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第181回:統合型ソフトシンセ「Reason 3.0」を試す
~ 2年半ぶりのバージョンアップで完成度が向上 ~



 統合型ソフトシンセとして大ヒットしたPropellerheadの「Reason」。そのReasonが2年半ぶりにメジャーバージョンアップし「Reason 3.0」となる。国内を含めワールドワイドでの発売は3月10日の予定だが、一足早く最終マスターバージョンが入手できたので、どんな新機能が追加されたのか、使い勝手の変化などをチェックした。



■ Reasonとは?

 Reasonは個人的にも非常に思い入れのあるソフトだ。最初のバージョンが登場したときはかなりショッキングで、ソフトでここまで面白いことができるのかと驚いた。数多くのシンセサイザモジュールを組み合わせて利用できるということもそうだが、一番の驚きは、リアパネルを表示でき、そこで自由にパッチングできてしまうという斬新さだった。

 しかも、その配線ケーブルがアニメーションによって非常にリアルに揺れることも感激を与えてくれた。その後、このアイディアはほかのソフトシンセにも大きな影響を与え、いまやReasonのようにリアルなパッチングができるのは当然の機能になってきている。

Reason リアパネルを表示させ、自由にパッチングできるのは斬新だった

 同様の統合型ソフトシンセとしてはCakewalkの「Project5」、Arturiaの「Storm」などが登場したが、Reason人気は今でも衰えていない。そのReasonは、その後2.0、2.5とバージョンアップしてきたが、2.5登場からもすでに約2年。Reasonユーザーの間では、いつ3.0が出るのかとずっと話題になっていたが、ようやく3月10日にリリースされることになった。

 新機能を紹介する前に、ごく簡単に従来の機能について触れておこう。まず、システムはバーチャルなラックの中で構成されており、このラックに数多くのソフトシンセやエフェクト、そしてミキサー、シーケンサを接続して音楽制作を行なうというもの。

 メインとなるソフトシンセには非常に数多くの種類が存在しており、具体的には「Subtractor」というアナログシンセ、「Redrum」というドラムマシン、「Dr:rex」というREXファイル対応のサンプラー、「NN-XT」および「NN-19」というサンプラー、「Malstrom」というグラニュラスシンセサイザの計6つ。それぞれまったく異なるシンセサイザであるだけに、組み合わせて使うことで、様々な曲作りができる。

Subtractor NN-19 Malstrom

 その一方で、エフェクトも数多く備えているのも特徴。リバーブ、ディレイ、コーラス、ディストーション、フェイザーなどなど。また、Reason2.5からはボコーダーやユニゾンエフェクタ、またオーディオ用およびCV/GATE用のマネージャー&スプリッタまで登場するなど、非常にバラエティーに富んだシステムだ。

ボコーダー
マネージャー&スプリッタ

 そして、これらをコントロールするシーケンサ機能、ミキサー機能なども用意されており、各モジュールを自由にパッチングできるのは前述した通り。なお、このパッチング、実際にやってみるとわかるが、単純にオーディオ信号を配線するというだけではない。CV/GATE信号を接続し、音程やエンベロープをコントロールしたりできるので、組み合わせ次第で非常にいろいろなことができる。

 もっとも、そうした知識がない人でもモジュールを追加すれば自動的に配線をして、鳴るように設定してくれるので、気負わずに使えるのもReasonが多くにユーザーに受け入れられる要因だろう。

 そして、これらシンセサイザおよびエフェクトはいくつでもマウントできるのも面白いところ。アナログシンセのSubtractorだけを10個マウントし、別々のパラメータに設定して使うだけでも1日楽しめてしまうほどだ。


■ 新音源は自分で作れる

 さて、そんなReasonが3.0になって何が変わったのだろうか。パッと見た感じでは、従来のものとそう大きく変化はしてない。確かにいくつか見慣れないモジュールはあるようだが、基本的なコンセプトはそのまま踏襲している。つまり、ReasonがDAW化してしまったり、Liveのようなパフォーマンスシーケンサに変身してしまうということはない。従来通りの統合型シンセサイザにとどまっているのは、Reasonファンにとっては安心できる点だろう。

 では、今回のバージョンアップで追加された新機能を紹介しよう。具体的には、以下のような機能が追加された。

 今回のバージョンアップでは新シンセサイザは搭載されていない。LogicのSculptureのような物理モデリング音源とかFM音源、ReBirth風な音源なんかが登場してもいいかなと思っていたが、Reasonとしては、2.0でほぼ完成に近いところまで来ていたということなのだろう。もちろん、下手な音源を搭載して、重くなってしまうよりも良いのかもしれないが……。

 バージョンアップの一番の目玉はCombinatorだ。これは既存の音源やエフェクトをパック化して、ひとつのモジュールにするというもの。つまり、「新音源は自分で作れ」というわけなのだ。

 考え方は単純で、Combinatorという新しいモジュール自体の中身は空。その中に通常Reasonで組むのと同様に音源やエフェクトを自由に配置し、パッチングできるようになっている。たとえば、スプリットやレイヤーを駆使したマルチ音源を作成することもできるし、ソフトシンセとエフェクトのセットをあらかじめ作っておき、それを常にセットで利用するというのもいいだろう。また音源に限らず、エフェクトだけの組み合わせを作って、オリジナルの強力なエフェクトとして活用するという方法もある。

