■ NCヘッドフォンの代表格がグレードアップ ポータブルオーディオ機器の売れ行きが好調な昨今。関連して盛り上がりを見せているのがモバイル用のヘッド/イヤフォン市場だ。プレーヤーの形状が小型化し、デザイン性に富んだ影響からか、接続するヘッドフォンやイヤフォンも純正のもので満足せず、自分好みのデザインや付け心地、音質などで別売のものを選ぶ人が増えている。イヤフォンでは、以前は音質重視のマニアが中心に支持していた耳栓型が、普通の人たちにも人気。Shureなどの1万円を超えるような製品の売り上げも好調だという。また、ヘッドフォンでは新たな付加価値としてノイズキャンセリング機能が浸透。オープンエア/密閉型を中心に、5,000円を切るクリエイティブメディアの「HN-505」から、2万円前後にはソニーの「MDR-NC50」やAKGの「K28NC」、ゼンハイザーの「PXC300」など、選択の幅も広がっている。 だが、価格的な最上位機種は、ノイズキャンセリングヘッドフォンという市場を開拓したボーズの「QuietComfort 2」(41,790円)だ。2003年9月の発売以来、直販のみという販売形態だが市場を牽引する代表格として販売されていた。しかし、他社の新製品が投入される中、ついにQuietComfort 2も新モデルがアナウンスされた。
「QuietComfort 3か!?」と身構えたが、マイナーチェンジモデルとのこと。名前も変わらず「QuietComfort 2」のままだという。リリースを読むと、変更点として音質が向上し、ハウジングのカラーがシルバーになったことなどが書かれている。 マイナーチェンジモデルとはいえ、普通のオーディオメーカーならば、「○○技術でS/N比が向上……」や、「搭載ユニットのマグネットは……」など、様々な改善点が書かれるだろうが、リリースは極めてシンプル。細かい仕様をあえて強調せず「出てくる音で勝負します」というスタンスはいかにもボーズらしいところだ。
市場のリーダー格がどのような進化を遂げたか検証すべく、さっそく新バージョンを試用した。
■ 外観に大きな違いはなし 紙箱を開けると、中からはキャリングケースが現れる。ケース内にはヘッドフォンだけでなくケーブルや変換プラグなども一緒に収納可能。このあたりの仕様は前モデルと同じだが、ブリスターパッケージよりも数段高級感のある梱包が嬉しい。なお、ヘッドフォンのハウジング部は横に90度に回転できるため、平らにしてケースに収納できる。
本体の形状も、前モデルとほぼ同じ。しかし、並べてみると随分と「明るくなった」と感じる。ハウジング部のカラーリングがシャンパンゴールドからシルバーに変更されたためだが、ロゴマークを囲うように鏡面仕上げのパーツも利用されている。重量(170g)に変化はないのだが、カラーリングのためか、新モデルの方が若干軽く感じてしまう。
前モデルの落ち着いた色合いも好みだが、シルバーカラーも清潔感があって良い。iPodをはじめ、最近は白色系のカラーバリエーションを用意したプレーヤーも多く、カラーリングとしてはこちらの法が合わせやすいだろう。
ノイズキャンセリング機能のON/OFFスイッチは右ハウジングに装備。ONにすると赤いランプが点灯する。電池は単4電池1本で、右ハウジングに収納する。コードは左ハウジングに接続。着脱式となっており、ヘッドフォン部のみの状態でノイズキャンセリング機能だけを利用するといった使い方もできる。
イヤーパッドやアーム部にも特に違いは見当たらない。ハウジング内部にはマイクやユニットが収納されているが、こちらにも外観的に大きな変更点はない。
装着してみると、適度なクランプ圧が心地良い。強すぎず、かといって弱過ぎてイヤーパッドが耳から浮くこともない。絶妙のバランスと言えるだろう。新モデル独自の感触はないが、前モデルから十分にハイレベルな装着感だったため、特に不満は感じない。
■ ノイズキャンセリング能力も向上 ボーズのリリースではノイズキャンセル機能について特に変更点は記載されていなかったが、音楽を再生する前に、ノイズキャンセル機能の違いを確認してみよう。
