高成長を続けるデジタルオーディオプレーヤー市場だが、市場の拡大/成熟に伴い、各社製品の差別化が難しくなっている。 先行製品の長所を取り入れた新製品が矢継ぎ早に投入されることもあり、機能的には各社ほぼ横並びになりつつある。個人的にも、「どれを買えばいい?」と聞かれて、「デザインで選べばいい」とか答えてしまうことも……。 差別化が難しくなっていることから、ビデオ対応などのマルチメディア化を推進するメーカーもあるが、国内のオーディオメーカーで目立つのが、“音質”を最前面に出して、音へのこだわったプレーヤー。 そのはしりとも言えるのは、音質の専門家「マイスター」によるチューニングをウリに7月に発売されたケンウッドの「HD20GA7」だろう。この冬、HD20GA7にさらなるチューニングを施し、「極みを目指した」という“マイスターモデル”「HD30GA9」も発売された。 また、ビクターは、同社のレコーディングスタジオのノウハウをつぎ込んだというアルネオ「XA-HD500」を11月より発売し、注目を集めている。 いずれも、低価格化が進む市場の中で、“音”を最大の付加価値とし、平均価格よりかなり高めの価格設定としているところも興味深い。撤退する企業も多い中、日本のオーディオメーカーのアプローチはどこまで有効なのだろうか? 音に関するインプレッションを中心にレポートする。 ■ “マイスター”の本気。ケンウッド「HD30GA9」
外観は従来モデルの「HD20GA7」とほぼ共通。東芝のgigabeat Fシリーズをベースにしていると思われるが、gigabeatが新モデルのgigabeat Xになっているものの、筐体のデザインはgigabeat Fとほぼ同様の筐体だ。 「HD30GA9」の変更点は、HDD容量を20GBから30GBに強化。また、独自の音質補間技術「Supreme(サプリ-ム)」や可逆圧縮コーデック「Kenwood Lossless」を新たに採用した。ボディカラーもブラックのみとなっている。新たに「Media KEG」というブランド名となったが、これはケンウッドのHDDポータブルオーディオ製品の総称で、HD20GA7/HD30GA9ともにMedia KEGとして展開していく。実売価格は20GBのHD20GA7が4万~4万5,000円、30GBのマイスターモデルが約49,800円。
さらに、HD30GA9では、軽量かつ剛性の高いオリジナルシャーシ「fホール・グランド・シャーシ」を採用。回路の見直しなども行なうなど、「徹底的に音を突き詰めたモデル」という。 なお、「HD20GA7」では、ソフトウェアの使い勝手などに関するアップデートを引き続き行なっていくが、サプリームとKenwood Lossless対応については、HD20GA7での対応予定は無いという。 転送ソフトは「Kenwood Media Application(KMA)」。Kenwood Losslessの転送は、WAVファイルをKMAに登録した上、転送時にKenwood Losslessに変換する。LosslessのままPCにリッピングすることはできない。Kenwood Losslessの圧縮率は20~80%程度。平均的にはCDDAの約60%まで圧縮できるという。ほかのLosslessコーデックと比較しても、ほぼ同等の圧縮率といえるだろう。 KMAは、普通にライブラリを同期して使う限りはさほど問題は無いが、任意の複数アルバムを転送する場合に、PC上のフォルダ階層が異なるアルバムを複数選択して転送できなかったり、楽曲を削除する際に、KMA上で削除した後に、さらに[データベースの更新]をかけないとHDD上のデータベースが更新されないなど、なかなか悩ましいソフトではある。 いざ細かいことをやろうとすると制限が見え隠れするクセのあるソフトだ。このあたりは今後の改善も望みたい。KMAのほかWindows Media Player 9/10での転送にも対応。ただし、WMPではKenwood Losslessの転送はできない。
Kenwood Losslessに加え、従来通りMP3/WMA/WAVの再生に対応する。なお、サプリームはON/OFFが可能だが、WAVとLosslessの場合は補間の必要がないためサプリーム ONでも効果は現れない。 イヤフォンはHD20GA7と共通で、15mm径のユニットを採用している。オーディオプレーヤーの付属のヘッドフォンとしてはかなりクオリティの高いものだ。
操作感については、従来モデルと共通で、液晶下部の「マルチコントローラ」とボリュームスライダで操作を行なう。マルチコントローラの上下で、メニューを選択し、コントローラ右で一段下の階層に移動する。他のプレーヤーのユーザーには分かりにくい点もあるが、液晶にしっかりガイドがでるので、それを見ながら操作すれば戸惑うことはないだろう。個人的には基本設計を同じくするgigabeatシリーズより使いやすく感じる。 バッテリ駆動時間は約24時間と充分。ただし、サプリームをONにすると補間処理が加わるために10%程度駆動時間が低下、約21時間となる。USB充電にも対応している。
「音に拘り、極みを目指した」という“マイスターモデル”。HD20GA7でも、他製品とは一段違う再生性能を見せていたが、さらなる高みを目指したと言う点では、ケンウッドの音へのこだわりを最大限に具現化した製品といえそうだ。 また、カナル型の専用イヤフォン「KH-C701」も12月中旬に15,000円で発売される。当初はこちらを同梱することも検討したという。しかし、価格が高くなりすぎることと、音に拘る人の多くが、好みのイヤフォンを持っていることなどから、別売としたという。 HD30GA9もKH-C701も、基本は原音の忠実な再生を目指しているため、どのプレーヤー/イヤフォンを利用しても基本的には問題無いとのことだが、KH-C701では「HD20GA7/HD30GA9」に最適化したフィルタを搭載するなど、セット利用を想定したチューニングも図られている。付属イヤフォンに物足りなさを感じたり、最適なイヤフォンを決めかねている人にとっては、有力な選択肢の登場といえそうだ。 ■ “スタジオチューン”のビクター「XA-HD500」
