■ 第3章で終わりじゃないんですよ
指輪物語など、ハリウッドの大作は3部作で終わることが多いので、ハリー・ポッターシリーズに疎い知人は「あれ!? 第4作もあるの?」などと驚いていたが、物語としてはここからが正念場。J・K・ローリングによる原作小説の方も、第6巻の「謎プリンス」が7月に、第7巻が2007年7月に発売される予定だ。 ストーリーの基本をおさらいしておこう。今は亡き両親から魔法の才能を受け継いだものの、魔法とは縁の無い家庭に引き取られ、いじめられる毎日を送っていた少年ハリー・ポッター。しかし、フクロウから届けられた手紙により、ホグワーツ魔法魔術学校へ導かれたことで人生が一変。お調子者ロン、しっかりものの女の子ハーマイオニーと友達になり、魔法学校での不思議な授業や、様々な危機を乗り越え、成長していく……という物語だ。 第1作の「賢者の石」と第2作「秘密の部屋」では、ハリーが魔法の世界を訪れた驚きや、学校に慣れていく過程が中心に描かれていた。空飛ぶホウキや魔法のバス、勝手に動く学校の階段など、映画としても魔法の世界を奇想天外なものとして描き、オモチャ箱をひっくり返したような楽しさに溢れている。それゆえ、どちらかというと子供向けの内容になっていたと思う。 しかし、第3作の「アズカバンの囚人」では雰囲気が激変。ハリーの両親を死に追いやった悪の帝王ヴォルデモートの影がちらつき、ハリーの命を狙っているというアズカバンの囚人も登場。ハリー・ポッターが特別視される理由が明らかになる。謎が謎を呼ぶサスペンスタッチの映画になっており、しっかり鑑賞していないと大人でも置いていかれる。映像も全体的にダークで、「これがハリー・ポッター!?」と驚くと同時に、見ごたえのある内容に関心したことを覚えている。 映画とともに、キャストの子供達も大きく成長。第3作では変声期バリバリのかすれた声で叫ぶハリーが面白かったが、少年期もそこで終了。第4作ではすっかり大人になったハリーが、これまで以上の試練と、自らの因縁に立ち向かうことになる。 ちなみに、映画の中のハリー・ポッターは14歳という設定だが、演じるダニエル・ラドクリフは現在16歳。ジャケットの面構えは立派な「男」という感じで、これまでのシリーズにあった“可愛さ”は残っていない。ロンやハーマイオニーも同様で、特にロンは“おっさん”に見える瞬間も。“チビッコ3人組が頑張って冒険する”というこれまでの魅力が無くなり寂しい一方、大人なったハリーが、映画にこれまでと違う魅力を与えられるかどうか・・・・・・。それが今後のハリー・ポッター映画の鍵を握っていると言えるだろう。
DVDは本編ディスクのみの通常版(DL-59389/2,980円)と、特典ディスクを加えた特別版(DLW-59388/3,980円)をラインナップ。さらにUMD版(NFP-76455/2,980円)も同時発売となっている。価格差1,000円分の特典ディスクの内容も気になるところだ。
■ ハーマイオニーはツンデレなのか!? 4年生に進級した新学期の初日。魔法学校のダンブルドア校長が100年ぶりに伝説の“三大魔法学校対抗試合”を開催すると発表する。それは、ハリーらが通う“ホグワーツ”と、可憐な女学生が多い“ボーバトン”、屈強な男子生徒が居並ぶ“ダームストラング”という3校がそれぞれ代表選手を選出。3人が学校の名誉をかけて様々な試練に立ち向かい、勝者を決めるというもの。 危険度から、競技に参加できるのは17歳以上という制約があった。しかし、選手を選ぶ魔法の炎“炎のゴブレット”は、3人の選手に加え、14歳であるハリー・ポッターも選出する。立候補すらしていないハリーは戸惑うが、魔法契約の拘束力により辞退は不許可。かくして凶暴なドラゴンとも戦わなくてはならない過酷なチャレンジが幕を開けた。 メインストーリーは、幾多の試練をハリーがクリアできるか否かだが、その背後でヴォルデモートとハリーの両親に関わる物語も同時進行する。今回の見所はなんといっても、ファンタジーの代名詞とも言えるドラゴンとのバトルだろう。CGで描かれたドラゴンは小柄ながら表情や動きがなめらか。ハリーと壮絶な空中戦を繰り広げる。いかにも予算が足りなそうだった第1作を思い返すと、映像的なクオリティの進歩は感動的だ。 また、人間ドラマの面でも新しい魅力がある。学校対抗試合への出場にあこがれるハリーの親友ロンは、ハリーが代表に選ばれたことに嫉妬し、「僕に黙って立候補したのではないか?」と疑い始める。そして、ハリーは逆に「立候補などしていない」という自分の言葉を信じてくれないロンに失望。大きな溝が生まれてしまう。親友との初めてのケンカを通し、人間的に成長していく登場人物の内面も丁寧に描かれている。 これまでの説明では暗いシーンばかりの映画にも思えるが、それだけではない。試合と平行して行なわれるクリスマスの舞踏会では恋模様に注目だ。舞踏会の日までに男女のペアを作らなければならないのだが、男子達は女の子を誘いたくても上手く誘えない。ハリー曰く「女の子はドラゴンよりよっぽど手ごわい」らしい。タイミングが掴めなかったり、しどろもどろになってしまったりと、鑑賞しながら足をバタバタさせてしまうほど恥ずかしいシーンの連続で非常に良い。 さらに、友達同士であり、異性として意識していなかったハーマイオニーとの距離感も絶妙。彼女に「私と踊りたいの?」と聞かれても「そんなわけないだろ!!」と反射的に答えてしまう。しかし、彼女が他の男と楽しそうにしていると面白くない。ハリーとロンの“男の純情”とでも表現すればいいだろうか。 対するハーマイオニーの女心も複雑。本当は誘って欲しいけれど、素直に言えない意地っ張りな性格が邪魔をする。どちらももどかしくてニヤニヤしてしまう。「ハーマイオニーに恋人ができたら、ツンデレになるんだろうなぁ」などと馬鹿なことを考えながら鑑賞していた。