まず、コードを接続しない状態で聴き比べてみる。キャンセルする騒音が少ない、静かな環境で比較してみると、旧モデルではONにした瞬間から、わずかに「ジーッ」もしくは「ツー」というようなノイズが聞こえる。 もっとも、耳をそばだてて聞かないとわからないようなレベルのノイズであり、外部に騒音がある中では判別できない程度の音だ。しかし、明らかに外部の騒音とは違う音で、ヘッドフォン自体から発生しているのがわかる。 新モデルでは、ONにしてもヘッドフォン自体のノイズは聞こえない。外部の騒音もキャンセルされ、ほぼ無音の世界が広がった。それでいて、逆相の音を放出することで鼓膜に感じる圧迫感は前モデルよりも少なく、違和感を感じることもない。
次に、騒音の低減能力を比較してみよう。冷蔵庫やPCのそばなどで付け替えてみると、明らかに消える音の量が変化している。継続的な低音はノイズキャンセリングヘッドフォンが得意とする音だが、新モデルではより周波数の高い、中域から高域にかけても除去能力が向上している。
例えば、旧モデルでは冷蔵庫の音はかなり低減されるが、わずかに中域の振動音は残っており「冷蔵庫が動いている」というのがわかる。しかし、新モデルでは低域と同時に中域までも消し去り、冷蔵庫が動いているのかどうかわからなくなる。屋外や電車では消しきれない騒音にさえぎられるため室内ほど違いはわからないが、やはり騒音のレベル全体が低くなっている。
些細な違いと言えば些細な違いなのだが、ここに音楽が加わると大きな違いになるだろう。まず、音質面では、旧モデルはノイズを加えた音を聴いていたことになるため、ヘッドフォン自体のノイズが無くなった利点は大きい。また、ノイズ除去性能が向上したことで静寂感もアップしているため、静寂の中で細かな音を聴き取るようなクラシックやモダンジャズなどでも有利に働くはずだ。
■ 音質は大幅に向上 次に音楽を再生してみる。ノイズキャンセル能力の差は少なめだったが、音質は大幅に向上しているのがわかる。特に違いが顕著なのは高域で、女性ボーカルのサ行やオーケストラのシンバル、アコースティックギターの弦を指が滑る音などが気持ちよく突き抜ける。一度聴いてしまうと、旧モデルでは高域がマスキングされ、抑えこまれたように感じてしまう。
また、分解能も向上しており、以前は音と音の間がくっついていた弦楽器も、しっかりと音がほどける。ピアノの左手の動きも明瞭度がアップする。ノイズキャンセリング機能の無い同価格帯のヘッドフォンと比べると音場の広がりはもう一歩欲しいところだが、S/Nが向上しているため、旧モデルよりも音場は広く感じる。 前述の通りオーケストラやジャズも十分に楽しめる。特にライヴ録音では演奏が開始される前や、曲間の静寂に不要なノイズが乗らないため、会場の空気感も聴き取ることができた。 高域を強調する傾向もあるが、旧モデルと比べるとバランスはニュートラル。中域から低域が主張するいわゆる「BOSEらしい音」とは若干異なるイメージだ。音質は好みによる部分も大きいが、ソースを選ばず、ノイズキャンセリングヘッドフォンとしてはトップクラスの再生能力だと感じた。また、前モデルよりも高域が伸びているため、心理的に低域のレンジも広がったように感じる。「ワイドかつクリアな音に進化した」と言って間違いない。 このレベルになると「ノイズキャンセリングヘッドフォンでは」という前置きを外して同価格帯の通常のヘッドフォンと比較したくなるが、4万円を超えるモバイル用ヘッドフォンは少なく、いずれも室内用の大型高級機になってしまうため、公平な比較にはならない。あえて言うならば中域から低域にかけての分解能がもう1歩欲しい。オープンエア型などと比較するとノイズキャンセリング独特の音場の狭さも気になるが、仕方のないところだろう。 音楽再生面では総じて満足度が高い。しかし、1点だけ気になる点があった。それはノイズキャンセル機能をONにしないとプレーヤーからの音が聞こえないこと。つまり、ノイズキャンセル回路をスルーして音を出すことができないのだ。 