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第44回:日本メーカー6社「3LCDグループ」結成
「1DLPに勝つ。我々は挑戦を受けて立つ」と勝利宣言


■ 3LCDグループ発足。日本メーカー6社が結束してDLPに挑む

3LCDグループ立ち上げを表明したしたエプソン・アメリカ社長兼CEOのJohn Lang氏。3LCDのチェアマンも兼任する LVCCのSouth Hallの壁に大きく掲げられた3LCDロゴ。その本気ぶりが伺える

 北米時間1月7日、3板式透過型液晶システムを推進する「3LCDグループ」はInternational CESで、フロント投射およびリア投射のプロジェクション方式の映像エンジンとして最も優れているのは「3LCD」(3板式透過型液晶システム)であるということを広く積極的にアピールしていく方針を表明した。「3LCDは1DLPに勝つ。我々は挑戦を受けて立つ(3LCD Color Beats 1DLP. I took the Challenge!)」と、かなりアグレッシブだ。

 3LCDグループは、エプソンの呼びかけで集まった富士通、日立、松下、三洋、ソニーの6社からなる。いずれも、3枚の透過型液晶パネルを使った映像エンジンを搭載する映像機器を製造販売しているメーカーだ。なお、3LCDグループは、次世代のディスプレイデバイスを研究開発する新しい合弁会社でもなければ、新しい規格の名前でもない。そもそも3LCDというキーワード自体には斬新な技術が込められてもいない。

 3LCDグループはあくまで「3LCDはいいものだ」というブランドイメージ向上のために発足した組織であり、それ以上でもそれ以下でもない。今後、3LCDグループの加入メンバから発売される映像機器で3板式透過型液晶方式の映像エンジンを採用する製品には「3LCD」のロゴが製品に付加されるようになる。

3LCDグループ参加企業。PanasonicはDLP事業にも注力していたりする

 3LCDという仕組みが、今となっては新しい技術ではないのになぜこのタイミングでわざわざ、大手家電メーカーが結束してまでブランドイメージ向上に乗り出すのか。それには、米TEXAS Instruments(TI)が作りだしたDLP技術の存在がある。

 TIの努力の甲斐あってか、フルデジタルなDLP方式は一般消費者に広く認知され、「3板式液晶よりもよい」というイメージが浸透し始めてしまった。3LCDグループは、これへの対抗の意味合いがある。

日本でも知名度の高くなったエプソンが出した3LCD方式のリアプロTV「リビングステーション」シリーズ エプソン製品だけでなく、今後は、3LCDグループ参加企業の全ての3LCDシステム採用製品にこのロゴが付く


■ DLPと3LCD、それぞれの動作概念

DLP動作概念図(TI提供)

 今更だが、DLPと3LCDの両方式の動作原理を簡単に整理すると、DLPはDigital Light Processingの略で、TIが独自開発し独占製造するDMD(Digital Micromirror Device)と呼ばれる画素サイズの鏡が映像解像度分にマトリクス配列され極小映像デバイス(Microdisplay Device)を駆動して映像を作り出す仕組みのこと。

 光源からの光を、各画素が、投射方向に反射するか、あるいは反射しないかで明暗を作り出す。反射すれば全白、反射しなければ全黒であり、この明滅を単位時間でどのくらいの頻度で行うかで階調を作り出す。この明滅による階調表現をRGB(赤、緑、青)の三原色分行えばフルカラーの表現が行える。これがDLPの動作概念だ。

単板式(1チップ方式)DLP動作概念図(TI提供)

 本来ならば、このRGB三原色の階調表現は3枚のDMDチップに赤、緑、青の光をそれぞれ当てて作り出し、最終的な映像をプリズム合成して出力するのが順当なはず。

 しかし、DMDチップの動作速度が世代を経ることに向上したため、'90年代後半からは1枚のDMDチップにこれまた時分割で赤、緑、青の光を当てることでフルカラーの表現を行なう単板式が台頭することになる。

