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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第177回:1080i撮影を実現したハンディカム「ソニー HDR-FX1」
~ ついにビデオカメラもHD時代到来か? ~


■ 期待感大のHDV

 コンシューマから放送機器まで、ソニーはバランス良くHD戦略を推し進めている。制作機器から再生機器に至るまでの、すべてのハードウェアを自社で提供しようという戦略は、なかなか他社にはマネのできるところではないだろう。

 そんなソニーから、ついにHDV規格のビデオカメラ「HDR-FX1」(以下FX1)が登場した。この春には一部報道から「クリスマス商戦向けに投入」という記事もあったが、それよりも若干早く、既に10月15日から販売が開始されている。

 コンシューマ向けHDVカメラは、既に昨年春に日本ビクターから「GR-HD1」が発売されているが、GR-HD1が720Pをサポートしたのに対し、ソニーのFX1は1080iをサポート。放送上のHD規格としてはどっちもアリなのだが、現状の日本のデジタル放送のほぼすべてが1080iであることから、より放送ソリューションに合わせたほうを選択するあたり、ソニーの今後の戦略が垣間見えるようだ。

 プロ・アマともに大注目のソニー製HDVカメラ1号機の実力を、じっくり試してみよう。



■ 見た目は重厚

 ではまず外観からである。ハンディカムを名乗るにはかなり大型のボディで、鏡筒部などもかなり太い。つや消しブラックグレーのボディは、ハンドル部分やグリップベルトの内側など、直接手に触るところは樹脂製だが、それ以外のほとんどの外装部分はマグネシウム合金となっている。

外装部はほとんどマグネシウム合金でできている テープデッキ部は内側に移動 液晶モニタはグリップ部の先

【お詫びと訂正】(2004年11月4日追記)
 記事初出時に、ボディはほぼ樹脂製と記載しておりましたが、実際には外装部分のほとんどはマグネシウム合金でした。お詫びし訂正します。

 設計として面白いのは、テープデッキ部を、従来液晶モニタがあったあたりに持ってきているところだ。そして液晶モニタは、3.5インチワイドのものをグリップ部の先端にある。反射、透過を切り替えられるハイブリッドタイプだ。

 重量は、SD撮影のみのハイエンドカメラよりだいたい400gほど重いが、本体だけで約2kg、バッテリを加えても2.3~4kgに押さえている。見た目相応といったところだ。

 レンズはカールツァイス「バリオ・ゾナーT*」で、フィルタ経は72mm。HDVモードでは、35mm換算でワイド端32.5mm、テレ端390mmの光学12倍ズームと、若干ワイド寄りとなっている。解放F値はワイド端で1.6、テレ端で2.8。

手ブレ補正は、4段階に設定可能

 手ぶれ補正は光学式で、補正レベルが4段階に調整できる。手ぶれ補正にレベルを設けたのは、民生用ビデオカメラおそらく初めてではないだろうか。レンズフードはレバー1本でレンズカバーにもなる仕掛けで、PD-170に採用されたものと同じスタイルだ。CCDはもちろん新開発のHD対応素子で、総画素数112万の1/3インチCCDを搭載。GR-HD1と違ってこちらは3CCD機である。

 鏡筒部には大型の電子式フォーカスリングがある。後ろにはズームリングがあり、こちらは一見機械式のような手応えだが、すばやく動かすと動作がディレイすることから、やはり電子制御だろう。なおズームは、リングとズームレバーを切り替えて使うようにスイッチが付いている。

鏡筒部にはフォーカスとズームリング 操作ボタン類は内側に集中

 NDフィルタは1/6、1/32の2枚。やや大きめのアイリスダイヤルがあり、F1.6から11まで24段階で調整できる。ゲイン調整をマニュアルにした際には、LMH3段階のプリセットレバーが使える。それぞれの設定値はメニューから変更できるが、デフォルトでは+18dB、+9dB、0dBとなっている。ちなみにマイナスには設定できない。

 その横にはホワイトバランスの切り替えがある。プリセットはメニューから「屋外」「屋内」を設定し、AとBにはそれぞれマニュアルで設定できる。このあたりの作りは、同社のプロ用カメラと同じ作りだ。

