■ ソニーのポータブルビデオプレーヤー新モデル 「HDDレコーダなどを導入してから、テレビを見る時間が増えた」という話をよく聞く。EPGなどで録画予約も非常に気軽に行なえるようになったことで、“とりあえず”見たい番組を“とにかく”録画し、タイムシフトでテレビを見るという人が多いのだろう。 デジタルレコーダの導入により、録画番組が増えれば、それを視聴する時間も当然増えてくるはず。そうなると通勤時間など、ちょっとした時間の合間に番組を消化しておきたい、という人も増えているのではないだろうか?。 例えば、MPEG-4書き出し機能を備えた松下電器のDIGAシリーズ「DMR-E100H/E200H」と、D-Snapの組み合わせは、そうしたユーザーを狙った提案だと思うが、大ヒットには至っていない。通勤時や布団に入って寝転がりながら番組視聴という「テレビから離れた」視聴スタイルはまだまだマイナーな領域なのかもしれない。 その一方でポータブルビデオビューワの記事の人気は高く、AV Watchのアクセスランキングの常連ともなっている。皆興味はあるが、決め手となる製品がないというのが現状かもしれない。
なかなか決定打の無いポータブルビデオビューワだが、「録画した番組を移動しながら視聴する」という利用スタイルで、もっとも完成度が高かったのは、2003年10月に発売されたソニーの「PCVA-HVP20」だろう。同社のパソコンシリーズ「VAIO」用の周辺機器だが、VAIOで録画したMPEG-1/2を転送して、ビデオを移動しながら見ることができる製品だ。ビデオビューワとしてできることはシンプルながら、動作の快適さと画質の確かさでは、評判を呼んだ。 そしてHVP20のコンセプトをさらに推し進めたような製品が、今回とりあげる「HMP-A1」だ。同じソニー製品だが、HVP20の縦型スタイルから横長のスタイルに変化し、新たにMPEG-4やMP3、WAVEの再生に対応。また、本体サイズも小型化され、重量も約50g軽くなっている。
小型、軽量化が図られたほか、オーディオプレーヤーとしても利用できるようになったとあり、その使い勝手の向上に期待がかかる。価格は実売で63,000円とHVP20より約1万円程度高価だが、それだけの価値はあるのだろうか? そしていまいち伸び悩むポータブルビデオプレーヤー市場の起爆剤となるのだろうか? 早速試用してみた。
■ 高級感ある本体。タッチセンサー式のインターフェイスを採用
本体のほか、リモコンやヘッドフォン、USBケーブル、AVケーブル、ACアダプタ、キャリングケースなどが同梱される。 本体サイズは約129.6×22×75.6mm、重量は250g。ぎりぎりシャツのポケットに収まるサイズと言えなくも無いが、そもそもビデオビューワなので、シャツのポケットに収めること自体が間違えているような気もする。PCVA-HVP20と比較すると大幅に薄くなったため、かばんの中でのとり回しなどは向上している。 本体正面に320×240ドットのTFT液晶を装備。右脇にタッチセンサー式の上下左右キーと、ENTERキー(再生/停止)、BACKキーを備えている。本体上面には電源スイッチと音量ボタン、TOOLSボタンを備えている。
左側面にはヘッドフォン/リモコン端子を装備。さらにカバーを開くことでDC INコネクタ、USB 2.0コネクタ、AV出力端子が現れる。背面右側がバッテリ部となっており、丸みを帯びているのでホールドしやすい。 本体の工作精度は高く、特にピアノフィニッシュの前面の質感も所有欲をくすぐるもの。また、電源OFF時に、液晶画面がすぐに消えずに余韻を残しながら消えていくなどの演出も高級感があっていい。 なお、HMP-A1の開発は、HDDオーディオプレーヤー「VAIO pocket」とも、「PCVA-HVP20」のチームとも異なる部署で行なわれており、いずれの製品も併売される。
リモコンは再生/停止、早送り/戻し、ボリューム、HOLDボタンなどからなるシンプルなもの。
■ 転送には専用ソフトを利用する