 映像エンジンとなる映像素子を1枚しか使わないため、大幅なコスト安を実現できるようになった。これがDLPのシェア拡大の速度を増長することになった。

 一方、3板式透過型液晶の仕組みでは各画素が8bit/256階調(ハイエンドでは12bit/4096階調表現)が可能な極小サイズのモノクロ液晶パネルを3枚使う。RGBの三原色光を対応するそれぞれのパネルへ透過させて赤、緑、青の3枚分のモノクロ階調の映像を作り出し、これらを最終的にプリズム合成しフルカラー表現の映像として出力する。

 液晶では、液晶素子の旋光性を利用して光の透過割合をいわばアナログ的に制御するものだ。これに対しTIはDLPを「世界で唯一のフルデジタルプロセスによる映像デバイス」としてブランディングを行なってきた。

 3LCDグループの中核メンバーであるEPSONアメリカ幹部の一人は「当初は、DLPとLCDの双方で、フロントプロジェクタやリアプロジェクションテレビといった投射式映像機器の市場が開拓されて、裾野が広がればいいなと思っていたが、今ではDLPの進出が著しく、うかうかしていられなくなった」と語っていた。

3板式透過型液晶システム(3LCD)の動作概念図 3LCDシステムの映像エンジンの模式模型


■ 3LCDこそフルカラーを最も美しく表現できる唯一の方法

大盛況だった「3LCD対1DLPの徹底比較コーナー」。いかに3LCDが素晴らしくて1DLPがダメかという過激な内容

 単板式(1チップ)DLP(以下1DLP)は、確かに、価格が安い割には高画質というコストパフォーマンスの高さと「フルデジタル」というキーワードの魔力はあるのだが、弱点も多い。  3LCDグループは、ここを攻め立てて、3LCDの優位性をアピールし、3LCDのシェア獲得の巻き返しに期待する。  まず、3LCDグループが攻め立てるのは、1DLPの原理的な弱点であるカラーブレーキング現象や、レインボー視覚現象だ。

 時間積分式に階調表現を行なう1DLPでは、大画面に投射された映像を見つつ視線を移動させると、正しく視覚情報として色が知覚されず、色がざわついて見えたり、正しい色として知覚できない現象が発生する。これがカラーブレーキング(色破壊)現象である。

「3LCDではカラーブレーキングやレインボー視覚現象は起こらない」を強調 右が3LCD、左が1DLP。DLPの方は薄い残像が見えてしまう。写真では黄色いが実際にはRGBが分解した虹のように見える。これがレインボー視覚現象

 また1DLPでは、回転するカラーフィルタを使ってRGB三原色のそれぞれの階調表現までを時分割表現としているため、動きの速い映像を視線で追いかけると、カラーフィルタの動きそのものが視覚され、これがRGBの各フレームがぶれた残像として視覚される事がある。これがレインボー視覚現象だ。

 3LCDでは色表現に時分割を使わないため、カラーブレーキングは起こらないし、フルカラーも時分割ではなく3枚の液晶パネルから出力されたRGB階調フレームをプリズム合成するため、レインボー視覚現象も原理上起こりえない。

 3LCDグループはこれらを受けて、「3LCDこそがフルカラー表現を最も美しく表現できる唯一の方法」としてアピールする。3LCDグループの中核メンバーであるEPSONのブースでは、大胆にも、3LCDのリアプロTVと1DLPのリアプロTVを隣り合わせに置き、「いかに3LCDの方が美しく見えるか」→「いかに1DLPの映像がひどく見えるか」というデモンストレーションを大々的に展開。比較PRが常套手段となっている米国ならではの見せ方だ。

左が1DLP、右が3LCD。豊かな色再現性は3LCDの方が優秀という内容。「どっちの花が欲しくなりますか。どっちのリンゴがおいしそうですか」
左が3LCD、右が1DLP。暗部階調表現の優劣の比較。時分割で階調を作り出す1DLPでは暗部階調がどうしても死んでしまいがちになる


