■ ルータ兼ネットワークオーディオレシーバがアップルから登場 6月に発表された「AirMac Express」は説明し難い製品だ。WANポート、USB、ステレオミニ丸型アナログ/光デジタル兼用音声出力を備えた無線LANルータなのだが、「AirTunes」というネットワークオーディオ機能を実装、パソコン用オーディオソフトの「iTunes」から無線LANを通して、オーディオ出力ができる。 iPodなどのHDDオーディオプレーヤーの登場は、自分の音楽ライブラリの大半を持ち歩けるという変化をもたらした。アルバム単位やディスクメディアなどにライブラリを作っていた時代から、全てのライブラリを持ち運んでその場でチョイスできる利用スタイルへ、大きなパラダイムシフトを実現した。 現在HDDオーディオプレーヤーを利用するには、パソコン上にCDなどから録音したライブラリを作成する必要がある。とすれば、そのライブラリの有効活用を誰もが考えるだろう。しかし、ホームオーディオの世界では、そうした全てのライブラリを一括で管理し、瞬時に検索、再生できるようなジュークボックス製品の決定打というのはいまだ現れていない。 例えば、オンキヨーのネットワーク対応のAVレシーバー「NC-500X」は、専用レシーバにスピーカーを接続し再生するソリューションを提供。ラトックの「Rex-Link」は、パソコンのUSBからオーディオ機器にワイヤレス出力というそれぞれに魅力ある製品だった。 今回の「AirMac Express」は、iPod用のオーディオソフト「iTunes」をそのまま活用し、AVレシーバーに無線で出力してしまおうという発想の製品だ。AirMac ExpressにバンドルされるiTunes 4.6はネットワークオーディオ機能の「AirTunes」を実装。AirTunesはiTunes 4.6以降とAirMac Expressのハードウェアでサポートされており、対応機器間でのオーディオ伝送を可能としている。iPodがいつでもどこでも音楽を個人で聴くものであるのに対し、AirTunesの発想は、家庭内であらゆるAV機器で自由に音楽を楽しむというもの。 価格も15,540円と比較的手頃。しかも無線LANルータとして利用できたり、プリンタサーバー機能も搭載したりと、付加機能も充実しているアップルの新オーディオソリューションは、iPodのように新市場を創出し、我々のオーディオライフに変化を与えることとなるのだろうか?
■ アップルらしいパッケージが魅力
パッケージは、いかにもアップルらしいデザインに凝ったもので、AirMacの無線をイメージしたロゴをあしらった外箱をはずすと、折りたたみ式の中箱が現れる。 中箱の表には誇らしげに“Designed by Apple in California”と記されており、底面に小さく“Assembled in Taiwan”の生産地表示が行なわれている。Made in Taiwanとかじゃだめか? とか思わなくもないが、パッケージデザインの洗練と、「Appleらしさ」を感じさせる演出は、ほかのメーカーの追従を許さないところだ。
同梱品は、本体のほか、マニュアルとiTunes/AirMac Expressアシスタントなどを収録したCD-ROMときわめてシンプル。 本体には、Ethernet端子とUSB端子、デジタル/アナログ兼用のステレオミニ端子を備える。外形寸法は75×28.5×94mm(幅×奥行き×高さ)、本体重量は189g。一回り大きいiPodといった印象。 基本は電源コンセントにACプラグを直結、という使い方になるが、ACプラグアダプタは取り外し可能で、別売のケーブルで延長も行なえる。なお、USB端子はプリンタ接続専用となっており、そのほかには利用できないという。
また、今回あわせてオプションのケーブルセット「AirMac Express Stereo Connection Kit with Monster Cables」(4,620円)もお借りした。 Monstar Cable製のアナログRCA-ステレオミニケーブルと光ミニ-光デジタルケーブル、電源延長ケーブルをセットにしたもので、デザインマッチが図られている。AirMac Expressは出力端子がデジタル/アナログ共用のステレオミニ端子だけなので、手持ちのケーブルがない場合は、こちらもかなり魅力的な選択肢となっていると思う。
■ 小型無線ルータにネットワークオーディオ機能を内蔵
