■ 初のHD録画/再生対応PC 2003年12月1日に地上デジタル放送がスタート以来、テレビや録画機などでもさまざまな対応機器が発売されてきた。しかし、パソコンでのデジタル放送対応は著作権保護を理由として、遅々として進まなかった。 メーカー製パソコンでは唯一、地上デジタルチューナ搭載PCをNECが発売しているが、放送のMPEG-2 TSストリームをそのまま録画できるものの、表示時には480pに変換されてしまうなど、制約が大きい。また、ソニーのVAIO type Rには、HDDをD-VHSエミュレートしてデジタル放送録画を行なう機能も搭載しているが、こちらは単体では視聴再生できないなど、決定打にかける。 しかし、富士通が4月29日より発売した「DESKPOWER TX90L/D」は、独自の暗号化技術の採用などにより、デジタル放送のMPEG-2 TSをそのまま録画し、再生可能となった。つまり初めてパソコン上で、デジタル放送の1080iをそのまま記録/再生可能となったわけだ。 さらに、DESKPOWER TX90L/Dでは1080i映像を表示するために、32型/1,360×768ドットの大型テレビ用液晶を採用し、テレビとしての画質/使い勝手も訴求。テレビ/PCの融合製品として展開している。
■ 巨大な筐体 なにより驚かされるのは、筐体の大きさ。32型テレビにパソコンを一体化した製品と考えれば、当たり前だが、梱包箱も巨大でとても一人では持ち運べない。外形寸法は944×290×644mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約41kg。重量バランスが液晶パネルよりで、しかも可動部が大きいので設置は慎重に行なう必要がある。 液晶パネルは1,360×768ドット。シャープ製のテレビ用のものを搭載しているという。液晶の上下チルト機能も装備。前面にS映像、コンポジット、アナログ音声入力や、IEEE 1394、USB 2.0、メモリースティック/SDカードスロットを搭載している。 マウス、キーボードはワイヤレス。赤外線リモコンも付属する。液晶下部にキーボードを収納できるスロットを設けている。左側面には地上アナログチューナ入力と、D4入力、S映像入力、コンポジット入力、アナログ音声入力を装備。外部出力端子は備えていない。 背面を開くと、地上/BS/110度CSデジタルチューナーやEthernet端子などが現れる。CPUはPentium 4 530J(3GHz)で、HDDは500GB。512MBメモリ(最大1GB)、Intel 915GVチップセット(ビデオ機能内蔵)、DVD+R DL対応DVDスーパーマルチドライブなどを搭載する。
■ “パソコン”を意識させない操作感 早速、電源を入れたいところだが、まずはパソコンのセットアップを行なう必要がある。普通のパソコンのセットアップと同様だが、ワイヤレスキーボード、マウスを最初の起動時に学習する必要がある。また、チャンネルやリモコンの認識なども初回起動時に設定する。
リモコンはパソコン、テレビの双方で利用可能となっており、DVDやPC用の10feetGUI専用ソフト「MyMedia」などを1ボタンで呼び出し可能。デジタルチューナの視聴には、パソコンを起動してから、リモコンの「デジタルTV」ボタン、もしくはMyMediaから「デジタルテレビ」を選択する。 テレビチューナは地上アナログと、地上/BS/110度CSデジタルを搭載しているが、パソコンを起動せずに視聴できるのは地上アナログのみ。デジタルチューナ搭載のテレビとして利用するためには、パソコンも起動しておく必要がある。
リモコンのデジタルTVボタンを押すと、専用のデジタルテレビアプリケーション「DigitalTVbox」が起動する。DESKPOWER TXでは、独自開発の「セキュアLSI」の採用により、フル解像度でのデジタル放送が再生可能としている。このデジタル放送録画機能はピクセラとの共同開発によるもので、キャプチャカードやDigitalTVboxもピクセラ製となっている。 セキュアLSIでは、デジタル放送の映像データの複合化を行なった後、LSI内での暗号/複合化し、暗号化したデータをHDD内に録画。再生時には暗号化したデータをLSIで複合化して転送し、ディスプレイに出力する。PCIバス上を通るデータは暗号化されており、PCメモリ上のMPEGデコードデータについてもセキュアLSIのソフトウェア保護監視機能によりデコードデータを常時監視している。これらのセキュアLSIによるコンテンツ保護機能はARIB(電波産業会)の規格に準拠している。