■ 透過型液晶の弱点はどうやって克服するのか

3LCDグループは展示ブースも出典。各社の3LCDシステムがここに集結した

 もちろん、DLPの方が優れている部分もある。それは「1.コントラスト性能」と「2.画素間ギャップの少なさ」だ。まずは1.については、黒表現においても常に光を透過させる透過型液晶システムでは原理上どうしても黒が明るくなりがちになる。DLPの黒は光を投射レンズ方向に向けないことで表現できるので、黒が暗くなる(実際にはエンジン内迷光が投射軸にもやってくるので完全な漆黒にはならない)。黒が黒ければハイコントラストに結びつくので、DLPは有利。

 この点について3LCDグループは「最新世代の3LCDシステムでは6,000:1のハイコントラスト性能を達成しているため1DLPに劣らない」と強調する。とはいえ、この6,000:1という値はランプ光の動的制御によって稼がれた数字であり、ネイティヴなコントラストは1,000:1~2,000:1であり、DLPにはやや及ばないまま。

 2.の画素間ギャップとは、画素と画素の隙間のこと。透過型液晶パネルの画素とは、つまりは液晶物質が封じ込められた小部屋(セル)のことであり、ここに電圧をかけることで液晶物質の配列を制御し、光がどのくらい透過できるかをコントロールする。この制御を行なうためのTFT回路が小部屋の周辺を取り囲んでいるが、ここは光を通さないため、1つ1つの画素を取り囲む黒い影となって投射されてしまう。

 DLPのDMDでは、画素サイズの鏡を制御するための回路は画素鏡の下にあるため、この画素間ギャップが投射されることはない。投写型映像システムにおける映像素子において、画素面積とこの画素を取り巻く隙間(影)の面積比を「開口率」として数値として表すが、上のような理由から、DLPは開口率90%以上なのに対し、3LCDは50%~60%程度になってしまう。それだけ3LCDの画素間ギャップは大きいのである。

 これについて3LCDグループ関係者は「1,920×1,080ドットのフルHD解像度においては、現実的な画面サイズに投射した場合、画素間ギャップは気にならない。一つはあまりにも画素が高密度に配置されるため。もう一つは、ランプ技術、光学系技術の向上で、1画素あたりの光パワーが十分であるため」と説明する。

 実際、3LCDグループブースに展示されていた1,920×1,080ドットのフルHDリアプロ試作機や、同じくフルHDのフロントプロジェクタ、富士通ゼネラル「LPF-D711」では、100インチ程度の大きさでも1mも離れて見れば、確かに画素間ギャップはほとんど視覚されない。

エプソンが開発中の次世代リビングステーションの試作機。1,920×1,080ドットフルHD解像度のD5世代の透過型液晶パネルをエンジンに採用 圧倒的な解像感はさすがはフルHDといったところ。自然なアナログ的な階調表現も美しい

 ちなみに、現在、エプソンの1080pフルHD解像度の透過型液晶パネルは1.3インチのD4世代で開口率は約58%。最新の0.9インチのD5世代で開口率は約51%にまで落ち込んでしまっている。フルHDリアプロ試作機には0.9インチD5が、LPF-D711には1.3インチD4が採用されている。

 100インチ以上の大画面投影が前提となるフロントプロジェクタでは開口率重視の大きいパネルが利用され、画面サイズが50~70インチ程度のリアプロTV用には開口率が多少低くても目立たないので、それよりはパネル単価の安さを重視した小型パネルが選択されている。このように、今後は、用途別のパネル選択が重要になっていくものと思われる。

 つまり、画素間ギャップも根本的な解決をみるワケではないが、製品種別ごとに必要十分な開口率の者を提供していくことで対応するということだ。

富士通ゼネラル「LPF-D711」。民生向けとしては現在唯一のフルHD解像度対応の透過型液晶プロジェクタ。業務用は三洋より、すでに2003年に「PLV-HD10」が発売済み 接写写真。たしかに画素間ギャップはほとんど気にならない

MPEGノイズ低減ロジックの効果も大きいと思われるがとにかくフルHDの解像感がすばらしい。3LCDならではの暗部階調表現の優秀さも際立つ


■ フルHD解像度の3LCDシステム採用製品は近い将来50万円以下に!