Combinatorの中身は空っぽ。音源やエフェクトを自由に配置し、パッチングして独自のモジュールを構築できる

Combinatorには4つのノブと4つのスイッチを搭載。中に収めた音源やエフェクトのパラメータを割り当てることができる

 また、Combinatorというパックには、それを代表する4つのノブと4つのスイッチがあり、中に収めた音源やエフェクトのパラメータをそこに割り当てることができる。必要あれば、1つのノブに複数のパラメータを割り当てることもできるから、うまく作れば面白い効果が狙えそうだ。

 もちろん、このようにしてCombinatorで作ったパックはそのまま保存することができ、いつでも呼び出すことができるので、オリジナルのライブラリを構築できる。


■ 使えるエフェクトを追加し、使い勝手も向上

 2つ目のポイントは、新たなエフェクトとして、The MClass Mastering Suiteなるマスタリング用のセットが追加されたことだ。これは以下の4つで構成されている。

Combinatorでまとめられた4つのセットも、1個のデバイスとして認識されている

 それぞれを個別に使うこともできるほか、Combinatorによって4つセットとなったものも1つのデバイスとして用意されている。実際に音を聴いてみると、効き具合がハッキリしていて面白い。とくにMaximizer、Stereo Imagerあたりはかなり使える。パラメータはそれほどないので、誰でもちょっと触ればわかると思うが、Maximizerを使うことで、簡単に音圧を稼ぐことができる。また、Stereo Imagerはステレオ感を演出するマスタリングエフェクトだが、思い切りかければ異様なほどに音に広がりを持たせられる。そのため、必ずしもマスタリング用としてではなく、個別にかけても面白そうだ。

 そして3つ目のポイントがフィジカルコントローラへの対応。フィジカルコントローラへの対応自体は2.5からされていたのだが、3.0になってより強力になった。なんといっても便利なのが、接続したフィジカルコントローラを自動認識してくれること。

 そのためにはMIDI INとMIDI OUTの双方が接続されていないといけないが、最近のコントローラのほとんどがUSB接続になっているため、ケーブル1本接続すれば、双方向接続したことになる。たいていのものは自動で認識し、最適な設定が行なわれるようになっている。もちろん手動での設定も可能で、多くのフィジカルコントローラがプリセットとして用意されている。

フィジカルコントローラへの対応も強化され、接続したコントローラを自動認識してくれるようになった 設定も自動で行なってくれるが、手動設定用のプリセットも多く収録している

 しかも、複数のフィジカルコントローラを持っていれば、そのすべてを認識し、同時使用することができるため、多くの音源、エフェクトを同時にコントロールすることが可能となる。また、どのパラメータをどのノブ、スイッチに割り振るかなども簡単に設定することができるため、かなり使い勝手の良い環境が作れる。まあ、最近ではこうしたフィジカルコントローラへの対応は当然となってきているが、数あるソフトのなかでも、使い勝手のいいソフトといえるだろう。


■ 細かい部分も着実に機能向上

 また、小ネタではあるが、Line Mixer 6:2という小さいラインミキサーが新デバイスとして追加されている。1Uラックタイプでコンパクトなミキサーは、従来のミキサーであるMixer 14:2ほど多機能ではないが、コンパクトな分、気軽に使えて便利だ。もちろん、本体で利用してもいいが、Combinator内で利用すると、全体的にコンパクトに収まるため、システムを見通しやすくなる。

Line Mixer 6:2というラインミキサーが追加されている

 そのほかでは、ファイルを読み込む際のダイアログが3.0 Browserというものになり、使い勝手が向上している。検索が簡単にできるようになったり、ここから各種ファイルを読み込むことが可能になるなど、なかなか便利だ。

 また、非常に小さな部分だが、シーケンサの各トラックにミュートボタンとソロボタン、そしてレベルメーターが装備された。機能的にはどうというものではないが、あるとないとでは大違い。これにより、Reasonでの曲作りがぐっとスムーズにできるようになった。

3.0 Browser シーケンサの各トラックにミュートボタン、ソロボタン、レベルメーターを備えた

 以上が、新Reason 3.0の全体像だ。メジャーバージョンアップにしては地味な感じではあるが、触ってみると、Reasonのよさをそのまま残しつつ、かなり使いやすく、楽しくなった。2.5ユーザーに限らず、1.0、2.0のユーザーでも15,750円でアップグレードできるのも嬉しい点だ。

 単体価格はまだ発表されていないようだが、Reason 2.5が45,000円だったことを考えると、この価格と大きくは変わらないだろう。いずれにせよ、価格を遥かに上回る価値を持ったソフトに仕上がっているので、すでにユーザーの方も、これから使ってみたいという人にもお勧めできるソフトである。

□Propellerhead softwareのホームページ(英文)
http://www.propellerheads.se/
□製品情報(英文)
http://www.propellerheads.se//products/reason/index.cfm?fuseaction=get_article&article=reason3main2
□関連記事
【2002年7月15日】【DAL】第62回:アナログ感覚のソフトシンセ「REASON 2.0」
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20020715/dal62.htm

(2005年2月28日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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