この点は前モデルでも不満に感じていたので、新モデルで改善して欲しかったところ。ボーズにこの件を聞いてみると「スルー出力も検討したが、QuietComfort2はノイズキャンセル機能をONにした状態で最高の音を出すように設計しているので、それ以外のモードは不要と考えている。頭に装着したら常に電源をONにするという使い方を想定している」とのこと。 ノイズキャンセルヘッドフォンでキャンセル機能をOFFにする理由は音の違いを楽しむことにあるが、「最高の音以外は不要」というのはオーディオメーカーらしい考え方だ。また、電池の消費を心配して電源をOFFにするユーザーもいるだろうが、新モデルでは連続使用時間が従来の約35時間から約38時間へ延びている。常に最高の音を楽しみたいなら、あえて電源をOFFにする理由はなさそうだ。
■ 次の一手にも期待 マイナーチェンジモデルということで、外観的な違いは少ないが、中身は別物と言って良いほど進化している。音質の向上度合いは無視できないレベルなので、前モデルのユーザーはこの点だけで買い替えを検討しても良いだろう。残念ながら、旧バージョンから新バージョンへのアップデートサービスは用意されていない。もともと装着感に優れたヘッドフォンなので、ノイズキャンセル機能の弱点を潰し、音質を向上させたことで完成度は大きく向上した。それにも関わらず、声高に機能向上を謳わず、製品名も「QuietComfort 2」のままにするとは、なかなか粋なメーカーだ。個人的には「QuietComfort 3」とはいかないまでも、「スペシャル・エディション」や、「QuietComfort 2.5」くらいは名乗っても良いのにと思う。 機能的な改善点として強いて挙げるならば、オートパワーオフ機能の搭載だろう。ノイズキャンセリングヘッドフォンの電源は切り忘れが多く、特にQuietComfort 2の場合、スルー出力ができないため、電池がなくなるとただの荷物になってしまう。 一部のワイヤレスヘッドフォンなどで実装されているような、ヘッドバンドやハウジング部で、頭に装着したことを検出して、電源が自動的にONになるような機構を組み込めば、ユーザーが電源のON/OFFを意識せずにすみ、より使い勝手がよくなるだろう。 それ以外に残された問題は価格だ。前モデルから据え置きの41,790円という価格は、コンシューマ向けのノイズキャンセルヘッドフォンの最高値。消音機能と音質を高いレベルで両立しており、最上位にふさわしい能力を持っているとは思うが、他社の高級モデルが実売2万円台前半で販売されていることを考えると約2万円の価格差は大きい。孤高の存在も悪くないが、3万円台前半くらいに下げてより多くのユーザーに楽しんでもらいたい商品だ。 販売は前モデルと同様に直販サイト、もしくは直営店でのみ行なわれる。前モデルのユーザーはもちろん、ノイズキャンセリングヘッドフォンの購入を考えている人は、普段使っているプレーヤーを手に実際に店頭で聴いてみることをお勧めする。これまでボーズの音が耳に合わないなと感じていた人も体験してみる価値はあるだろう。ちなみに、同社の非NCヘッドフォン「TriPort」(20,790円)は販路拡大が明らかにされており、11月1日からは家電量販店などでも取り扱われるという。 マイナーチェンジモデルを試聴すると、次の大きなモデルチェンジも気になるところ。ボーズは昔から“小さな筐体で驚くような音”を得意とするメーカーなので、さらなる小型化や耳掛け式、耳栓式などへの展開もあるかもしれない。ノイズキャンセリングヘッドフォンという市場を作ったリーダーとして、音質を犠牲にせず、ユーザーをあっと驚かせるような、ボーズらしい次の一手にも期待したい。
□ボーズのホームページ (2005年10月6日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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