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“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第176回:もう一段賢くなった今度のスゴ録「RDR-HX90」
~ 自動録画/自動番組追跡/自動NR調整の自動三昧 ~


■ 自動に活路を見いだす?

 AV機器に関して言えば、日本は世界から見てかなり特殊な市場である。欧米、特に米国のユーザーが、低価格&イージーユースを主眼に置いているのに対し、国内には高機能・新機能を搭載した先物買いを好むユーザーが多い。むろん欧米にもそのようなユーザーはゼロではないが、人口比率からすれば圧倒的に、日本人は新しもの好きの民族なのだと思う。

 そのリーダー層のあとに、ファミリー層が続く。そしてメーカーは、圧倒的に台数が出るファミリー層に火が点いたとき、ようやく黒字転換を果たすことになる。後発で参入してもなかなかシェアと取れない市場構造というのは、こういったリーダー層の動向がファミリー層を先導しているからだという見方もできる。

 周回遅れを自認しながら、昨年末にハイブリッドレコーダ市場に参入したソニーの「スゴ録」だが、一躍シェア争いに参加するまでの存在に成長した。もともとブランド力があることに加えて、「おまかせ・まる録」のような自動で何かさせるという方法論は、マニアックでもあり、その反面簡単に使いたければ全部おまかせでいい。リーダー層、ファミリー層両方にアピールする作りという点は、マーケティング的に見てもなかなか面白い。

 さて、この秋モデルの「スゴ録」だが、この「自動で何かする」という部分に差別化の方向性を見いだしたようだ。自動録画の「おまかせ・まる録」をはじめ、「番組追跡録画」など、自分で考えてくれる機能が満載である。

 今回のElectric Zooma! は、11月から発売される250GB HDD搭載の「RDR-HX90」(以下HX90)を取り上げる。遅れて発売される最上位モデルのHX100とはHDD容量が違う(400GB)だけなので、機能的には最上位機種と同等だ。

 今度の新スゴ録はどう賢いのか。さっそくテストしてみよう。



■ シンプルで安心できるデザイン

 ではいつものように外観からだ。フロントパネルは前モデルのイメージを継承しながらも、本体が薄く見える工夫が成されている。実際に比較すると、1cmほど薄いだけなのだが、見た目はそれ以上。前モデルでは右側の十字キー部分に大きな円をイメージさせる作りだったが、今回はその部分を録画・再生ボタンで埋め、楕円の中に入れたことで、より平たい印象を与えるのだろう。

シンプルで透明感のあるフロントパネル パネル右のアクセントを楕円にして、より薄くなった印象を持たせる

 フロントパネルの素材は樹脂製だが、手触りが滑らかで光沢感が強い。おそらく表面に薄いアクリル膜を形成する、特殊素材を使用していると思われる。不透明なのだが、なぜか透明感を感じさせる不思議な素材感は、かつてのCoCoonに通じるものがある。センターのアクリルも両脇に丸みを持たせ、電源ボタンやイジェクトボタンなども丸く、全体的に柔らかなイメージを与えている。

 中央部のドライブベゼルは可能な限り薄く仕上げており、スマートだ。搭載ドライブはDVD±R/RWで、±R 8倍速、±RW 4倍速。DVD+R DLは、再生のみ対応している。DVD関連でこの秋の目玉はCPRM対応DVD-Rだが、本機は残念ながらこれには対応していない。したがってデジタル放送対応の録画メディアは、DVD-RWだけということになる。

ドライブベゼルも薄く仕上げている 下部パネル内は、操作ボタン類が充実

 下部のパネルを開けると、意外にボタン類が豊富だ。チャンネルや入力切り替え、十字キーやツール、システムメニューなど、本体だけでも全部の操作ができる。コストダウンが著しいレコーダ業界においては、ここまで充実した本体ボタンはもはや珍しい存在だ。

 端子類もかなり充実している。地上波とBSアナログのアンテナ端子類、通常のAV入力3系統、出力2系統、DV端子もある。出力はそのほかに、D1/2端子とコンポーネント端子まで揃っている。デジタルの音声は、同軸と光デジタルの両方を装備。さらにHDMI端子まである。

