日本では、HDDに録画するレコーダも含めて、一般的に「DVDレコーダ」と呼んでいるようである。一方米国では、まだDVD付きのレコーダが流行っていないせいか、一般的にこの手のレコーダのことをPVR(Personal Video Recorder)とかDVR(Digital Video Recorder)とか呼ぶ。 やはり日本では東芝や松下、パイオニアのレコーダによってその存在を知った人が多いせいか、レコーダには記録型DVDが付いているもの、というのが前提になっているようだ。ソニーの「CoCoon」は苦戦したが「スゴ録」はヒットという事実は、それを裏付けるのかもしれない。 だが同じHDDのみのレコーダでも、NECのAXシリーズの場合はちょっとウケ方というか、ユーザー層がまったく違っている。PCにファイル転送ができるということでわりとPC周辺機器という見方が強く、マニア受けの度合いが強いレコーダだ。 だがここに来てAXにも、ついにDVDドライブが搭載された。もともとNECは、PCでDVDスーパーマルチドライブを採用していることもあり、DVDドライブ搭載は流れとしては順当であろう。だがおそらく旧AXのユーザーは、DVDがなくても困らない環境を構築済みであるわけで、いまさらDVDが付いてもどうよー、といった反応なのではないだろうか。 そのあたりのことも含めてカクニンしとこうということで、今回はNECパーソナルプロダクツにお邪魔して伺ったお話を交えながら、AXの新モデル「AX300」をチェックしてみよう。
■ 相変わらずシンプルな外観 なんせ製品発表が昨年の11月ということもあって、すでに写真などで形はご存じだと思うが、一通りボディもチェックしておこう。
見た目は相変わらずフロント部にボタンがほとんどない、シンプルなデザイン。素材は一部のパネルを除いてほとんど樹脂製だが、シルバーの塗装が綺麗でメタリックな感じを受ける。ちょうど中央部に凹みがあり、真ん中から2つに分かれそうなイメージである。HDDとDVDの両機能、というアピールを感じる。 横幅は旧AXと同じぐらいだが、厚みが1cmほど増している。DVDレコーダとしては薄型と言えるが、角を丸めたデザインのため、旧AXのようなシャープさがなくなったのは残念だ。 搭載HDDは、上位モデルAX300Hで300GBとハイブリッドレコーダとしては最大容量を誇る。下位モデルAX300Lは160GBだ。
フロント部左側のアルミパネル内部には外部入力端子、リモコンのIDスイッチ、リセットスイッチがある。レコーダの中身はほとんどPCなのは周知の事実であるが、ここまで正直にリセットスイッチまで設けたのは、おそらくAX300が初めてだろう。
中央部の丸いのが電源ボタン、その右の小さい丸がDVDのイジェクトボタンだ。本体右側にあるドライブはスロットインタイプの薄型。スーパーマルチではなく、DVD-RAM/Rドライブである。
背面に回ってみよう。今回はDVD再生もサポートということで、D1/D2端子が付いた。ただしD2(プログレッシブ)出力できるのはDVD再生時のみで、テレビ番組やHDDに録画した映像はD1出力となる。もう1つ大きな変化は、BSアナログチューナを搭載したところだ。AXが採用しているADAMS-EPGでは、BSアナログの番組表も流しているので、EPGによる予約も可能になっている。 リモコンも見てみよう。以前はVALUESTARシリーズと共通の、ジョイスティック型リモコンであったが、今回のAX300では一般的なDVDレコーダのリモコンに近い十字キー型のものに変更されている。シルク印刷や一部機能は異なるが、既にVALUESTAR/LaVieも、1月発売モデルからこのタイプのリモコンを採用している。
■ 強力な番組検索機能
まずはマーケティング的な事から伺っていこう。お話はNECパーソナルプロダクツ PC事業本部 商品企画部の水谷道夫氏と、PC事業本部 デジタルアプライアンス開発本部の根岸尚史氏(以下敬称略)。 小寺:今回のモデル名ですけど、やっぱりHDDが300GBなのでAX300ってことで? 水谷:いや、違います(笑)。素直に行くならばAX30ということですけど、DVDを付けたことで一ケタ違うよ、ということで300と。HDDが300GBなのは偶然ですね。 小寺:今回DVD搭載というのは、やはりニーズが高かった?