動画と静止画の転送には付属のアプリケーション「HMP-Image Transfer Manager(HMP ITM)」を利用する。対応OSはWindows 2000/XP、Windows XP Media Center Edition。 HMP ITMでは、MPEG-1/2/4の動画転送に対応するほか、DVやWMV、dv-ms形式などをMPEG-2/4に変換して、転送する機能を備えている。 実際にHMP-A1をThinkPad X31に接続すると、通常のUSB 2.0ストレージとして認識された。このままでも通常のデータストレージとして利用できるが、HMP-A1で再生するには付属の転送ソフトを利用する必要がある。 HMP-A1の対応ファイルは、MPEG-1/2/4とVAIOのGigaPocketで録画したビデオカプセル。対応ビットレートは、MPEG-1が最大4Mbps、MPEG-2が最大8Mbps、MPEG-4が最大1Mbpsまで。MPEG-2の15Mbpsのファイルなど、対応ビットレート外のファイルについては、8Mbps以下のMPEG-2かMPEG-4に変換して転送する。
HMP-ITMでは[ファイルの取り込み]から、フォルダ内の任意のファイルを選択し、HMP-ITMに登録。登録されるとファイル名やサイズのほか、出力形式が表示される。この出力形式で[無変換]と表示されれば、変換なしにプレーヤーへの高速な転送が行なえる。[標準]、[長時間]などと表示される場合は、変換を伴うファイルとしてHMP-ITMが認識したという意味になる。
HMP-ITMが認識する場合、[高画質(MPEG-2 8Mbps)]、[標準(MPEG-2 4Mbps)]、[長時間(MPEG-4 1Mbps)]がプリセットで用意されている。また、カスタム設定も行なえる。 まず、[無変換]と認識された、1.6GB(1,632MB)容量の43分のテレビ番組(MPEG-2 5Mbps)を転送したところ3分30秒で転送できた。5GB程度の転送でも約10分で転送できるので、かなり実用的な転送速度といえるだろう。なお、試しにMMP-ITMを使わず、同じファイルをデータ転送(もちろん本体で再生できない)した場合の転送時間は約1分50秒となった。 さらに、同じファイルを[長時間](MPEG-4 1Mbps)に変換して転送したところ、32分59秒かかった。利用したPCのCPUがPentium M 1.4GHzと高スペックではなかったので、Pentium 4 3GHz搭載の最新PCなどを利用すればもう少し早く変換/転送できるだろう。しかし、それでもかなり時間がかかるのは間違いない。 また、WMVファイルをMPEG-4に変換し転送することもできる。約3分のWMVファイルの場合、640×480ドット2Mbpsのファイル(29.9MB)の転送時間が1分45秒。同じソースを利用した320×240ドット/250kbpsのファイル(457KB)が58秒で変換/転送された。 サポート外となるが、DivXファイルの転送もほぼ問題なく行なえるようだ。22MBのDivXファイル(約3分、640×480ドット/MP3音声)を[長時間]に変換し、転送した場合は約2分20秒かかった。WMV/DivXいずれもあまり高速とはいえないので、時間があるときに一斉に転送しておくなどの対策は必要だろう。 なお、RMP4でエンコードしたMPEG-4ファイルはHMP ITMで認識できず、SDビデオ形式のMPEG-4ファイルは認識できるものの無変換での転送はできない。MPEG-4はHMP ITMで変換したもの以外は転送できないのかもしれない。 毎日の通勤前などに録り貯めた録画ファイルを転送する、といった場合には、できる限り転送時間を短くしたいもの。そうした用途には無変換で転送できるように、あらかじめファイルを用意しておきたい。
パソコンでの録画時に、QVGA程度のMPEG-2でビットレートを抑えて録画するか、録画後に自動的にMPEG-4に変換するような、録画環境の構築が必要となるだろう。また、今のところ、「どのソフトで作成したMPEG-4ファイルの再生に対応するのか」という情報は公開されていない。そういった意味では、「パソコンでのテレビ録画ってなに?」というような初級者には、まだ敷居の高いところは残されているともいえる。 転送できる動画は最大200ファイル。転送したファイルは暗号化され、専用のフォルダに格納されるため、パソコンからアクセスしても再生でいない。なお、転送したファイルを書き戻すことはできない。
