■ ハイブリッドの戦略モデルが来た
年末商戦に先がけて、Panasonicの秋モデルが登場した。他メーカーが年末商戦に向けて新モデルのリリースを調整する中、秋、しかも早いうちに新モデルを発売してそれを年末商戦まで引っ張る、というのが例年の松下の戦略となっている。 今回発表になったのは合計5モデル。最上位モデルの「DMR-E500H」(以下E500H)を筆頭に、ダブルチューナ搭載の「E330H」と「E220H」、エントリーモデルの「E87H」、VHS一体型+ダブルチューナの「E250V」だ。普通最上位モデルといえば「全部入り」がお約束だが、E500Hは新機軸のダブルチューナ機ではない。その代わり、BSアナログチューナを搭載し、ネットワーク機能も盛り込むなど、1年前に出たE200Hの後継モデルという位置にあるようだ。 DIGAのフラッグシップはBDレコーダの「E700BD」に譲る形になったものの、ハイブリッドレコーダとしての最上位モデルは、このE500Hとなる。さっそくチェックしてみよう。 ■ 大きなハーフミラーがポイント
ではまず外観から見てみよう、というこの書き出しも定着してきたようで、どこかのメディアのライターさんがパロったりしているようである。ちょっとうれしい。 まあそんなことはおいといて、E500Hである。今回発表となった5モデルからは共通のデザインコンセプトを感じるが、デザインとして最もシンプルにまとまっているのが本機だ。全体的な印象として、E200Hよりはずいぶんパネルにコストがかけられているのがわかる。
若干斜めに切り出した恰好のフロントパネルは、アルミのヘアライン仕上げ。側面から見ると、厚さ1mmほどのアルミパネルが貼り付けてあるのがわかる。こんな具合にネタバレしてしまうのはご愛敬だが、コストをかけずにアルミ仕上げ感を演出しているわけだ。ネットワーク対応を強調するように、右肩には「HOME NETWORKING」のエンブレムがはめ込まれている。 センターのハーフミラー部はDVDドライブのベゼルも兼ねており、イジェクトすると大きく開いて、奥のFL表示管まで丸見えになるという大胆な作りだ。搭載ドライブはDVD-R 8倍速、DVD-RAM 5倍速。速度競争からは取り残された感のあるDVD-RAMだが、ようやく5倍速ドライブ搭載レコーダが登場したことになる。HDDは400GBと大きく、日立「MS-DS400」に並ぶ。
横一列のライン上には、メディアスロットやボタン類が並んでいる。SDカードとPCカードスロットを備え、メディアという意味では、HDDとDVDを含めると合計4メディアが扱えることになる。左側下部には外部入力、同右側には操作ボタン類がある。
背面も見てみよう。大きく放熱ファンが飛び出しているのは、もはやPanasonicのお家芸。この春モデルでは本体内にファンを格納したモデルもあったのだが、先祖返りした恰好だ。端子類は、地上波、BSのアナログ入力とスルー、外部入力3系統、出力3系統(うち1組はD端子と光デジタル出力)。E200Hと比較すると若干コネクタの位置が違うものの、種類や数などは同じだ。ただRCAプラグとD端子が金メッキになっている。
他のレコーダにはあまりないない特徴としては、アナログの5.1ch出力を備えている点だろうか。本機ではこの端子を使って、DVDオーディオのマルチチャンネル再生ができる。レコーダでDVDオーディオ再生可能なモデルはいくつかあるが、ほとんどは2ch止まりである。DVDオーディオがマルチチャンネル再生まで可能なレコーダは、前モデルのE200HとこのE500Hぐらいだろう。 リモコンも見てみよう。従来モデル同様にアルミ張りのストレートタイプだが、高級機らしくジョグシャトルを装備している。E200H付属のものは、シャトルリングに滑り止めがなく使いにくかったのだが、今回のものはその点もしっかり改善され、使い勝手が向上している。 マニュアルの作りも変わっていて、表紙や目次の作りが雑誌っぽい感じになっている。このあたりも、ユーザーの調査結果でDIGAが使いやすいと評価されているゆえんかもしれない。
■ GUIは春モデルを継承
では中味のほうを見ていこう。基本的には春モデルで行なった大幅なGUI改革をそのまま継承しており、目的別の機能が表組みで現われる機能選択画面は健在だ。だが春モデルではMPEG-4録画やネットワーク機能付きのモデルがなかったので、それに応じた拡張が行なわれている。 プログラムナビ画面では、画面右上に「ビデオ」「MPEG4」「写真」のタブがあり、そこで各コンテンツに切り替えるようになっている。MPEG-4のサムネイルも、番組のそれと同じように、選択したものが音声付きで再生される。