DigitalTVboxでは、地上デジタル/BSデジタル/CS1/2の視聴/録画が行なえ、[放送切り替え]ボタンで選択する。BSデジタルから地上デジタルに戻るまで3回ボタンを押すのはやや面倒だが、ボリューム操作やチャンネル切り替えなどの操作は普通の液晶テレビとほとんど変わらない感覚で利用できる。また、音声切り替えや画面サイズ変更、チャンネル情報など各種の視聴設定やデータ放送の受信などの操作もシンプルで、「パソコン」を意識させることはほとんど無い。 もちろん、マウスでも画面上のボタンをクリックして操作できる。リモコンが見つからない時などは、結構重宝するかもしれない。地上アナログ放送との2画面表示も可能だが、子画面は右下に小さく出るだけなのが残念なところ。子画面のチャンネルを変えたいときには、カーソルキーの右ボタンを押してからチャンネルを切り替え、DigitalTVboxの操作に戻る時には左ボタンを押す。
表示画質については、15Mbps~24Mbps程度のMPEG-2 TSということもあって高精細。VALUESTARの地上デジタルモデルでは480p出力のため、解像感などは明らかにHD品質から一段落ちていることがわかったが、DESKPOWER TXではそのままのデジタル放送が楽しめる。パネル解像度は1,360×768ドットなので、1080iのデジタル放送信号からは縮小されている訳だが、現状のPCで楽しめる最高の放送受信/表示品質であることは疑いない。
しかし、画質面で気になる点もあった。それは、どんなソースを見てもやや白く浮いて見えること。表示画質設定は、おまかせ/PC/シネマ/ビデオの4モードとカスタムモードを用意しているのだが、いずれもモードを利用してもこの傾向が変わらない。おそらくはバックライトの透過光の影響と思われるが、CRTや通常の液晶テレビと比較するとかなり異なった印象を受ける。例えば大相撲中継を見ていると、力士の肌の質感などが、照明が当たりすぎてコントラスト感が無くなったように見えてしまうのだ。 テレビメーカー各社は、パネルに最適化した独自のコントラスト改善技術や、動画ボケ改善技術、バックライト制御技術など、技術の粋を競っている。しかし、DESKPOWER TXでは、PCの上でデジタル放送視聴を実現していることもあり、こうした最適化はなかなか難しいだろう。画質のレベルではやはり最新の液晶テレビには一段及ばないという印象が残った。
■ シンプルなデジタル放送録画機能
デジタル放送録画についてもDigitalTVboxで行なう。DigitalTVboxを起動して、チャンネルを選択、録画ボタンを押せば録画開始、停止ボタンで録画停止となる。当然デジタル放送のEPGを利用した録画予約も可能となっている。 録画予約もシンプルで、リモコンの番組表ボタンでEPG画面を呼び出して、番組を選択、録画予約を押すだけというもの。非常にシンプルで迷うような箇所は特にない。EPGのほかタイマー予約も可能。予約の変更は予約一覧ボタンから各予約番組を選択して、取り消しや録画時間変更などを行なう。
録画番組の再生は、リモコンの[録画番組]ボタンを押して、一覧を呼び出すだけ。画質については、無劣化で放送波そのままなので非常に高品質。残念なのは、デジタル放送の録画中にほかの番組を見ることができないこと。 また、録画中の追いかけ再生も行なえない。要するに扱いとしては、RecPotシリーズなどのようなD-VHSエミュレートのi.LINK HDDと同様なのだが、せっかくチューナを内蔵しているのだから、せめてタイムシフト再生ぐらいは行ないたいところだ。 なお、録画した番組の編集はできず、ほかの機器へのムーブやDVDへの書き出しも行なえない。DESKPOWER TXで録画した番組は、DESKPOWER TXでのみ視聴可能となっている。これは現在ARIBにより定められている規格に準拠している限りは致し方ないのだが、“パソコンならでは”というポイントを生かしていく上ではやはり残念としか言いようがない。
