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第182回:実売85,000円のフィジカルコントローラ
~ オーディオI/F機能も備えたTASCAM「FW-1082」 ~



 ムービングフェーダー付のフィジカルコントローラというと、業務用の高級機器というイメージが強いが、最近では、比較的手ごろな価格のパーソナルユースの製品も登場してきている。その中でもカタログスペックが高性能で非常に気になっていたのがTASCAMの「FW-1082」だ。

 9本のムービングフェーダーを搭載し、FireWire接続で10IN/4OUTのオーディオインターフェイスとしても利用可能なこの製品。さっそく試用して、検証した。



■ DTMでも使えるローエンドモデル

 昨年末に発売され、非常に気になっていたFW-1082。個人的にも欲しいと思い、試用したいと考えていたのだが、スケジュールの都合上、紹介するのが少し遅くなってしまった。

 以前、「FW-1884」という製品のレビューしたことがあったが、FW-1082はそのFW-1884のローエンド版という位置付けのフィジカルコントローラ兼FireWireオーディオインターフェイスだ。

 FW-1884は非常に高性能で使い勝手もいい製品だったが入力が18chあり、その分サイズが大きく、スペースのあるスタジオで使うのであればいいが、自宅のDTM用で利用するのには、やや大きすぎると思っていた。

左がFW-1082で、右がFW-1084。1082のサイズならばDTMでもなんとか使えそうだ

フェーダーは小さくなっているが、使っていて違和感を感じるほどではない」

 FW-1082では入力がアナログ8ch、デジタル2chの計10chと規模は小さくなったが、本体サイズがグッとコンパクトになった。FW-1884の外形寸法が582×481×136mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は10.3kgであったのに対し、FW-1082は486×386×83mm(同)で6.5kg。これならなんとかDTM用としても使えるサイズだろう。

 その分、フェーダーが100mmから60mmへと小さくなっているが、十分納得のいく範囲だろう。ちなみに、このフェーダーの稼動範囲を測ってみると75mmあり、使っていてそれほど小さいという印象は受けなかった。


■ 用途別に備える3つのモード

大きく分けてCOMPUTERモード、MIDIコントロールモード、MON MIX(モニターミックス)モードの3つを持っている

 できることは、ほぼFW-1884と同等だが、改めて説明しよう。大きく3つのモードを持っており、そのモードによってやや異なる動作をする。メインとなるのは「COMPUTERモード」。これはFireWireでPCと接続し、CubaseやSONAR、Logicといったソフトと連携して動作するモードだ。

 このモードではオーディオインターフェイスとして機能する一方、フィジカルコントローラとしても機能する。対応しているOSはWindows 2000/XPと、Mac OS X 10.2.8以降。このCOMPUTERモードについての詳細は後述する。

 もう一つが「MIDIコントロールモード」。これはFW-1082の操作子を使って外部のMIDI機器をコントロールするモード。このとき、2つのMIDI出力ポートからMIDIメッセージが送信されるようになっている。普段あまり使うことのないモードだとは思うが、FireWire端子のない古いPCに接続し、MIDI接続でフィジカルコントローラを使いたいといった場合に便利に使える機能だ。デフォルトで各操作子にファンクションが割り振られているが、必要あれば自分で設定することも可能。

自分で各端子の機能を割り当てるられる

 そして、3つ目が「MON MIX(モニターミックス)モード」。フィジカルコントローラとしてではなく、単体の10in 2outミキサーとして使うためのモードだ。アナログ8chとデジタル2chの入力となるが、各フェーダーはDAWのリモートコントローラとしてではなく、その計10chの入力レベルを直接設定するためのものとなる。このモードでもPCとの接続は可能だが、その場合、単にPCからの音をモニターするだけの動作となる。


■ 多機能で操作も簡単

 では、もう少し具体的にCOMPUTERモードについて見てみよう。予めドライバをインストールした上でFireWireケーブルで接続すればすぐに使える状態になる。このケーブル上にオーディオ信号およびMIDI信号が流れる。

 まず、オーディオインターフェイスとして使えることを確認するために、ASIOドライバを確認すると、10in 4outのオーディオインターフェイスとして利用できる。もちろん、バッファサイズの調整なども可能だ。ちなみに、ここで利用したソフトはFW-1082にバンドルされているCubase LEというソフト。これはCubase SX 1.0の機能縮小版で、Cubase SLよりも下の位置付けのソフトだが、とりあえず一通りのことができるDAWソフトである。

10in 4outのオーディオインターフェイスとして認識される バッファサイズの調整も可能 Cubase LE

4つモードが用意されている

 ここで、FW-1082をフィジカルコントローラとして利用するには、Cubase側でのデバイス追加が必要となる。FW-1082には以下の4つモードが用意されている。

  • FW-1082ネイティブ
  • Cubase LE
  • Mackie Controlエミュレーション
  • HUIエミュレーション

 Cubase LEで利用するためには、このCubase LEを選択した上で、Cubase側では「Mackie Controlエミュレーション」を選択しておけばいい。これだけで準備は完了。実際にこの状態でCubaseでの演奏をスタートさせると、FW-1082のフェーダーなどが自動的に動き出す。もちろん、FW-1082側からこれらフェーダーはもちろん、トランスポート関連のコントロール、EQやAUXへのセンドレベルそしてパンといったコントロールが自在に行なえる。

