■ 異なるアプローチでポータブルビデオプレーヤーを実現 各社からポータブルビデオプレーヤーが相次いで発表・発売されている。このコーナーでもRWCの「Arex PocketMX」、ディーエイチ・テックの「DM-AV10」、クエスト「Jukebox Multimedia 20」、変り種ではNHJの腕時計型のテレビ「VTV-101」なども取り上げてきた。Microsoftの提唱するWindows PMC対応機の発売も迫っており、2004年はポータブルビデオプレーヤー躍進の年となりそうだ。読者の感心も高いようで、弊誌で実施したアンケートでは「既にプレーヤーを持っている」と答えた人が29%、「持っていないが、いずれ購入したい」と答えた人は51%と半数を超えた。なお、購入に至っていない理由としては「対応フォーマットの少なさ」や「液晶の汚さ」などを挙げる人が多く、「興味はあるが、電車の中などでは恥ずかしいので使わないかもしれない」というメッセージも多数寄せられた。
こうした状況の中、単体機とは異なるアプローチでポータブルビデオプレーヤーを実現しようという製品が登場した。GAMETECHの「アドムービー」だ。これは、任天堂のゲームボーイアドバンス(GBA)、およびアドバンスSP(GBA SP)で動画を見るためのアダプタ。記録媒体はCFカードで、ユーザーが自分でエンコードした動画を野外で観賞できるというもの。 GBA/GBA SPをビデオプレーヤーにする製品は、2003年11月に発売されたam3の「アドバンスムービー」が先駆けだ。しかし、アドバンスムービーでは現在のところ、ユーザーが独自にコンテンツを作成できない。また、用意されているコンテンツも「名探偵コナン」や「ポケモン」など、どちらかというと子供向けのアニメが中心だ。
アドムービーの仕様を見てみると、アドバンスムービーの汎用性の不満を解消してくれそうだ。また、価格も都内の量販店では7,980円で販売されており、当然のことだが、単体のビデオプレーヤーと比べると格段に安い。ポータブルビデオプレーヤーの購入を検討しており、既にGBA/GBA SPとCFカードを持っている人には魅力的な選択肢と言えるだろう。その実力をテストすべく、さっそく購入してみた。
■ ゲームするフリをしながら動画が見れる!
パッケージを開けると灰色のアダプタと説明書、動画データの変換ツールの入ったCD-ROMが入っている。もちろん、CFカードとGBA/GBA SPは別途用意する必要がある。対応するCFカードの容量は32~512MB。 アダプタはGBA用のカセットを挿入するスロットに取り付ける。GBAなら本体上部、GBA SPなら下部だ。なお、アダプタにCFカードとGBA用のゲームカセットを取り付ける必要があるため、最終的な奥行きは約1.5倍になる。
GBA SPでは突起部が手前に来るためそれほど気にならないが、外側に出っ張るGBAでは多少不恰好なイメージだ。持ったときのバランスもGBAのほうが悪い。なお、アダプタの外形寸法は60×70×23mm(幅×奥行き×高さ)。重量は約40gとなっている。
アダプタにGBA用のゲームカセットを装着しなければならないのは、起動時の認証をクリアするためだろう。なお、アダプタの右側面には「MOVIE/GAME」の切り替えスイッチを備えており、起動時に切り替えておけば、アダプタを付けたままでもゲームが楽しめる。
では、さっそく動画を見てみよう。電源を入れるとトップメニューが表示され、動画再生モードと音楽再生モードが選択できる。なお、再生可能なデータは独自形式となっており、詳しくは後述する。項目の移動は十字キーで行ない、Aボタンが「選択/再生」、Bボタンが「キャンセル/メニュー」を担っている。ファイル名は半角の英数のみサポートし、CF内のフォルダも認識する。流石はゲーム機だけあり、操作性は抜群だ。
動画表示した見た第一印象は「暗い」。GBA SPのフロントライトはそれほど明るくないが、コントラストがはっきりしているドット絵のゲームをプレイしている時より、はるかに暗く感じる。映画などの暗いシーンだと、何が映っているのかわからないこともしばしば。コントラストを稼ぐためにもフロントライトの点灯は必須といった感じ。晴れた屋外や明るい室内では角度などを工夫しながら見る必要がある。 逆に、暗めの部屋や、電気を消した布団の中などでは問題なく視聴できる。低画質モードでは字幕が見づらいが、高画質モードならば十分観賞に耐えるだろう。なお、会社の行き返りの電車の中や公園などで視聴してみたが、公園は日陰を探してウロウロすることに。電車の中では比較的安定して視聴できた。