アナログ入出力に加え、HDMI端子まで装備する D端子のほか、コンポーネント出力も装備

 一応HDMIについて簡単に説明しておくと、映像と音声を1本でデジタル伝送できる規格で、すでに米国ではテレビを中心に普及が始まっている。日本ではアナログのD端子が先に普及してしまったため出遅れたが、プロジェクタやDVDプレーヤーなどで、徐々に採用製品が増えてきている。レコーダに搭載された例はまだ珍しく、今のところ今回のHX90、HX100と、パイオニアの新モデル「DVR-920H-S」ぐらいではないか。

 なお本機は、SDの映像をHD解像度にアップコンバートして出力する機能を装備しているが、それを利用するには必然的にHDMI端子を使うことになる。

十字キー周りが改良された新リモコン

 リモコンも見てみよう。基本的なテイストは前モデルと似ているものの、ボタンの配置や形状が若干改良されている。頻繁に使用する十字キー周りとその上の3ボタンは、グレーに色分けすることで強調されている。

 決定ボタンは従来の凹み系ではなく、周囲から盛り上がって押しやすくなった。十字ボタンもそれぞれが小さくなり、近接するボタンと離れて誤操作を防止している。操作上の一等地である周囲の4ボタンも、以前はズームとかカーソルモードとかめったに使わない機能がアサインされていたが、今回は使用頻度の高い機能がアサインされた。2世代目にして既にユーザーのフィードバックが反映されて来たということだろう。

 10キー部は、新たに12チャンネル分のボタンとなった。ここでダイレクトにレコーダのチャンネルが変えられる。また文字入力の便宜を図るため、ケータイのような10キー文字入力方式に対応した。

 下部のカバーをスライドさせると、録画やチャプター書き込み、画面表示といったボタンが出てくる。以前は画面表示ボタンは表に出ていたのだが、あまり使われていないと判断されたのだろう。



■ 改良点の多いソフトウェア

ブルーをベースにした新デザインを採用

 続いて中身のほうを見ていこう。GUIのイメージは、前作まではグレー地にオレンジのハイライトであったのに対し、今回はブルー地にオレンジのハイライトとなった。

 機能的に注目されるのは、やはりおまかせ・まる録機能がどう進化したのかというところだ。おまかせ設定は10個まで設定でき、それが画面に一覧で表示される。おまかせで録画する番組がかち合ったときの優先順位は、この一覧の並び順で制御する。

おまかせ設定は10個まで可能 並び順を変えて優先順位を指定する

 おまかせの各設定も若干改良されており、従来はキーワード3にジャンルが2だったのが、今回はジャンル1にキーワードが4というバランスになった。

条件設定の項目も見直された サブジャンルまで細かく指定できる

 ジャンルは、ドラマやスポーツといった大ジャンルの下に、サブジャンルまで指定できるようになっているため、より細かい嗜好に合わせられる。スポーツでも野球しか見ない、といった設定は、キーワードを設定するまでもなく、ジャンル選択だけで可能だ。またそれぞれの条件で録画する画質も指定できるほか、番組は探すけど実際には録画しないという設定もできる。いわゆる番組検索のプリセットとしての機能も併せ持つようになったわけだ。

 だが相変わらずキーワードのNOT、つまり除外設定ができない。例えば「スペシャル」で特番を探す条件設定をしたくても、番組名にスペシャルが付いている番組、例えば「NHKスペシャル」や「土曜スペシャル」などが毎回録画されてしまう。これなどは除外設定があれば、解決できる問題だ。

画面での文字入力も、ケータイ方式になった

 キーワードなど文字の入力方法は、全面的にケータイ方式になった。リモコンの数字キーで入力できることは既に述べたが、画面上でも50音表ではなく、ケータイスタイルだ。

 おまかせで録画された番組が気に入ったときには、毎週予約したくなることだろう。録画番組が一覧表示される「タイトルリスト」では、その番組を次回から録画するという設定が可能になった。今回のスゴ録の場合、このおまかせ機能まわりを上手く使いこなせるかどうかがポイントになるようだ。

 賢い予約録画を実現するのに欠かせないのが、新搭載の「番組追跡録画」だ。例えば野球延長のようなイレギュラーなケースではなく、深夜枠では最初っから局の番組編成の都合で、放送時間が毎週毎週少しずつズレている番組がある。こういうものは、予約録画ではいつも5分10分アタマが欠けてたりオシリが欠けてたりするのだ。だがこういう番組の予約時間を、「番組追跡アルゴリズム」を使って、自動的に補正してくれるのである。

