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第226回:Windows Mediaのバックアップ機能への疑問を聞く
~ DRM 9でもバックアップ可能。リストアは3回まで ~



Windows Media

 Excite Music Store、Listen Music Store、OnGen、Oricon Style……とWindows Mediaに対応した音楽配信事業者は大手だけで10以上ある。ただ圧倒的なシェアを握るiTunes Music Storeと比較した際、使い勝手などにおいて不満に思う点、またよく分からない点が少なくない。

 とくにバックアップ機能については、各サイトでも詳細な記述がなく、使い方に不明なことが多い。そこで、MicrosoftのWindows Media担当者に、DRMの仕様や利用法、またバージョンによる機能の違いなどについて話を聞いた。



■ Widows Mediaでのバックアップ機能への不満や噂

 シェアの上ではiTunes Music Storeが圧倒的になっているものの、iTMS以外の国内の各音楽配信サイトの利用もこの1年で急速に伸びてきている。国内大手の音楽配信サイトをDRMで分類すれば、Appleの「FairPlay」を採用したiTMS、SONYの「OpenMG」を採用したMoraやYahoo! Music Downloadなど、Microsoftの「Windows Media DRM」を採用したExcite Music StoreやOnGenなど、東芝の「MQbic」を採用したMOOCSの大きく4つに分類できる。中でも、サイト数が最も多いのはやはりWindows Media DRMに対応した音楽配信サイトだ。

 読者の中でも、これらのサイトで曲の購入をした経験のある方も少なくないだろう。しかし、ユーザーの一人として、これまで使ってみてどうも納得のいかない点があった。それは、曲データのバックアップ機能についてで、どうすればうまくバックアップ、リストアができるのかよくわからなかった。

 1曲200円前後とその単価は安いとはいえ、お金を出して買ったからには、しっかりと保存しておきたい。特に、製品レビューなどのためにさまざまなソフトをPCに入れるため、週に1回はマシンをフォーマットしてしまう特殊な使い方をしているので、バックアップ機能は必須なのだ。以前と違い、購入したデータをCDに焼くことが許可されるようになったので、CD化して物理的に保存しておくのが一番の防御手段ではあるが、CDに焼くとメタタグ情報がそぎ落とされるのも納得がいかないところ。

 iTMSでは、データのままでのバックアップ機能が非常によくできているので、安心して使え、OpenMGも決して便利とはいえないものの、確実なバックアップ、リストアが可能だ。しかし、これまでの経験上Windows Mediaのものは、うまくいかないケースが多い。具体的にいうと、バックアップは可能だけれど、リストアできないことがほとんどなのだ。どうすればいいのかなどを記事にしようと思ったこともあったが、どうも再現性がないし、Webなどを調べても情報が見つからず、断念していた。

 この辺の疑問について、音楽配信サイトの運営担当者に聞きに行ったこともあったが、そこでもハッキリした答えが返ってこないばかりか、怪しい情報ばかりが返ってきてしまうのだ。

 たとえば「Windows Media DRM 9では本当は実質的なバックアップはできない。バックアップできるのはライセンスデータだけで、そこには非常に制約が多いため、別のマシンにはリストアできず、一度フォーマットしたマシンにはリストアできない」、「他社のサイトでバックアップOKという記述をするようになったため、うちでも同じ記述をしている」、「Windows Media DRM 10になればバックアップ機能が搭載されるらしい」、「Windows Media DRM 10はOpenMGのようなチェックイン/チェックアウト機能も搭載される」、「現行のDRM 9でもバックアップはできるけれど、必ずFDやUSBメモリなどの外部メディアでなくてはダメ。またルートディレクトリにバックアップするとうまくいかないので、フォルダを作成してバックアップする必要がある」などなど。詳細はインタビューで明らかになったが、結論的にはほとんどがウソ情報であった。

