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第205回:専業主婦は「平凡に過ごす」が任務のスパイでした
脱力系ムービー第一弾「亀は意外と速く泳ぐ」

怒涛のように発売されつづけるDVDタイトル。本当に購入価値のあるDVDはどれなのか? 「週刊 買っとけDVD!!」では、編集スタッフ各自が実際に購入したDVDタイトルを、思い入れたっぷりに紹介します。ご購入の参考にされるも良し、無駄遣いの反面教師とするも良し。「DVD発売日一覧」とともに、皆様のAVライフの一助となれば幸いです。


■ 三木聡監督。上野樹里、蒼井優出演
亀は意外と速く泳ぐ
デラックス版
価格:4,935円
発売日:2006年1月25日
品番:GNBD-1124
仕様:片面2層
収録時間:本編約90分
画面サイズ:ビスタサイズ(スクイーズ)
音声:1.日本語(ドルビーデジタル2.0ch)
字幕:日本語(聴覚障害者向け)
発・販売元:ジェネオン エンタテインメント

 ほんの少し前は凋落が激しく、斜陽産業ともいわれた日本の映画業界。しかし最近になって、シネコンが増えるとともにスクリーン数も増え、観客も戻りつつある。

 さらに制作面でも、フィルムではなく、デジタルビデオカメラでも撮影できるようになり、製作費が下がったほか、セルDVD市場が確立されたので、予算の段階でDVDの売り上げを織り込むことができるようになった。

 そんなこともあってか、ここ数年、膨大な本数の邦画が公開されている。とはいうものの、大手の映画会社が巨費を投じた大作や、TV局が制作委員会に入っているような映画であれば、TVスポットなどでも目にする機会も多くなるが、ほとんどの邦画は、人知れず公開され、人知れず公開が終了し、DVDが発売されることになるのが現実だ。

 実際、弊誌に毎日掲載している、「DVD発売一覧の更新情報」を見て、「こんな映画公開されていたっけ?」と思うことはしばしばある。それも、公開から半年も経過せずにDVD化されていることが多いので、忘れているというわけではなく、最初から知らなかったということだろう。

 といことで、邦画を作る敷居は確実に下がり、監督も昔のように映画会社に所属して、助監督からたたき上げるという従来のシステムよりは、他業種から参加することが多くなっている。

 今回紹介する「亀は意外と速く泳ぐ」も、シティボーイズライブの作・演出や、「ダウンタウンのごっつええ感じ」、「トリビアの泉」などのバラエティ番組の構成を手がけた三木聡が監督を務めている。三木聡監督の劇場公開作としては「イン・ザ・プール」に続く第2作ということになるが、実際は他の作品も含め、大人の事情で制作した順番と、公開の順番は色々あるようだが……。

 亀は意外と速く泳ぐの劇場公開は、2005年7月2日にテアトル新宿などで封切られた。公開当時は、タイトルの不可解さとともに、三木聡監督と、若手の映画女優として注目株の上野樹里、蒼井優が出演しているということもあって、話題になったが、大ヒットしたという記憶もない。

 そんな「亀は意外と速く泳ぐ デラックス版」が、2006年1月25日に「亀は意外と速く泳ぐ デラックス版」としてDVD化された。製品名にデラックス版とあるが、別に「スタンダード版」などのバリエーションがあるわけでなく、デラックス版といっても、映像特典は含まれているものの特典ディスクとの2枚組みというわけでもない。

 さらに、音声もドルビーデジタル2.0chだけと、4,935円という価格設定が高く感じてしまうが、マイナー系の邦画のDVDだと仕方ないところだろう。パッケージ裏面に「HD24Pマスターからダウンコンバートした高画質マスター」と書かれていることに期待して購入した。なお、初回生産分のみの特典として、「飛び出す!3Dジャケット」(ステッカー仕様)と「ブックレット」(6P)が封入されている。



■ 小ネタ、小ネタ、小ネタのオンパレード

 学生時代から平凡な女の子だった片倉スズメ(上野樹里)は、結婚したものの何をやっても目立たない平凡な専業主婦になっていた。その一方で、幼馴染みのクジャク(蒼井優)は、エキセントリックな変わり者。いつもスズメは振り回されていたが、それでも怒ることもなく、今でも友達を続けている。

 そんなある日、スズメは100段階段で転んだ時に5mm角のスパイ募集の貼り紙を発見してしまう。思わず電話をかけてしまい、「脱・平凡」を願って面接に向かった。しかし、面接では、その平凡さこそスパイに最適と絶賛され、採用が決定する。

 そこで与えられた任務は、「目立たないように静かに平凡に過ごすこと」。スズメは、夫が海外赴任中なのをいいことに、スパイになることに。スパイになった平凡なスズメのまわりには、なぜか風変わりな人物が集まりはじめ、任務として平凡に過ごす中で、非凡な日常が始まる……。

 主演の上野樹里、共演に蒼井優に加え、岩松了、ふせえり、要潤、伊武雅刀、松重豊、温水洋一、嶋田久作といった演劇界の個性派俳優が脇を固めている。“三木組”ともいえる曲者役者達に、三木監督作初出演の上野樹里が主演として入り込んで馴染んでいくというのは、スパイという異質の世界に、スズメが参加するというストーリーに近い。現実の世界と、映画のストーリーが2重映しになっているので、観客は両方の視点で楽しむことができる。