 しかしまたこのEPGの番組名というのもまたクセモノで、短い番組はその日によってすンごい適当に省略されたりする。せっかくの追従機能も、番組名が変わってしまっては意味がないのだが、それもこの「番組追跡アルゴリズム」では、類推して追従してくれる。やるなスゴ録。

 もちろんスポーツ延長は別途設定があり、30分から120分までの自動延長録画が可能だ。これも従来は野球とサッカーに続く番組のみが対象となっていたが、今回からスポーツ番組全般に拡大されている。

おまかせで録画された番組から、次回予約設定ができる セットアップ内にスポーツ延長対応の設定がある


■ ハードウェアはLSIに注目

 予約関係だけでも改良点は多いのだが、ハードウェアの動作にも注目してみよう。まず録画モードだが、新たに2つもモードが追加されたため、これがまたエライ数に増えた。常時8段階である。HQモードは、セットアップメニューで15MbpsのHQ+にも変更できるので、それも含めると9つとなる。参考までに、各画質のサンプルを掲載しておく。

動画サンプル
画質モード
(★が新モード)
HDD録画時間 DVD1枚当たりの
録画時間
サンプル
HQ+ 約34時間 - -
HQ 約53時間 約1時間
hq.mpg
(26.4MB)
HSP 約81時間 約1.5時間
hsp.mpg
(16MB)
SP 約107時間 約2時間
sp.mpg
(10.7MB)
LSP★ 約135時間 約2.5時間
lsp.mpg
(8MB)
LP 約164時間 約3時間
lp.mpg
(8MB)
EP 約217時間 約4時間
ep.mpg
(6.55MB)
SLP 約325時間 約6時間
slp.mpg
(4.24MB)
SEP★ 約428時間 約8時間
sep.mpg
(3.43MB)
編集部注:DVデッキ「WV-DR5」で再生したCREATVECAST Professionalの映像を、RF入力経由でHDDに録画し、DVD-Rメディアに記録した。ゴーストリダクションは「入」、録画DNRは「1」に設定。掲載した静止画はすべて800×600ドットで表示したものをキャプチャしている(c)CREATIVECAST

再エンコードダビングの動画サンプル
画質モード サンプル
HQ+ → HQ
hqp_hq.mpg
(27MB)
HQ+ → EP
hqp_ep.mpg
(6.81MB)
編集部注:DVデッキ「WV-DR5」で再生したCREATVECAST Professionalの映像を、RF入力経由でHDDに録画し、DVD-Rメディアに記録した。ゴーストリダクションは「入」、録画DNRは「1」に設定。掲載した静止画はすべて800×600ドットで表示したものをキャプチャしている(c)CREATIVECAST

 スゴ録には、マニュアル設定やピッタリ録画のFRモードなどがないため、モードを細かくするほど、DVDメディア1枚に収めるときの効率がよくなる。だが常時8段階はいくらなんでもやりすぎだろう。パッと名前だけ見ても、LSPとSLPとどっちが高画質だかさっぱりわからない。ここまでになるとモード名は略号ではなく、画質順位がはっきりわかるように、ビットレートのような数値にすべきだ。

 ハードウェア側のアプローチとしては、別のニュースから探ってみるのも面白い。9月16日発表のMPEGコーデックLSIには、スゴ録に搭載された数々の機能が集約されている。

 記事を読んで頂ければおわかりのように、録画再生時に自動で最適なNRを適用する「スゴロジック」は、このLSIに内蔵されているというわけだ。多くの機能を1チップ化する恩恵は、実はユーザー側にもある。1チップならば機能がバラ売りできないので、下位モデルにももれなく同じ機能が載ってくるからだ。

 このLSIで提供される機能の一つ「特徴点検出機能」は、自動チャプタ分割に威力を発揮する。例えば多くのレコーダでは、音声モードに切り替わりポイントのみでチャプタを打っているわけだが、それだと音声モードが切り替わらない番組では役に立たない。

不要なチャプタを指定して一気に削除できる「チャプタ選択消去」

 だがこの機能では、画面の輝度変化も見ているので、CM入りで黒にフェードアウトしたり、CM明けで黒からフェードインする番組にも有効。もっともバラエティ番組などでは、かなり大量にチャプタが打たれてしまうが、新搭載の「チャプタ選択消去」を使って効率的なCMカット編集ができる。