ゲインは3段階がスイッチに設定できる ホワイトバランスのプリセットは屋外/屋内から選択

 ユーザー設定ボタンは3つあり、メニューのON/OFFや手ぶれ補正のON/OFFといった設定が、ボタン1つで変えられるようになっている。ただ設定できる項目が非常に少ないので、ここはもうちょっと手を入れて欲しかった部分だ。それをフォローするためか、後ろのほうには同社コンシューマ機でお馴染みの、パーソナルメニューボタンもある。よく使うメニューをすぐ出せる、ショートカットだ。

ユーザー設定ボタンは、選択肢が少ない パーソナルメニューは、好きなメニューをセットできる

ハンドル下には、新機能のショットトランジションボタンがある

 ユニークなのはショットトランジションボタンで、AB間の設定を、指定した時間とトランジションカーブで切り替えてくれる機能。あとで実写で試してみよう。

 絞り、ゲイン、シャッタースピード、ホワイトバランスの設定は、すべてマニュアルに設定できる。また一部だけオート、一部だけマニュアルといった柔軟な使い方ができるのは、従来機であればPD-150/170といった業務用機と同じ作り。また本機には、デジタルズームや静止画撮影といった機能もない。このあたりからも、ハンディカムを名乗ってはいるものの、事実上は業務クラスのカメラといってもいいだろう。

カメラ後部は、比較的シンプル

 カメラ後方で特徴的なのは、「ピーキング」スイッチだろう。これは一時的に輪郭を強調することで、フォーカスを取りやすくする機能だ。これはゼブラ機能と同様、実際に強調された絵が録画されるわけではない。

 ピクチャープロファイルボタンは、あらかじめカメラ設定を6つプリセットしておける部分だ。もちろん自分で設定できるが、工場出荷時にはそれぞれ特徴的なプロファイルが仕込まれている。これもあとで試してみよう。

 正面から見て左側面には、各種端子類がある。下向きに付けられたDV端子、ヘッドホンやLANC端子もある。DV端子からは、HDVの映像をDVフォーマット(SD)に変換して出力する機能もある。アナログの映像出力は、コンポジット、Sのほか、特殊形状のコンポーネント出力がある。専用ケーブルでD3端子に変換して使用する。

後方に付けられたDV端子 内部でDVフォーマットに変換することもできる

モニタ内部には、走行系のボタン類が並んでいる

 ボタン類は他にもあって、グリップ先端のモニタを開けると、録画/再生系のコントロールや画面表示などのボタンがずらりと並んでいる。

 バッテリは、従来からハイエンドモデルで採用されていたFシリーズがそのまま使える。充電器なども同じなので、既に持っている人は、アクセサリーキットを新たに購入する必要はない。



■ 違和感のない仕上がり

 では実際に撮影してみよう。本機はDVフォーマットでの撮影も可能だが、機能がいろいろ盛りだくさんなので、今回はHDV方式のみに集中してお送りする。

 まず画角だが、ワイド端は十分な広さだ。解像度が高いので、引いた絵でも情報量は多い。一方テレ端の光学12倍というスペックは十分頑張っているのだが、いかんせん画面が横に長い分、もう一歩寄り足りなさを感じることがある。なお本機は、内部的には1,440×1,080ドットで記録されているが、そのままではアスペクト比がおかしくなるので、サンプル画像は1,920×1,080ドットに修正している。

35mm換算で32mmのワイド端は、HD画角として十分な説得力 光学12倍のテレ端。端の方に若干収差らしきズレを感じる

 CCDが高解像度化すると、レンズの出来が如実に表われるものだ。FX1のレンズは、絵柄によってはテレ側の端の方で、これって収差じゃないのか? ん? ん? というところも見られる。ギリギリのところで持ちこたえている感じだ。

 レンズは解放で撮ると、なかなか綺麗な深度表現ができる。絞りは6枚で、被写体によっては6角がわかってしまう場合もあるが、通常の使用では気になることはないだろう。またフレアやスミアには非常に強く、逆光でもアングルを選ばない撮影が可能だ。