 エンディング主題歌は、レミオメロンの「南風」。なお、ラストの羽田のカット以外は、すべて、横浜生まれの監督が、近いところに住んでいたといころで選んだ三浦半島で三浦市の全面協力でロケを行なっている。また、「亀は意外と速く泳ぐ」というタイトルには、「知っているはずの日常にも、まだ知らない世界があり、それを知ることで少し幸せになる」という意味が込められているという。

 三木聡監督は脚本も担当。経歴からすると、ストーリーより「ネタ」の人のようだ。この映画でも、小ネタがどんどん積み重ねられていくので、ストーリーを追うより、小ネタを探す方にちからが入ってしまう。上野樹里は、撮影当時17歳なので、主婦にはあまり見えないが、それがリアリティを求めていないことを印象付けている。「スウィングガールズ」の時の元気いっぱいな少女から打って変わって、脱力系主婦にうまくはまっている。「フェフェフェ…」という、漫画のような笑い方も、違和感を残しながらも自然に感じされるのは、キャラクタのなせるわざだろう。

 正直、小ネタの楽しさはあるものの、全体のストーリーは少々弱い。小ネタに力がはいりすぎて、全体を通して伝えたいことがな何なのかが、あまり伝わってこなかった。主人公であるスズメの独白的ナレーションが多いのも特徴で、90分と短めなこともあり、ストーリーのつむぎ方が強引に感じる。観ているうちに、'84年から放送されたTVドラマ「心はロンリー 気持ちは『…』」を思い出してしまった。

 また、オープニングが突然、「団地ともお」の小田扉のパラパラ漫画で始まるのも意表をつかれるが、これも監督によれば、「絵空事であることを示している」という。  ちなみに、三木聡監督の初劇場公開作「イン・ザ・プール」が、ソニーのシネアルタを使用しているのに対し、亀は意外と速く泳ぐでは、松下の「AG-DVX100」が使用されている。AG-DVX100は、24p撮影ができる業務用ビデオカメラではあるが、DVCPROなどではなく普通のミニDVフォーマットのカメラで劇場公開用映画が撮影されることに驚く。DVDでは、「HD24Pマスターからダウンコンバートした高画質マスター」といことになっているが、実際の撮影はSDということのようだ。

 カメラにスロー撮影機能(高速撮影)がないとのことで、要潤が「自分スロー」(自分でスロー撮影のように動く)を強要されているのも、制限を逆手に取っていて面白い。個人的には、「冷やし中華、はじめたい」というチラシや、傭兵の仮の姿「藤原豆腐店」、スズメがストローで作る肝臓とか、ツボにはまったネタも多かった。特に、最初に観た時には、合成していると思ったエンドクレジットが、映像特典のメイキングで実際にタイミングを計ってやっているのがわかったときには驚いた。


■ なんと、90分に44のチャプタ!

 DVD Bit Rate Viewerで見た平均ビットレートは6.5Mbpsと、最近のDVDとしては低い。「HD24Pマスターからダウンコンバートした高画質マスター」を謳い文句にしているが、全体的に粒状感が強い。ビデオ撮りということで、彩度とコントラストが高く鮮やかなものの、どうしても奥行き感や質感は乏しくなっている。「亀」をイメージして、緑がふんだんに登場するが、それ以外も意図的に原色系が多くしているので、その印象が強調されている。

 ただ、現時点でマスターが高画質といわれても、Blu-rayやHD DVDといった次世代DVDが見えてきた状態では、DVDに落とし込んでいるとい時点で一抹の空しさがあるのも確かだ。

 音声はドルビーデジタル2.0chで収録。ビットレートは448kbps。サラウンドを活用するような映画の内容ではないが、やはり今時のDVDとしては寂しい仕様だ。サウンドデザイン的にも、特に迫力のあるようなシーンはほとんどない。音質的には特に不満はなく、必要十分といったところだ。

 チャプタはなんと44個も設定されており、本編は90分なので単純計算すると、2分に1つチャプタがあることになる。チャプタメニューでも、すべてにサムネールがついていおり、小ネタの集合体の映画であることが、ここからも伺える。

DVD Bit Rate Viewerでみた平均ビットレート

 映像特典も本編ディスクに「メイキング」(約27分)、「劇場公開初日舞台挨拶」(18分30秒)、「劇場トーク・イベント」(5分)「予告編集」(8種類/計10分)、「キャストプロフィール」、「監督プロフィール」が収録されている。

 メインコンテンツは、DVD用に新たに制作したという「メイキング」。チャプタが16も設定されており、すべてのチャプタにタイトルまでつけられている。

●このDVDについて
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□ジェネオン エンタテインメントのホームページ
http://www.geneon-ent.co.jp/
□タイトル情報のページ
http://www.geneon-ent.co.jp/movie/topics/kame.html
□映画の公式サイト
http://www.kamehaya.com/
□関連記事
【2005年11月1日】「DVD発売日一覧」 10月31日の更新情報
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051101/newdvd.htm

(2006年1月31日)

[AV Watch編集部/FURUKAWA@impress.co.jp]


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