■ それでも幸せをあきらめきれないあなたへ……
今回取り上げるDVD「イン・ハー・シューズ」は、キャメロン・ディアス主演、8 Mileなどのカーティス・ハンソン監督による作品だ。 キャメロン・ディアス主演ということで、“ちょいエロ”なラブストーリーと思いきや、家族の物語に焦点を当てた作品とのこと。パッケージの解説曰く、「キャメロン・ディアスの新境地」とか。個人的には、田舎の若者が都会で揉まれてなんとかやり過ごしていく的なストーリーは好きなので、そういうモノかなと軽い気持ちで購入してみた。 しかし、購入後にパッケージを見ると、「フィラデルフィアの姉妹が自分探しでフロリダに」という話らしい。さらに、パッケージには「何度もすりむいて、それでも幸せをあきらめきれないあなたへ送る感動作」と、ATOKで入力していても恥ずかしくなるような文言も。 若干不安な気持ちを抱えつつも、DVDをトレーに入れてみた。なお、本編ディスクのみで、特典ディスクを用意したプレミアム盤などは用意されていない。ただし、本作を含む計4作品を靴箱風BOXに収めた「キャメロン・ディアス靴箱風DVD-BOX」もあわせて発売されている。
■ とってもバカな妹と、優秀な姉のトラブルストーリー
マギー(キャメロン・ディアス)は、弁護士として活躍する姉のローズ(トニ・コレット)とは正反対に、キャリアも資格も学歴もない女性。ブティックの販売員、スーパーのレジ係などさまざまな仕事を経験するものの、その全てにおいて長続きしない。満足に文字も読めず、計算もできないが、口だけは達者。人に誇れるのはルックスだけの彼女は、30歳を目前に控えながらも“その日暮らし”の生活を送っている。 高校の同窓会では、当時の記憶も定かでない男を誘惑、さらに泥酔と、混乱の限り。継母に家からも追い出されても、仕事を幾らクビになってもめげないマギー。一方、姉のローズは、しっかりものの有能な弁護士。マギー曰く「(彼女の仕事は)忙しい忙しいと言うこと」と皮肉混じりに語られるものの、同棲している同僚の弁護士らとそれなりに幸福な生活を送っている。 一見、相反する性格の二人だが、それでもお互い唯一の理解者ともいえる心の通じ合った姉妹だった。しかし、マギーの失業や、抱え込んだ大きなトラブルが、いつしか2人の関係に大きな影を落としていく。2人の奇妙な捻れ、その源には、男、そして2人の抱えるコンプレックスと複雑な家族関係があった。 ローズとの別れの後、自分の生きる道を模索し続けるマギー。彼女が向かったのは、存在すら、明かされていなかった祖母エラ(シャーリー・マクレーン)の住むフロリダだった。 冒頭は、キャメロン・ディアス特有のエロ路線のドタバタ・コメディ。しかし、中盤以降はマギー、ローズとその家族の複雑な関係性を描くシリアスなタッチに移行していく。幼い頃から仲の良い姉妹には、共通の原体験がある。それが幼い時に母を失ったことだ。継母や、父との関係。母の死を契機に、彼女らの前を立ち去っていった祖母。そうした複雑に絡み合う人間模様が、ストーリーが進むにつれ、徐々に解きほぐされていく。 比較的地味なストーリー展開なのだが、一見すると気付かないところに、細かな演出がされており、目が離せない。タイトルの「イン・ハー・シューズ」は、自分にあった靴を探し出す、という意味も込められているようだが、その過程をしっかり描くところが、本作の最大の魅力といえそうだ。
■ 画質は普通。うまくまとまったメイキング
DVD Bit Rate Viewerでみたビットレートは6.27Mbps。一枚のディスクに、約130分の本編やメイキングを収録。音声もドルビーデジタル5.1chのほか、DTSも用意しているので、映像に当てる容量は少ないと思うが、大きな破綻は感じられない。 特に高画質なディスクというわけでもないが、適度な暖かみと、やや軟調な画質は家族の物語を描く本作にはマッチしている。 音声は英語がドルビーデジタル5.1ch(448kbps)とDTS(768kbps)、日本語がドルビーデジタル 5.1ch(448kbps)と充実しているが、聞かせどころはさほど多くない。明瞭なセンター定位で、ストーリーを追いやすいが、マルチチャンネルを活かすようなシーンはほとんどない。
特典は、メイキング「ピープル・イン・ザ・シューズ」(約16分)、「撮影の舞台裏:演技するシニアの施設(約11分)」、「ハニー・バンのキャスティング」(7分)などを収録。 メイキングでは、監督やスタッフのインタビューを中心にストーリー解説が行なわれる。監督のカーティス・ハンソンは、「かつてのハリウッド映画を彷彿とさせるような、同時代を生きる人々の感情や人間環境を描きたかった。観客に“あれは私だ、あの気持ち分かる”と思ってもらえる作品を目指した」という。 また、「(劇中に出てくる)靴は2人の違いの象徴。マギーはローズにあって自分にないモノを求め、ローズは自分に魅力がないと感じ、自分の靴を履こうとしない」とコメント。「外見しか気にしないマギー、外見を隠そうとするローズ。その違いを埋めていく過程を描きたかった」と説明する。ローズの恋人サイモン役のマーク・フォィアスタインによる「隣の芝生が青く見える関係」というコメントが2人をうまく表現しているように感じた。 また、監督の口からは不安定なマギーの感情を表現するために、手持ちカメラを多用したことなど、撮影時の工夫についても語られる。約16分と短いが、うまくまとまったメイキングになっている。 撮影の舞台裏は、後半の中心になる老人ホームのキャストについて。ほぼ全員が実際の住人なので、それぞれ演技の素人。「面白かったよ。待たされるのには閉口したけど。“軍隊の急いで待て”に似ている」とか、「監督は細かすぎる。完璧主義者だね」、「スター気分だった」など、率直なコメントが楽しめる。「ハニー・バンのキャスティング」は、登場する犬。ハニー・パンの撮影秘話となっている。 ■ 良作だが価格はやや高め
脚本の良さや、監督や演出の手腕の高さを感じる良作。ただし、家族で見るにはエロ路線が過ぎるかもしれない。そうした意味では「メリーに首ったけ」などのキャメロン・ディアスの作品に近いのだが、じっくりと味わい深い家族物語という点では多くの人が楽しめる作品だ。 ただ、3,990円という価格設定は洋画の新作としてはやや高め。しかも、2本で1,990円キャンペーンに力を入れている20世紀フォックスの発売なので、高価に感じてしまう。すぐ見たいのであれば買って損はないが、キャンペーンの価格設定が破壊的なだけに躊躇してしまうかも……。
□20世紀FOXのホームページ (2006年4月18日) [AV Watch編集部/usuda@impress.co.jp]
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