■ 操作は非常にシンプル。画質もおおむね満足 早速、本題のビデオ再生を行なってみる。上部の電源スイッチをONにすると、SONYロゴが現れ、5秒程度で起動する。Video/Music/Photoのジャンルごとのメニュー画面が用意されていて、左右のキーをタッチすることでモードの選択が行なえる。
ビデオのモードにして映像を再生する場合、転送したファイルがファイル名/転送日時などの順で表示されるので、本体の上下キーでファイルを選択し、あとは再生を押すだけ。1時間番組だと3秒弱で再生が始まる。
液晶の視野角はさほど広くないものの、手に持って視聴する分には十分という印象。やや淡めの傾向もあるが発色は良好で、ポータブル用途には十分。輝度も高く、地下鉄の車内はもちろん、晴れた日の屋外でも十分内容を確認でき、字幕を読むこともできた。 液晶サイズが320×240ドットのためか、転送したファイルが、高画質/標準/長時間のいずれでもさほど画質の差は感じない。逆に640×480ドットなど解像度が高いファイルの場合は、PCでみるよりブロックノイズが顕著に現れる印象がある。
基本的に画質には良好だが、3.5インチと液晶の大きさの割に、解像度はQVGAとさほど画素密度は高くないので、画素が見えてしまうのはやや気になる。精細感という意味では物足りないが、ポータブル用途としては十分だろう。ただ、見比べると「PCVA-HVP20」の方が液晶の精細感は高いように感じた。 また、液晶の応答速度が足りないのか、ソースに起因するのかわからないが、動きの激しいシーンでは輪郭の揺れが気になることがあった。 早送りや、巻き戻しはタッチセンサ式の左右矢印キーで行なう。倍速は一回触れるごとに、2/10/30/120倍速と変化する。ENTERに触れると再生に戻る。動作は非常に滑らかだが、タッチセンサーキーに慣れるまでは、やや戸惑うかもしれない。
再生中に上下の矢印キーを押すと15秒間のスキップ/バックが行なえる。要するにCMスキップ機能で、音声が出てくるまで1秒程度のタイムラグはあるが、かなり快適に動作する。再生を途中で停止した場合、次回に同じ映像を再生する前に、途中から再生できるレジューム機能も搭載している。 また、再生中にTOOLSボタンを押すと、ツールメニューが現れる。ツールメニューを再生中に立ち上げると、ステレオ、主音声/副音声などの音声切替や、ワイド/標準の表示モード切替、リピート再生設定などが行なえる。 タイトルリストでTOOLSボタンを押すと、コンテンツのソートなどが行なえ、名前や時間順で、それぞれ昇順、降順でソートできる。コントラストやバックライト、明るさなどの本体設定が行なえるほか、削除マークの設定もツールメニューで行なう。コンテンツの削除はHMP ITMから行なえる。
リモコンでも、再生/停止、早送り/戻し、ボリュームなどの操作が可能。ただし、VIDEO/MUSIC/PHOTOなどの他ジャンル間の移動は行なえない。ビデオ視聴の場合は、液晶画面を見ていないといけないわけで、結局は本体を持って見るというスタイルになる。ビデオプレーヤー利用時には、あまりリモコンの意味が無いといえる。 付属のイヤフォンは、安っぽく、音も見た目相応。テレビ用と割り切れば、音質は問題ないが、樹脂部が露出して耳との密着度が低いので遮音性能はまるで期待できない。電車や飛行機などでの利用を考えると、もう少しきちんとしたものを選びたいところだ。
■ オーディオプレーヤーとしても利用可能に
また、MP3やWAVEの再生に対応し、オーディオプレーヤーとしても利用可能。「PCVA-HVP20」では、オーディオの転送はできなかったことを考えると大きな進歩といえるだろう。 オーディオの転送はMUSICMATCH Jukeboxを利用する。プレイリストの編集や転送なども行なえる。ソニー製品なのにATRAC3でなく、MP3というのがポイント高いのだが、このMUSICMATCH Jukeboxは機能は豊富だが正直あまり使い勝手のいいソフトとは思えないので、できればWindows Media Playerからの転送のサポートや、よりシンプルな転送ソフトを用意してほしかった。
メインメニューから[MUSIC]を選択。MP3のタグ情報を取得して、アーティストやアルバム、ジャンル、リリース年での振り分けが行なわれ、任意のアルバムや曲の再生が可能。要するに最近の普通のHDDオーディオプレーヤーと同等で、プレイリスト再生にも対応している。