ただし、DVDなどへのバックアップは可能で、専用ツール「DigitalTVbox分割結合ツール」が付属する。これはDigitalTVboxで録画した番組を分割してDVDなどに保存する機能で、付属のライティングソフト「RecordNow!」と、DVDドライブを利用してバックアップディスクを作成できる。 DESKPOWER TXではDVD+R DL対応のマルチドライブを搭載しているので、8.5GBのDVD+R DLへのバックアップや、複数のDVDへ分割して保存し、同ツールを用いて結合してHDDに保存することもできる。
■ なかなか便利なインスタントMyMedia
10feetGUIでリモコン操作可能なマルチメディアソフト「MyMedia」では、DigitalTVboxを利用したデジタル放送録画のほか、SD放送の録画/再生や音楽再生、静止画再生機能などを備えており、いずれもリモコンで操作可能。また、MyMediaはデジオンのネットワークサーバー「DiXiM」をベースにしているので、対応サーバー/クライアントから映像/音楽をストリーム再生することもできる。 さらに、インスタントMyMediaと呼ばれるPCレスでのマルチメディア機能も装備。パソコンの電源OFF状態でリモコンの[MyMedia]ボタンを押すと、1秒程度でインスタントMyMediaのトップメニューが起動する。 MyMediaと同様に、テレビ、DVD/CD、ビデオ再生、ミュージックなどのモードを選択して、テレビ視聴や音楽再生を楽しむことができる。EPGによる録画機能は備えていないが、視聴中のテレビの録画は可能。録画媒体はHDDのほか、DVD-RAMも選択できる。 また、インスタントMyMediaで録画したファイルのほか、PCで録画した地上アナログ放送も、[マイビデオ]、[共有ビデオ]フォルダに保存しておけば再生できる。再生可能なファイルはMPEG-1/2とWMV。 録画用に使うかどうかは微妙ではあるが、起動時間の早さは魅力的。DVDをすぐに再生したいときにはなかなか便利な機能だ。また、D4入力などの映像入力を選択して、モニターとしても利用できるので、別途デジタルチューナを用意してD端子接続すれば、PCを立ち上げずにもデジタル放送を視聴もできる。
■ 画期的だけれど、“パソコンならでは”という点が欲しい 初のHD録画/再生対応パソコンとして、画質の確かさと、操作感を高いレベルで実現できているという点で、「PCでデジタル放送対応」の世界を大きく進めた製品といえる。こうした意欲的な取り組みは歓迎したい。プラットフォームを共同開発したピクセラを含め、今後の取り組みにも期待したいところだ。 ただし、液晶一体型にしたことで、PCとテレビの双方のメリットを生かした製品になっているか? と問われると、やや疑問も残る。テレビとしての利用が多い人であれば、わざわざパソコンを起動しなければデジタル放送を視聴できないのは、非常に効率が悪い。また、通常約272W/最高360Wという消費電力も、テレビのような10年スパンで使う製品ではデメリットにしかならない。 画質についても、テレビ専用機には一歩届かないのことを考えると、やはり“パソコンならでは”の切り口がもう一つ欲しかったとは感じる。たとえば、ネットワークサーバー機能などはその一端ではあるのだろうが、物足りなさは残る。「リビングの中心における何でもできる箱」ではあるのだが、デジタルテレビとパソコンを組み合わせたことによるメリットはもう一つ提示できていないように感じた。 とはいえ、コンテンツ保護のために、並々ならぬ手間やコストを投入していることは随所に見受けられる。コスト競争が厳しい業界内で、日本ローカルのコンテンツ保護規格の対応に、多大なコストを割くというのは、それだけデジタル放送にかける期待が大きいということでもあるだろう。現在、パソコン上で編集が行なえないなど厳しい制限があるが、コンテンツサイドと連携を取りながら、もう少しユーザーが楽しめる解決策を探していって欲しいと感じる。 □富士通のホームページ (2005年5月20日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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