前モデルをご存じない方のために、一応MPEG-4の扱いについて簡単におさらいしておこう。本機では、MPEG-4のファイルを作成してSDカードに転送できるわけだが、ファイル作成法は2つある。一つは番組録画と同時にMPEG-4を作成させる方法で、エンコード品質はあらかじめ選んで指定しておく必要がある。 もう一つは、録画したMPEG-2の番組から新たにMPEG-4を作成する方法で、このときは作成する際にエンコード品質を決めることができる。今回のモデルでは、ネットワーク経由でもMPEG-4の再生が可能なので、利便性から考えれば、録画時に自動生成されるよう設定しておくほうが便利だろう。
今回はMPEG-4にも30fpsで記録する「XFモード」が新たに加わっている。MPEG-2録画時の品質と合わせて、MPEG-4の各モードのサンプルを掲載しておく。なおMPEG-4の録画時間は、映像の状態によってかなり可変するので、あくまでも目安として捉えて欲しい。 EPGはGガイドで、ジャンル検索、キーワード検索を装備する標準的な仕様。最近のトレンドは自動録画機能だが、DIGAシリーズではまだ採用例がない。また下位モデルのE330HとE220Hには野球延長機能があるのだが、本機にそれが付いていないのは残念だ。
■ 注目のネットワーク機能
今回の目玉といえば、やはり同シリーズとして初のネットワークを介したPC連携機能だろう。今まではケータイから録画予約できたりといった機能をネットワーク機能と称していたのだが、E500HはPCとの連携を前面に謳った最初のDIGAということになる。 カタログなどの解説によると、ネットワーク機能は「ホームネットワーク」と「モバイルネットワーク」に分けられる。早い話が、LANとWANだ。LANではE500Hに直接ログインして、本体のリモコン操作や予約、番組名変更、MPEG-4ファイルの再生などができる。 現在LANに繋がったPCと連携できるレコーダはいろいろあるが、各メーカーごとにできることがが違っている。今のところもっとも柔軟に対応しているのは、NECのAXシリーズで、予約などの追加、変更などのほか、MPEG-2映像のストリーム再生やファイル転送が行なえる。 東芝RDシリーズは、28日発表になったストリーミング再生が可能なRD-X5を除けば、本体のコントロールや予約、番組名変更などに対応しているが、映像自体のストリーミングやファイル転送はできない。MPEG-4が再生できてファイル転送はできないE500Hは、ちょうどその中間に位置する感じだ。
PCからE500Hにログインすると、「DIGA MANAGER」画面になる。「レコーダ操作」ボタンをクリックすると、簡単な操作画面と予約追加や変更を行なうためのボタンが現われる。レコーダ操作はリモコンみたいなものだが、PCからはどんな番組をやってるのか確認できないので、テレビ画面を見ながらの操作になる。現実的にはリモートで電源を切ったり、録画開始ができる程度で、録画したコンテンツの再生コントロールまでは番組リストがDIGA MANAGER上で確認できないので難しい。 次に肝心のMPEG-4再生を試してみよう。DIGA MANAGERで「MPEG-4再生」をクリックするのだが、ここで「本体が電源オフの時に操作しろ」と出る。そこで「レコーダ操作」画面から電源を切り、再度「MPEG-4再生」をクリックすると、今度は「起動するから待ってろ」という。なめてんのか。
しばらく経ってもう一度「MPEG-4再生」をクリックすると、本体がAVネットワークモードで起動して、ようやくMPEG-4の再生が始まるといった具合だ。これは「ビデオタイトル名編集」や「写真再生」も同様で、いちいち起動しなおしてモードチェンジしなければならないというのはめんどくさい。もうちょっとどうにかならないもんだろうか。