 実は、個人的には一度もリストアに成功したことがなかったが、「フォルダを作成して……」という指示に従い、ダウンロード購入したてデータをバックアップし、別のマシンにすぐにリストアしたところ、一度だけ成功した。ただその後、再度試みてもうまくいかず、現在に至っている。

 このままでは埒が明かないと、Microsoftの広報に問い合わせたところ、担当者とのインタビューをセッティングしてくれ、話を伺うことができた。伺ったのはWindows本部コンシューマWindows製品部シニアプロダクトマネージャの倉本玲子氏、Windowsクライアントビジネス開発事業部・戦略事業開発部マネージャの三原寛司氏、そして同じくWindowsクライアントビジネス開発事業部・技術部のプログラムマネージャ、大雲正隆氏の3名。

 結論から言うと、どうしてうまくいかなかったのか、どうすればうまくいくのか、そして実際に使う上で何に注意しなくてはいけないのかなど、すべてがクリアになった。



■ DRM 10では期限付きデータやストリーミングに対応

藤本:音楽配信のバックアップ機能を中心にいろいろ質問したいことがありますが、まず最初に整理しておきたいのが用語やバージョンについてです。Windows MediaはCODECであるWindows Media Audioや今回のテーマのDRM、そして普段利用しているPlayerなどいろいろありますが、9で一度揃ったバージョンも、いまはバラバラになっているようです。これはどう捉えたらいいのでしょうか?

Windows本部コンシューマWindows製品部シニアプロダクトマネージャの倉本玲子氏

倉本:ビデオ関連も加えると、さらに多岐にわたりますが、音楽配信に限定すると関連するのはオーディオCODECである「Windows Media Audio」、著作権を管理する「Windows Media DRM」、そしてプレーヤーソフトである「Windows Media Player」の3つが存在します。

 これらはすべてWindows Mediaシリーズではありますが、別々の進化をしているため、もともとバージョン表記は異なります。ただ、ブロードバンドインフラが整い、これからコンテンツ流通ビジネスが本格的になるだろうということをにらみ、2003年1月にこれらのシリーズを紐付けWindows Media 9シリーズとして発表しました。このときはマーケティング的戦略から9シリーズとしましたが、その後また別々の進化をたどっています。

Windowsクライアントビジネス開発事業部・戦略事業開発部マネージャの三原寛司氏

三原:現在、Playerは11を発表しており、DRMは10に、一方Audioは9のままです。もっともAudioのエンコーダのパラメータの調整は常に行なっているので、徐々に進化していますが、デコードに関するコンパチビリティは2のころから踏襲しております。

 また、Audio CODECに関しては今年新たに48kbpsや32kbpsといった低ビットレートで威力を発揮するWindows Media Audio 9 Pro LBR(Low Bit Rate)を発表しています。携帯電話では国内でもHE-AACを搭載したものなどが出ていますが、それを上回るものとして開発しています。

藤本:報道発表などを見ると、Windows Media DRM 10では期限付きのデータをポータブルプレーヤーなどへ転送できるようになるといったことが中心に書かれています。その一方で、音楽配信会社に聞くと、バックアップ関連の機能などが向上するらしいという話もあるのですが、実際どうなっているのでしょうか?

三原:おっしゃるとおり、DRM 10になって追加された最大のトピックスは期限付きデータをポータブルプレーヤーへ転送できることです。米国ではNapsterが月額いくらという会費を支払うことで、すべての曲の再生が可能になるサービスを行なっていますが、これがまさにDRM 10の新機能によるものですね。

 また、いままでPCを経由しないと各機器にデータを持っていくことができませんでしたが、DRM 10になって、ネットワークにつながるものであれば、そのまま転送できるようになりました。携帯電話、ワイヤレスLANのポータブルデバイスなどですね。日本では着うたがあるので、携帯電話へのダウンロードはめずらしいものではありませんが、欧米では最近ホットになってきています。Windows Mediaを採用した例もあり、PCで扱うのと同じ曲を携帯でダウンロードできるようになってきています。また、PCとネットワーク接続した機器に対してストリーミング再生することを可能にしたのもDRM 10の新機能です。



■ バックアップは何度でもできるが、リストアは3回まで

藤本:一方の、バックアップ機能の強化というのはあるのでしょうか?