本体の設置は、電源タップに接続し、利用形態に応じてEthernetケーブルを接続するだけのごく単純なもの。あとはパソコンにインストールしたAirMac Expressアシスタントから無線/Ethernet経由で設定が行なえる。その際にはもちろんオーディオソフトの「iTunes 4.6」もインストールされる。iTunes 4.6の対応OSはWindows 2000/XPとMac OS X v10.1.5以降。 AirMac Expressの機能は多岐に渡っているが、基本的には、WAN 1ポートでLAN側がIEEE 802.11b/gの無線LANルータ。PPPoEもサポートしており、ADSLモデムなどと接続して、普通の無線LANルータとして利用できるのだが、LAN側にEthernetを備えていないため、クライアントからは無線LANでアクセスする形となる。 もっとも、DHCPサーバーやIPルーティングの機能を搭載しているとはいえ、パケットフィルタ機能などはなく、ルータとしての機能はたいしたことない。家庭内で常時利用するルータというよりは、出張時や外出先などで複数人で回線をシェアする場合に使うモバイルルータといった位置づけだろう。また、家庭内で既存のネットワーク環境にぶら下げて、無線LANアクセスポイント兼オーディオレシーバとして利用したり、あるいは家庭内のネットワークから独立した単なる無線オーディオレシーバとして動作させるといった利用スタイルが選択できる。 ネットワーク構成としては、以下の接続に対応する。
接続形態を問わず、いずれも音声出力をオーディオ機器に接続していれば、AirTunesを利用したオーディオ出力が可能なので、自分のネットワーク環境に合わせた設定を行なえばいい。
設定ツールは「AirMac Expressアシスタント」と「AirMac管理ユーティリティ」が用意される。 AirMac Expressアシスタントは、ウィザードに従って設定するだけで、AirMac Expressを利用可能とするユーティリティ。WEP/WPAなどのセキュリティ設定なども行なえる。なお、Windowsで利用する場合は、対応OSはWindows XPのみとなっているので、Windows 2000のユーザーは「AirMac管理ユーティリティ」で設定を行なう。 AirMac管理ユーティリティは、アシスタントよりも詳細な設定が行なえ、ルータ機能をOFFにして無線LANと有線LANのブリッジとしてAirMac Expressを動作させることもできる。5つのプロファイルを設定できるので、用途に合わせたプロファイルを作成しておけば、普段自宅では無線LANルータ兼ネットワークオーディオとしていながら、出張時にはホテルのネットワークにつなぐ無線LANルータになる、といった運用が可能だ。 また、AriMac管理ユーティリティの[ミュージック]-[EthernetでAirTunesを使う]のチェックボックスをONにすることで、PCからの無線出力でなく、ルータを介した有線LAN接続でもオーディオ出力が可能となる。
柔軟な設定が可能なので、ややわかりにくく感じるが、AirTunesでのネットワークオーディオ利用に関しては、ここでネットワーク名とスピーカー名(AirMac Express名)を決めておけばその名前でiTunesから認識される。ウィザードに従って設定すれば、さほど頭を悩ますことなく設定できるだろう。もっとも無線LANのセキュリティに関しては、必ずWEPやWPAなどをかけておくべきだ。 AirMac ExpressアシスタントもしくはAirMac管理ユーティリティで設定したAirMac Express名は、iTunes下部のスピーカーポップアップに表示され、出力先として選択できるようになる。 たとえば機器名で[AVアンプ]や、出力機器の場所別に[リビングルーム]、[キッチン]などとしてもいい。同一サブネット内に複数のAirMac Expressを設置し、リビングルームを選択するとリビングのAirMac Expressから出力、キッチンを選択するとキッチンで出力するといった具合で利用できる。
■ レスポンスは良好。iTunesの機能をフル活用 準備が整ったところで、本題といえるAirMac Expressのネットワークオーディオ機能を試してみる。といっても基本はiTunes上のライブラリを無線でAirMac Expressに飛ばし、AirMac Expressでデコード、オーディオ機器に出力するというシンプルなもので、iTunesのほぼすべての再生機能が利用できる。 バンドルされるiTunes 4.6では新たにAirTunesと呼ばれる機能をサポート。これはiTunes 4.6以降とAirMac Expressのハードウェアでサポートされており、同一サブネット上のAirTunes対応デバイスを検索し、ネットワーク上の出力機器にiTunesのオーディオ出力を割り当てることができる。AirMac管理ツールなどで設定した出力先をiTunesのポップアップメニューから選択すれば、任意の機器からオーディオ出力ができる。 AirTunesでは、iTunes上で再生するオーディオについて、WAV/MP3/AACなど形式を問わず、全て自動的にApple Losslessにエンコードし、暗号化してAirMac Expressに伝送する。AirMac Express側では、受信したデータから暗号をデコードして出力するという。 理論上は伝送時の音質劣化はないが、最終的な音質はアンプやスピーカーなどの出力機器に左右される。それなりのAVアンプやミニコンポへの出力では、パソコンの小さなスピーカーよりは、はるかに高音質な再生が可能だろう。iTunesからAVアンプに出力してみたが、パソコンやポータブル機器とは違って、MP3の128kbpsと160kbpsの差が顕著にわかるなど、出力機器を変えることで違った発見もある。