 この機能では、サムネイルで表示されている不要なチャプタを選んで削除するわけだが、サムネイルを選択した時点で映像が飛び飛びに再生される。そのサムネイルがCMなのか番組なのか、だいたい内容がわかるわけだ。

 不要なチャプタを複数選択して「確定」するだけで、一度にCMカット編集ができる。多くの場合、それでは数フレームCMが残ったりもするおおざっぱな編集にしかならないが、細かく綺麗にやりたいというキチント星からやってきたキチント星人な人は、そこからさらに「A-B間消去」で編集することもできる。

プレイリストも作成できるようになった

 もともとチャプタポイントで編集したファイルなので、A-B間消去作業中でも、チャプタスキップボタンで編集点近くへ一気にジャンプできる。効率的なCMカットには、強力な武器となるだろう。

 編集という意味では、今回からHDD内でプレイリスト編集も可能になっている。ただしこれは、1本の番組からのCMカットするような使い方には向かない。というのも、切り出し方法がA-B間選択しかないばかりか、1ブロック抜き出しても、次のブロックの抜き出しはまた番組の選択からやり直しになるからだ。

 これはどちらかというと、1つの番組に対する細かい編集ではなく、複数の番組をまとめてDVDに書き出したりするためのもの、という位置付けなのかもしれない。



■ 総論

 ソニーは昔から、人間の行動や思考パターンを積極的に製品作りに反映させてきたこともあって、いろんな状況の変化に対して自動で追従していくという部分に差別化を求めたのは、なかなか面白い着眼点だ。CoCoonのようにユーザーの嗜好を学習するわけではないが、とりあえずキーワードにしたがってどんどん録って勝手に消していく、予約したものは絶対に取りこぼさない、というところまでやってくれるようになった。細かいことはすべておまかせで、ものぐさにただ楽しみたいタイプの人には、楽ちんなマシンだろう。

 画質の面でも、他社のフラッグシップのような華々しいアピールは行なっていないが、NRを自動追従させる「スゴロジック」で地道にレベルアップを果たしている。HDMIのいち早い採用も、画質面でのアドバンテージに加えていいだろう。

録画された番組一覧は、並び順が制御できるだけ

 気になったのは、大量に自動録画するわりには、録った番組の検索性があまり良くないことだ。今のところ、予約したものと一緒くたに表示されるだけである。例えばどの番組が、どのおまかせ設定で録られたものなのかの関係もよくわからないし、ジャンルごとの振り分けもない。

 もう一つ惜しいのは、国内では唯一DVD+R/RWをサポートするレコーダメーカーなのに、それを採用しているメリットが今ひとつ感じられないところだ。+RW陣営の著作権保護技術であるVCPSは、放送波にフラグを入れる必要があるので、すぐに対応は難しいのはわかる。だがDVD+R DL記録ぐらいのアドバンテージは欲しかった。そう言う意味では、ほかにもDLNAやDVD-R CPRM対応など、技術的に積み残した課題も少なくない。

 従来のデジタルレコーダが持つレガシーな問題を、自動アルゴリズムで解決してみせた技術力は、高く評価されるべきだろう。だがその反面、ソニーらしい新しい生活提案のような部分があまり感じられないのは残念だ。

 とんがった部分は他の部門に任せ、マニア層ではなくファミリー層にターゲットを絞ったスゴ録は、今やソニーの稼ぎ頭への道を歩み始めたと言えるのかもしれない。

□ソニーのホームページ
http://www.sony.co.jp/
□ニュースリリース
http://www.sony.jp/CorporateCruise/Press/200409/09-0915/
□製品情報
http://www.sony.jp/products/Consumer/dvdrecorder/
□関連記事
【9月15日】ソニー、HDMI出力を搭載した「スゴ録」
-ムーブに対応。「おまかせ・まる録」機能も強化
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040915/sony1.htm
【2003年12月10日】名機となるか!? 「スゴ録 RDR-HX10」
~ソニー入魂の「後出しジャンケン」~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20031210/zooma136.htm

(2004年10月20日)


= 小寺信良 =  テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「ややこしい話を簡単に、簡単な話をそのままに」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンピュータのフィールドで幅広く執筆を行なう。性格は温厚かつ粘着質で、日常会話では主にボケ役。

[Reported by 小寺信良]



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