DIGAのMEG-4は基本的にASFファイルなのだが、新しく加わったXFモードだけは、別途コーデックをダウンロードしてPCにインストールする必要がある。普通なら付属のCD-ROMでも付いているところだが、本機の場合はDIGA MANAGERのヘルプからリンクを辿ってダウンロードサイトに行き、インストールする。易しい操作感がウリのDIGAにしては、ちょっとこのあたり、急に敷居が高くなる感じだ。 MPEG-4の再生は、DIGA MANAGER内で行なわれる。だが最高画質のXFモードでも、解像度がHalfVGA(320×240ドット)しかない。既にNECのAXシリーズでMPEG-2のフル解像度で複数のストリーム配信ができるという現実を体験してしまうと、どうしてももの足りなく感じてしまう。また、再生コントロールも任意の場所へ早送りなどができず、アタマから見るだけである。 可能性を感じるのは、本機がDLNA(Digital Living Network Alliance)が推進するデジタル機器の相互接続性の標準設計ガイドライン「Home Network Device Interoperability Guidelines v1.0」に対応していることだろうか。現在のところ、他に同ガイドライン対応デバイスがないので、E500H同士を接続することになるが、これがうまく機能すれば、メーカー間を超えてお互いのコンテンツが視聴できるようになる。
ちなみに筆者宅の環境では、ネットワーク設定からVAIOのVAIO Mediaサーバや、DigiOnのMediaGarageサーバ(NEC製品に付属)が確認できた。これらはUPnPで動いており、DLNAのガイドラインでもUPnPがベースになっているため、認知されたものだろう。ただし機器の承認方法などが合わないため、現在はまだサーバの存在がわかるだけである。 ではWAN側のサービスも見てみよう。WANではPanasonicが提供するインターネットサービス「DIMORA(ディモーラ)」を経由して、本機にログインする。DIMORAでは事前手続きとして、ユーザー登録と機器登録が必要になる。 そこまでこなせば、あとはLANで行なった手順と同じようなものだ。機器のコントロールのほか、テレビ番組ガイド(Gガイド)画面を使っての録画予約設定も可能だ。今までのサービスでは手動で予約しているようなものだったが、これで外出先からの予約もさらに現実的になるだろう。ただし番組予約サービスは、10月から有料(月額210円)になるそうである。
■ 総論
DMR-E500Hは、1年前のE200Hから今年春のE95Hを経由した、正常進化形と言ってもいい作りになっている。ダブルチューナや野球録画延長といった新機能が乗らなかったのは残念だが、BSチューナまで搭載した最上位モデルらしい多機能機だ。 ただ、新しく加わったネットワーク系の機能を使うためには再起動を余儀なくされるなど、機能追加というよりも、別OS起動デスカぐらいのイキオイで無理矢理といった印象は否めない。またせっかくのストリーム再生も、PCモニタはXVGAが当たり前というご時世に、HalfVGAではもの足りないのも事実だ。 だが、今回はテストしなかったPCやケータイから本機に写真を送受信できる「写真転送」機能などは、あたらしい可能性を感じさせる。レコーダとしてシンプルに使うのではなく、いろんなデジタルコンテンツのハブにしていこうというビジョンが垣間見えるようだ。DLNA推進のガイドライン採用も、その流れと見ることができる。 レコーダなんて、単にテレビがいっぱい録れるだけでいいとする人も多い。だが映像でいろいろ遊んでいこうとする人は、E500Hのような機種は面白いことだろう。DLNAのメンバーには、ソニー、シャープ、日立、三菱、NEC、東芝など、レコーダの主要メーカーが揃っている。横の繋がりがどこまで実現するのか、その第一歩を今、E500Hが踏み出したことになる。 □松下電器のホームページ http://matsushita.co.jp/ □製品情報 http://panasonic.jp/dvd/products/e500h/index.html □関連記事 【9月8日】松下、ハイブリッドモデル最上位の「DMR-E500H」 -400GB HDDを搭載、PCへの接続機能も http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040908/pana2.htm 【6月23日】DLNA、デジタル機器向けの標準設計ガイドラインを発表 -DHWGがDigital Living Network Allianceに改称 http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040623/dlna.htm (2004年9月29日)
[Reported by 小寺信良]
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