レスポンスもネットワークオーディオとしては非常に良好。最初にスピーカポップアップから出力先を選択、再生する際には1秒弱程度のバッファ時間を要すが、一時停止や曲スキップのタイムラグは0.1秒程度。指向性の強いリモコンでAV機器を操作するよりよっぽど気持ちよく、好レスポンスな再生が可能という印象だ。 iTunesからのボリュームコントロールも可能(設定でOFFにもできる)。なお、PC側から出力されるのはiTunesからの音声出力のみで、起動音やメール着信音などのパソコンのシステム音声は出力されないようになっている。そのため、システムの音量をMUTEにしていてもiTunes上でボリュームを操作すれば、きちんと出力に反映される。 また、再生機能もiTunesのパーティシャッフル機能やプレイリスト再生などが利用できるし、iTunesの共有機能を利用して、ほかのパソコン上のiTunes共有ライブラリの再生も可能。ネットラジオにも対応する。要するにiTunesの再生機能は全て利用できるので、非常に柔軟な音楽再生が楽しむことができる。もちろん、iTunesのイコライザ設定も反映される。 もともと再生機能が充実しているiTunesだが、柔軟性にとんだパソコンのアプリケーションの機能をネットワークオーディオにフル反映できるという点はいままでのPC利用ジュークボックスの全てを上回っているといえるだろう。パソコン上でオーディオライブラリ管理を行なっている人には非常に魅力的な製品であることは疑いない。 また、USBポートをプリンタと接続し、プリンタサーバーとしても利用できる。なお、Windowsの場合は共有機能のRendezvousをOS側で持っていないため、MacintoshではUSBプリンタ利用時には自動で認識されるが、WindowsではIPアドレスを直で入力する必要があるなど、WindowsとMacintoshでの運用に若干違いが生じる場面もある。
■ ネットワークオーディオの決定版。広がるiPodの世界 いままで、パソコン上のオーディオデータの有効活用を目指した製品は結構あったが、ここまで柔軟な再生機能を持ち、なおかつ低価格で、多岐にわたるネットワーク設定が行なえる製品は存在しなかった。しかも、モバイル無線LANルータとして利用できたり、プリンタサーバーなどの付加機能もついているわけで、非常に魅力的な製品だ。利用モデルがすぐに描ける人であれば、迷うことなく「買い」だろう。 しいて文句を挙げれば、柔軟性が高すぎるので、やや利便性が伝わりにくい、といった程度。いずれにせよそんなに大きな問題点は無いと思う。 広くホームネットワークのオーディオソリューションを提供するという意味で、15,540円という価格もお手ごろ。ルータとしての仕様は中途半端だが(そもそもルータとして購入する人はほとんどいないだろうが)、新iPodの20GB(33,390円)と一緒に購入しても5万円でおつりがくる。例えば、同じ20GB容量のHDDプレーヤーで、実売5万強の「NW-HD1」と同価格で、ホームジュークボックスも実現可能となる。競合製品とiPodの比較優位の状況を作り出し、購入を後押しする強力なツールとしても働くわけで、今後のiPodの製品展開を考える上でも非常に面白い製品となっていると思う。 こうした製品を実現できたのは、やはりiTunesという熟成を重ねたアプリケーションの存在が大きいだろう。インターフェイスの洗練やDB管理などiTunes自体のもともとの素性のよさもあるが、共有機能やパーティシャッフル、ネットラジオなどの機能の充実に、日本ではスタートしていないがMusic Store機能など、オーディオ統合ソフトとしての魅力は、他社プレーヤー付属ソフトで並ぶものはない。このAirTunes対応により、家庭内のオーディオプラットフォームとしてのiTunesのポジションをさらに強化している。 このExpressの世代では、製品の魅力がわかるマニア層のユーザーが中心となるだろうが、世代を重ねるにつれ、利用スタイルや利便性が伝われば、一般ユーザーの家庭内でのオーディオ利用スタイルも広く変わるかもしれない。 今年の夏商戦では、HDDオーディオ市場に、ソニーをはじめとして魅力的な商品が数多く投入されたが、AirTunesのサポートによりオーディオを中心としたトータルソリューションでは、他社を大きく引き離したと感じる。3年前から市場を先導するAppleだが、1年前の第3世代iPodのころから比較しても、他社を大きく引き離すアドバンテージを獲得し、iPod/Appleの牙城は非常に強固になったと感じる。 ほかのオーディオプレーヤーメーカーにとっては、非常にきびしい市場となったといえそうだが、それをどう崩していくのか、さらに魅力的な製品/ソリューションを提示できるのか、期待がかかる。 □アップルのホームページ (2004年7月24日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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