ただし、ニュースやドラマは問題ないが、アニメなどを表示する時は周囲人目が気になり、妙な後ろめたさを感じてしまった。そこで、一度ゲームモードに切り替え「私はゲームをしているんです」とアピールした後に動画に切り替えると、いくぶん気が楽になった。個人的な話だが、ゲーム機をプレーヤーとして使う意外な利点の1つと言えるだろう。
なお、再生中にできる機能は、早送りと巻き戻し……と、説明書には記載されているが、正確には1分間隔のスキップとなる。L/Rボタンを押すことで、映像の再生速度を調節できるが、早送りや巻き戻しではなく、音ズレを修正するための機能だ。
連続視聴時間は、フロントライトを常時点灯させて約7時間程度。画質モードによって異なるが、単体のポータブルビデオプレーヤーと比べると長時間の視聴が可能だ。
■ やや難ありのエンコーダ
対応する動画フォーマットは独自形式で、映像を収録した「gbm」ファイルと、音声の「gbs」ファイルを2個1組で取り扱う。できればエンコードせずにそのまま再生してくれると手間が省けて良いのだが、GBA/GBA SPのCPUには荷が重い注文だろう。PCの中の動画データをこの独自形式にエンコードするために専用のソフトウェア「ムービーエンコーダ 日本語版1.30」が付属している。 変換可能な動画と音楽のフォーマットはAVI、WMV、ASF、ASF、MPEG、WAV、MP3、WMAと幅広い。おそらくDirectShow経由でキャプチャし、エンコードしているのだろう。そのため、理論的にはWindowsMediaPlayerで再生できるファイルならば、ほぼすべてエンコードできることになる。だが、実際に使ってみるとムービープレーヤーとコーデック、PCにインストールされているMPEG-2デコーダとの相性があり、環境に大きく依存するようだ。
まず、MPEG-2で正式に動作が確認されているコーデックは「MAINCONCEPT MPEG ENCODER 1.3.1」と「LSX-MPEG PLAYER 4.0」、「Elecard Mpeg2 Decoder2.0 Package」の3つ。そのほかのコーデックについては、PCにインストールされているデコーダによって異なる結果になった。自宅のデスクトップPCとノートPC、会社のデスクトップPCの計3台で、カノープスのキャプチャカード「MTV1000/2000」、ハイブリッドレコーダの松下「DMR-E200H」、東芝「RD-X4」ソニー「RDR-HX10」、「PSX」で作成したMPEG-2ファイルをテストしたが、「PowerDVD 5.0」をインストールした自宅のPCでは、2台とも正常にエンコードできた。 しかし、「PowerDVD 4.0(PowerDVD XP Pro)」をインストールした会社のPCではエラーメッセージが表示され、ソフトを強制的に終了させるハメになった。そこで、ペガシスの「TMPGEnc 3.0 Xpress」をインストールしたところ、エンコードが可能になった。ただし、PCのパーツやドライバなどの相性も絡むため、一概にデコーダを変えれば良いというものでもなさそうだ。サポート外のコーデックについては「エンコードできたらラッキー」くらいに考えておきたい。
そのほかのコーデックでは、「DivX 5.1.1」、「XviD 04102002-1」にも対応している。そこで、DivXの5.0.5、5.0.3、5.0.2などのファイルも試してみた。結果、5.0.5は若干音ずれが発生したが成功。5.0.3、5.0.2では一応エンコードが始まるのだが、処理が時折停止してしまった。特定の場所で引っ掛かる感じで、短くて十秒程度、長いときには数十分停止してしまい、ほとんどの場合は最後まで処理が完了しなかった。 なお、処理された部分まではファイルとして作成されているので、GBA/GBA SPで再生も可能だ。しかし、映像が時折コマ送りになったり、あまりに音ズレが激しかったりと、とても使用できるものではなかった。一通りのフォーマットをテストした結果、MPEG-1とWMV9で最も安定したエンコードができた。このあたりは今後のバージョンアップに期待したいところだ。