解放でのボケ味もいい感じだ 絞りの形が若干わかることもある フレアやスミアにはかなり強い

 液晶モニタの位置が従来よりも前にあるのだが、特に違和感は感じなかった。むしろハンディで撮るときには、レンズ近くにモニタがあるほうが便利。ただパネル自体は25万画素程度で、HDのフル解像度はサポートしていないため、精細感はあまりない。

 フォーカスに関しては、オートでもかなり追従が速いので、ワイド側ではおまかせでも問題ないだろう。テレ側でフォーカスをマニュアルで合わせる場合は、ズームレバーの横にある「拡大フォーカス」ボタンを使うと便利だ。これは一時的に画像を2倍に拡大してくれるもので、マニュアルでフォーカスを合わせるときに威力を発揮する。

 ただこのボタン、確かにズーム系の機能ではあるのだが、実際にはフォーカス合わせの時にしか使えないので、ボタン自体はフォーカスリングの近くにあったほうが良かったのではないだろうか。解像度が落ちても、デジタル的なエクステンダーとして使えればまた違うのだろうが、現状は拡大フォーカスの状態は録画できないので、ここにある意味はあまりない。

 増感もとりあえずプリセットされている3段階を試してみた。さすがに+18dBではノイズが乗ってくるが、+9dBぐらいまではなんとか行ける感じだ。

増感のテスト。左から0dB、+9dB、+18dB

 HDのMPEG-2動画として見ると、水面など従来のMPEGでは破綻しやすかった絵柄も、問題なく綺麗にエンコードできている。ビクターのGR-HD1はそのあたりがダメダメだったので心配していたのだが、これなら多くの人も許容できるだろう。

 空のグラデーションなどでは、若干階調がわかる部分もある。だが強く問題点として感じるわけではなく、まあこれぐらいしょうがないかという許容範囲ぎりぎりのところで、うまくチューニングしてあるといった印象を持った。

空のグラデーションに若干の階調の荒さを感じるが、まあ許容範囲だろう 月のクレーターの凸凹感まで確認できる解像度は、HDならでは

動画サンプル
WMV HDエンコードによる動画サンプル
samp01.wmv(約53.3MB)

 全体的なトーンとしては、ソニー特有のクールな色味で若干青みが強いものの、ヘンに作り込んでいないところは好感が持てる。もちろんプロファイルではホワイトバランスのオフセットなども可能なので、作り込むことも可能だ。

 動画サンプルも作ってみたので、再生してみて欲しい。オーディオはWMA 9ProではなくWMA 9でエンコードしたので、WMV HD再生対応のネットワークプレーヤーでもオーディオ付きで再生できると思う。


■ 独自機能を試す

 ではそのピクチャープロファイルを見てみよう。一つのプロファイルには、11項目のパラメータをセットできる。リセットやプロファイル間のコピーも可能なので、かなり使い出があるだろう。ここでは工場出荷時にセットされている6つのプロファイルと、その撮影結果のサンプルを上げておく。

【ピクチャープロファイルのプリセット値】
番号 PF1 PF2 PF3 PF4 PF5 PF6
最適条件 HDV DV 人物 映画 夕焼け モノトーン
色の濃さ 0 0 +1 0 +2 -8
色相 0 0 0 0 0 0
シャープネス 11 12 11 11 11 11
スキントーンディテール タイプ3
AEシフト 0 0 0 0 -2 0
AGCリミット 12dB 6dB 12dB
オートアイリスリミット F11 F11 F4 F11 F6.8 F11
WBシフト 0 0 0 0 0 0
AWB感度
シネマトーンガンマ
シネフレーム 24
パターン
実写サンプル

 パラメータのうち、独自のものだけ説明しておこう。スキントーンディテールは、肌色の輪郭を押さえて、肌のシワなどを目立たなくする機能だ。「切」から「タイプ3」までの4段階あり、肌色の検知範囲が調整できる。

 実はHD解像度における肌の扱いの難しさは、プロでも問題になっている。SDでは目立たなかった肌のキメが、HDではものすごくはっきり見えてしまうのである。局のアナウンス研修では、SD用とHD用のメイクの仕方を分けて教えているところもある。