操作はビデオ再生時と同等で、上部の上下左右キーでアルバムや曲を選択し、ENTERボタンで再生/停止を行なうというシンプルなもの。液晶を見ながらであれば、何ら戸惑うことなく操作が行なえる。 再生中にTOOLSボタンを押すことで、シャッフルやリピート設定も可能。高音/低音のレベル設定も行なえる。イコライザなどはないが、ファイル間の音の違いを平均化する「AVLS」を備えている。
リモコンでは再生/停止と曲送り、ボリュームコントロールを行なえる。できることはシンプルながら、ポータブルオーディオプレーヤーとして使うのであれば、結構重宝するだろう。シンプルなだけに、戸惑うことなく利用できる。 写真の転送は、「HMP-ITM」で行なう。500万画素(2,560×1,920)ドットの画像を展開するのに約3秒程度かかるが、左右ボタンで次のファイルを開くことができる。TOOLSボタンからは、1枚表示/サムネイル/スライドショーなど表示モードが選択でき、サムネイル表示の場合5枚の画像を同時に表示する。 スライドショー利用時に、TOOLSボタンを押すことで、スライドショーの間隔設定(1/2/10秒)も行なえる。なお、デジタルカメラからUSBで直接接続して読み込むことはできない。
また、ビデオ出力機能も装備しており、付属のAVケーブルからテレビなどに出力することもできる。再生画質は鮮やかで、29型のCRTテレビでも満足いく品質で再生できた。シンプルなビデオ再生機器として、さまざまな利用シーンが考えられそうなうれしい機能だ。 バッテリ駆動時間は、カタログ値で最大6時間(MPEG-4 1Mbps再生時)、最大4時間(MPEG-2 4Mbp再生時)となっている。実際に、MPEG-2 5Mbpsのファイルを連続再生したところ3時間30分強で再生停止となった。 充電時間は約2.5時間。USB経由での充電にも対応し、約7時間で満充電となる。USBでの充電に対応したのは、非常に評価できるポイントだ
■ 屋外でビデオを見たければ買い ポータブル動画プレーヤーとして、これといった欠点の見つからない非常によくできた製品だ。シンプルなインターフェイス構成かつ動作速度にも不満は無く、動画を外で見たいという要求に素直に答えてくれるという意味では、現状「HMP-A1」を上回る製品は無いだろう。 価格は実売で63,000円程度と、「HVP20」に比べて1万円程度高くなる。HVP20の後継機ではないのだが、HVP20の不満点をうまく解消してきたという印象で、例えば、HVP20ではファンを搭載しており、静かな室内ではかなり耳障りな音がしていた(もっとも利用者はイヤフォンで聞くためさほど気にならないのだが)。しかし、HMP-A1はファンレス設計とし、起動時にHDDのシーク音が若干する程度と非常に静かだ。唯一、HVP20で備えていたタイマー転送機能が省かれているのが残念なところ。 さらに、MP3の音楽プレーヤーの機能も一通り備えており、十分に使える。液晶を見ながらの操作性では、VAIO pocketよりもシンプルな分だけ使いやすく好感が持てる。“毎日の通勤で主に音楽を使う”といった用途であればVAIO pocketやiPodのような専用機のほうがいいだろうが、“ビデオも音楽も一緒に楽しみたい”という欲張りなユーザーの欲求を高いバランスで満たしてくれる。そうしたユーザーには最高の選択肢であることは疑いない。 活用に当たっての課題としては、ビデオ録画環境の構築だろう。現状ではパソコンの録画環境やスムーズに転送できるような仕組みをユーザーが考える必要がある。VAIOやソニー製のレコーダとの連携の強化(別に他社製品でもいいが)して、朝起きてクレードルから取り外し、通勤電車の中で視聴する。そんな環境が簡単に構築できるようになれば、「移動しながらビデオ」という利用スタイルが定着していくかもしれない。 □ソニーのホームページ (2004年5月28日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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