EQとAUXの設定はこの部分で行なう。なお、オレンジ色に光っているボタンでEQのHI、HI MID、LO MID、LOWの4バンドの切り替えが可能

 操作はマニュアルなどなくてもわかるほど簡単。強いて言えば、EQとAUXの設定方法に慣れが必要なくらいだろうか。これはまず設定したいチャンネルをSELボタンで選択し、FW-1082の中央部やや右にあるエンコーダー/クロックのセクションで、EQ/PANボタンを押す。すると上部4つのつまみが、EQのゲイン、周波数、Q、そしてパンとなる。また、その横の4つのボタンでEQのHI、HI MID、LO MID、LOWの4バンドの切り替えができるようになっている。EQ/PANボタンではなく、その右のAUX 1-4、AUX 5-8のボタンを押せばこの4つのつまみが、それぞれのAUXバスへのセンドレベルとなる。

 使い勝手は非常に快適。ドライバ側の設定を変更するのも、FW-1082にあるCONTROL PANELボタンを押せばすぐに画面が表示されるために、とても簡単だ。さらに「SoftLCD」という常駐ソフトを起動しておくと、画面下のほうにFW-1082の操作状態が表示され、その動作が逐一確認できるというのも面白いところである。

 Cubase以外でも、Mackie ControlやHUI対応のアプリケーションならどれでも利用できるが、FW-1082にはSONAR用のプラグインが入っており、これをインストールすると、SONAR3、SONAR4ですぐに使えるようになっている。この場合は、FW-1082ネイティブで動作するようになっていた。

常駐ソフトを利用すると、FW-1082の操作状態が随時確認できる SONAR3、SONAR4で利用する際はプラグインを使用し、ネイティブで動作する

 こちらも簡単に使えたが、手元にSONAR4 Producer Editionの日本語版では、シャトルキーでのトランスポートコントロールがうまく利かなかったのがちょっと気になるところではあった。



■ オーディオインターフェイスとしての実力は?

背面

 FW-1082をオーディオインターフェイスとして見ると、8inのアナログ、2inのデジタル、2outのアナログ、2outのデジタルの計10in 4outという仕様。44.1kHz、48kHz、88.2kHz、96kHzの4つのサンプリングレートに対応している。

 リアパネル端子には、アナログの8つのチャンネルそれぞれにTRSフォンの端子、そして1~4chにはXLRのマイク端子も装備されており、ファンタム電源にも対応している。これらはすべてバランス対応になっており、TRSフォンかXLRかは切り替え式、1chおよび2chにはインサーションでのエフェクトなども接続可能となっている。8chのみはスイッチ切り替えでギター用のハイインピーダンス入力にも対応している。

XLRのマイク端子も装備

 アナログ出力は、モニタ用という位置づけではあるが、TRSフォンでのバランス出力が可能となっているほか、ヘッドフォン端子も装備されている。またデジタル入出力はともにS/PIDFの同軸となっている。

 最後にいつものようにオーディオインターフェイス性能もチェックした。以前、FW-1884をチェックした際は、かなりいい結果になっていたが、それとも比較した。

 まずは48kHz/24bitで、レベル調整した後に無音状態のノイズを見てみた。若干の信号の揺れはあるものの、-90dB以内に収まっているので、かなりいい結果といえるだろう。一方サイン波を見ると、やや高域に高調波が出ているようで、S/N的にはちょっと劣る。もっともモニタ音として聴いている上で気になるような点はまったくなかった。そしてスウィープ信号結果もまずまずといった結果となっている。この結果からみる限り、FW-1884よりは少し劣るようだが、それでも十分な性能といえるだろう。

ノイズレベル 1kHzサイン波 スウィープ信号

ノイズレベル サイン波を出力 スウィープ信号を出力
※参考:FW-1884の測定結果

 また、RMAAについても48kHzと96kHzで行なった。これを見ると48kHzはいいが、96kHzはちょっと厳しいという結果。とはいえ、モニタ出力とレコーディング端子をループさせているので、仕方がないところなのかもしれない。出力性能を上げたいとか、192kHzでのレコーディングを行ないたいというのであれば、別途オーディオインターフェイスを手に入れて使ったほうがいいようだ。

48kHz 96kHz

 とはいえ、フィジカルコントローラとして非常に優秀であり、かつオーディオインターフェイスとしてもこれだけ使えるものが、実売85,000円弱で手に入るというのはユーザーにとって、素直にとても嬉しいことでだろう。

□TASCAMのホームページ
http://www.teac.co.jp/tascam/
□製品情報
http://www.teac.co.jp/tascam/products/cif/fw1082/index.html
□関連記事
【2003年9月8日】【DAL】IEEE 1394対応オーディオインターフェイス
~ フィジカルコントローラも搭載した「TASCAM FW-1884」 ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20030908/dal115.htm

(2005年3月7日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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AV Watch編集部 av-watch@impress.co.jp
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