■ “パート2”じゃないけど続編です
「ランボー」、「ロボ・コップ」、「ターミネーター」、「ダイ・ハード」、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」などなど。第1作目の大ヒットは超えられないかもしれないが、中ヒットくらいは狙える。続編は最初から知名度が高いので、当たり外れの激しい映画界ではヒットする確率が高いというだけで「美味しい企画」なのだろう。 今回取り上げる「オーシャンズ12」は、タイトルからすると「パート2」に見えないが、2001年に公開された「オーシャンズ11」の続編。そもそも「オーシャンズ11」は、'60年に公開されたフランク・シナトラ主演の映画「オーシャンと11人の仲間」のリメイク作品だったりする。「リメイクかつ続編」ということで、まさに最近のハリウッド映画を象徴するような作品と言えるだろう。 この映画の特徴は、なんと言っても俳優陣の豪華さ。ディーン・マーティン、サミー・デイヴィス Jrなどが出演したオリジナル版の豪華なキャスティングを再現するため、ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット、マット・デイモン、ジュリア・ロバーツ、アンディ・ガルシアなど、現在の人気俳優を多数起用し話題となった。 続編では、前作のキャストに加え、新たにキャサリン・ゼタ=ジョーンズと、ヴァンサン・カッセルが参加。また、大物シークレット・ゲストも登場するなど、豪華な顔ぶれがお腹いっぱい楽しめる。キャストのギャラだけで70億だ、130億だと諸説紛々。確かに、ヒットが約束された続編でもない限り、そうそう出せる金額ではないだろう。 DVDは、本編ディスクのみの通常版が2,980円と標準的な価格。俳優のギャラを考えると逆に安いくらいに思えてしまう。ただし、7月1日から8月31日までの期間限定出荷となっている。通常版に特典ディスクを加えた2枚組みの特別版が、1,000円高くなって3,980円。前作をセットにしたツインパックは用意されていないが、6月24日から8月31日の期間限定出荷で、前作「オーシャンズ11 特別版」が1,575円で再販されている。「11」が未見で、「12」の購入を検討している人は一緒に買うと良いだろう。 観賞前に、軽く前作のストーリーをおさらいしておこう。主人公は、カリスマ窃盗犯として名を馳せたダニー・オーシャン。逮捕され、妻にも見放されたオーシャンは、刑務所の中で、ラスベガスのカジノ&ホテル王として知られるベネディクトの金庫から、1億5,000万ドルを盗み出す計画を立てる。 出所後、相棒の詐欺師ラスティー・ライアンを始め、スリの名人、爆破の達人、コンピュータのプロ、カード・ディーラー、サーカス団員など、様々な分野のプロフェッショナルをスカウトしていくオーシャン。夢の犯罪ドリームチームを結成した彼は、鮮やかな手口で現金を盗み出すことに成功。ベネディクトに奪われた元妻・テスも奪い返した……という物語。続編では、大金を手にした12人のその後が描かれる。
■ 再結成の理由は“盗んだ金を返済するため” 大金と恋人まで奪われたホテル王・ベネディクトは復讐を開始。奪った金を山分けし、世界に散った11人とオーシャンを追いかけ、居場所を突き止める。彼の要求はただ1つ「奪った金に利子を付けた1億9,000万ドルを2週間以内に用意しろ。さもなければお前達の命はない」。しかし、浪費家の面々に大金が残っているわけもない。 かくして、オーシャンの元に再び集結した11人の仲間達は、さらなる大金を求めてヨーロッパへ渡る。しかし、そこで待ち構えていたのは欧州警察の凄腕女刑事イザベル。そして、オーシャンと勝負し、どちらが世界一の強盗かを決めたがる謎の怪盗ナイト・フォックス。大金を求めつつも、イザベルに追われ、ナイト・フォックスに勝負を挑まれるオーシャン達。返済期限は刻一刻と迫っていた。 前作との最大の違いは“スピード感”だ。前作は、細かい設定の違いはあるものの「ラスベガスのカジノから大金を盗み出す」という基本的なストーリーは‘60年の「オーシャンと十一人の仲間」と同じであり、盗み出すまでの過程が長いなど、テンポが悪いと感じる部分もあった。 しかし、今回の作品はいかにも現代的なストーリーで、敵/味方、騙し/騙される側が二転三転。ちょっとでも目を離すとどちらが騙しているのかわからなくなる、スリリングで知的な展開が観客を飽きさせない。登場人物も多いので、のんびり観賞していると置いていかれてしまう。 犯罪ドリームチームの続編が、「新たな獲物を盗み出す」のではなく、「前回盗み出した大金を返せと怒られたので、慌てて別の所から大金を工面する」というストーリーが面白い。腕は確かなのだが、筋金入りの悪党ではなく、どこか間抜けで憎めない。オーシャン達らしい展開と言える。 また、それに伴い、今回はオーシャン達が、警察やナイト・フォックスに追われ、攻められる側になっているのも特徴。凝った計画を立てても、様々な要素がその計画をボロボロにしていくので「はたしてこの盗みは成功するのか?」というドキドキ感が強くなっているように感じた。 さらに、映画全体の雰囲気が前作と微妙に異なる。盗みの現場に必ずキツネの置物を残すナイト・フォックスや、伝説の怪盗ルマークなど、ある意味で漫画チックな設定やキャラクターが登場。前作が現実的な物語かと言われると否だが、今作は輪をかけて荒唐無稽な部分があるので、怪盗ルパンやルパン三世などと同様に、ファンタジックなイメージさえ感じさせる。言い方を変えれば、子供向けという気もした。 子供向けという面では、“殺しのシーン”が1つもないのが特徴。ハリウッド映画では安易に「敵を撃って解決」という流れもあるが、オーシャン達はあくまで盗みのプロであり、殺し屋ではない。