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第138回:アナログデータから楽曲データを取得
~ CarryOn Music ver.4に見る楽曲認識の未来 ~


 昨年、CDDBを運営するGracenoteのCraig L. Palmer CEOにインタビューした際、「波形から曲名を検索する「MusicID」という技術を開発しており、2003年末にはPC用のアプリケーションがリリースされるだろう」という話を聞いていた。

 その製品がようやく、3月24日にオンキヨーから「CarryOn Music ver.4.00」として発売される。


■ 音楽そのものを認識する

 MusicIDというのは、Gracenoteが開発した音楽そのものを認識する技術。もともと、Cantametrixを買収して得た技術であり、類似のものはMoodLogicや、AMG(AllMediaGuide)が開発しているものなどいくつか存在する。

 CDDBなどと同じく、音楽コンテンツを自動認識する技術なのだが、CDDBがCDのTOC情報を元にした技術であるのに対し、MusicIDは音楽そのものを認識する。つまり、MP3やWAV形式などのオーディオデータを元に検索する技術だ。

 しかも、そのデータはCDからデジタル的にリッピングしたものである必要もない。アナログを経由して取り込んだ音楽でもいいのだ。つまり、古いアナログレコードから取り込んでも認識してくれる。

 何のために使うの? と思われる方もいるかもしれないが、用途はいろいろと考えられるだろう。例えば、以前にCDDBなどを使わずリッピングしてエンコードした、ID3タグの入っていないMP3ファイルでも、MusicIDを使えば後から曲名、アーティスト名、アルバム名などのID3タグ情報を付加することが可能になる。

 また、LPレコードやカセットテープなど、アナログ素材を録音したデータについては、今までは手入力していたわけだが、自動的にこれらの情報を得られるというのも大きなメリットだろう。ほかにも、録音したデータが知らない曲だった場合も、それが何なのかを知ることができる。


■ 認識の仕組み

 曲の認識は、楽曲の波形情報から特徴的部分を抽出した「サウンド指紋」(FingerPrints)を用いて行なっている。FingerPrintsは、アナログ素材でも合致する情報ともなると、かなり膨大なデータ量のような気もするが、実際は64byteというコンパクトなサイズ。そんな大きさで本当にキーとなるのか疑問にも思うが、すでにそれが実現しており、かなりの的中率だという。

CarryOn Music ver.4.00

 Gracenoteは米国企業であるが、MusicIDを搭載した世界初のアプリケーションが日本メーカーから、日本語のソフトとして登場した。それが、オンキヨーのCarryOn Music ver.4.00なのである。

 ご存知の方も多いと思うが、CarryOn Musicは「SE-U55X(S)」などオンキヨーのオーディオインターフェイス、WAVIOシリーズなどにバンドルされているアプリケーション。いわゆるジュークボックスソフトで、MP3やWMA、WAVなどの音楽ファイルを管理、再生、録音できる。その最新版にMusicIDが搭載された。

 CarryOn Music自体は、オンキヨーとデジオンが共同開発された製品だ。仕様設計、デザインなどはすべてオンキヨーが行ない、実際の実装やコーディングはデジオンが行なうという形になっており、それは今回のver.4.00でも同様。

インストール時にハードウェアが認識されないと、エラーが出てインストールできない
 バンドルソフトのアップデートなので、無償アップデートなのかと思ったが、実際にはそうではなかった。既存ユーザーに、2,000円でダウンロード販売という形になっている。もし、ユーザーではない人がこのソフトを手に入れて使おうとしたらどうなるのか。ちなみに、バンドルされたハードウェアの接続がされていないと、インストールすらできない。

 では、ハードウェアは不要だが、MusicIDのためにこのソフトを使いたいというユーザーは利用不可能なのかというと、そうではないらしい。オンキヨーの直販サイトであるオンキヨーサイバーショップe-onkyoでは、「COM-350RP」という製品が6,800円で販売されている。

ライセンス料の問題なのか、バンドルはされない
 これは、CarryOn Musicとリモコン、USB接続のリモコンセンサーをセットにした製品で、これを手に入れればCarryOn Musicも付いてくる。このCOM-350RPにバンドルのCarryOn Musicに加え、2,000円のアップグレード料金が必要になる。要するにUSB接続のリモコンセンサーがドングルとして機能するというわけである。


■ 認識率は上々

 では、実際のところ、どれだけの認識できるか試してみよう。今回は、CarryOn Musicそのものの機能については特に触れないが、ver.4.00も以前ver.3.70のものもそれほど大きく変わっていないようだ。