Windowsクライアントビジネス開発事業部・技術部の大雲正隆プログラムマネージャ

大雲:バックアップ機能については、DRM 9とDRM 10の間での変更はありません。エンドユーザーの方々にこのバックアップ機能の利用方法が必ずしも正確に伝わっていない面もあると思いますが、PCが不調になってフォーマットしてしまった際はもちろん、他のマシンに乗り換える際などにもこの機能は有効に利用できます。

藤本:これまで、いろいろと試してみたのですが、どうもうまくいかず、使い方がよく分かりません。現在、国内の音楽配信はmsn musicを含め、ほぼすべてWindows Media DRM 9を使っていると思いますが、今のお話からすれば、現状でも間違いなく使えるということなんですね?

大雲:はい。もっとも、各サービス会社側が、各楽曲データごとにバックアップを可能にするか、不可能にするか個別に設定することができるようになっており、バックアップができないデータがあることも事実です。バックアップ自体はとても簡単で、Windows Media Playerからバックアップを実行すれば、フロッピーディスクなどに保存することができます。

 ただし、ここでバックアップできるのはランセンスデータだけであり、Windows Media Audioの楽曲データそのものはバックアップできません。したがって、楽曲データは別途バックアップしておく必要があります。また、ライセンスのバックアップ可能となっているデータのすべてのライセンスを一度にバックアップする形になります。そして、このバックアップ作業は何度でも行なうことができます。

藤本:確かに、バックアップ作業は何度でも簡単にできますね。問題はリストアがうまくいかない、ということなのですが、こちらはどうなっていますか?

大雲:まずリストアは、必ずネットワーク接続された環境でないとできません。リストアの作業を行なうと、弊社のデータベースに問い合わせが行き、ここで認証されるとリストアできるのです。またリストアについては各楽曲データとも3回まで可能となっています。

藤本:え? 3回までという話は、どこの音楽配信サイトにも書かれていなかったように思います。つまり、3回リストアをかけたら、それ以上はできない? たとえば10曲のデータをバックアップしていて、そのうち3曲はすでに3回リストアしていたとしたら、残りはどうなりますか?

三原:その場合、残りの7曲はリストアできますが、3曲についてはエクスパイアしてしまっているので、できないということになりますね。

藤本:私の場合、試しにリストアできるのか、バックアップ直後に、そのままの環境でリストアしたりしましたが、確かにリストアした旨の表示はされました。この場合は何の意味もないリストアではありますが、ライセンスが上書きされて、リストア可能な回数を無駄に消費してしまったということになるのでしょうか?

大雲:その通りですね。とくに現状ライセンスが有効になっているかどうかをチェックして、上書きをOKにする、しないといった選択する機能は持たせていませんから……。

藤本:なるほど。不親切な気はしますが、そこに私の問題があったようですね。しかし、そうであれば、その旨をしっかり告知してもらわないとユーザーにとっては非常に分かりにくいですね。一方で、このリストアは、バックアップしたマシンに限らず、別のマシンへのリストアも可能なんですよね? また、バックアップするメディアはHDDでも問題ないですよね? 私の場合、PCをフォーマットすることが頻繁にあり、データドライブはそのままにしておくので、こちらのドライブに保存しておけば便利かな、と。

大雲:とくにバックアップメディアに制限はかけていませんから、できるはずですよ。



■ GUIDにより5台まで同時再生可能

藤本:これで、だいたい問題は解決しましたが、やはりWindows Media対応の音楽配信サイトと比較してバックアップ関連の機能においてはiTMSのほうがはるかに使いやすいように感じます。たとえば、5台まで同じデータを再生可能にするあたりも非常に便利です。

三原:さきほどのリストア機能を利用することで、最大4台まで再生可能にすることはできます。日本でこれを展開しているサービスはありませんが、GUIDを使うことで、iTMS的なことは可能になります。

藤本:GUIDって何ですか?

