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第176回:MP3のサラウンドフォーマット「MP3 Surround」
〜 手軽に作成でき、通常のMP3との互換性も保つ 〜



 もう2カ月近く前の話になるが、2004年の12月2日にMP3の開発元である独Fraunhofer仏Thomsonが、半導体プロバイダの米Agere Systemsと共同でMP3のサラウンド用フォーマット「MP3 Surround」を発表した。

 このフォーマット。誰が何のために使うのか? 実際に普及するものなのか? など、わからないことばかり。発表と同時にエンコーダとプレーヤーの評価版がWeb上で公開されたので、今回はこれがどんなものかチェックしてみたい。


■ マルチチャンネル対応のMP3ファイル

 MP3 Surroundはその名前からもわかるとおり、MP3フォーマットを、2chステレオからサラウンドに拡張したもの。仕様上は7.1chなどの多チャンネル化も可能らしいが、現在Webで公開されているのは5.1chに限定された評価版となっている。

 コンセプトとしてはMicrosoftのWindows Media Audio Professionalと同様で、MP3フォーマットを使ったサラウンド音楽配信などを狙っているのだろう。ただ、先行するWMAサラウンドでも、MicrosoftのWebサイトでデモ版が公開されている以外、あまりお目にかかったことがない。一応、対応したコンテンツもあるが、まだまだ利用者が少なく、本格的に普及していくためにはかなりの時間がかかりそうだ。

 そんな中に登場したMP3 Surroundも何か大きな目玉があるわけではないため、なかなか厳しい展開にはなりそうだが、その実力を見極めるためにも、とりあえず使ってみた。

 評価版はFraunhoferのサイトへ行けば誰でも簡単にダウンロードできる。ダウンロードするインストーラのサイズは4.81MBなので、それほど大掛かりなプログラムではなさそう。実際にWindows環境にインストールしてみると、4つのコンポーネントが含まれていることがわかる。エンコーダ、デコーダ、開発キット、オマケ(Goodies)だ。

 だいたい想像通りだが、エンコーダはサラウンド対応のMP3ファイルに作るためのソフト、デコーダはエンコーダで作ったMP3ファイルを再生するためのプレーヤー、開発キットは、そのプレイヤーを作るためのC言語のソースプログラムとmakeファイルなど。オマケはWinAmp用のプラグインとなっている。

エンコーダ、デコーダ、開発キット、WinAmp用のプラグインがインストールされる


■ シンプルなソフトウェアだが、問題発生

このウインドウにマルチチャンネルのWAVファイルをドロップする

 さっそく使ってみよう。エンコーダを起動すると、なんともシンプルなウインドウが現れる。「ここにファイルをドロップせよ」といっているだけだ。しかし、何をドロップすればいいのかよくわからない。readmeを読んでみると、「5.1chのWAVファイルで、44.1kHzか48kHzで、16bitか24bitのデータ」とある。

 確かに現在のWAVファイルには5.1ch音声の規格があるが、そんなファイルは普通手元にあるはずもなく、5.1chが扱えるツールそのものがほとんどない。が、以前扱ったデジオンの「DigiOnSound4 Professional」なら扱えたはず。これをインストールしてサラウンドデータを作成。「書き出し」を押すと、確かにWAVファイルでの保存ができるので、これで5.1chのWAVファイルを作成してみた。ファイルのプロパティを見ると、確かに、6chとなっているのがわかる。

デジオンの「DigiOnSound4 Professional」で5.1chの音源を作成。WAVフォーマットで書き出す

6chのWAVファイルが作成できた

 これで準備完了。このファイルをMP3 Surround Encoderへドラッグ&ドロップしてみると、保存先を聞かれる。適当に指定してOKを押すと、MP3 Surround Encoderがアニメーションでブルブルと震えて終了。これでファイルができたかなと思って見てみたが、どこにもファイルは見当たらず、エラーメッセージも表示ない。メニュー項目がないので、とりあえず画面上で右クリックするといくつかの項目が現れたが、レポート表示などもないし、設定項目も何もない。Aboutで著作権表示がされる程度で、本当に単機能なソフトのようだ。

シンプルなメニュー

著作権表示が出てくる程度

 「これはダメかな」と諦めかけたが、日本語の2バイトコードが通っていないのかなと考え、デスクトップにあった音楽ファイルをCドライブのルートに置いて試したところ、エンコーダのアニメーションが動き出し、しらばくしてファイルが作成された。なんとかうまくいった。

