDivXコーデックがインストールされている必要がある。要するにDirectXにフックして変換するので、Windows Media Playerで再生できるような状態であるなら、なんでもMPEG-2に変換して転送できるのである。 ただし、AVIやWMVでは変換時間がかかるので、数分というわけにはいかない。試しにDivXで45分程度のファイルを変換転送してみたところ、1時間半ぐらいかかった。PCの性能にもよるだろうが、実時間の2倍以上かかると見るべきだ。
ほとんどの場合、DivXファイルは、キャプチャカードなどで録画したMPEG-2ファイルから変換して作成しているだろうから、ただでさえ元ソースのMPEG-2から変換するのに時間がかかっているのに、また転送で時間をかけてMPEG-2に戻しているわけで、なんだか膨大なリソースの無駄遣いという気がする。実際にはかなり限られた用途になるのではないだろうか。 ところで多くのHDD搭載プレーヤーでは、PCに接続すれば外付けHDDになる、という機能がある。HVP20にもこの機能があり、これも1つのセールスポイントになっているのだが、実は落とし穴がある。ACアダプタを接続しないと、PC転送モードにならないのだ。 HDDとして使う場合を想定してみよう。会社から仕事のファイルをHVP20に転送して持って帰る、あるいは家で作ったデータを会社のPCに流し込むというケースだ。このような場合、HVP20を常時HDDとして使うわけではなく、ほんのちょっと転送できればそれで済む。時間にして10~20分も使えれば十分だろう。しかしそんな短時間でも、HVP20の場合はACアダプタを繋がなければならない。 これはヘタすれば常時ACアダプタも携帯しなければならないという意味であり、不便なこと極まりない。確かにHDDの安定動作という点ではAC駆動がベストなのは理解するが、ちょっとしたバッテリ駆動も許さないのであれば、外付けHDDにもなりますよというアピールは通用しないのではないだろうか。
■ 総論
今までテレビ番組の視聴というのは、どうしてもテレビという受像器の設置場所に限定されるため、一度腰を落ち着けたら最後まで見ないと、みたいな、いわば映画館スタイルにとらわれすぎていたのではないだろうか。しかしポータブルプレーヤーは、テレビ番組視聴に対して、まさに文庫本のように自由な時間の使い方を許すのである。 これが単なるポータブルテレビと違うのは、イレギュラーな時間に、確実に自分の見たい番組だけが見られるということだ。また受信状態の影響を受けず、いつでもコンスタントな品質で楽しめる。生中継がマストなスポーツ観戦ファンにはベストマッチとは言えないが、ドラマ・映画派やドキュメンタリー・ニュース派には最高の便利アイテムだ。 音楽再生などの機能がないことに不満を覚える方もあるだろう。HVP20内部では、何かOSが走っているわけではなく、ハードウェア的に動作しているのだという。そういう意味では、将来的にソフトウェアの追加などによって、それらの機能が増えるということもないと思われる。どうしても1台で両方を満足したい人は、「Cinema To Go」に行くことになるだろう。 だが逆に考えればMPEGファイルなら何でも再生してしまうわけで、静止画映像に音声ストリームに音楽を流し込んでMPEG-2ファイルにしてやれば、原理的には音楽再生できることになる。手動でやるには面倒だが、有志の手でそういうツールが作られる可能性は、ゼロではない。 さて気になる本体価格だが、オープン価格ながらも、店頭予想価格では5万円前後という話だ。Cinema To Goが9万弱であったことを考えると、ほぼ半額近い価格はかなり安く映る。人間というのはゲンキンなもので、今まで否定的な目で見ていた人も、ここで見る目が変わったりするものである。 この分野の製品としては、HDD型にしろメモリー型にしろ、どれも概ね10万コースというのが今までの常識であった。しかしHVP20は本体機能を絞り込み、PCのソフトウェア側に機能を転嫁することでコストを下げたという点で現実的だ。
VAIOユーザーも非VAIOユーザーも、かなり気になる製品であることは間違いないようだ。
□ソニーのホームページ
(2003年11月12日)
[Reported by 小寺信良]
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