■ 大型液晶リモコン搭載の新HDDプレーヤー登場 昨年よりさらなる盛り上がりを見せているHDDオーディオプレーヤー市場。アップルのiPod、東芝のgigabeat G21、iRiverのHシリーズなど、1.8インチHDD搭載プレーヤーのほか、1インチHDD搭載のRio Nitrus/EigenやクリエイティブのMuVo2も発売、さらにアップルからもiPod miniが発表されるなど、多様化と低価格化が進行した。 特に1インチプレーヤーは、小型なボディに加え、2万円台で購入可能になったこともあり、2004年に入ってかなりの勢いで伸びている。そんな1インチプレーヤーに比べると、やや勢いが無くなってきた感もあった1.8インチHDDプレーヤーだが、15~40GBの大容量でライブラリを一括管理できるのは、1インチプレーヤーには無い大きな魅力。
今回取り上げるのは韓国COWON製の1.8インチHDDプレーヤー「iAUDIO M3」。特徴は大型液晶リモコンが付属し、本体の厚みが14.2mmと非常に薄型となっていること。とはいえ、東芝のgigabeat G20/G21は厚さ12.7mmでより薄く、液晶リモコンもiRiverのHシリーズ(旧iHPシリーズ)にも付属しているなど、この製品だけの新機能という意味では、今一歩ウリに欠けるかもしれない。 しかし、薄型かつ軽量の高級感あるボディに、液晶リモコンやFMチューナ、ボイスレコーディング、ライン録音、OGG対応など、現状考えられる機能は一通り搭載。さらに、同じCOWONのシリコンプレーヤー「iAUDIO 4」が、音質も非常に良くバランスのいいプレーヤーなだけに、おのずと期待も高まるというもの。 HDD容量は20GBで実売42,800円と、他社製品と比較しても納得のいく価格設定。今回日本での代理店となるバーテックスリンクから、実機をお借りしてテストした。 ■ 高級感ある外装。USB/充電クレードルも標準添付
本体と液晶リモコンのほか、USBクレードルやACアダプタ、サブパックと呼ばれる拡張コネクタ、ラインケーブル、USBケーブル、CD-ROMなどが同梱される。 本体の外形寸法は60.8×103.7×14.2mm(幅×高さ×厚さ)、重量は約136gと薄型/軽量で、アルミ外装のボディは高級感も十分。胸ポケットに入れるとやや重くは感じるが、サイズ的には十分胸ポケットに収まる。 本体には表面にPLAY/STOP、早送り/早戻しボタンを装備、側面にMODE/ボリューム兼用ボタンと、RECボタン、HOLDスイッチを備えている。 薄型化を優先したため、本体には液晶ディスプレイを備えていないのは、好みが分かれるところだろう。しかし、通勤などの用途を考えるとほぼ全ての操作がリモコンで行なえるというのは非常にメリットが大きい。個人的には液晶リモコン好きなので歓迎したい。 また、本体上部のLEDが、再生時には青色に、録音時に橙、FMラジオ受信時に緑に光るなどのギミックもうれしい。
なお、本体にはリモコン端子のほか、クレードル/サブパック接続端子以外のコネクタは無い。ライン入力/出力端子やUSBの接続もクレードル/サブパックを介して行なうこととなる。USBクレードルは韓国などではオプション扱いだが、日本では標準添付としている。 ボディカラーはシルバーのみ。なお、韓国や欧州ではブラウンモデルも発売しているが、バーテックス リンクでは、日本での製品化については「未定」とのこと。また、ユーザー登録カードでは、20GBのほか、40GBと選択できるようになっているが、40GBモデルについても当面発売の予定は無いという。
液晶リモコンは、128×96ドットの6行表示液晶を装備。iRiverのHシリーズと比較しても、大きな表示面積で、リモコンの視認性の高さは、HDDプレーヤーの中ではトップになるだろう。 リモコンの上部にPLAY/STOP、FF/REW兼用ボタンと、MODEボタン、REC/A-Bボタンを装備。下部には、MENU/ボリューム兼用ボタンとHOLDスイッチを備えている。リモコンの外形寸法は58.6×33.2×14.4mm(幅×高さ×厚さ)。
■ 再生機能充実。操作はリモコンがメイン
パソコンとの連携は、USBクレードルもしくはサブパックを介してUSB 2.0で行なう。USBストレージクラスに対応し、ファイルのドラッグ&ドロップもしくは、付属ソフトの「JetShell」を利用したオーディオ転送が可能となっている。 フォルダ階層表示に対応しており、PCのフォルダ構造を維持したまま転送できる。1.67GBをMP3ファイルをThinkPad X31から転送した際の転送時間は2分9秒。転送速度は非常に高速といえる。もちろん通常のUSBストレージとして利用することもできる。 起動してみると起動アニメーションが流れ、10秒弱ほど待たされる。HDDプレーヤーとしては、起動が遅いという部類には入らないだろう。 モードボタンを押すと、「Digital Audio」、「FM Radio」、「VoiceRecorder」、「Line-In Recorder」の4つのモードが表示される。音楽再生を行なうときは、Digital Audioを選択する。