大雲:GUIDというのはGlobal Unique IDの略で、各Windows Media Playerに割り振られた個別のID番号です。Windows Media Playerのオプション-プライバシーにある「一意のプレーヤーIDをコンテンツのプロバイダに送信する」というチェックボックスがありますが、これをチェックすると、そのID情報が送られます。

 一方、音楽配信サイト側は、ライセンスのバックアップを不可としておいた上で、登録されたGUIDに対してのみ再生可能にしておきます。すると、その登録可能な数を5つまでにすれば、5台まで同時再生を可能にすることができます。またそれと同時に、ユーザーが登録したところでライセンスの再発行をするようにするといいわけです。

Windows Media PlayerのGUIDをプロバイダに送信するよう設定すれば、同時再生も可能となる

藤本:そんなことができるんですか。もっとも、これはFairPlayだからできる、Windows Media DRMだからできないということではなく、音楽配信サイト側が行なうことで実現可能にするものということですね。

三原:そうですね。ただ、このGUIDはデフォルトではオフにしてあります。そのためこれをエンドユーザーにオンにさせるというのは音楽配信会社側にも抵抗があるかもしれませんが。

藤本:ちなみに、そのライセンスの再発行についてですが、現在の各社のサービスでも購入してから1日以内とかであれば、再発行するというようなことをしていますよね。これを利用すると、たとえば自宅で購入した後、会社にいって、ライセンスの再発行をすることで、2台のマシンで再生することが可能になったりするのでしょうか?

三原:そのとおりです。ただし、無闇にコピーされないように、再発行の回数などは制限されています。

藤本:ついでに伺うと、この2つのライセンスは同じものなのですか? つまり、それぞれ別々にバックアップ、リストアが可能なものなのでしょうか?

大雲:これは別のライセンスなので、バックアップも別管理となります。

藤本:なるほど、悪用ではないですが、ユーザーはこうした機能を利用して、多少なりとも自衛をするという方法は有効かもしれませんね。非常によくわかりました。最後に、Windows Media DRM 10に対応した国内での音楽配信サービスの予定について、教えていただけますか?

倉本:それは各コンテンツプロバイダー側のことなので、当社がコメントする立場にはありませんが、NapsterとTowerRecordが国内でもサブスクリプション・サービスをする旨の発表をしています。2006年4月に開始予定と発表されていたので、予定通りであればまもなくになるでしょう。それ以外には特に存じませんが、これまでの経緯から見ると、大手がサービスをはじめると、それと同様のサービスが広がるという傾向があるので、同様のサブスクリプション・サービスが今後いくつも立ち上がる可能性はあると思います。


□マイクロソフトのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/
□Windows Mediaのホームページ
http://www.microsoft.com/japan/windows/windowsmedia/default.mspx
□関連記事
【2005年10月25日】Napsterとタワレコ、「ナップスタージャパン」設立
-日本初の定額制音楽配信を来春スタート
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20051025/napster.htm
【2004年10月25日】【DAL】Windows Media Player 10を検証
~ エンコードエンジンもバージョンアップ ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20041025/dal165.htm
【2004年6月14日】【DAL】日本の音楽配信サービスの著作権管理を検証
~ 各DRMの実際の使い勝手とは? ~
http://av.watch.impress.co.jp/docs/20040614/dal149.htm

(2006年3月6日)


= 藤本健 = リクルートに15年勤務した後、2004年に有限会社フラクタル・デザインを設立。リクルート在籍時代からMIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。
最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase SX/SL 2.X」(リットーミュージック)、「音楽・映像デジタル化Professionalテクニック 」(インプレス)、「サウンド圧縮テクニカルガイド 」(BNN新社)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。

[Text by 藤本健]


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