■ 豊富な画質設定 ムービーエンコーダの画質設定は、高画質、標準、長時間モードの3つから選択できる。また、マニュアル設定も備えており、解像度やビットレートを細かく指定することも可能。各モードの設定と、画質の静止画サンプルは下表の通り。なお、エンコード後のファイルをムービーエンコーダで再生し、そのままPCでキャプチャした画像と、実際にGBA SP(フロントライト有)で再生している画面をデジタルカメラで撮影した画像も掲載した。
マニュアル設定では、入力する映像のタイプをアニメ、実写の2つから選択できるほか、映像の明るさやコントラスト、シャープネスなどを細かく設定できる。また、エンコードモードは「ノーマル」と「高圧縮」の2つから選択でき、22秒のサンプルファイルを最高画質設定のノーマルモードでエンコードした場合、所要時間は31秒で、映像ファイルのサイズは5.6MB。高圧縮モードでは2分24秒で、サイズは1.3MBとなった。ファイルサイズは約4分の1になるが、動画のブロックノイズも増加するので、できるだけノーマルモードを利用したい。 ビットレートは1~31KBまで調節でき、31KBに設定すると良好な画質が得られる。ただし、GBA/GBA SPのCPUが動画の処理に追いつかないためか、一時停止やジャンプなど、すべてのボタン操作を受け付けなくなってしまった。再生が始まると電源を切るか、最後まで視聴するしかない。25KB程度まで下げたが制御できず、結局21KB程度でなんとか操作できるようになった。 なお、液晶画面の暗さについては、エンコード時に映像の明るさを最大にあげると、暗部のつぶれをある程度回避できる。 また、エンコーダに編集機能は搭載していないが、エンコードの開始・終了地点を任意に指定できる。ドラマのオープニングとエンディングを飛ばしてエンコードするなどのテクニックが使えるだろう。ほかにも、複数の動画を順次処理するエンコードリスト機能や、終了時にWindowsをシャットダウンさせる機能も搭載している。
■ オーディオプレーヤーとして使えるか?
屋外で動画を見る際はイヤフォンを利用することが多いだろう。イヤフォンを使わない場合は、GBA/GBA SPの音量が小さいため、あらかじめ音声データの音量を2倍くらいに設定してエンコードすると良い。しかし、音質はそれなりで、ステレオの高音質モードでも常時サーッというホワイトノイズが乗ってしまう。高音も荒れぎみで、圧縮音声独特のシャラシャラした付帯音が耳につく。
なお、音声データを再生する「ミュージックプレーヤー」モードも用意するが、基本的な機能は動画モードと同じで、動画ファイルに付随していた音声ファイルだけを再生するというもの。再生中は音声ファイルの仕様などが表示されるが、正直なところ音質が音質なので、音楽プレーヤーとして利用するにはつらいものがあるだろう。
■ ポータブルビデオプレーヤーの入門機として 液晶のクオリティや動画ファイルの品質を考えると、ビデオプレーヤーとしては「最低限の機能は備えている」といった印象だ。とはいえ、256/512MB程度の大容量のCFカードがあれば、観賞に耐える品質の映像を1~2時間分持ち歩くことができ、電池の持続時間も長いため、十分実用的。しかし、現段階では対応コーデックの少なさや、エンコーダの安定性に課題が残る。逆の意味で、今後のバージョンアップ次第でより魅力的な製品に化ける可能性は大いにある。液晶の暗さもエンコード時の工夫でカバーでき、エンコード速度も高画質モードならほぼ実時間で終了するため、手間さえ煩わしく思わなければお勧めできそうだ。 また、最大の魅力は、多少の不満は大目に見てしまえる低価格さ。GBAとデジタルカメラのスペア用のCFカードを鞄の中に眠らせている……なんて人にとっては、ゲームソフト2~3本分の価格で動画が楽しめるようになると考えればお買い得だろう。 将来的に高精細な画面を搭載した高機能プレーヤーを購入したとしても、電車の中で動画を見ることに抵抗があれば、利用頻度は激減してしまう。「屋外で動画を見る」という行為がどのようなものか、自分自身でテストする意味も含めて、ポータブルビデオプレーヤーの入門機として面白い製品だ。
□ゲームテックのホームページ (2004年6月25日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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