オーディオプレーヤーとしては、MP3/WMA/Ogg Vorbis/WAVEに対応。ビットレートはMP3が8~320kbps(VBR対応)、WMAは20~192kbpsをサポートする。 基本操作はリモコンで行なう。操作画面は再生モードとナビゲーションモードが用意される。転送したファイルは、PCのフォルダ構造をそのまま維持しているので、MENU/ボリュームボタンからナビゲーションモードに入り、フォルダツリーを表示し、ボリュームの左右でフォルダ内のファイルを選択、PLAY/STOP/REW/FFボタンの左右でフォルダの上下を移動する。
フォルダを選択したときに、MENUボタンを押すと[Expand(フォルダを開く)]、[Play now(再生開始)]、[Add to List(プレイリストに追加)]の選択ダイアログが現れ、各操作を行なうこともできる。任意のファイル/フォルダを選択し、PLAYもしくはFFの操作を行なうと、再生開始され再生モードへと切り替わる。再生モードではPLAY/STOP/REW/FFボタンでそれぞれの操作が、ボリュームボタンでボリュームコントロールが可能となる。 ナビゲーションモードでのMENUボタンと、PLAY/STOPボタン割り当てなどは、慣れるまではわかりにくく感じたが、一度慣れてしまうとさほど困難は感じない。とはいえ、iPodのすっきりした操作体系などと比較すると、フォルダ構造の理解など、パソコンに慣れた上級者向けという印象は残る。 やや気になったのは、曲送りの際に3秒程度待たされること。連続して曲を送る際にはサクサクと送れるのだが、再生中に次の曲にとばしたい時などにはやや待たされ、ストレスを感じる。また、実際の操作にさほど影響は無いが、液晶リモコンの視野角が若干狭く感じた。
当然日本語表示に対応しており、ID3TagはV1/V2をサポート。ファイル名をそのまま表示する[File Mode]とID3Tagを表示する[ID3Tag]の2モードが選択できるので、通常はID3Tagにしておけば問題ないだろう。 詳細設定は、再生画面からMENUを長押しすることで、設定画面が現れるので、表示形式以外にもさまざまな設定が可能。再生方法は、ディスク全ファイルやフォルダ/サブフォルダ単位で指定可能となっており、シャッフル/リピートも指定した単位で、再生される。
もちろんプレイリスト機能も搭載しており、ROOTフォルダ以下の「PLAYLIST」フォルダに転送したM3Uプレイリストの利用が可能。さらに、本体内でプレイリストを作成する[Dynamic Playlist]機能も搭載している。 ナビゲーションモードで曲/フォルダを選択し、MENUボタンを押し[Add to List]から曲を追加していくと、パソコンを利用せずにプレイリストの作成が行なえる。再生中の曲をすぐに追加したいときは、RECボタンを押すことでもリストへの追加が可能。作成したプレイリストは、ROOTフォルダ以下の[D PLAYLIST]フォルダに格納される。 複数個のDynamic Playlistは作成できないが、好みのプレイリストを簡単に作成できると言う意味では非常にわかりやすく使いやすい。なお、D-PLAYLISTを通常のプレイリストとして保存することはできない。 電池はリチウムイオンで、持続時間はカタログ値で約14時間となっている。実際に128~160kbpsのMP3ファイルを中心に連続再生を行なったところ、13時間強で「Low Battery」の表示が出て再生を停止した。 充電はUSBクレードルか、サブパックを介して行ない、ACアダプタのほか、USB接続のみでも充電が行なえる。ACアダプタでは3時間で満充電となるが、USBでは供給電力が少ないため、かなりの時間を要す。出先でACアダプタを忘れた時の非常用と考えたほうがよさそうだ。 ■ 音質は非常に良く、BBE機能も搭載 前述のようにM3には、以前レビューしたiAUDIO4と同様にBBEやMach3Bassなどの高音質化機能を装備しているが、最初は全ての高音質化機能をOFFにして音を聞いてみた。解像度は申し分なく、特に高域が良く出ているのが印象的。再生クオリティの高さは申しぶん無く、他のHDDオーディオプレーヤーと比較しても、トップレベルだろう。
付属のヘッドフォンはiAUDIO4と同デザインのCresynの「AXE2」。後部が出っ張った独特のデザインだが、音質は良好で付属ヘッドフォンとしてはかなり使える部類に入る。Sennheiserの「MX400」と比較してみたが、高域の分解能は付属ヘッドフォンのほうがかなり高い。音の広がりはMX400のほうがやや上にも感じるが、購入直後にそのまま使ってもほとんど不満を感じないクオリティを有している。 高音質化機能「BBE」など6つのサウンドエフェクト機能を搭載。再生画面からMENUボタンを長押しし、[JetEffect]画面から、ROCK/JAZZ/POPなどのモードを備えた「Equalizer」と、中高音を補い位相補正を行なう「BBE」、低域の末端周波数を補う「Mach3Bass」、MP3圧縮時のロスを補完する「MP Enhance」、擬似サラウンドの「3D Surround」、「Pan」などが選択できる。