エンコードが開始された

エンコードが無事完了したと表示が出る

プレーヤーもシンプル

 次に再生だが、先ほどのreadmeによれば、5.1ch以上のディスクリート出力ができるサウンドカードが必要とある。ちょうど先週扱ったEGO Systemsの「Prodigy 192 LT」が手元にあったため、これを設定した上で、デコーダを起動した。こちらもシンプルソフトで何の設定項目もないのだが、作成したMP3ファイルをドラッグしてみると、無事5.1chで再生できた。

 ビットレートは5.1chトータルで192kHzとコンパクトになっている。またreadmeによれば、16bit/44.1kHzでも24bit/48kHzでもすべて192kbpsに固定されるとのことだ。

コントロールパネルの「サウンドとオーディオデバイス」の項目で指定する

 サラウンドスピーカーを接続しての再生ではなかったが、フロントの左右、リアの左右、センター、サブウーファとそれぞれの出力を確認したところ、きちんと分かれて音が出ていた。この際、オーディオインターフェイスの設定はWindowsのコントロールパネルのサウンドとオーディオデバイスで「音の再生」のところを設定していただけで、ほかはとくに設定していない。

 ただ、実際に音を聴いてみるとちょっと問題も見えてきた。最初デジオンが用意していたデモサウンドをエンコードして再生したときには気づかなかったが、ためしにフロントの左右用に1曲、リアの左右用に1曲、センターとウーファで1曲と、別々の曲を並べて1つのファイルにしたものをエンコードして再生させた。

 すると、リア左右チャンネルだけを聴いているのに、別の曲が微妙にミックスされて聴こえてくる。フロントの音やセンターの音がかぶってしまっているのだ。一般のMP3で言うところのジョイントステレオのようなことをしているためなのだろうか、明らかに影響が出ていた。

 またそのせいもあるかもしれないが、音質的にはいまひとつ。きちんとした測定はしていないが、音楽用として考えるとあまり期待できるものではなさそうである。


■ 通常のMP3フォーマットとの互換性もあり

 エンコードしたデータの拡張子はmp3となっている。そこで、Windows Media Playerで再生してみたところ、再生できたが、当然これは普通のMP3デコーダでしかないため、サラウンドでの再生ではない。フロントのスピーカーからしか音は出てこないが、ここにはすべてのチャンネルの音がミックスされていた。つまり、MP3 Surroundは普通のMP3との互換性も保っているわけだ。

 したがってMP3 Surroundは、あまり違和感なく、従来のプレイヤーで再生できる。ただし、無理やり作った先ほどのテストデータのように、各チャンネルが完全にバラバラの音が出るデータの場合は、すべてがまざってメチャメチャになってしまう。

 最後にWinAmpのプラグインは、dllファイルとなっており、WinAmp5用。MP3 Surroundの再生をWinAmpで可能にするものだ。インストール方法は、WinAmpが入っているフォルダ内にあるPluginsフォルダにコピーするだけ。後は、WinAmp5を再起動すれば、MP3 Surroundに対応したデータをサラウンドで再生できるようになる。

通常のMP3ファイルとの互換性があるため、Windows Media Playerでも再生できる

付属のプラグインを使えば、WinAmp5でもサラウンド再生が行なえる

 以上、MP3の新たなフォーマット、MP3 Surroundについて見てきた。従来のMP3と互換性を保ちながら64kbps以下に圧縮可能なmp3PROもほとんど普及が進んでいない中、MP3 Surroundとまでなると、なかなか普及は難しいだろう。とはいえ、サラウンド再生環境を整える人の数はどんどん増えているのでで、何か起爆剤となるコンテンツがあれば、ある程度は普及する可能性もある。今後どんなコンテンツやアプリケーションが登場するのか期待したい。

□Fraunhoferのホームページ
http://www.iis.fraunhofer.de/index.html
□ニュースリリース
http://www.iis.fraunhofer.de/amm/download/mp3surround/index.html
□関連記事
【2004年12月6日】Fraunhoferなど、5.1ch対応MP3「MP3 Surround」を発表
−評価版のエンコーダやプレーヤーを公開
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041206/mp3.htm

(2005年1月24日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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