 WBシフトは、-7~+7までの範囲があり、マイナス側では青が、プラス側では赤が強くなる。AWBは、白熱灯下でのオートホワイトの動作をシフトさせるもので、高中低の3段階がある。高ではB-Y/R-Yが弱く、低では強くなる。

動画サンプル
PF1とPF4の動画比較。水面の破綻は、WMVエンコードに起因するもので、実際はもっとキレイ
samp02.wmv(約19.6MB)

 最近のハイエンドカメラのトレンドとも言えるシネガンマも、しっかり備えている。ただ細かい段階のようなものはなく、入/切のみだ。シネフレームは、フレームレートである。「切」では60iだが、24Pと30Pが選択できる。

 もう一つの特徴的な機能、ショットトランジションを試してみよう。2つの設定値を滑らかに繋いでくれる機能だが、記憶できる設定値は、フォーカス、ズーム、アイリス、ゲイン、シャッタースピード、ホワイトバランスの6つだ。

 プロの撮影では、フォーカスやアイリスなど、別々の人間がそれぞれを担当してせーので同時に動かしながら被写体をフォローすることは珍しくない。だがカメラマン一人しかいないときは、なかなかそういう凝った絵を撮るのは難しいわけだ。そういう部分をフォローする機能として、ある意味このカメラの目玉でもある。

動画サンプル
ショットトランジションでの撮影。ズームとフォーカスなど、複数のパラメータが同時に動いている
samp03.wmv(約9.61MB)

 使い方としては、まず最初の絵柄を決め、「登録」を点灯させたのちAボタンを押すと、今の状態がAに記憶される。次の絵柄を決めて、同じくBボタンを押すと、次の状態がBに記憶される。

 「確認」を点灯させてA,Bボタンを押すと、その設定の状態を呼び出すことができる。「実行」を点灯させてA,Bボタンを押すと、2つの間を滑らかにトランジションする。

 トランジションの秒数は、2秒から15秒まで、0.5秒刻みで設定できる。トランジションカーブは、直線的に動く「リニア」、直線スタート/スローストップの「ソフトストップ」、スロースタート/中間リニア/スローストップの「ソフトトランジション」の3タイプから選択できる。


■ 総論

 ソニーのHDVカメラ1号機として、FX1は技術者集団としてのメンツのかかったプロジェクトであったことだろう。そして実際にその期待に負けない、高いレベルでの仕上がりとなっている。懸念されたハイビジョンMPEG-2のエンコードも、相当頑張ってチューニングされており、難しい条件でも破綻が感じられないのはさすがだ。

 トータルとしてみると、ハンディカムとは名乗っているが、実際はプロから業務ユーザー層がまず購入するカメラだろう。カメラの仕様も、フルオートからフルマニュアルまで、幅広く対応できている。新しいアイデアとして、拡大フォーカスやショットトランジションは、使い出のある機能だ。

 絵作りとしては、ニーやセットアップなどもう一歩踏み込んだ調整がないのは残念だが、HD撮影をスタンダードなものにするという大役は十分に果たせるだけのポテンシャルを持っている。放送業界でも、今までのHD撮影の常識がひっくり返るぐらいのインパクトがあるカメラだろう。

 今後、HDVカメラの注目ポイントは2つある。一つはFX1の上、かつてVX2000の業務用機としてPD-150がデビューしたように、プロ用モデルが出るという話の真偽。すでに海外サイトでは、すっぱ抜かれたりしているようである。そしてもう一つは、小型普及モデルへの展開はいつ頃、どういった形で行なわれるのか、というところだ。HDV規格中心4社の中で鳴りを潜めているキヤノンとシャープがどう出るのかも、気になるところだ。

 少なくともHDVという規格の可能性は、今回のFX1の発売を以てあるレベルの成果が出たということになる。編集ソリューションなどに課題は残るが、既に規格協賛メーカーは32社に登る。今後ハイエンドコンシューマのビデオカメラ周りは、HDVを中心に回っていくことになるだろう。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200409/09-0907/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/handycam/PRODUCTS/HDR-FX1/index.html
□関連記事
【9月7日】ソニー、民生用初の1080i対応HDVカメラを10月に商品化
-PC編集用プラグインもアドビなどから提供予定
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040907/sony1.htm

(2004年10月27日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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