BBEはBBESoundが開発した高音質化技術。iAUDIO4でも搭載していたが、HDDプレーヤーではiAUDIO M3が初搭載となる。 BBEは10段階のレベル設定が可能となっており、明らかな高域の伸びと解像感の向上が確認できる。特にアコースティック系のソースとの相性は良く、解像感の高くつややかな高域が特徴的。イコライザで無理やり持ち上げたような不自然な音の変化は無い。レベルを最大にすると高域のキラつきが気になるようにもなるが、レベル5程度までであれば大抵のソースでバランスを保ちつつ、高品質な再生が実現できると思う。 低域強調機能のMach3Bassも、音のバランスをあまり崩すことなく10段階の低域レベル強化が図れるので、結構使える印象。MP Enhanceも特に高域をいい具合に補間/強調するのだが、ややキツくなりすぎる感もある。 デフォルト設定では低音強調機能のMach3Bassが[10]、BBEが[7]となっているため、最初にデータを転送して音楽を聞くときなどは、解像感の高さに驚いた。このままでも大抵のソースでは問題ないと思うが、ライブもののソースなどでは違和感を感じることもあった。 ■ ライン/FM/ボイス録音機能も搭載
モードセレクト画面では、「FM Radio」、「VoiceRecorder」、「Line-in Recorder」なども選択できる。FMラジオは、PLAY/STOPボタンで周波数を選択し、MENUボタンから好みの局を登録する。オートスキャン機能がついていないのがやや残念なところだ。 チューナの品質は、ソニーの専用機「SRF-M90」と比較すると及ばないものの、HDDプレーヤーの付加機能としては十分満足いくクオリティ。 また、受信中にRECボタンを押すとFM録音も行なえる。ビットレートは、MENU画面で選択可能で、64/96/128/256/320kbpsが用意される。録音クオリティも高く、128kbpsでも本放送にかなり近い品質で録音できるが、さすがに「320kbpsでFM録音?」という気がしないことも無い。録音ファイルは、「ENC***.MP3」といった形式で、ROOTの[RECORD]フォルダ以下に保存される。
「Line-in Recorder」は、付属のUSBクレードルもしくは、サブバックのライン入力端子からのMP3録音機能。ビットレートは、FMラジオと同様に64~320kbpsが選択でき、10段階の入力感度設定も行なえる。 録音ファイルはFM録音時と同じ[RECORD]フォルダ以下に保存される。再生機器にもよるが、録音クオリティはかなり高いので、必要に応じてビットレートを変更すればよい。 残念なのは、録音ボタンを押すまで入力音声のモニタができないこと。モニタしながら入力レベルを確認できるといいと思うのだが……。また、入力レベルに応じた曲分割録音機能などは搭載しないため、アルバム曲を1曲ずつ分割して録音する場合の使い勝手はよくない。
本体にマイクを内蔵しており、ボイスレコーディングも可能。録音レベルはHigh/Lowの2段階で、ビットレートは32/48/64/96/128kbpsが選択可能。録音ファイルはROOTの[VOICE]フォルダに[VOC***.MP3]というファイル名で保存される。 ■ HDDプレーヤー市場の決定打となるか? 付属のクレードルは、デザイン的にも本体と良くマッチしており、充電や転送を一括して行なえるので使い勝手の向上に大きく寄与していると思う。日本市場向けに標準添付としたのは賢明な判断だろう。ライン出力も付いているため、外部アンプなどを利用した音声出力も可能だが、ほとんどの操作をリモコンで行なうため、そういった使い方をした時の操作性はあまりよくない。 一通りの機能を試してみたが、音質も良く、機能的にもボイス録音、FM/ライン録音、Ogg対応など現在考えられるほぼ全ての機能を搭載しながら、大きな欠点も無い、非常に満足度の高いHDDプレーヤーに仕上がっている。個人的にはアルミ外装のデザインも高級感があってよいと思う。 あえて言うならば、本体に大きな液晶を搭載し、大画面で操作できたほうが操作性は向上しただろうし、USB端子を本体に備えていれば、外出先などでの転送や充電がより気楽に行なえる。しかし、これは液晶リモコンに機能を集約しながら、本体の薄さを追及したという製品のコンセプトを考えれば、合点がいくところだろう。 機能を充実させながら、高いデザイン性と薄さを生かした持ち運びの容易さを実現した稀有な製品だ。価格も20GB容量で42,800円前後と、機能から考えれば満足のいく設定。液晶リモコン派のみならず、HDDプレーヤーの購入を検討している人には、有力な選択肢が登場したといえるだろう。 もっとも、ここまで機能が増えてくると単機能で、シンプルな操作性を実現していたiPodが懐かしく感じる。第3世代iPodの発売から1年弱。多くのライバルが登場した市場に、アップルがどうやって対応するのかも今後注目されるところだ。 □バーテックスリンクのホームページ (2004年4月23日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
|
|