水谷:というよりも、今まではDVDがないということで、どうしてもAV屋さんからはキワモノ扱いされていたというところがありました。ですが今回DVDを搭載したことで、今後は同一視されるだろうと期待しています。パソコン周辺機器としてではなく、どんどん家電分野にも進出していきたいと思ってますし。 小寺:今回の搭載ドライブは、RAMとRのみなんですね。 根岸:まずわかりやすくしようということで、DVD1メディアに対して1フォーマットで行こうと。やはりDVD-RAMは家電でシェアが高いので必須、あとはDVD-Rは当然というところですね。書き込み速度は両方2倍速の、スリムドライブを採用しています。もともと我々はレコーダとしてはHDDの推進派というポジションなんですね。したがってDVDの速度的にはどうしても後追いになるのは否めないということで、DVDは最終的なバックアップメディアとしての扱いになっています。 今回のAX300では、DVD搭載以外にも新機能が多い。本体機能で注目度が高いのが、キーワード検索を行なった番組を自動的に録画する「おまかせ録画機能」だ。 おまかせ録画はすでにソニーのCoCoonやスゴ録などに搭載され、認知度も高いが、実際にユーザーの声を聞くと、「あんまり賢くない」という評判も聞こえてくる。 AX300では、まず好みのキーワードで番組表を作る。このとき、キーワードが第1、第2、除外の3項目に入力できる。具体的には、第1キーワードに複数のキーワードを入力すると、それぞれのキーワードのOR検索になる。さらに第2に入れたキーワードとは、AND検索、除外キーワードとはNOT検索になる。 検索ではAND、OR、NOTの使いこなしが重要なのは言うまでもないが、これ全部をレコーダで設定可能なのは珍しい。あらかじめキーワードは本体内に沢山登録されているが、PCからログインして自分で増やすこともできるため、番組名や出演者をキーワードにすることも可能だ。
根岸:もともとこういう機能は、SmartVisionからの流れです。確かにレコーダとしては珍しいかもしれませんが、我々はパソコンメーカーなので、AND、OR、NOT検索は全部あって当然という意識でしたね。
おまかせ録画は、このおまかせ番組表に沿って録画する機能だ。また今回から録画予約の番組もおまかせ録画の番組も、自動削除の条件も付けられるようになった。日数で指定するか、HDD容量が不足したら削除する、といった指定ができる。この設定をしておけば、ほっといたらHDDがいっぱいになって録画ができなくなった、ということもなくなるわけだ。 根岸:おまかせ機能は、今のところまだ提案の段階です。ADAMSも含めた汎用番組情報サービスを利用する問題は、放送日が近くなると番組名が略称になったり、番組情報が少なくなったりするところですね。おまかせ機能は毎日EPG受信時にトレースし直しますので、せっかく見つかっていた番組が、当日になるとなくなっちゃうことがあるんです。
EPGで自動検索という機能は、新しいEPGの利用法として未来はある。しかし現状ではそのソリューションに対して、EPG提供側ともっと詰めて話をする必要があるということだろう。
■ インパクトのある「高速レート変換」 もう1つの重要な機能は、「高速レート変換」だ。再エンコードではなく、ハードウェアを使って最高で7倍速、平均では6倍速程度で高速にビットレート変換を行なうという。これはどういう技術なのだろうか。
根岸:通常再エンコードというのは、リアルタイムでデコードして再度エンコードしています。しかし、このレート変換エンジンでは完全にデコードしないで、独自の超高速なデコーダとエンコーダを密に連携させて実装することで高速変換を実現しています。 小寺:こういう技術は以前からあったんでしょうか? 根岸:考え方としては以前から知られていました。AX300に載っているチップは、NECの研究所でアルゴリズムを研究し、それを我々がチップ化したものなんです。他に使われた実績がないんで、AX300専用みたいな形になってますが。 小寺:そもそもこの機能はどういう経緯で搭載されたんでしょう?