録音後、画面右側にあるボタンをクリックすると楽曲の認識と情報取得がメニューに入る
 まず、アナログ入力端子からのオーディオ信号を通して録音した音で試した。手元にあったCDからMDへダビングした曲を録音。CarryOn Musicを使って録音したが、リアルタイムに波形表示されないためか、本当に録音できているのかわかりにくい。しかし、ストップボタンを押した時点で波形も表示され、無事録音完了。この時点ではまだ認識されていない。

 次に、画面右側にあるボタンにマウスを持っていくと、「Gracenote MusicIDから情報を取得」との表示が出るので、ここをクリック。

 すると、まずは現状の何も情報が入っていない状態が表示されるので、このダイアログで「検索」ボタンをクリックする。自動的にGracenoteのサイトへアクセスするとともに数秒で結果が返ってくるので、改めてトラック情報を見ると、確かにしっかりデータが入っている。

検索ボタンをクリックするとGracenoteのサイトへアクセスし、数秒で結果が返ってくる トラック情報

既存のMP3ファイルでも問題なく認識してくれる
 今度は、手元にあるMP3ファイルをCarryOn Musicへドラッグしてみると、先ほどと同様に波形表示され、同じ手順で検索すると、やはり簡単に認識された。なお、楽曲は洋楽でも邦楽でもOKであり、邦楽ならきちんと日本語で表示される。Gracenoteによると、CDDBと同じ情報が入っているから、日本語でも問題なく使えるという。また、その情報は、すでに400万曲を越え、邦楽(日本語のデータ)も100万曲を越えているというのだからすごい。

 確かに、手元にあるMP3ファイルなどで試したところ、かなりの認識率で、著名な洋楽、邦楽はもちろんのこと、インディーズのアルバムに入っていた曲までも認識したのは驚きだった。ただ、すべて何でもOKというほどではなく、メジャーレーベルのものでも、ヒットしないものもあった。

 でも、なぜ、そんなに多くの情報が登録されているのかというと、MusicIDが組み込まれたのは今回が最初だが、サウンド指紋を生成し、それを登録するソフトはすでに存在していたためだそうだ。具体的には以前にも紹介した、フリーウェアのQuintessential Playerなどで、これらでMP3にエンコードし、サウンド指紋の生成と登録を行なっていたたため、既にこれだけのデータベースが構築されているとのこと。

 なお、検索結果が必ずしも1つにならないというのも面白いところ。たとえば、複数になるとHitのところに1以外の数字が表示され、「選択」ボタンがクリックできるようになる。これをクリックすると、複数の結果から選択できるようになる。

時には複数の楽曲候補が出ることも。その場合は、複数の候補の中から、正しいものを選択できる


■ 15秒あれば認識可能?

 録音の実験を試していた気づいたのだが、曲全体ではなく、冒頭部分だけでも認識してくれたのには驚いた。ためしに、どれくらい短くて動作するのか試してみたところ、5秒や10秒では、そもそも検索しに行ってくれない。15秒を越えてはじめて、検索を行なうようだ。認識可能な曲なら15秒でほぼ100%認識してくれた。続いて、頭が欠けたものだとどうなのかも試した。

 曲の中間をやはり15秒ほど抜き出して実験したところ、今度はうまくいかない。さらに30秒程度にしてもうまくいかなかった。そこで、曲の冒頭の一部だけをカットして実験してもやはりダメ。どうやら、MusicID(もしくはCarryOn Musicの仕様?)では、曲の頭からでないと認識しないようで、頭からスタートしていれば15秒程度で認識する。つまり、TVや街頭で流れている曲の一部を録音して、何の曲か調べるといった使い方には向かない。

 なお、先日Gracenoteの日本支社で、別のデモも見せてもらった。それは「モバイルMusicID」というもので、米国のある電話番号にかけて、電話口で鳴っている音楽を聴かせると、曲を当ててくれるというユニークなサービスだ。

 こちらは、サウンド指紋が1曲で64ByteというMusicIDと異なり、6秒で20KBほど必要とする別の技術だが、店や街中で流れている曲の曲名を知ることができるという画期的技術である。これに関する国内でのサービス開始のアナウンスはされていないが、こんなことが実現すれば、音楽の楽しみ方に新しい世界が開けそうだ。


□オンキヨーのホームページ
http://www.onkyo.com/jp/
□ニュースリリース
http://www2.onkyo.co.jp/what/news.nsf/view/com_v400?OpenDocument
□Gracenoteのホームページ(英文)
http://www.gracenote.com/
□関連記事
【3月4日】オンキヨー、アナログ録音したデータから曲名取得できるオーディオソフト
-GracenoteのMusicIDに世界初対応
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040304/onkyo.htm
【2003年6月9日】【DAL】CDDBの運営元、「Gracenote」の歴史と今後
~ 日本法人設立の意図と新技術「MusicID」 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030609/dal103.htm

(2004年3月22日)


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL」(リットーミュージック)、「MASTER OF REASON」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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