恋あり、バトルあり、因縁の対決ありと、内容はテンコ盛り。本編は157分と長めだが、あっという間に感じることだろう。ただ、内容がシリアスになるに従い、これまでは抑えられていたショッキングなシーンも少なからず登場する。子供には刺激が強いと感じる場面もあるが、きっとハリーとともに成長している子供達なら物語に没頭できるだろう。
■ 普通な画質が嬉しい DVD Bit Rate Viewerでみたビットレートは6.10Mbps。収録時間は157分と長めだが、音声はドルビーデジタル5.1chを日本語と英語の2種類でしか収録しておらず、オーディオコメンタリーも無い。もう少しハイレートで収録して欲しかったところだ。 画質的にはワーナーのソフトということであまり期待していなかったが、可も無く不可も無くといったところ。前作までと同様に粒状感や輪郭の甘さは目につくものの、不快なモスキート/ブロックノイズは少なく、暗部の質感もそれなりに出ている。思っていたよりも“普通画質”だ。第1作頃の画質からは格段に進歩しており、ビットレートから想像するよりは健闘していると言えるだろう。ただ、クリスマスのダンスシーンの氷の広間のセットなど、非常に美しいシーンもあるので、さらなる高画質で鑑賞したかったという思いも強い。 音声は英語、日本語ともにドルビーデジタル5.1ch。ビットレートはどちらも384kbps。サウンドデザインは音場の広さが特徴。屋外の風が通り抜けるシーンや、湖の中の音のこもり具合、森の迷宮のざわめきなど、臨場感を増す効果が十分に発揮されている。 サラウンド的に面白いのはドラゴンとのバトルシーン。見上げるほど大きなドラゴンではないので地鳴りのような足音は無いが、移動スピードが速く、リアチャンネルや頭上を飛び回る音像の移動感がリアル。低音よりもサラウンドで魅せる映画だ。また、ドラゴンと衝突して崩れる落ちる建物のレンガや石のパラパラという音も精密で、リアリティを増幅させている。
メイキングではやはりドラゴンとの対決に迫る「ハリー VS ホーンテール」が興味深い。模型をベースにドラゴンをCGで作り上げるのだが、飛び方や動き方のリアリティにとことんこだわっているのがわかる。非常に“動物くさい”動きが生み出されるまでは必見だ。 インタビューで興味深いのは「代表者たちの一日」。対抗試合に出場する代表メンバーに密着したものだが、撮影現場にあるセットのスケールの大きさに圧倒される。「移動はカートや車。これがないとどうにもならない」とのこと。また、参加する役者やスタッフの数も膨大で「一日のほとんどは待ち時間。自分の出番を待ちながら遊んでいる時のほうが長い」とトランプを片手に苦笑い。華やかな舞台裏にある現実が垣間見える。 湖のシーンでは、「水の中での俳優の顔をCGで再現するのが難しい」とのことで、ハリーことダニエル君は潜水にチャレンジ。巨大なブルースクリーンを貼った水槽を作り、そこでラドクリフ君を泳がせながら、背後にCGで作った海底映像をはめ込むという大胆な方法だ。 深い水槽の中での撮影は難度が高く、役者も目をあけていられる限界は約11秒と時間的制限もキツイ。その間に感情を込めた演技をしなくてはならず、だからこそ撮影も失敗が許されない。結局ラドクリフ君は3週間強の間に41時間38分も水中にいたという。彼の役者根性に頭が下がる思いだ。
■ 安心して購入できる「ハリポタ映画」ブランド 特典ディスクの内容は興味深いものが多いが、キャラクターや作品の大ファンでもないライトな視聴者に1,000円分の価値があるかは微妙。ただ、おまけのゲームはタイミングよくリモコンを押してドラゴンから金の卵を盗み出すなど、単純に見えて意外と熱中してしまうものが揃っている。子供のいる家庭ではゲーム目当てで特別版を買うというのもアリだろう。 私は原作を読んでいないが、映画版のDVDは全巻所有している。最初の頃は正直言って「話題作だからとりあえず押さえておこう」という気持ちもあったが、「アズカバンの囚人」からは純粋に「続きが気になるシリーズ」と考えるようになり、「炎のゴブレット」も発売日の前日に購入した。私の中で「安心して購入できるシリーズのブランド」になったと言える。 今後は物語の核心に迫るにつれ、大人でも楽しめる密度の濃い作品になっていくことだろう。原作ファンはもちろんのこと、これまで「子供向けの映画でしょ?」と考えていた人にも、手にとって欲しい。ちなみに、心憎いタイミングで、ワーナーは6月16日までの期間限定出荷で前3作品を各980円で再販中だ。3巻全部を購入しても2,940円で、「炎のゴブレット」の通常版よりも低価格で嬉しい。……もっとも、「炎のゴブレットもすぐに980円になっちゃうんじゃないの?」という疑問も頭をよぎるが。
□ワーナー・ホーム・ビデオのホームページ (2006年4月25日) [AV Watch編集部/yamaza-k@impress.co.jp]
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