根岸:他社のレコーダでは、ダビングが24倍速とかスピードをうたい始めてますよね。でもジャストダビング機能などを使えば、再エンコードする時間がリアルタイムかかるので、実際には遅いじゃん、と。そこで本当に速いレコーダというのはインパクトがあるんじゃないか、と考えたわけです。 そう考えると、最初に高ビットレートで録っておいて、必要に応じて高速レート変換を使う、といったことも考えられるだろう。だがAX300の最高ビットレートは、AX10/20のように15Mbps CBRではなく、9Mbps CBRとなっている。 根岸:高速レート変換では、IBPフレームの重み付けを再計算するだけなので、最高ビットレートは変わりません。今回DVDを搭載したことで、最高ビットレートがDVDビデオの規格を超えないよう、この上限が設定されています。 実際に高速レート変換をやってみると、今までの再エンコードとは確かにちょっと違う画質変化が起こる。動きの激しいところではわかりにくいが、比較的動きの遅いところでは、GOPごとに画質が変化しているのがわかる。このあたりの馴染ませ具合は、もう少し改良の余地があるだろう。
DVDに保存する場合は、当然不要部分のカットもやりたくなることだろうということで、AX300では新たに編集機能も搭載した。録画した番組を選んで「ナビ」ボタンを押すことで、「カット編集」を選ぶ。 編集は、不要部分を選択するスタイルだ。背景の動画と、オーバーレイされるフィルムロールを使って編集ポイントを探す。フィルムロールはAXでは以前からお馴染みのシーンサーチ機能と同じ操作性だが、従来機よりもCPUが上がっているため、描画がより高速になっている。
その代わり、と言ってはなんだが、本体にはDVD-RAMの再編集機能はない。あくまでもHDDで全部やって、保存メディアとしてDVDがあるという考え方だ。またDVDに直接録画する機能もない。だがこれがデメリットになるかどうかは意見の分かれるところだ。筆者自身は別のレコーダでも、DVD-RAMを再編集したり直接録画なんて機能は全然使っていない。落としどころとしては妥当ではないかと思う。
■ さらに強力になったPC連携機能 以前から強力なPC連携機能を謳っていたAXシリーズだが、今回はソフトウェアも機能がアップした。お馴染みの「SmartVision/PLAYER」もVer.2.2となっている。 PC上でも手軽に編集ができるが、PCとAX300本体の編集機能を比べてみた結果、筆者にはAX300本体のほうがレスポンスがよく、編集しやすく感じた。ただし、AX300で行なった編集結果は、DVDへのダビング時には反映されるが、カットしたシーン自体はHDD内部にそのまま残されている。そのため、AX300本体で編集済みの動画をPCに持ってきても、ファイル自体は編集されていないので注意が必要だ。
AX20の時から提供されているWMVへの変換機能も引き続き用意されている。また、単にファイル転送するだけでSmartVisionを起動するのは重い、と感じている人もいたことだろう。そこで今回のAX300では、ファイル変換用の新たなユーティリティ「AX連携ツール」がバンドルされている。
AX連携ツールは、簡単なGUIでAXからPCへ動画ファイルを転送するツールだ。左側にある変換用フォルダには、あらかじめ機能が設定されている。例えば「MPEG」フォルダにAX内の番組をドラッグすると、プレーンなMPEGに変換しながら指定フォルダに転送する。「コピー」フォルダは単純なコピーで、これにはAXやSmartVision特有のデータもくっついてくるため、幾分ファイルサイズが大きくなる。 「WMV」フォルダはSmartVisionと同じく、WMVに変換しながら転送するフォルダだ。パラメータ設定は、「システム」からプリセットを選択するか、「カスタム」で自分の設定を保存できる。用途別にいくつかフォルダを作っておけば、いちいち設定を変えることなく変換できるので便利。 また変換候補には、まだ録画実行前の予約ファイルも指定することができる。録画が終了次第、変換が開始されるというわけだ。また変換動作の開始時刻も「スケジュール設定」で指定することができるので、いくつか番組録画後、朝までにまとめて変換、といったこともできる。 できることとしては、以前ソニーが出したポータブルビューワー「PCVA-HVP20」の「ビデオ転送マネージャー」とかなり似ている。ただしAX連携ツールの弱点は、そのソフトを終了してしまうと、せっかく変換予約した番組がすべてキャンセルになってしまうことである。
常時起動しておけば問題ないし、PCを休止状態やスタンバイで使い続けていればいいのだが、新しいソフトをインストールしたりシステムの設定を変えたりしてやむなくPCを再起動したときには、また最初から変換予約を設定し直しになってしまうのはイケてない。この点は改良すべきだろう。
■ 総論 昨年11月に発表以来、発売まで3カ月も引っ張ったAX300だが、従来の強力なPCとの連携機能を継承しつつDVDを搭載したということで、これまたマニア受けしそうな出来となっている。そのほかにも本体でのメール送受信機能があったり、それを利用して外出先からメールで番組予約したりといったこともできるようになった。 さらに面白いのは、同じAXユーザー同士でパスワードを交換しておけば、メールを通じて友人のAXに番組予約を入れたり、同じ番組を録画していれば、番組中のある地点のブックマークを送信できるなど、何に使うのかわからないが妙な機能もあり、アイデア次第でいろいろ遊べるようになっている。 いじりがいがあるレコーダという意味では今一番面白い存在だと言えるが、難点を上げれば価格がやや高いというところだろう。他メーカーが家電のアーキテクチャを使いながらコストを下げているのに比べると、NECのAXはPCアーキテクチャの依存度が高く、それが価格に跳ね返ってしまっている。160GBモデルでも10万を切らないという価格は、低価格化が進むレコーダの中ではキビシイ勝負となるだろう。 それを押してでもAXを買うユーザーというのは、その時点で特殊と言えるかもしれない。中身がPCなくせに、PCっぽいことができないレコーダが多いわけだが、そのあたりを「ああ家電だもの、しょうがないね」で諦められる人は、普通のレコーダを買うだろう。そうじゃない人が選ぶレコーダ、それがAXという存在なのかもしれない。
□NECのホームページ (2004年2月18日)
[Reported by 小寺信良]
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