セイコーエプソン代表取締役副社長、花岡清二氏 胸には「3LCDは1DLPに勝つ。我々は挑戦を受けて立つ」と書かれたバッジ
 3LCDグループは、今回の発表で「3LCDシステムは、1080pのフルHD解像度を世界で初めて実現した映像エンジンである。今後、フルHD解像度を満たす映像素子として、早いペースでの普及を目指す」とした。

 具体的にこれはどのようなプランになっているのだろうか。前出のフロントプロジェクタLPF-D711は2,415,000円という高額商品であり、試作機のフルHDリアプロTVに至っては、価格どころか発売時期も未定となっている。これでは、既に具体的な、フルHD対応の製品投入プランが明確となっているDLP陣営に対して後れを取ることにならないのか。

 3LCDの記者会見では、これについての具体的かつ明快な情報開示はなかったが、取材したところでは、3LCDグループに参加している6社ではフロントプロジェクタでもリアプロTVでも、最終製品価格で50万を切ることを目標にしたいと考えているようだ。

エプソンが製造する透過型液晶パネル。今年はついに1,920×1,080ドットのフルHD対応パネルが本格量産される
 パネルメーカーのエプソンとしては、2005年はフルHD解像度のパネル生産をかなり本腰を入れて行なう方針のようだ。なお、関係者によれば、フロントプロジェクタ製品もリアプロTV製品も、3LCDグループ企業にて実際の開発プロジェクトが動いており、年内に確実に発表されるとのこと。非常に楽しみだ。

 フルHDといえば、SXRDという名称を付けたLCOS(Liquid Crystal on Silicon;反射型液晶)を自社で手がけているソニーはどうなのか。3LCDグループにも属しているソニーは今後どういう方針をとるのか。これについては、今回の3LCDグループ加盟とは無関係に、透過型液晶と反射型液晶の両方を今後も手がけ、SXRDの先進性も強く訴えていくとのことだ。

 フルHD解像度の映像素子という点では、当面は反射型液晶のSXRDをハイエンド展開、透過型液晶はメインストリーム向けという図式になるが、ソニーとしては自社技術であるSXRDを最終的には全レンジで採用する方向。

 DLPも手がける松下は、これまでは基本的にDLPは業務用、3LCDは民生向けという方針だったが、今年は民生向けの1DLP方式のリアプロTV製品も投入する。このため、3LCDグループの中では少々混沌とした立場を取ることになる。

松下は、今回のInternational CESで、フルHD解像度に対応する1DLP方式のリアプロTV「PT-56DLX75」を発表した その一方、同時に3LCDシステムでフルHD解像度に対応するリアプロTV「PT-61LCX85」も発表した


□2005 International CESのホームページ
http://www.cesweb.org/
□ニュースリリース
http://www.epson.co.jp/osirase/2005/050108.htm
□関連記事
【2005 International CES レポートリンク集】
http://av.watch.impress.co.jp/docs/link/ces2005.htm

(2005年1月9日)

[Reported by トライゼット西川善司]


= 西川善司 =  遊びに行った先の友人宅のテレビですら調整し始めるほどの真性の大画面マニア。映画DVDのタイトル所持数は500を超えるほどの映画マニアでもある。現在愛用のプロジェクタはビクターDLA-G10と東芝TDP-MT8J。夢は三板式DLPの導入。
 本誌ではInternational CES 2004をレポート。渡米のたびに米国盤DVDを大量に買い込むことが習慣化している。僚誌「GAME Watch」でもPCゲーム、3Dグラフィックス、海外イベントを中心にレポートしている。

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