ビクターのアルネオ「XA-HD500」は、同社初のHDDオーディオプレーヤー。Media KEGと同様にオーディオメーカーらしく、高音質を最大のウリにしたプレーヤーだが、アピールポイントは「スタジオチューニング」。 ビクタースタジオなどのノウハウを生かしたチューニングを施しているとのことで、モニタースピーカーのような解像感とシビアな再生性能も期待できる。同時にビクタースピーカーの朗らかな再生性能という、相反する側面も期待される。果たしてどんなモノだろうか。
なお、30GB HDD搭載の「HD30GA9」とは異なり、6GB HDD搭載モデルなので、ウォークマンA「NW-A1000」や、「iPod nano」などが競合機種となるだろう。実売価格は39,800円とこちらもかなり強気な価格設定。競合との価格差を考えると、Media KEG以上に強気といえるかもしれない。 対応コーデックはMP3とWMA。ロスレスコーデックやWAVには非対応となっている。ウリの「スタジオチューニング」の最大のポイントは、同社のレコーディングスタジオやマスタリングスタジオで利用される高音質化技術「K2テクノロジー」を応用し、圧縮音楽ファイルの音質改善に対応させた「CCコンバータ」を内蔵したこと。要するにサプリームと同じような技術だが、こちらも同様にON/OFF設定ができるので比較も可能となっている。 また、ENERGY/CRYSTAL/HEARTFUL/SUBWAYの4つの音場モードが選べる「エモーショナルサラウンド」を搭載。重低音を増強する「デジタルAHB(アクティブ・ハイパー・バス)」も備えるている。 楽曲の転送はWindows Media Player 10から行なう。付属ソフトは付かないが、WMAのDRM 10もサポートする。そのためWindows 2000/XPのユーザーであれば、プレーヤーのクセなどには依存せずに済むはずだ。 付属のイヤフォンをネオジウムマグネットを採用した耳栓型インナーイヤフォン。音質チューニングにはビクタースタジオのレコーディングエンジニアが参加し、高音質化を図っている。
本体は軽くて持ちやすいのだが、ボタン部や外装の作りは、若干チープにも感じてしまう。操作は中央の十字/ENTERキーとその左上のBACK、右上のPLAY/STOPキーで行なう。基本操作はシンプルなのだが、メインメニューの構成がややわかりにくい。 というのも、アーティスト/アルバム/レジューム(再生画面に戻る)/プレイリストの4つの基本モードのほか、ジャンル/トラック検索と時計/設定がメインメニューで表示できるのだが、そのうち1画面に表示できるのは4モード。そしてモード間移動は左右のキーで行ない、横スクロールで他のメニューを呼び出すのだ。オーディオプレーヤーの作法として、縦スクロールが基本となっているため、他のプレーヤーに慣れているとかなり違和感がある。 それ以外の機能はシンプルながら必要充分で、基本操作を行なう上でさほど難しい点はない。レスポンスも非常に良い。また、十字キー下に2つのファンクションキーを備えており、シャッフル/リピートなどの再生系操作や、CCコンバータのON/OFF、サラウンドモードの選択などユーザーが自由にアサインできる。ただし、間違えて押しやすいので注意が必要だ。
バッテリ駆動時間は、約30時間(MP3 64kbps)/約29時間(MP3 128kbps)。USB充電にも対応する。 クレードルとリモコンも付属し、クレードルは充電/転送のほか、ライン出力機能も装備。リモコンでほぼ全ての本体操作が行なえる。 ■ 音へのこだわりはオーディオメーカーの最大の強み いずれの製品も確かな“音へのこだわり”を感じさせる仕上がり。同クラスのプレーヤーと比較すれば、違いを感じされるレベルに仕上げている。特に最近のオーディオプレーヤー売場では、視聴可能な場所も多いので、音にこだわりのユーザーにはこうした取り組みは歓迎されることだろう。 圧縮音楽を理由にした妥協は感じられないし、こうしたアプローチから、新たなホームオーディオ市場を開拓したり、いわゆるピュア・オーディオの世界に興味を持つ若い層も増えてくるかもしれない。 HD30GA9については、もともと評価の非常に高かったHD20GA7(実売40,000~45,000円円)がベースと言うこともあり、ある意味直接の競合は自社製品となってしまうかもしれない。価格差は約5,000円~1万円程度で、その分HDD容量が10GB増えることを考えると、ラインナップとしての整合性は取れている。いずれにしろ音の良いHDDオーディオプレーヤーの購入を検討する際には、最有力の選択肢であることは間違いない。XA-HD500については、iPod nano 4GB(実売28,800円)やNW-A1000(実売28,800円)などと比較すると、約1万円高価。確かに音質はいいが、1インチHDDモデルで1万円の価格差は少し大きいように感じる。その価格差を躊躇させるのは、“音”よりも本体の質感やディスプレイの表示性能かもしれない。 競合製品と比較して、本体の仕上げや手に持った時の感触などの高級感が欠けていると感じてしまうのだ。ホームオーディオの世界でも、音はもちろん、本体の質感や所有感、デザインと言った側面も含めて、オーディオの楽しさが広がるわけで、その点を熟知している筈のビクターには、もう一歩洗練した製品を目指して欲しいと感じる。 □ケンウッドのホームページ (2005年12月2日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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