怪盗ルパンが登場して「どんな盗みのテクニックを披露してくれるのかな」と期待していたら、警備員を全員射殺して普通にダイヤモンドを持って帰ったら面白くもない。あくまで盗みや詐欺のテクニックで窮地を脱しようとする彼らの活躍は観ていて気持ちが良い。 演出面ではシーン切り替えのタイミングが非常にお洒落。使われているBGMも憎たらしいほどキマッていて、前作と同様に良質のミュージック・クリップを見ている感覚。軽快なBGMをバックにスーツ姿のジョージ・クルーニーとブラッド・ピットが歩いているだけで、なんだかもう全てがOKになってしまいそうだ。男の私が見てもカッコイイと思うのだから、女性には必見の映画と言えよう。衣装や小物を含め、“スターの後光”がたっぷり堪能できる。 また、ストーリーそのものにもエスプリが効いている。詳しくはネタバレになってしまうので書かないが、「映画の根幹を揺るがしかねない掟破りの設定」や、アッと驚くスペシャルゲストも登場。11人にいったい誰が加わり、オーシャンズ12になるのか。楽しみにしながら観て欲しい。 ただ、1つだけ気になったのは若干説明不足で、“詰め込み過ぎ”の感がいなめないこと。ただでさえ11人も仲間がいるので、1人1人に見所を作っただけで映画が半分終わってしまう。そこに怪盗やら美人警官の新キャラクターも詰め込むので、ストーリーをじっくり描写している暇がない。意図的にスピード感を持たせているのならば良いが、どうも仕方なく駆け足で通り過ぎてるなと感じる場面もあった。本編は125分もあるのだが、もう少しエピソードを整理した方が完成度は向上しただろう。
■ 画質・音質はいまひとつ。未公開シーンは必見
DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4で見た平均ビットレートは6.35Mbps。収録時間を考えると妥当なところか。映像はシネマスコープサイズをスクイーズ収録。画質はワーナーの見慣れた標準画質で、色ノイズが多く、暗部の階調が潰れるのも早い。 個人がアップになる際はビットレートを多く割いているためか、それほど気にならないが、多人数が登場すると擬似輪郭もチラホラ。ブロックノイズはほとんどないが全体的に解像度が甘く、雑踏のシーンなどで画面の奥の方は輪郭がかなり破綻してしまう。「もう少し踏ん張って欲しかった」というのが率直な感想だ。 音声は、英語をドルビーデジタル5.1chとドルビーサラウンドで収録。日本語はドルビーデジタル5.1chのみだ。ビットレートは英語の5.1chが448kbps、ドルビーサラウンドが192kbps、日本語が384kbps。 音場は狭く、環境音も控えめでリアチャンネルはあまり仕事がない。派手な戦闘シーンもないのでサブウーファもあまり出番がないだろう。スタイリッシュなBGMの再生がメインとなるが、意図的なのかレンジは狭く、ナローで古臭いサウンドデザインだ。 声質も同様の傾向があり、イメージ的には警察や学園を舞台にした昔懐かしいアメリカン・コメディ・ドラマのような音。しかし、上下を抑えて中域が張り出したこのサウンドが、この映画にマッチしていないかというと答えはノー。悔しいが、オールディーズ・バット・グッディーズ。音の悪さがカッコイイ。
特に、本編のストーリーと密接に関わっているラスティー・ライアンの過去が必見。前述の通り、テンポが非常に早く、個々のキャラクターの背景や性格描写が不足しているので、未公開シーンを見て「ああ、なるほど」と膝を打つこともあった。本編で理解できない部分があった人は参考にすると良いだろう。劇場公開時に尺の問題で削ってしまったのだろうが、これらのシーンを挟み込んだDVDだけの「完全版本編」を収録して欲しかった。 ドキュメンタリーは、監督や脚本家、ジョージ・クルーニーやブラッド・ピットなどの出演者が、交互に自分の役柄やストーリーを説明していく、よくあるタイプの映像だ。ストーリーラインをなぞるだけなので新しい発見は少ないが、時折挿入される映像で現場の様子をうかがい知ることができる。 現場は実に楽しげで、カメラがまわっていない時は歌ったり、踊ったり、笑い転げているスター達の姿が印象的。まるで子供のようにテンションが高い。ジュリア・ロバーツが「あれだけふざけながらよく撮影できたものよ」と笑うほどだ。人気俳優の素の顔が見れるという点では嬉しい特典だが、できれば衣装や小物、音楽のこだわった点などを解説するメイキングも欲しかったところだ。
■ 気になる人には通常版がオススメ ストーリー的に複雑な部分もあるが、基本的にはお洒落に、軽い気持ちで観賞したい作品だ。前作からのファンや、ブラッド・ピットファンには特典ディスクの未公開シーンは魅力的。それ以外の人には通常版で十分だろう。前作の再販版と一緒に購入しても5,000円以下なのでコストパフォーマンスは高い。 音質、画質は並以下なので、AVファンがその点に期待して購入するのは危険だ。細かいことを気にせず、スタイリッシュな映像を楽しむのがこの作品の正しい観賞姿勢ではないだろうか。 最後に、さらなる続編「オーシャンズ13」だが、これはかなりありそうな予感がする。というのも、本作の中ではオーシャンというカリスマ的リーダーから、マット・デイモン演じる若きスリの天才ライナス・コールドウェルへの世代交代を連想させるシーンがいくつも登場する。「オーシャンズ13」とならなくても、「ライナス13」など、何らかの形で次の物語が登場しそうだ。リメイクから発生したシリーズの次なる展開にも注目したい。
□ワーナー・ホーム・ビデオのホームページ (2005年7月5日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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